第貮拾壹話 『子宮-Almisael-』前編
『ロンギヌスの槍、我らの手では回収は不能だよ。何故使用した、南野ゲンドウ』

 暗い世界。
 モノリスが数倍浮かぶ部屋の中央にゲンドウはいた。

『エヴァシリーズ、予定では揃っていないのだぞ』

 ロンギヌスの槍無断使用により、呼び出され尋問を受けている。
 モノリスから発する声の主はそのつもりだ。
 しかし、ゲンドウは怯えることも動揺することもなく立っている。

「使徒の殲滅を優先させました。やむを得ない事象です」

 淡々と話すゲンドウ。
 その話し方が気に入らないのか、一枚のモノリスが声を上げる。

『やむを得ないか? 言い訳にはもっと説得力を持たせたまえ!』
「どう言われましても、槍は元に戻りません」
『最近の君の行動は目に余るものがあるな』
「話がそれだけならば私は帰らせていただく」
『南野』
「議長」
『これ以上独断は許さぬ。進めるのであれば、そのときには君の席は残らぬ』
「………」

 ゲンドウは、議長と呼んだ人物の言葉に表情すら変えずに無言でその場で立ち去る。

『南野、ゼーレを裏切る気か』




「ふ。裏切る? 愚かな老人達め…」




 蔵馬は瓦礫の山とかした都市中心部に来ていた。
 使徒が続々と現れてはやってくるので、改修作業も追いつかないのである。

(疎開…… この時代で聞くことになるとはな)

 日本各地への転校という名目での疎開が続き、高校が学校として機能できなるほど減ってしまい、休校が決定したのだった。
 おそらく、レイやアスカが中学校もほぼ同様に休校へ向かうと思われるが、チルドレン候補生を極秘に集めておくという機能があるため、どうなるか不明である。

(ネルフ関係者の家族も続々と離れているという。本格的にヤバイのかもしれないな。……む?)

 突然蔵馬の耳に鼻歌が聞こえ始めた。
 聞こえる方へ振り向くと、一人の少年が立っていた。

「歌はいいね」

 少年はポツリと呟くと蔵馬の方へ向いた。

「歌はいいね。歌は心を潤してくれる。リリンが生み出した文化の極みだよ。そうは感じないかい? 南野シュウイチくん?」
「俺の名を?」

 蔵馬の警戒感が一気に広がる。ここまで気が付かせずに近づけたことが異常なのだ。

「君を知らない者は無いさ。失礼だが、君は自分の立場をもう少し知ったほうが良いよ」
「君は?」
「ああ… 自己紹介が遅れたね。僕はカヲル。渚カヲル。君と同じ仕組まれた子供、フィフスチルドレンさ」
「フィフスチルドレン…… では、何故ここへ?」
「いやあ、道に迷ってしまってね。先輩である他のチルドレンの顔は写真を見て知っていたので、南野シュウイチくん、君を見かけてね」
「声をかけたのか?」
「そういうことさ。何分、地図はあったんだけどここまで街が壊されているとは思わなかったんだ」
「申し訳ないんだけど、ネルフまで連れて行ってくれないかな。これ、ちゃんとした僕がチルドレンだという書類だよ」

 蔵馬はカヲルから書類を受け取って見るとそれっぽいようだ。

「わかった。一緒に行こう」
「悪いね」
「それから、これからよろしく」
「よろしく」

 ふふっと微笑むカヲルであった。




 ネルフ司令部に戻ったゲンドウに一通の報告書が届く。

「フィフスチルドレン…渚カヲル。弐号機の予備パイロットのつもりか…」
「南野どうする? セカンドチルドレンは健在。今は入院中だが、予備など必要ない」
「老人達は自分達で事を起こすつもりだ」
「何?」

 ゲンドウの一言に報告書を持ってきた冬月は驚く。

「こっちが勝手に動くので鈴のつもりなんだろう」
「鈴だと? 鈴は加持ではなかったのかね?」
「鳴らない鈴は意味が無い。そもそも彼は今は行方不明だ」
「なるほどな。この少年の事は仕方がないな。送り返すわけに行かない。で、どうするつもりだ?」
「今は従っている振りをして静観するしかあるまい」
「それはそうだが。南野…何を考えている…」
「大したことじゃない。シュウイチがこの機に動くだろうと思った」
「シュウイチくんが?」
「ああ。勝手に動き回られるより、こっちから接触したほうがいいかもしれんな」

 ゲンドウはニヤリと笑った。




 フィフスチルドレンの事は、ミサトたちにも同時期に伝わっていた。

「渚カオル。過去の経歴は一切抹消済み。レイと同じね」
「そうね、しかも唯一の経歴が生年月日のみ。しかもその日付が…」
「セカンドインパクトと同一。……何かありそうね。調べられる? リツコ」
「やってみるわ」

(ゼーレが、委員会が、直接送り込んで来たってわけね。)

 リツコは知らないふりをしながら答えつつ、そう思った。
 かなり焦っていることを感じるリツコ。

「とりあえずどうしよっか?」
「試しに弐号機に乗せてシンクロテストしてみようかと思うわ。で、そこで…」
「アスカ?」
「説得よろしくね」
「ええ~~~」


 その後、アスカの病室で殴り合いに発展しかかったとかしたとかあったらしい。




「また来たんですか?」

 使徒発見にネルフへ呼び出された蔵馬がつぶやいた。

「最近、間隔が狭まってきてるわ。何かあるのかしら?」
「修理が追いつきませんね。まあ、俺たちが毎回壊すのが悪いのですけど」
「それはしょうがないわ。そもそも、使徒自体なんだか今だにわからないもの」
「そうですね」

(地下にある仮面の巨人の上半身が目的なのはわかる。使徒はあれをどうするつもりだ。)

 蔵馬は、独自の調査網でネルフを徹底的に洗っているが、それでもわからないことが多かった。
 それをゲンドウのみが把握していて、他に漏れてない可能性もあると考えている。
 さすがにゼーレまでは調査しきれない。妖怪とはいえ、一個人で世界の裏をすべて調べあげるのは不可能であろう。
 そのため、そちらは放ってある。

「しかし… 何ですかあの形?」
「二重螺旋の円環ね」
「あれで、生き物って言うから不思議よね」

 ミサトの横にいたアスカがつぶやいた。
 渚カヲルに弐号機を取られまいと見事に復活を果たしていたのだった。

「で、目標の様子は?」

 ミサトはオペレータに確認を行う。

「目標は大涌谷上空にて滞空。定点回転を続けています。A.T.フィールドは依然健在」
「理由はわからないけどその場から動いてないのね」
「しかも、パターン青からオレンジへ、周期的に変化しています」
「どういうこと?」

 ミサトはリツコに回答を求める。
 見た目は使徒だが使徒でないとデータがいっているのである。

「MAGIは回答不能を提示しているわ。答えを導くには、データ不足ね」
「毎回、訳の解らん姿で現れるんじゃしょうがないわね」
「ただ、あの形が固定形態でないことは確かだわ」
「分裂したり、変形したりする可能性があるのね。相変わらず、先に手は出せない…か。レイとアスカはエヴァで出撃して様子を見ましょう」




 そんなやり取りをしている後ろにはカヲルが立っていた。

(さて、君はここで退場してもらわないと僕が困る。シュウイチ君たちはどう対処するかな?)

 モニターを見ながら微笑んだ。