第貮拾伍話 『人-lilin-』前編
「約束の時が来た」
「…だがロンギヌスの槍を失い、リリスによる補完は出来ぬ」
「唯一、リリスの分身たるエヴァ初号機による遂行を願うぞ」

 ネルフ司令室に現れたモノリスたちが口々に言う。

「ゼーレのシナリオとは違いますが」

 ポツリと呟く南野ゲンドウ。
 だが、モノリスたちはそれを無視して言葉を続けた。

「我らは人の形を捨ててまで、エヴァという名の箱船に乗る事は無い」
「これは通過儀式なのだ。閉塞した人類が再生するための」
「滅びの宿命は新生の喜びでもある」
「神もヒトもすべての生命は死をもって、やがて一つになるために」

 呆れたゲンドウは少しオーバーにため息をついた。
 ゼーレの言う計画はすでに破錠しており、ゲンドウ自身の計画も破棄している。今やこの後のことなど誰もわからないのである。

「死は何も生みませんよ」
「そうか。ならば死は君たちに与えよう」

 キール・ローレンツがそう言うとモノリスたちは次々と消えていった。
 そして、ゲンドウと冬月だけが残される。

「……頭の硬いやつらだ」
「ああ」
「最悪、向こうの計画にそって進むと初号機は巻き込まれる」
「だがそれでは何処まで広がるか予想できん」

 期待していなかったゲンドウの返答に驚く冬月。

「それを気にするのか? お前が?」
「前世の記憶と力を持つシュウイチというイレギュラーがある。どう転ぶかわからん」
「シュウイチくんか。南野、何処まで知っている?」
「前世がうんぬんに関してはあの場所でシュウイチが話したこと以上は知らない。が……」
「が?」
「盗賊時代の横のつながりが今でも生きているような気がしてならない」
「なんだと!?」
「我ながら、おかしな事だと思う。でも、前世が何時の時代とは聞いてない。可能性としてはありえるだろう」
「私には専門外すぎるのでわからん。しかし南野、何故そこまで考えた?」
「感……か?」
「お前にしては珍しいな」
「そう思う」
「シュウイチくんの謎解明は後にしよう南野。すぐさまゼーレが仕掛けてくるぞ」
「そうだな、赤木博士を連絡しよう。MAGIへの攻撃が来る」

 ゲンドウは端末で赤木博士にすぐさま連絡をした。

『了解しました。すぐさま対応します』
「頼む」




 同時刻。巨大な犬が人を一人咥えてある街の外れに現れた。
 犬はまわりを確認すると咥えてた人を離した。

「もうちょっと丁寧に開放できないのかな? ええっと、クー・シーさん?」
「知るか。俺には関係がない」
「ここは……日本の第三東京市ではないようだけど」
「加持、お前にはやって貰いたいことがある。これを受け取れ」

 ドスンとリュックを一つ投げよこした。そこには加持が持っていた武器が入っている。
 加持はリュックのポケットに入っている紙を発見した。

「手紙?」
「蔵馬からお前にやってもらいたい事が書かれている。それを実行しろ」
「蔵馬?」
「ミナミノシュウイチと言えばわかるな」
「シュウイチくんから!? 何故彼がクー・シーと……」

 戸惑う加持。それを後目にクー・シーは口を開いた。

「俺は帰らせてもらう。番犬がいつまでと離れているわけにかない」
「ちょっとまって!」
「さらばだ」

 加持をその場に置いてクー・シーは消え去った。

「あ~あ。帰っちゃったよ。さて、シュウイチくんは俺に何をさせたいのかな?」

 おもむろに封を切って中の手紙を取り出す。枚数は多くない。
 加持はそれをサッと読むと、目が大きく見開いた。

「シュウイチくん…… 君は何処まで……」




「来たな」

 ゼーレがネルフへ宣戦布告とも取れる会議からわずか数十分。第二発令所のエラー音慌ただしく響いたのだ。

「赤木博士、敵の様子は?」
「外部との連絡、情報回線が一方的に遮断されていきます」
「やはり目的はMAGIの無効化か。相手は松代のMAGI二号か?」
「MAGIタイプ、5。ドイツ…中国…アメリカ…この三ヶ国は確認できました」
「さっさと遮断しろ」
「了解」

 リツコはものすごいスピードでキーボードを打ち続けると次々と外部からのアクセスが遮断されていく。

「やるわね、リツコ」
「システム周りは任せない。で、そっちはどうなの?」
「先程、第二東京からA-801がでたわ」
「勝手ね」

 A-801とは、ネルフの特例による法的保護の破棄及び、指揮権の日本国政府への委譲のことである。
 ミサトはこれを最後通告と受け取った。

「でも、これで終わるわけない」
「MAGIは前哨戦に過ぎないわ。奴らの目的は本部施設及び残るエヴァ二体の直接占拠よ」
「まったく…… 操り人形もいいとこね」
「真実を知らないのよ、今は。で、パイロットたちは保護できた?」

 この会話中もリツコの手は一切止まってない。ものすごいスピードでハッキング相手を撃破しプロテクトを掛けていく。

「レイ、アスカ、渚カヲルは諜報部の手によってこっちに極秘に向かっているわ」
「あれ? シュウイチくんは?」
「それが…… 行方不明なのよ。なんか諜報部撒かれたって……」
「あの子何を考えているのかしら?」
「さーね。前世盗賊なんでしょ? 何か盗みに行ったんじゃないの?」
「………ミサト」
「じょーだん。じょーだんよ。でも大丈夫のような気がする。これは女の勘ね」
「そう。貴女の感はよく当たるからとりあえず安心ね」
「それでいいの? 科学者なのに?」
「いいの? よし、これで終了っと」

 リツコが最後のキーを叩くと、MAGIの第666プロテクトを発動。外部からの攻撃をすべて遮断させた。




 某街の地下深くにあるゼーレ本拠地。
 ここにはゼーレのメンバーたちが集結していた。体をサイボーグ化して何とか生き長らえているような醜悪な老人たちだ。

「南野はMAGIに対し第666プロテクトを掛けた。この突破は容易ではない」
「MAGIの接収は中止せざるをえないな」
「出来得るだけ穏便に進めたかったのだが致し方あるまい。本部施設の直接占拠を行う」
「しかし本部のエヴァ三体はいずれも健在だ」
「この後に及んで無駄な事に使う時間は無い」

 キールが顔を歪めて口を開いた。

「忌むべき存在のエヴァ、またも我らの妨げとなるか……やはり毒は、同じ毒をもって制すべきだな」




 ネルフ総本部への攻撃が始まった。
 第三東京市の外れの蝉の鳴く緑の草地の中から戦略自衛隊が姿を現す。そして、空には轟音を上げて飛んでくる爆撃機が数機見える。
 地上の戦車群は第三東京市へ砲撃を加え、次々とネルフ側の通信網。外部の映像が遮断されていく。

「老人たちが直接手を下さす、日本そのものに手を回してここを狙うのか」
「ここを悪の組織の総本山とでも言いくるめたんだろう」

 冬月の問にゲンドウが答えた。複雑そうな顔をする冬月。

「さて、そろそろか」
「だな」

『第17レーダーサイト、太平洋上に巨大機を感知』
『間違いありません、キャリアです。これで計9機!』
『更に超高空にも機体発見! 中国領より接近中!』

 たいして時間差もなくゲンドウたちへオペレータから報告が入った。

「戦自では包囲してこちらを身動き取れなくするのが精一杯だろう。葛城三佐」

 ゲンドウはミサトを呼び出す。

『なんでしょうか?』
「エヴァが来る。出撃準備を急げ」




 ゲンドウより出撃準備の命令が下った第二発令所には、使徒でありながら使徒を止めた渚カヲルがいた。

「さて、葛城三佐。僕はどうしたら良いんだい?」
「そうね。君はエヴァも無いし」
「無くてもエヴァと同等の力はあるつもりなんだけどね」
「カヲル君、ヒトとして生きるのであればその力は使っちゃ駄目」
「……では、どうしろと?」
「うーん」

 悩む、ミサト。
 そこへプラグスーツ姿の蔵馬がやって来た。

「やあ、シュウイチ君。出撃なんだね」
「ああ」
「では、シュウイチ君に聞こう。僕は何をしたらいいんだい?」
「そうだな。発令所にいる連中を守ってもらう」
「なるほど。僕が使徒としてではなくヒトとしてヒトを守れと?」
「そういうこと。それに君ならヒトとしてでも出来ると思ってね」
「わかったよ。君は安心して出撃してくれ」
「ちょっ………シュウイチ君!? 勝手に決めないでよ!」
「ミサトさんには悪いと思ったけど独自に動いたよ。ほれ」

近くにあったキーを叩くとモニタに化物に襲われている侵入者が映っていた。
見た感じ、襲われた者達は怪我こそしているが死んだ様子は無かった。

「何アレ……!? どうやってこんな所まで…?」
「前世の知り合いに頼んで来てもらった」
「え…?」

 前世が盗賊だと告白はしているが、人間ではなかったとは言っていない。そのため、何故化物と知り合いがいるのか不思議だった。
 実は前もって魔界に連絡を取り、盗賊時代の仲間であった黄泉に何人か借りたのである。
 魔界統一トーナメント後、息子の修羅と修行の旅に出ているが、その影響力は大きいようで人間に比較的敵意を持たぬ者を寄越してくれたのであった。

『俺は……、シュウイチ殿に頼まれてここに居る』
「シュウイチ君に!?」

 驚いたまま固まるミサト。

『……心配するな。殺さぬ。また、ここの連中は守る』
「頼む」

 化物の言葉に蔵馬はそう答えた。

『わかった』



「シュウイチ君」
「何ですか? ミサトさん」
「貴方何者?」
「南野シュウイチ。16歳。第三東京市立第一高等学校1年D組。ネルフにおけるエヴァ専属パイロットサードチルドレン」
「それはわかっているわ」
「それだけですよ」
「言い方を変えるわ。何故、化物が貴方の頼み事を聞くの?」
「何故でしょう?」
「それはそっちの台詞だわ!!」
「いずれわかります。それよりもミサトさん」
「あによ!」
「来たみたいですよ」
「え!?」

 モニターに写る飛行艇。
 そこにぶら下がる白い人型。

「あ…あれは!!」
「父さんの言っていた量産型エヴァ…」


「SS機関搭載型を9体…老人たちはここで起こすつもりなのか?」


 飛行艇から次々と投下される量産型エヴァ。そして、白く不気味な翼を広げる。
 空を旋回するように徐々に地上へ降りてくる。

「気持ち悪いわね」

 唯一地上で待機していた弐号機。エントリープラグ内でアスカが呟く。

『アスカ? いい? エヴァシリーズは必ず殲滅するのよ。シュウイチ君もすぐに上げるわ。頑張ってね』
「必ず殲滅ねぇ…」

 ちらりと稼動可能時間を見た。

「3分半で9体。一体につき、30…20秒ないじゃない! でも、やるしかないわね」

 弐号機がエヴァシリーズに向かって突進していく。

「うおりゃあああああああ!!!!!!」

 ジャンプするとそのままエヴァシリーズの一体の上に落下し、頭を潰した。
 そのまま抱えあげると、某漫画のタワーブリッジを極めると真っ二つに切り裂いた。
 血のような体液が二号機に降り注ぐ。

「erst!」
「ぬうわあああああ!!!!」

 アスカが吠える。
 弐号機は量産型エヴァの両肩を掴むとそのまま走り海に出るとそのまま叩きつける。そして、肩からナイフを取り出すとそのまま海中戦にもつれ込んだ。
 もがく量産型エヴァ。弐号機はナイフで斬りつける。海中に量産型エヴァの破片が漂う。

「ぬぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」

 海中から引きずり出し、ナイフを一閃。片腕を切断。
 赤い液体が舞う。
 もう一度斬りつける弐号機。が、限界を超えていたナイフは砕け散る。

「チッ!」

 ナイフに気をとられていたアスカは隙を作ってしまった。量産型エヴァに弐号機の顔を掴まれる。
 そのまま押されるが、うまくかわして首を取り、抱え込みたたきつけようとした時。
 上空より巨大な武器を振り上げた量産型エヴァが降って来た。

「!」

 弐号機は量産型エヴァを放し、かわすが衝撃により吹き飛ばされる。
 すぐに立て直し、近くに落ちていた量産型エヴァの武器を拾い構える。

「でぇえええええええええいっ!!!」

 弐号機と量産型エヴァの武器が激突する。火花が散る。何度も激突する。
 お互い致命的なダメージを与えられない。

「もうっ! しつこいわねっ!! シュウイチなんか… 馬鹿シュウイチなんか当てに出来ないのにっ!!」

 いまだ現れぬ初号機と蔵馬に苛立つアスカ。
 何度の激突により、量産型エヴァの武器が弾かれた。
 これを好機と見たアスカは、武器を振り上げてそのまま量産型を切り裂く。
 吹き飛ぶ量産型エヴァの上半身。残った下半身はそのまま倒れた。

「うあああああああ!!!!!」

 アスカは弐号機は残った量産型エヴァに襲い掛かる。
 武器を振るい、バランスを崩させる。
 片足を切断するが、その後ろから襲ってきた量産型エヴァに馬乗りにされてしまう。

「あああ…クッ!」

 だが、弐号機の肩から発射されたクナイのような物で吹き飛ばされた。
 量産型エヴァの顔面にはクナイが突き刺さっている。

「キシャァァアアア!!」




 ネルフ最下層にレイが一人いる。そのレイに声をかける者がいた。

「ここにいたのか、レイ」

 ゲンドウだ。

「…南野司令」

 ゲンドウに気づくレイ。

「何故ここにいる。もはや何の意味を持たない」
「最後にお別れを」
「そうか」

 レイの前には磔にされている巨人の姿。
 表向きにはアダム。その実体はリリス。
 巨人に手をかざすレイ。

「さよなら」

 そういうと巨人がオレンジ色の液体に変わった。

「ごめんなさい」