第貮拾貮話 『子宮-Almisael-』後編
「今回も様子見かあ」
『いえ、来るわ』
「レイ? どういうこと?」

 上空に浮かぶ使徒はDNAのような形状から紐状に変化するのをレイは捉えたのだ。
 使徒はそのままこちらへ向かってくる。

「く!」

 アスカは使徒へ向かってライフルを放つが通じない。すべて、A.T.フィールドに阻まれた。
 そして使徒はうねると、零号機に襲い掛かったのだ。

「狙いは零号機!?」

 アスカは零号機を突き飛ばし、回避させた。
 レイは、地上で一回転するとライフルを構え、使徒に攻撃をする。
 こちらもすべて、A.T.フィールドに阻まれる。

「いい加減当たりなさい!」

 アスカも再び乱射するが、弾かれてしまう。

「ダメ! ミサト次の武器頂戴!」
『受け取って』
「了解!」

 外見はチェーンソーを二つつなげたような武器が射出され、アスカはそれを受け取った。
 そして、向かってくる使徒の先端に斬りつける。
 レイは素早く使徒の末端に回りこみ、ライフルを構えた。
 だが、使徒は末端部分を網状に展開。零号機を捉えてしまう。

「く…!」

 網の先端が零号機への侵食を開始した。




「目標! 零号機と物理的接触!」
「零号機のA.T.フィールドは!?」
「展開中! しかし、使徒に浸食されています!!」
「使徒が積極的に1次接触を試みているというの? 零号機と」




(綾波レイと接触したんだね、君は。じゃあ、シュウイチ君、君はどうでる?)




「初号機をただちに出撃させろ」
「え?」

 沈黙を保っていたゲンドウの一言に驚くミサトたち。

「出撃だ」
「あ、はい」

 ミサトは不審がりながらも、完全に修理の終わってない初号機出撃準備をさせる。

(司令は何を考えてるの!? 初号機の修理は完全ではないのに!)




使徒の侵食は、零号機本体だけではなく、パイロットまで侵食されていく。

「くぅ…」

レイは苦痛と快楽の混じった異様な感覚が走るが、懸命に耐える。
そして、零号機とレイの肉体が使徒との同化を示す葉脈のような筋が広がり始めた。




(誰?)


 レイは気がつくと巨大な湖の上に浮かんでいた。
 その湖から、何かが浮かび上がってきた。


(エヴァの中の私?)


(いえ、私以外の誰かを感じる。)


(貴女、誰?)


(使徒? 私達が使徒と呼んでいるヒト?)


 景色が一瞬で赤い空、オレンジ色の海に変化した。
 そして、湖から浮かんできたモノはレイの姿をしたモノだった。
 使徒がレイの姿を借りて現れたのだ。


(私と一つにならない?)


(いえ、私は私。貴女じゃないわ。)


(そう。でももう遅いわ。)


(私の心を…… この気持ちを… 貴女にも分けてあげる。ね? 痛いでしょ? ほら、心が痛いでしょ?)


(痛い? いえ、違うわ。寂しい…そう、貴女は寂しいのね。)


(サビシイ?? わからないわ。)


(一人がイヤなんでしょ? 一人でいるのがイヤなんでしょ? それを寂しい…って言うの。)


(それは貴女自身の心よ。悲しみに満ち満ちている、貴女自身の心よ。)


 その時レイは気づいた。自分の膝に涙が滴るのを。


(…これが…涙? 泣いてるのは…私?)




 初号機が、零号機の最も近い場所に射出された。
 地上へ出たと同時にA.T.フィールドを展開し、零号機へ向かった。
 零号機を侵食し、不気味な姿に変わった使徒がこれに反応しないわけがない。
 紐状の物体を伸ばし捕獲にかかる。

「何!?」

 僅差でかわすが、手にしていた武器をかすり、バラバラにしてしまう。
 蔵馬は距離を取ろうとするが、ありえない曲がり方で襲いかかってくる。

「射程距離も無限なのか!?」




「これは私の心? 南野さんと一緒に居たい、私の心? …ダメ!!」

 使徒が初号機への執着心を自分の願望が使徒の初号機への侵食を促進させてると悟った。
 いつかは取り込まれてしまうのは目に見えていた。

「こうなったら…」

 レイは最後の手段に出る。自爆だ。
 自爆用レバーを引くと零号機はA.T.フィールドが反転していく。
 使徒は退避しようとするが、抱きしめるように使徒を離さない。

『レイ! 機体を捨てて逃げて!』
「ダメ… 私が居なくなったらA.T.フィールドが消えてしまう。だから、ダメ」
『レイ!』



(南野さん…)



「レイーーーーーーーーーーーーーーッ!!」



「!?」



 蔵馬の力が爆発した。
 地面から誰も見た事も無いような巨大な植物のツルが無数に伸び始めたのである。
 そのツルは使徒に巻きつこうとした。
 A.T.フィールドで防ぎにかかる使徒。だが、ツルはなんとA.T.フィールドごと巻きついたのだ。
 使徒の動きが封じられていく。

『シュウイチくん!? 何を!?』

 驚くミサトをよそに零号機に近づく初号機。そして初号機のエントリープラグが開いた。
 すると中から大量のツルがわき出し、零号機のエントリープラグへ伸びる。

『ちょっとリツコ! これ何なのよ!!』
『知らないわよ!!』

 ツルが零号機のエントリープラグを掴む。そして、初号機の中から蔵馬が出てくる。

「え?」

 レイは驚く。蔵馬の姿が揺れている。
 いつもの蔵馬の姿に銀髪の男の姿が重なるように揺れていたのだ。

「南野さん! 離れて! 貴方まで巻き込まれるわ!」

 レイは蔵馬に呼びかけるが、返事はない。

「南野さん!」

 ツルの束縛を抜けた使徒の一部が、蔵馬を襲う。

「無駄だ」

 何処からともなく出てきたツルがそれを弾く。
 そして、ツルを伝って零号機へエントリープラグへやって来る。

「いま助ける」

 ツルがエントリープラグをこじ開ける。
 蔵馬が中に入り、レイに手を差し出した瞬間。
 使徒が自爆を決行。
 周りは閃光に包まれた。




「! 零号機と初号機を確認して! すぐさま、レイとシュウイチくんの救助を!」
「了解!」

 使徒の自爆で状況がわからなくなったが、素早く支持を出すミサト。
 その後、横にいるリツコにささやいた。

「今のシュウイチくんの姿の揺れ、わかる?」
「いいえ。使徒の…エヴァの影響かしら?」
「私の勘だとどちらも違う。おそらくあれがシュウイチくんの秘密の一端」
「なんですって? なら、こっそり調べてみるわ」
「バレそうだけどよろしくね」
「そうね、わかったわ」




 爆発の煙が晴れるとすでに使徒の姿はなく、初号機が立っていた。
 謎のツルもすでに消え失せ、零号機が倒れている。半壊はしている。
 レイと蔵馬は初号機の手の中にいたのだった。

「南野さん、貴方誰?」

 気がついたレイが蔵馬に問う。

「南野シュウイチだけど…」
「いえ、クラマ。クラマとしての貴方誰?」
「その言葉は…」
「病院の廊下でのつぶやきが聞こえた」
「そうか、あれを聞いたか」
「貴方誰?」
「南野シュウイチであり、蔵馬でもある」
「わからない」
「近いうちにわかると思うよ」
「そう」

(どうやら、ゼーレとやらも焦っているようだ。時間があまりない。一気に行くか……)




「……シュウイチくんよろしいかしら?」

 回収され、検査受けた蔵馬が検査室が出るとリツコから声がかかった。

「なんでしょうか? えっと、このままでいいんでしょうか?」
「問題無いわ」
「そうですか。では、なんですか?」
「零号機が自爆する時に見えた貴方の姿について説明してもらえるかしら?」
「姿?」
「二人の人物が重なっているように見えたの」

 使徒の自爆前に初号機から出てきたところはばっちり司令室でも映りだされていたのだ。
 蔵馬が南野シュウイチと妖狐が重なっていたのももちろんのこと。
 リツコは先ほどの光景を集団幻覚だとは思っていない。科学者としてそれはありえないと思っているからである。

「説明ですか? そのままですよ?」

 蔵馬は誤魔化すことをやめ、少し情報を出す。

「そのまま?」
「そうです。俺は普通の人間ではないんです」
「冗談はやめてもらいたいものね」
「冗談ですか… ま、信じるか信じないかはリツコさんの自由です」
「言うわね…」
「話はそれだけでしょうか?」
「もう一つ。私についてきてくれるかしら?」
「はい、いいですが… 検査結果出てないですよ?」
「そちらは私が責任を取るわ」
「わかりました…」

 蔵馬はリツコを後について行くのだった。