第二話 あっちいったりー
 えっちらおっちら、ダークエルフの村へ戻った彼女はさっそく成人式の祭壇へ向かった。
 このあたりには、おかしな連中……目つきがやばく、無言でモンスターを狩りまくっている連中……がよくいる場所である。

(取りあえず目を合わせない方が得策ね。)

 今回の対象であるダークサキュバスが重なったら、間違いなくこちらが殺される。

(周りをよく見て、ちゃっちゃと片付けましょうか。)




 ダークサキュバスは、見た目はダークエルフの女性と変わらない。ただ、ダークエルフ以上のきわどい服装と蝙蝠に似た翼が生えている。
 ここだけの特徴かどうかはわからないが、言葉を持たないようだ。キーキー言って襲ってくるのである。

 彼女は、初歩の攻撃魔法であるアイスボルトと放つ。低確率だが、移動速度が低下する効力がある。飛行しているものにも有効だ。
 アイスボルトで攻撃して、こちらも初歩の攻撃魔法であるウインドストライクでとどめを刺す。
 そして、倒したダークサキュバスの血を貰った羊皮紙に吸わすと文字が浮かび上がった。

(これが、例のルーン文字ね。でも、あっさり出たわね。てっきり何十ッ匹に一回とか思ったけど……)



 周りを警戒しつつ、ダークサキュバスを狩る。たまに誤爆して、三体に追いかけられたりしつつ。



 そして、彼女が思った以上に短時間で五枚の羊皮紙にはルーン文字が記載された。

(意外とあっけなかったわね…… ま、いいかな。でも、もどるのか…)

 彼女には、グルーディン港の村までの移動が待っていたのだった。




 再び、グルーディン港の村へやってきた彼女は、すぐさまダークエルフギルドのマジスタータルボットのもとへ向かう。

「血色のルーン文字五枚を全て手に入れましたね。これを組み合わせ『ガルミエルの書』を執筆いたします」

 マジスタータルボットは、彼女からルーン文字の記載された羊皮紙を受け取った。

「しばらくお待ちください」

 そういうと奥へ入って行った。が、彼女が思った以上に早く出てきたのである。

「あれ? もうできたんですか?」
「できました。さあ、これをお受け取りください。完成した『ガルミエルの書』です」

 すっと一冊の本を差し出した。彼女はそれを受け取った。パラパラと流し読みすると、ガルミエルの書とはエルフ語で書かれた闇の神グランカインの経典であった。

「ほへー」
「話はまだ終わっていません。よろしいですか?」
「あ、すみませんッッ」
「ごほん。では、これから貴女はシリエンオラクルになる為に通らなければならない二番目の慣例の修練しなければなりません」
「は、はい」
「それは太古の光の神が歌った創造の歌の中の一部が盛り込まれた『アンダリエルの書』を手に入れることです。アインハザードにいる神官アドニウスを訪ねてみてください」
「アインハザード? えーと、なんか一悶着ありませんか?」
「そうですね。これをお持ちください」

 マジスタータルボットは本を彼女に差し出した。それはアドニウスが書いた祈祷文の本であった。

(それでも……なんか一悶着ありそうね……)




 ダークエルフギルドからそれほど遠くない場所にアインハザードの神殿がある。神官アドニウスはすぐに見つかり、おそるおそる声をかけてみた。

「ここは光の神アインハザードに仕える聖なる聖堂、士道の道に従う暗闇の一族が何の用でこの場所に足を踏み入れたのですか?」

 神官アドニウスの声は冷たかった。

「……………光の道に従う事を決心しました」
「そうですか」

 彼女は恐る恐る告げる。それでも、神官アドニウスの返答は冷たかった。
 過去においてダークエルフが白魔法を欲しがった偽りの探求者達であり、ダークエルフの言葉は信頼できない。それが彼らの認識だ。

(信用がないわね…… でもどうしよう。神官アドニウスからしか『アンダリエルの書』は受け取れないようだし…… あ。そうだわ。これ見せてみよう。)

 先ほど貰ったアドニウスの祈祷文の本を神官アドニウスに見せてみた。貰っておいて忘れていたのであった。言っておくが彼女は鳥頭ではない…はず。

「この本は私が書いた祈祷文ではありませんか」

 驚く神官アドニウス。

「貴女のように邪教に従っている者まで私の本を読んで感化されたとは……」
「これで信頼してもらえますか?」
「そうですね…… それでは私に何をお聞きしたいのですか?」
「『アンダリエルの書』について教えていただけませんか?」
「…では、貴女が今まで誤った行跡を贖罪し光の教理に従うと誓うならば、あの古文書の写本を差し上げましょう」
「どのように贖罪すればよろしいのですか?」
「贖罪の過程は決して容易くありません。この場所から東にある絶望の廃墟でいるスケルトン達を倒したら、出てくる灰色の骨を10個持ってくれば、貴女の贖罪の儀式は終わります」

(スケルトン……ですかぁ)




 アドニウスの言った絶望の廃墟とは、グルーディオ城の村の南に位置している。グルーディン港の村から、グルーディオ城の村へとんぼ返りしなければいけない。


 ぼよん。


(ぼよん?)

 めんどくせーなどと思いながら歩いていたら、何かにぶつかった。
 地図を広げていた小さな女の子……もとい、ドワーフの少女?だった。
 ドワーフ族は見た目と実年齢が見事に反比例している。女性の場合、人間の少女に見えても実際はものすごく長生きしてるかもしれない。ある意味紛らわしい。

「ご、ごめんなさい。地図ばかり気になってたんで」
「こちらこそ。あ、さっきのドワーフのお嬢ちゃんね」

 どうやら、先程目があったドワーフの女性だったらしい。

「ダークエルフのおねーさん」

 実年齢はお互い知らない。見た目でしかも名前も知らなかったのでドワーフはそう言ってきた。

「地図見ててってどこかに行くの?」
「ドラ… いえ、ギラン城の村の方向へ行こうかと思って場所を確認してたんです」
「そう。んー、じゃこれも何かの縁。一緒に行かない? 途中までだけど?」
「一緒にですか?」
「ここにあるグルーディオ城の村へ行く途中なのよ。どう?」
「え、でも…迷惑では?」
「ぜんっぜん。まあ、馬車なんてものないから歩きだけどね」
「私は構わないですが…」
「よし、じゃあさくっと行きましょう!」
「はあ」

 彼女は強引に押し切ってしまったようで、ドワーフは押し切られるような感じで了承した。もっとも彼女の方は強引とも思っていない。

(旅は道連れ、世は情けっていうからいいかもね。)