第一話 転職してみよー
 ここは異世界。エルモアデン大陸という巨大な大陸。
 そのアデン地方の一角、暗闇に包まれた巨大な山があり、そこには死の神シーレンのを祭る種族・ダークエルフの村が地下深くにあった。
 山脈の反対側にあるエルフの森のエルフとの敵対関係であったが、近年は比較的薄れてきている。長老たちが、「エルフどもが…」と呟く程度である。

 近年、成人したダークエルフは旅に出ている。世界を見るためであり、呪いによって地下深く住まざる得なかったため、世界情勢が良くわかっていないのもある。
 そして今……一人のダークエルフが旅立ったのだった。




 …

 ……

 ………

 …………

 ……………


「私はなんでここにいるんだろうなー」

 丘の上で寝転がっている一人の女性。銀髪に褐色の肌の女性。ダークエルフだ。

「ここはー、エルフの森のー、蜘蛛がいっぱいいるところー」

 ダークエルフ村周辺では、おかしな連中……目つきがやばく、無言でモンスターを狩りまくっている連中……が増えてきていたので、彼女はここまで逃げてきたのだ。
 かつて敵対していたエルフ族の村まで。

「そういえば……もうすぐ一次転職か」

 ぼーと空を見上げる。彼女はダークメイジであり、転職によってダークウィザードかシリエンオラクルになる。
 ダークウィザードはツイスターと呼ばれる強力な風属性の攻撃魔法を使えるようになる、ヒューマンで言えば、そのままウィザードに相当する。
 逆にシリエンオラクルは各種補助系魔法に強力な回復魔法を使えるようになる、ヒューマンで言えば、クレリックに相当する。

「まぁ、私の場合、悩む必要ないかな」

 傍らには剣があった。メイジの道を選びながら、剣で戦うのが好きであった。

「斬りあうダークウィザードなんていないしねー」

 そう言うと立ち上がった。

「シリエンオラクル。これしかないわね。さて、シリエンオラクルへの試練を与えてくれるお偉いさんを探さないと…… ダークエルフ村にいるかしら」

 ちなみにエルフ領からダークエルフ村へ帰るには、中立地帯を経由しないと帰れない。しょうがないので歩いて帰ることにした。




「やっとついた…」

 ダークエルフ領とエルフ領は、高い山脈で分断されている。
 隣り合った領地ではあったが、この山脈のため、大幅な迂回が必要となった。
 休憩もそこそこに情報を集めることにする。
 まず最初に向かったのは神殿だ。お偉いさんなら知っているだろうという単純な考えからであった。

「なんてこと……ヒューマンの町にあるダークエルフギルドが……」

 お偉いさん曰はく、ヒューマンのグルーディオ城の村のダークエルフギルドでシリエンオラクルへの試練を与えてくれるらしいと。

「行くしかないわね」




 ダークエルフは走るのが速い種族だが、それでもグルーディオ城の村は遠かった。山を越え谷を越え。
 グルーディオ城の村につき、早速ダークエルフギルドへ向かった。お偉いさんによるとマジスターシドラが試練を与えてくれるらしい。
 ダークエルフギルドへ赴き、マジスターシドラに転職の旨を告げる。
 シドラはちらりと彼女を見ると語り出した。

「ヒューマンやエルフ一門の司祭達は、ひたすら光の神だけ見ていたので悟りが完全ではなく、彼らが操る魔力もやはり片側だけの不完全なものなのです。しかし、ダークエルフの戦闘司祭であるシリエンオラクルは光と暗黒をすべて理解している為、その両極端に命令する事が出来るのです」

(……何気にすごいわね。)

「光の力で我が軍の兵士達を治療し補助するだけでなく、暗黒の力で敵軍に呪いをかけその生気を盗んで来る事も出来るのです」

(……へぇ。)

 関心はしている彼女ではあったが理解しているとは言いがたい。
 所詮駆け出しであり、難しいのだ。

「全ての事を飲み込んだような暗黒の中で心理を求め、まばゆいほどの輝きに目をくらむ様な光の中で悟りを発見するシリエンオラクルになる為には、必ず通らなければならない慣例があります」
「わかりました。マジスターシドラ。私、シリエンオラクルへの試練を受けます」
「いいでしょう。貴女は慣例を行うに十分な経験と技量を持ち合わせているようです。何よりも悟りと力に対する渇きが感じられますわ」

(うーん。自分ではわからないわ…… おだててるだけかも知れないわね。)

「シリエンオラクルの序列に上がる為には二段階の慣例を通過しなければなりません。これは貴女が暗闇を恐れない勇気と、光から目をそらさない意思を持っているかを証明してみせる機会になるでしょう」
「二段階の慣例ですか……」
「シリエンオラクルは光と暗闇の心理を全て求める………よって、太古のグランカインとアインハザードが歌っていた歌の破片を手に入れなければなりません」
「歌の破片……! ですか……」
「そうです。貴女には歌の書かれた文書。古代ルーン文字で書かれた創造の歌。その歌の一節一節が収録されたガルミエルの書とアンダリエルの書を」
「ガルミエルの書とアンダリエルの書……なるほどわかりました。ではその書は何処にあるのでしょう?」
「私が知っているのは一つだけです。ガルミエルの書はグルーディン港の村のマジスタータルボットが知っているということです。訪ねてみてください」




 グルーディン港の村はグルーディオ城の村より西にある。途中、オルマフム族の捨てられた露営地があり、危険を伴うが歩いていくしかない。
 途中、追いかけられたが、俊足を生かして逃げ切った。オルマフム族は意外と走るのが遅いのである。
 グルーディン港村へ着いた、彼女はさっそくマジスターシドラに言われたとおり、ダークエルフギルドのマジスタータルボットに会いに行った。

「ようこそ、暗闇の兄弟よ」
「マジスタータルボット、ガルミエルの書についてお聞きしたいのですが」
「残念ながら、貴女が探そうとしているガルミエルの書は、現在この世には存在していません」

 衝撃的なことをさらりと言った。

「え!?」

 唖然とする彼女。ない物をどうやって持って来いと言ったんだろうと。

「ご安心を。それを手に入れる方法はあります。貴女はダークサキュバスと言う悪魔についてお聞きになりましたか?」

 方法があると聞いてほっとした。

「確か、成人式の祭壇周辺に飛んでいたよ~な」

 やばい連中を避けていたので、自分の村周辺もよく覚えていないらしい。そういえばいたなと程度でしかない。

「貴女がガルミエルの書を完成させたければダークサキュバスの血が書き出したルーン文字を収集しなければなりません。羊皮紙にダークサキュバス達が流した血の跡にあてると、血が染み込みルーン文字の形状が記憶されます」
「なるほど~。で、そのルーン文字が記憶された五枚の羊皮紙を持って来れば、ガルミエルの書に構成していただけるのですか?」
「それはお約束しましょう」
「わかりました。羊皮紙はなんでもいいのでしょうか?」
「これをお使いください。この五枚の白紙の羊皮紙に記録をお願いします」

 マジスタータルボットはそう言うと五枚の白紙の羊皮紙をくれた。見た目、何処にでもあるような羊皮紙であるが、何かが違うような気がした。

(ダークエルフの村へとんぼ返りか。ここからだとめっちゃくちゃ遠いんですけど……)

 うなだれる彼女。それを見たマジスタータルボットは頭を傾げてこう言った。

「どうかしましたか?」
「な、何でもありません!!」