第貮拾參話 『自由意志-tabris-』前編
 蔵馬はリツコの後をついて歩く。
 すでに蔵馬は入ったことのないエリアであるが、リツコは何の苦もなく進んでいる。
 彼女のカードはあらゆる扉のセキュリティを解除していくのであった。

(リツコさんクラスなら可能だな。)

 リツコは何かを企んでいることは蔵馬はわかっていた。ただ、何なのかは不明なので乗ってみようかと思ったのだ。

(さて、何が出てくるかな。)

 蔵馬の前を歩くリツコは笑みを浮かべていた。
 アレを見せるために、彼をここまで連れてきたのだ。アレを見たとき、蔵馬がどんな顔するか楽しみさえあった。




 しばらく進むとミサトが現れる。そして、リツコに向かって銃を構えた。

「ミサト。こんなとこまで来ちゃダメじゃない」
「ここから先は私のカードじゃ入れないの」
「何を知りたいのかしら?」
「ここの秘密」
「…… 加持くんが何か吹き込んだのね。まあ、いいわ。ただし…」
「ただし?」
「彼も一緒よ?」

 リツコは目で後ろを指し示す。蔵馬が立っている。

「…いいわ」




 セントラルドグマへのロックを外すリツコ。

「ここよ、シュウイチくん」
「ここは?」
「見覚えないかしら?」

 ぐるりと見回す蔵馬。確かに見覚えはある。

「綾波さんのマンションの部屋…」
「ここは綾波レイの部屋よ。彼女が生まれ育った場所」

 さあどうかしら、と思うリツコ。蔵馬に心理的揺さぶりをかけるようであった。
 しかし、蔵馬の態度はあまり変わらない。

「…… そして隣の部屋が」

 最後の扉の前に立つ三人。

「見てもらうわよ…」

 ロックを外し扉を開いた。真っ暗な部屋。
 リツコは手探りでスイッチを探し、明かりをつけた。
 部屋の中央には巨大な水槽があり、オレンジ色した水が入っている。
 そして…そこには…

「これは!? 綾波……レイ!?」

 蔵馬の声に水槽の中に漂うレイがこちらに顔を向けた。

「生きているのか?」
「ふふ…どうかしら? ダミープラグと呼ばれるエヴァを遠隔操作する為にのコアとなる部分… 人は…神様を拾ったので喜んで手に入れようとした。だから、バチが当たった。 それが15年前…せっかく手に入れた神様も消えてしまった… そして、今度は自分たちで復活させようとした… それがアダム。そしてアダムから神様に似た人間を造ったの…それが、エヴァ」
「リツコあんた!」

 驚くミサトは手にした銃に力がこもる。

「シュウイチくん、ご感想は?」
「リツコさんこれがどうかしましたか?」
「貴方…これを見てなんとも思わないの!? 綾波レイは人間じゃないのよ!?」
「生まれが特殊ということです。それだけではないですか?」

 蔵馬は冷静だった。妖狐時代の自制心が働いたのかもしれない。

「俺自身も生まれが特殊なんですよ。特殊イコール人外であるならば、俺も人間ではありませんね。それに…」
「それに!?」
「彼女は彼女だ。それ以上でもそれ以下でもない。俺が俺である様に…」
「……」

 唖然とするリツコ。

「そ、それじゃあ…」
「ならば貴様は何者だ」

 リツコの声に被さるように重い声が響いた。

「南野司令!?」

 突如のゲンドウ登場にミサトとリツコは驚いた。

「父さん」
「貴様は何者だ?」
「俺は俺。南野シュウイチ」
「…… あとで聞かせてもらうぞ」
「ああ。で、何しにここまで来たんですか?」
「シュウイチの正体とやらも気になるが… 本題はこちらだ」

 懐から、リモコンのようなものを取り出した。

「司令! それは…! ここの水槽のコントロールシステムの!」

 リツコは驚いた。
 その様子を見ながら、ゲンドウは赤いボタンを押す。すると水槽内の綾波レイたちが崩れていくのである。

「司令、一体何の真似ですか!」
「もはや、これは必要ない。ネルフはゼーレと決別する」




 場所は変わってネルフ司令室。リツコ、ミサト、蔵馬はゲンドウに連れられくる。
 中には冬月が書類整理をしていが、ゲンドウが入ってくるとこちらを向いた。

「その顔… 南野決めたのか」
「ああ」
「そうか」

 そう言うと冬月は意外とすっきりとした顔をした。

「冬月副司令、ご存知だったんですか?」

 リツコが冬月に問う。
 冬月は首を振りながら答えた。

「いや、はっきりとは判らんよ。こいつははっきりいうタイプじゃない」
「たしかにそうですけど…」
「で、南野」
「ん?」
「詳細を教えていただこうか」
「ああ」

 どっかと司令席の椅子へ腰を下ろした。

「最初はただのイレギュラーにすぎんと思っていた。が、どんどんスケジュールから離れていった」
「イレギュラーですか?」
「そうだ。だが、そのイレギュラーがシュウイチお前だった」
「俺ですか?」
「奴らの計画では、サードチルドレンを依り代に何かを起こすことにある。そのためにはサードチルドレンの心は壊れていなければならん」
「俺の心ですか。でも壊れませんでしたね」
「そのため、奴らは焦り始めてる。こちらがもらっているスケジュールと比べると剥離が激しい」
「なるほど。俺が壊れないので、周りの人間…綾波さんや惣流さん、そして彼…鈴原くんを利用して」
「そのとおりだ」
「父さんとゼーレの企みってなんたんですか?」
「サードインパクトを起こすことだ」
「ちょっと司令! ネルフはサードインパクトを起こさないための組織では!?」

 ミサトが噛み付いた。
 しかし、ゲンドウの表情は変わらない。

「表向きはな。実際はすべての使徒を倒し、サードインパクトを発生させ、全人類を一つにすること」
「なんで、そんなことを…」
「その先は知らん」

 ふう、とため息をつくとゲンドウは蔵馬の方を見た。

「シュウイチ、聞かせてもらおう。お前の正体とやらを」
「俺の正体? そうですね、わかりやすく言えば前世の記憶と力を持っています、かな」
「!? 前世の記憶と力だと!?」

 驚く一同。それもそのはず、使徒というわけのわからんモノを倒すためとはいえ、科学的な組織である。前世とかどうも信じがたい。

「ちょ、ちょっと、シュウイチくん!? 前世って!?」
「輪廻転生とかそういうのですよ」
「それはわかるけど、何故!?」
「さあ」
「さあって、シュウイチくん」
「その辺は、俺も知りたいぐらいです」
「オカルトぽくなってきたわね… じゃあ、前世が傭兵だったの?」

 ミサトはなんとなくであるが傭兵のような気がしてた。戦闘中あまりにも蔵馬は冷静だった。

「傭兵? どういうことだ葛城三佐」

 傭兵、という言葉が出てきてゲンドウはミサトに問う。

「いえ、あまりにも戦闘中が冷静で、どうも戦場慣れしてるような、なんとなくなんですが…」
「なるほど。確かにシュウイチはとても15歳の子供とは思えんフシはあるな」
「ええ、アスカやレイは昔から訓練してきたのである程度は納得できますが、シュウイチくんは不思議です」
「シュウイチ、この件については?」

 ゲンドウは、ミサトの疑問を振った。
 シュウイチ自体は話すつもりはなかったが、話さないと進まないのでしょうがないなという感じで答えた。

「俺の前世は… いわゆる泥棒。盗賊だったんです」
「盗賊?」
「極悪非道のね。目的のブツのためならなんでもする」
「んあ!?」

 ミサトが考えていた想定の斜め上を行ったようで、変な声を上げた。

「殺しも何百何千… もう覚えてないぐらいに」
「………」

 唖然となるミサト。
 横にいたリツコも唖然としている。こちらも想定の斜め上を行ってたらしい。

「年齢に合わぬ異様なのは分かった。シュウイチ」
「何? 父さん?」
「前世とやらの罪滅ぼしのつもりか?」
「そんなつもりはありませんよ。前世がどうあれ、南野シュウイチは南野シュウイチですし」
「そうか」
「質問はないですか?」

 ゲンドウは納得したようなので他の人…リツコとミサトへ話を振った。

「え~と、ミサト」
「ちょ、いきなり振るわけ!? 科学者としての質問とかないの!? 相当疑ってたみたいだし」
「ミサトにはバレバレか。でもね、前世とか科学者から見れば妄想レベルよ」
「でも、信じるんだよね? シュウイチくんの話?」
「まあ、ね。でもそういう人物が過去いたか調べてみようかとは思うわ」
「嫌なもん調べるのね」

 その後、徹底的に調べるリツコであったが、何にも出て来なかった。当たり前であるが、蔵馬は妖狐であり、妖怪だ。暴れていたのは基本魔界と呼ばれる妖怪たちの故郷。

「シュウイチくん、今は思いつかないわ。後ででもいい?」
「構いません」
「ありがと」

 特に質問がないようなので、蔵馬は再びゲンドウの方へ向く。

「父さん、質問があります」
「なんだ?」
「使徒について、後何体来ますか?」
「元々のスケジュールであれば後一体」
「いつ頃来ますか?」
「隠す必要もあるまい。実はもうネルフ内にいる」
「!?」

 驚愕の事実。リツコは元々、ゲンドウの協力者であったので知っているがミサトは知らなかった。
 顔が一気に戦闘モードに変わった。

「司令、それは誰ですか?」
「渚カヲルと名乗っている少年だ」
「んあふ!?」

 二度目の変な声を上げた。




 僕は歌を歌おう。


 僕は歌を歌おう。


 僕は歌を歌おう。


 独りで。


 喜びの歌を。


 人の創りし歌を。


 ……歌は心を潤してくれる……



 君は僕に何を望んでいるの。


 君は君に何を望んでいるの。
 君は君に何を望んでいるの。


 君は君に何を望んでいるの。
 君は君に何を望んでいるの。
 君は君に何を望んでいるの。


 僕が手を差し伸べる事で救いになるというのなら……僕は喜んで手を貸そう。


 君が喜ぶのなら……僕はそれでも良いと思うから。


 君のためになるのなら……僕はそれでもいいと思うから。


 けれど……


 君もわかっているはずだよね。


 僕の手では、救う事が出来ない事も。


 他人の手では、救いにならないと言う事も。


 僕に赦される行動は、ただ一つ。


 -------君の幸せを願うよ。


 それは、僕にできる唯一の自由意思。




「さあ、行くよ。おいで、アダムの分身。リリンの下僕」