第拾捌話 『力-Zeruel-』後編
 使徒の足元から突如伸びた植物の蔓。使徒は蔓で足を捕えられた。動けない。
 しかし、初号機も無事ではない。すでに片腕は吹き飛ばされ、胸部装甲ははじけ飛ばされている。

「あっさり殺すのは味気ないが、被害を最小限に抑えるにはそれしかないな」

 普段の蔵馬とは、別人のような口調。完全に戻っていた。


 使徒に蹴り倒しす。今度は蔓で腕を封印。
 馬乗りになり、頭部と思われる個所を鷲掴みにする。そして引き千切ろうとした。



 そのとき。



 初号機の動きが止まった。



「何!? まさか・・・!」

 驚く蔵馬。即座に横のエネルギー残量計を見る。
 飛び出した時点で、外部電源とは接続されていない。そう、バッテリーで動く内部電源が今一歩で切れてしまった。




「こんな時に!?」

 ネルフ本部でも初号機の内部電源切れは感知していた。

「初号機、活動限界です! 予備は… 予備電源原因不明で働きません!!」

 マヤが計測器を確認して叫んだ。

「初号機しか使徒に対抗できる手段はないというのに……」

 誰かがそうつぶやく声が響いた。




 使徒は動きの止まった初号機に気が付く。蔓で絡め捕られた腕をうねうね動かす。
 わずかに振りほどき、伸ばして初号機の顔をまきつけた。
 そのまま持ち上げて、近くの建造物……ネルフ本部と思われる……に叩き付けた。


「ぐう…!」

 エントリープラグ内の蔵馬は動かそうと、レバーやボタンを押すが反応はない。

「使徒に妖気や霊気と言ったものは存在しない。あれば何とかなるはずなんだがな」


 使徒は腕で初号機を押さえつけながら、目からビームを発射。破壊された胸部がえぐられた。


 胸部内部の球状の物体があらわになる。使徒はもう一本の腕を蔓から解放して、それを殴り始めた。


「エントリープラグが持たない。このままでは潰されるか」

 エントリープラグ内の壁に亀裂が入っている。使徒が殴るたびに大きくなっていくのがわかった。

「せめて、綾波や惣流の仇ぐらいは取れると思ったんだがな………」

 蔵馬はそうつぶやいたとき。初号機が再起動した。エネルギーの残量はゼロのままだ。

「なんだ…と………」

 蔵馬の意識が飛んだ。




「初号機が再起動しました! なんで…!?」

 マヤが驚く。

「リツコ、隠しコマンドでも入れた…?」

 ジト目でリツコを見るミサト。しかし、リツコは首を振りながら問いに答える。

「そんなものあるわけないじゃない」




 再起動を果たした初号機はそのまま使徒の腕をつかみ、引き千切った。
 その腕を己の引き千切られた腕になんと移植を試みはじめた。
 不気味な動きを見せると使徒の腕は初号機の腕として再生を果たす。



 天に届かんばかりに吠える初号機。



 片手を振り上げる。そのまま、使徒へ振り下ろした。
 使徒は、A.T.フィールドで防御を試みるが、A.T.フィールドごと初号機は使徒を切り裂くのであった。
 三枚に切り下された使徒へ向かって初号機は四つん這いになって近づいていく。



 そして、そのまま使徒を喰い始めた。




「なんてこと…! エヴァが、初号機が、使徒を喰ってる…!!」

 衝撃的な光景が目の前に広がる。リツコの横では、マヤは吐きそうになっていた。




「始まったな」
「ああ、全てはこれからだ」

 ネルフ本部司令室では、ゲンドウと冬月がそう言った。




 この状況はゼーレでも見ていたのだった。ただ、その場所には黒い板……モノリス……が並んでいるだけだが。

「エヴァシリーズに生まれいずるはずのないS2機関」
「まさか、暴走と言う形で自ら取り込むとはな」
「我らゼーレのシナリオとは大きく違った出来事だよ。どうするべきか」
「確かにこの修正、容易ではないぞ」
「南野ゲンドウの息子……南野シュウイチ、あの男に初号機を与えることを許可したのがそもそもの間違いではないのかね?」
「だが、偶然の産物にすぎん」
「南野ゲンドウにネルフを与えたのが間違いなのだ」
「間違いかもしれぬ。だが、あの男でなければ全ての計画の遂行は出来なかった。奴め……何を考えている?」




 初号機は、あらかた使徒を喰い終えると、再び天に向かって吠えたのだった………




 暴走したエヴァは、対使徒用迎撃システムにより捕獲された。使徒用と言っているが、まさにエヴァ用に設計されたように機能したのだった。
 現在、エヴァ初号機は、ゲイジにて拘束されている。もちろん、零号機と弐号機も回収済みである。
 その様子を司令室の巨大モニターに映り出しされていた。

「司令、この展開は予想外ですね。あっちにはどう報告しますか?」

 司令室へやってきていた加持が、ゲンドウと冬月に問う。

「不慮の事故として処理するつもりだよ」
「冬月副司令、それで納得しますかね?」
「……初号機は我々の指揮下になかった。あっちから別命があるまで初号機は凍結する」
「納得するしないはあっちの勝手ですね。でも、懸命な判断です。ですが…」
「何だ?」
「ご子息を取り込まれたままでですか?」




 そう。エントリープラグ内が映しだされたモニターには、L.C.Lのなかに漂う南野シュウイチの…蔵馬の…服だけだった。




 こちらはリツコを筆頭とした技術部が、蔵馬救出作戦を実行していた。
 だが、こちら側の信号はすべて拒否されてしまう。唯一拒否されなかったのはエントリープラグ内の映像だけだ。

「なによこれ…!」

 服が漂う映像を見て驚愕のミサト。

「これが、シンクロ率400%の正体…」
「シンクロ率400%?」
「ええ。こちらに残されている記録では、シンクロ率は400%超えていた… でも、それがこういう意味を持つとは…」
「シュウイチ君はどうなったの!?」
「エヴァに取り込まれてしまったわ…」

 リツコはそう言いながら、ゲイジでミイラ男のようなエヴァを見上げた。

「助けられるの!?」
「全力を尽くす……としか……」
「そ… そんな…」

 ミサトは唖然とするしかなかった。




 病院の一室。レイが覚ました。

「…まだ生きてる…」

 自爆したのは覚えている。うっすらとした意識の中では初号機が暴走したのは覚えてる。しかし、それ以降は一切覚えていなかった。
 上半身を起こすと、窓の外に目をやる。そこには暴走の傷跡がわずかだが見えた。

「南野さん………」




 こちらはマンションの一室。アスカに割り当てられていた部屋だ。
 アスカは、弐号機の両腕切断というダメージを受けていたが、すでに退院しており、自室のベットの中だ。

(何も…… 何も出来なかった……)

 弐号機が両腕が切断される様子。零号機が使徒へ突っ込んでいく様子。見ていることしかできなかった。

(悔しい…… 結局は、シュウイチに助けられてばかり………)




(なんだ、これは…… 何処だ? …… エントリープラグ……初号機の……)



 蔵馬はエントリープラグ内を漂っていた。いや、そのような気がする。意識のみが。



(そうか… 俺は……)



(…… 戦いの中で逝くのか。俺らしい最後だな……)



(……な……何……?)



(な… なんだ……?)



(俺の知っている人たち… 俺を知っている人たち…)



(あれは……俺? 昔の………)



(伝説の極悪盗賊・妖狐蔵馬…… それが俺だ。)



(ハンターに追われ、殺され、魂のみ辛うじて人間界へ逃げた。)



(そして、身を隠すため、すでに死に絶えていた胎児に憑依した。)



(……… そして俺は人して生まれた。)



(前世の力と記憶を持ったまま。)



(そして、俺は今、妖怪でありながら人間として、人の為に戦っている……のか?)



(ニクシーによれば、ゼーレなる勝手な奴らが仕組んだ事柄だ……)



(ゼーレが操る歴史か……)



(俺をこの歴史に入れた事を永遠に後悔させてやる。)



(俺は南野シュウイチ。伝説の極悪盗賊・妖狐蔵馬。)



(ゼーレ。貴様らには後悔させてやる……)




 数日後、蔵馬のサルベージ計画が発動した。現在、その作業が行われていた。
 蔵馬は、L.C.Lに溶け込んでいる状態で、それを再構成して肉体を作るという計画だ。
 ただし、成功率は極めて低い。

「だめです! 自我境界がループ状に固定されています!」
「全波形域を全方位で照射してみて」
「だめだわ。発信信号がクライン空間に捕らわれている」

 悔しそうなリツコ。その顔を見たミサトはリツコに問う。

「どういうこと!?」
「つまり、失敗」
「なんですって!」

 驚愕のミサト。そのとき、測定器の警報がなった。

「まずいわ! 干渉中止! タンジェントグラフを逆転。加算数値を0に戻して!」
「はい!」
「!? 旧エリアにデストルド反応! パターンセピア!コアパターンにも変化が見られます!」
「現状維持を最優先にしてちょうだい! 逆流防いで!」
「せ、先輩! 変です。せき止められません!!!」

 作業を行なっていたマヤが悲鳴を上げた。

「これは…なぜ…? 帰りたくないの? シュウイチ君?」

 リツコが初号機に向かってつぶやいた。だが、初号機の異常はまだ終わってなかった。

「こ、これは…!」
「マヤ!? 今度は何!?」
「初号機、信号を拒絶! プラグ内、圧力上昇!」
「まずい!! 全作業を中止して! 電源を強制終了して!!」
「あ…… 先輩、プラグが排出されます…… いえ、されました……」

 エントリープラグからLCLが排出される。呆然とするスタッフ。
 そして、服が流れ出てきた。蔵馬が来ていた服だ

「シュウイチ君!!」

 ミサトは蔵馬の服を抱きしめた。

「う…うくっ…うう… 人ひとり…… 人ひとり助けられなくてなにが科学よ…… 返して! シュウイチ君を返してよ!!」




(許さぬと言うのならどうする気だ?)


 不思議な空間に漂っていた蔵馬に問いかける声がした。思わずその声のした方に顔を向けた。


(もちろん…ってお前は!?)


 そこには自分がいた。いや、正確には前世の自分である妖狐蔵馬であった。


(俺がもう一人だと……!)


(俺はお前さ。ま、姿はお前とは違うけどな。)


 口調は投げやり感があった。蔵馬自身の前世の姿をしたベツモノであろうと感じた。警戒を強める蔵馬。


(貴様は一体何者だ? そして、その姿…妖狐……)


(俺が何者であるかは関係がない。で、どうするんだ? 前世って言っていいのかわからないが、前と…妖狐時代のように逆らうものは同じように殺すのか?)


(貴様は何が言いたい?)


(許さない。なら手っ取り早いのがゼーレのやつらを皆殺し。これでは『南野シュウイチ』になる前と変わらぬぞ?)


(『蔵馬』ではなく『南野シュウイチ』で対処しろと?)


(そうとも言える。が、そうとも言えない。だが、今のお前は妖<あやかし>……妖狐蔵馬であるが南野シュウイチでもある。)


(…………)


(ふ。はっはっはっはっ…… 何を悩む? お前は人として生きる事にしたのではなかったのか?)


(!?)


(だったら、簡単じゃないか?)


(!!)


(そうさ。そういうことなのさ。)


(貴様は……)


(さてね。)


(……)


(帰れ… お前は妖<あやかし>であるが人でもある。)


(……)


(生きろ… すべてはそこからさ。)


(ああ。)




 その様子を見ていた二人の少女がいた。レイとアスカだ。

「ねぇ、あれってどうなったの?」

 アスカがレイに問う。レイに聞いたところで全てがわかるわけではないのはアスカも知っている。でも聞かずにいられなかった。

「失敗したってこと」
「シュウイチが死んだってこと?」
「そうとも言える」
「んな!?」


(南野さん、そこにいてはダメ………)




「失敗か」

 司令室でその様子を見ていた冬月がつぶやいた。

「シュウイチでありシュウイチでないモノが何とかするだろう」

 意味深な言葉を言うゲンドウ。それを聞いた冬月は驚いた様子でゲンドウを見た。

「それはどういう意味だ? 彼女が助けるとは違うのか?」
「手は貸すだろう。だが、我々が知らないシュウイチでないモノにより自力で復活するような気がする」
「お前とは思えん言葉だな」
「言っていて自分でもそう思う」
「南野? お前おもいっきり変だぞ?」
「そうか? そうなんだろうな」
「どうした?」

 不審な目でゲンドウを見る冬月。ゲンドウが何者かに洗脳されたか、ついに壊れて狂ったのか。そんな感じの目であった。

「何。見たくなったのさ。その先を」
「先?」
「シュウイチの歩む先をな」




(先程のは一体? エヴァの仕業か?)


 不可思議な空間に未だに漂っている蔵馬。妖狐蔵馬の姿をしたナニカがすでに消え去っている。


(それはとりあえず後に回そう。まずはここからの脱出だ。)


 そう思うと今度は光が蔵馬を包みだした。体は光によって動けなくなっていく。


(こ、これは一体…!?)


 蔵馬の意識が飛んだ。




 号泣するミサト。
 唖然とするリツコ。
 全てが失敗に終わり、南野シュウイチが二度と帰ってこないことを実感していた。
 そのとき。
 何かが落ちる音がした。


「え?」


 蔵馬の服を抱き抱えたままのミサトは音のする方へ顔を向けた。
 そこには、白い見慣れぬ服のようなものをまとった蔵馬だった。



「シュウイチくん!!」



 そう、蔵馬はなぜか南野シュウイチの姿で、妖狐蔵馬の服装で、初号機から勝手に排出されたのだった。