彼はエスターニア王国の王族の三男に生まれた。
彼は宮廷内でも民衆からも人気が高く、剣技においても兄達をしのぎ、国内で一番の使い手とまで歌われていた。
隣国との戦争での初陣においても武勲を上げ、その後も三男と言う比較的気楽な立場から、自ら戦場に出向き数々の武勲を上げていった。
その英雄ぶりから民衆からも人気が高く、吟遊詩人達はこぞって彼のサーガを歌った。
彼には不思議と人を引き付ける魅力に溢れていた。
しかし三男に生まれた事が彼に取って唯一の不幸だった。
彼が一八歳になったその年。隣国との戦争も終わり平和が訪れると、彼は宮廷から姿を消した。一部の部下を連れて。
彼は人望が高すぎた。彼は出来過ぎた。目立ちすぎた。
当然平和になると宮廷内では政治的権力争いが激しくなる。だが彼は権力には興味を示さなかった。逆に三男坊と言う気楽な立場が気に入っていた。
しかし周りの人々は彼を放っておかなかった。
周りの者が彼をはやし立てる。彼にこそ第一位王位継承権を与えるべきだと。
心からそう思う者、彼を祭り上げてうまい汁を吸おうと思う者が沢山いた。当然そうなっては困る者も沢山いる。
まず長男と次男だ。しかし次男の方は出来の良い弟を誇り思い、自分すら使いこなす者になるだうと、王位継承権を譲るつもりだった。
一方長男の方は危機感を感じられずにいられなかった。次第に弟を憎むようになり、長男に従う者も彼を疎ましく思うようになっていった。
味方も沢山いたが、敵も沢山いた。
戦場は外から内へと移されたのだ。
彼は自分は王位なんていらないと言ったが、周りの者は王族としての義務だ、定めだとはやしたてる。
次第に長男との間も険悪になり、宮廷内では化かし合いと皮肉が飛び交い、少しのミスもゆるされない。
だから彼はその戦争を放棄した。逃げ出したのだ。
くだらない権力争いなど御免だった。
しかし人々は戸惑い宮廷は混乱した。失望する者、いつか帰って来ると希望を捨てない者。ある者は悲しみ、ある者は歓喜する。王は悲しみ捜査隊を出したが、彼はとうとう見つからないまま、捜索隊はうち切られた。
そして三年の月日が過ぎた。