第拾陸話 『力-Zeruel-』中編
 廃工場から車でマンションの前まで送ってもらった蔵馬。彼自身は加持を信用していない。加持が組する謎の組織。これが解明しなければならない。

(…… 組むことには悪くはない。しかし、なんか勘ぐられそうだなぁ。)

 マンションの入り口に入ろうとしたとき、強大な妖気を感じた。

「!?」
「毎度脅かしてすまぬ」

 牛ほどある巨大な犬が現れた。妖精の丘の番犬クー・シーだった。

「クー・シー。今日はどうしたんだ? ここまで人里に下りてくるとは」
「実は迷子を拾ってな。妖精の丘で保護した」
「迷子?」
「そうだ」
「なんでも人間の船に乗ってやってきてしまったそうだ。名をニクシーと言う」
「ニクシー… 妖精なのか」
「変だな。ニクシーと言えば、ドイツの川や泉に住んでると聞く。何故海に…」
「本人から聞いてくれ」

 クー・シーがそう言うと、上の方から すみません との声がした。
 蔵馬が声のした方…クー・シーの背中…を見ると、ひとりの女性が座っている。彼女がおそらくニクシーだ。

「ここでは、まずい。俺の部屋へ来てくれ。俺には見聞きできるが、他の人間には見えない。そのため、独り言ブツブツ言っている人に見えてしまう」
「それは、失礼した。我はでか過ぎるのでここに居よう。ニクシー行って来い」
「わ、わかりました」

 おっかなびっくりのニクシーはおずおずとクー・シーの背を降りた。




「さて、俺に何かようかな?」

 ここは蔵馬の部屋。テーブルを挟んで二人が座っている。もちろん、監視機器は蔵馬の手に落ちている。

「俺は南野シュウイチ。蔵馬と呼んでくれて構わない」
「は、はい。蔵馬さんですね。わ、私は、ニクシーです」
「話してくれるかな?」
「わ、わかりました。わ、私が、海にいたのはですね。人間…だと思う。そんな人間っぽい人間の屋敷?に入ってしまって。混乱して。海に。そして、船で運ばれてしまって」
「慌て過ぎではないかな?」
「すみません。そこで聞いた言葉…… ネルフとかゼーレとか ・・・がこっちについてから再度聞いたんです」
「ネルフにゼーレ?」
「わ、私自身、人間に詳しくないので…」
「聞いたまま話せる?」
「そ、それはもちろん」
「お願いできるかな」
「え、ええ。わかりました…」


 ニクシーの話は要約するとこうだった。
 ゼーレと呼ばれる人間だと思われる人物の集まった組織で、ネルフに命令を下しているらしい。おっかなびっくりでどもるニクシーなのでここまではわかった。


「話してくれてありがとう。でも、何故俺に?」

 妖精は人間と関わらない。使徒やネルフとかにも興味がない。そのはずが、何故と蔵馬は思った。

「あ、ここの妖精の丘の妖精たちが、言ってました。蔵馬と名乗る人間に話してみろ、と。人間に話して何かなるのかなとは思いましたけど…… すみません」
「なるほど。そういうことだったのか」

 クー・シーを通して情報を貰っている。その縁だ。だが、直接彼女を連れ来たのは謎だ。

「は、はい。直接話した方が、間違いなく伝わるだろうということで出向きました。で、でもも。何故貴方なんですか?」

 ニクシーは不思議に思ってたらしい。

「前世が、妖怪だったんだ。その関係かな。それにネルフっていう組織に属してて」
「元・妖怪…… そんなこともあるんですねぇ…」
「話はわかった。君はとりあえずここの妖精の丘にいた方がいいと思う」
「は、はいい」

 最後まで緊張しっぱなしだったニクシーだった。
 その後、ニクシーはクー・シーとともに帰って行った。


(ゼーレか… また胡散臭そうな組織が出てきたな。もしかして、加持さんの属する最後の謎の組織かもしれない……)




 しばらくして。新たな使徒が現れた。

『総員第一種戦闘配置。地対空迎撃戦用意』
「目標は?」
「現在進行中です。駒ヶ岳防衛戦、突破されました」

 前触れもなく突然に第三東京市上に現れたのだ。今回は人型をしているようだ。
 その使徒が、ジオフロントのほぼ真上に移動してきた。目標位置は、ネルフのようだ。

「あいつ… ここに攻撃してくる気!?」

 ミサトがそうつぶやいた瞬間。
 使徒の目が光ったかと思うと、巨大な光の十字架が立った。

「1番から18番装甲まで損壊!!」
「なんですって!? あの四角い使徒があれだけ時間かけた18もある特殊装甲を一瞬に…」

 驚くべき破壊力である。だが、感心している暇はない。

「エヴァの地上迎撃は間に合わないわ。弐号機をジオフロント内に配置。本部施設の直援に回して!」

 素早く指示を出すミサト。

「アスカには目標がジオフロントに侵入した瞬間を狙い撃ちにさせて。零号機は?」
「左腕の再生がまだなのよ」

 リツコが言った。前回、強制切断されたままなのだ。

「戦闘は無理か…」

 渋い顔になるミサト。だが、使徒は待ってくれなかったのだ。
 使徒の目が、再び光る。一発ではない。次々と光の十字架が立った。


「ダ、ダメです! あと一撃で全ての装甲は突破されます!」

 悲痛な叫びが響いた。




 地上から見れば地下、ジオフロントから見れば天井。爆音とともに一部破壊された。
 亀裂から顔をのぞかせる使徒。
 そこへ、待機していた弐号機が現れた。周辺に突き刺してある重火器の一つを抜くと使徒へ向かって乱射する。
 だが、使徒は何事もなかったように亀裂を広げ、自身が通り抜けられるようにしている。
 全弾命中しているのふだが、全く効いてなかった。

「チィッ!」

 弾切れを起こしたので捨て、次の重火器をとる。


 「A.T.フィールドは中和しているはずなのに… 何でやられないのよ!!」


 切れては捨て、新たに重火器をとるを繰り返して攻撃する弐号機。使徒は無傷で平然としている。
 ふわりと降り立つと弐号機の方へ向いた。

「!?」

 蛇腹のように折りたたまれていた腕が不意に伸びた。鞭のようにしなる。


 弐号機の両腕を切断した。


「え…… う…… うわぁぁぁぁゎあああああああぁっっっ!!!!」

 凄まじい痛みが飛鳥を襲った。




 修理中で、戦闘は完全に不可能である零号機がそこに現れる。前回切断され、片腕のままだ。
 零号機はアメフトのようにNN爆雷を抱えていた。そして使徒に向かって走り出した。
 使徒は、零号機に気づき、腕の鞭がしなる。
 A.T.フィールドでそれを弾きながら、突進。そのまま使徒のA.T.フィールドを打ち破る。


「これで… 終わり… 私が死んでも変わりはいるもの………(南野さん……)」


 コアと思われる球体にNN爆雷を叩きつける。次の瞬間、大爆発が起きた。
 使徒と零号機はその爆発に巻き込まれるのだった。




 爆発の煙がなくなり始めると、使徒が顔をだした。無傷だ。


「こんちくしょ────っ!!」


 その様子を見た弐号機は、使徒へ体当たりを敢行する。
 使徒の腕がしなり、今度は弐号機の首へ向かう。



 弐号機の首が飛んだ。



 ように見えた。



 間一髪現れたのは初号機だった。

「遅れてすまない」


「あ…… あ…… アンタ今更何しに来たのようッ!!」


「惣流。君の話を聞いている暇はない」
「え?」
「俺は頭に来てるんでな」

 その言葉にアスカはあることに気づく。
 通信は、音声オンリー。しかも声が違うように聞こえた。

「シュウイチ?」
「そこでおとなしくしてな」




 初号機のエントリープラグ内。
 本来、南野シュウイチがいるはずなのだが、そこには銀髪の人物が座っていた。

「まさか、このようなときにキレてこの姿に戻るとは…」

 蔵馬はキレると前世の姿である、妖狐蔵馬の姿に戻ってしまう。今、まさにその姿だ。

「綾波や惣流に気をかけている暇はない。奴を倒さないとな」

 初号機は、使徒の真正面に立った。使徒もそれを受けて立つように立っていた。


「このエヴァンゲリオンとやらに俺の力がどこまで通じるかわからないが、奴を殺す」


 使徒が動いた。腕をしならせて、初号機の首を狙う。
 初号機はそれを払うが、まきつかれてしまう。そして、投げられた。

「クッ…!」

 地面に叩き付けられる。
 使徒は、目からビームを発射。初号機は避けるために体をひねるが、胸部と片腕に受けてしまう。
 片腕は吹き飛び、胸部は装甲がはじけ飛んだ。
 あらわになった胸部内部に向かって使徒は腕を振るい、突き刺した。
 引き抜くと、もう一度攻撃を加えようと構える使徒。


 そのまま動きが止まる。


「やってみるもんだな。多少多く消費するようだが、問題はなさそうだ」


 使徒の足元から何かが巻きつけられながら伸びていく。蔓だ。植物の蔓であった。




「何が起きてるっていうの…?」

 ネルフ本部にてエヴァと使徒との戦いを見ていたリツコがつぶやいた。

「リツコ、あれなに? 植物兵器でも作ったの?」

 使徒に植物の蔓が巻きつく光景を見ながら、ミサトが言った。

「そんなもの作れるわけないじゃない」
「リツコ、マッドだし… ま、それはおいといて、エヴァの力かしら?」
「まさか……」




「南野」

 ネルフ司令室。ここでも戦闘は生中継されている。

「おそらくアレがシュウイチの秘密の一端だろうな」

 微動だにしないゲンドウ。

「何?」
「…… これが第三の道への始まりか……」




「さあ、使徒よ。たっぷりと返させてもらうぞ…!」

 妖狐の目が怪しく光った。