第拾貮話 『霰-Bardiel-』中編
 ゲンドウはさっそく動いた。自分が描いた道、老人たちと呼んだ人々の描いた道、それから大きくそれることになるであろう第三の道。
 ただし、第三の道でもゲンドウは自分の願いが叶えばいいかなと思っているだけかもしれない。
 まずは、主だったものを集めることにする。内容はアメリカ第二支部の消滅の件だ。本来は蔵馬たちパイロットには関係ないことだが、蔵馬との約束もある。

「集まったな」
 冬月を連れて、作戦本部にゲンドウがやってきた。

「緊急ということで。しかし、シュウイチ君たちは関係あるのでしょうか?」

 代表してミサトがゲンドウに問う。

「本来はない。だが、シュウイチとの約束もある」
「シュウイチ君との約束?」

 不思議に思うミサト。自分の見たところ二人の接点がほぼない。

「ミサトさん、俺が最初に使徒を倒したあと、司令室で約束したんですよ。使徒とかわかったことあったら教えてもらうと」
「なるへそ~」
「非公開組織ですし、重要性が少ない情報だけになると思いますけど」
「そうでしょうね~」
「それで父さん?」
「ふむ。アメリカから参号機が輸送されてくることになった」

 アメリカ第二支部消滅は機密になるため伏せ、押し付けられた参号機のみを伝えるゲンドウ。
 その言葉に驚くアスカ。表情の変わらないレイ。そして蔵馬は…驚いた表情はないが思考が駆け巡っていた。

(参号機だと…… 量産化が開始されていたのか。)

「あの~司令、パイロットはどうなるんですか?」

 アスカが恐る恐るゲンドウに聞いた。

「おそらくマルドゥック機関において、フォースチルドレンが選出されることになる。現時点では未決定だ」
「了解しました。参号機は、リツコ…じゃなかった赤木博士が引き取るということでいいんですね」
「パイロットを引き取るのは貴女よ」
「わかっているわよ」
「問題はなさそうだな。質問あるか?」

 この言葉にリツコは驚く。先ほどのゲンドウの不気味な笑み以来、ゲンドウの行動がおかしい。どこかの組織にでも洗脳でもされたか?と思うリツコは後で調べよう決心した。

「いいかな、父さん」
「なんだ」
「俺の時のようにいきなり連れてきて、ロボットに乗って戦えってことはないですよね?」

 皮肉を込めた質問をした蔵馬。ゲンドウの表情は変わらない。

「それはない。初号機も弐号機もある」
「ならいいのですが」
「それだけか?」
「はい」
「そうか。それでは私の話は終わりだ」

 ゲンドウはそういうと作戦本部を冬月をともなって出ていく。

(……… 調べておくか。)




「南野」
「なんだ?」

 司令室へ向かう廊下を二人に歩いているときに冬月はゲンドウに声をかけた。

「いいのか?」
「問題ない」
「お前がそういうのならいいか」

 何気になげやりな冬月。雑務は自分に回ってくるであろうことへの懸念かもしれない…




 ネルフの帰り道。蔵馬は一人の少年にあった。

「おや、君は…」
「あんときはすんませんでした。ワシ、鈴原トウジっていいます」
「南野シュウイチだ。俺に何かようかな…?」
「お礼をいいたくてな… じゃなかったお礼を言いききました」

 蔵馬の来ている制服が高校のものであると気づき、あわてて言葉を変えるトウジ。関西弁も怪しかったが、標準語も怪しかった。

「ん? どうした? ああ、そうか」

 突然態度の変わったトウジを見ておかしいと思ったが、自分の恰好を思い出して納得した。
 蔵馬自身、高校の制服で、トウジは中学校の制服である。どう見ても自分の方が年上だ。

「あんときはありがとうございました。ツレの眼鏡…相田ケンスケってゆう奴と一緒にいたイインチョ…洞木ヒカリも連れてこようかと思ったんですが、来れませんでした。後日ちゃんと来ますよって、勘弁してください」
「いや、いいよ。無事でよかったよ」
「ほうですか」

 ほっと息をつくトウジ。

「それだけかな」
「………… 聞きたいことがありまして」
「聞きたいこと?」
「はい…… 実はネルフの赤木リツコさんって女の方が学校にきはりまして」
「何?」
「ワシよびだされてしもーて」

(…… リツコさんが中学校に? まさか、彼が…!) 

「選ばれたと」

(やはりか。)

「ワシどうしよーかと思って。そうしたら、この間、助けれくれたパイロット……南野さんに相談しようかと思って」

 複雑そうな顔をするトウジ。いきなり君は選ばれた!ロボットに乗って敵と戦え!である。混乱するのももっともだ。

「そういうことか」
「初対面に近い人に相談する話ではないのう。で、でも、ほかに話す人がいなくて」
「綾波さんや惣流さんは、確か同じ学校だと思ったけど」
「無理や。綾波は何考えてるかわからんし、惣流はなんか目の敵にされちょるし」
「……何をしたのかな?」
「なんも。してないと思いますが…」
「なるほど。で、君としてはどうしたんだい?」
「最初の内は足手まといかも知れんけどな…… 少しでも役に立ちたいんや。今までは敵が攻めてきても隠れることしか出来んかった。情けない事にな」
「別に情けなくはないと思う」
「ありがとうな。 じゃなかったありがとうございます。でもワシは…」

 蔵馬に助けられ、ロボットのコックピット…エヴァのエントリープラグ内から見た光景。トウジは忘れられなかった。そして怖かった。でも。自分も何かしたかった。

「……… 死ぬかもしれないことだから、ちゃんと考えた方がいいよ」
「南野さんも考えたんですか?」
「俺は…… 呼び出されてロボットに乗って戦え!だったかな?」
「なんとまあ…」
「俺と違って時間はあるんだろ?」
「はい。くだらんこときいてくれはりてありがとうございます」
「後悔しないようにね」
「わかりました」

 そういって、トウジは去って行った。後姿が複雑そうだった。

(……… 調べてみるか。 って、俺こればっかりだな。)




 ネルフ本部に最も近い実験場。先日参号機が到着し、パイロット…フォースチルドレン・鈴原トウジも決まった。
 その実験場において、参号機の起動実験が本日行われる。ここで、不具合を修正し、トウジの訓練を兼ねるのである。

「上手くいきそうね……」

 初号機のエントリープラグに放り込まれた経験からか、最初は変なかおをしていたが、順調にテストケースをクリアしていた。

「使徒がいつ来るかわからないとはいえ、すぐさまの実戦投入は無理ね」
「あら、リツコ。シュウイチ君は右も左もわからないうちに放り込んだのに?」
「ミサト。あのときは緊急でしょうがなかったのよ」
「それはわかるけどねぇ」
「あとで首を縦に振ってくれたのが不思議よ」
「まあ、南野司令の息子だし? 何考えてるかわからないし?」
「自分の上司でしょ? 悪口は言わないの」
「へいへい」

 リツコとミサトが軽口を叩きながら、端末のモニターを眺めている。

「これなら…」

 リツコが何かを言いかけたそのとき。端末のモニターに、次々と異常を知らせるアラートが表示された。

「!! 何事なの!?」
「先輩! エヴァ内部で高エネルギー反応を感知しました!!」
「ま……まさか………!」

 リツコは参号機の方を見回す。参号機自体に異常は見られないように見えたが、一ヶ所違和感を感じた。

「あれは? マヤ、あれ調べて」
「わかりました」

 参号機のエントリープラグ周辺に粘液のような物体が目に入る。すぐさまマヤに調査を命じる。

「!! パターン青!?」

 マヤが調査結果を驚きながら報告した。

「なんですって!?」

 そのとき参号機の目が光って大きく口を開き、吠えた。


「ウオオォォオオオゥォゥオオオオオオオオォォォォォォ!!!!!」


 その場は閃光に包まれた。




 同時刻、ネルフ本部。すぐさまこの異常を感知した。

「実験場にて爆発事故発生!!!」
「被害は?」

 シゲルの報告に冬月が問う。

「被害不明! こちらからの通信が一切届きません!」
「わかった。ただちに救助部隊の派遣を。また、戦時がしゃしゃり出で来るまでに全て処理しろ」
「了解! …!! 事故現場にて未確認移動物体を発見しました!!」
「何!?」
「パターンはオレンジ………使徒ではない模様です」


「第一種戦闘配置」


 ゲンドウが口を開いた。

「! りょ、了解! 総員第一種戦闘配置!! 地対地戦の用意!!」

 突然のゲンドウの命令に驚きながらもシゲルは復唱し、準備の指示を出した。




「葛城君と赤木博士がいない時をねらうか」

 冬月が渋い顔をする。

「エヴァの出撃準備を」
「了解! エヴァ全機発進!! 追撃地点へ緊急配置要請!!」
「……南野」
「老人たちが無理やり起こそうとでもしたのだろう」
「そう、そうか…!」
「見せてもらおう…シュウイチよ」




「野辺山で映像をとらえました!! 主モニターに回します!!」

 主モニターにうつされたモノ。それは誰も見間違う事の無い。エヴァンゲリオン参号機。

「やはり……」

 唸る冬月。

「活動停止信号発進。また、エントリープラグ強制射出命令も出せ」

 ゲンドウは冷静に命令を下す。

「そのようなモノ通用するのか?」
「こちらで出来る事は出来るだけやる」
「そうか……」




「駄目です!! 活動停止信号認識しません!!」

 シゲルは驚きと悔しさが顔に浮かんだ。

「エントリープラグ強制射出命令も認識しません! やはり使徒に妨げられているものかと!」
「フォースチルドレンは?」
「呼吸、心拍の反応はありますが、通信はできません!」
「そうか。しかたがあるまい。エヴァンゲリオン参号機は現時刻を持って破棄。目標を、使徒と識別する」
「な…!!」

 ゲンドウの言葉にシゲルをはじめとしたオペレータたちは驚きの声を上げ、ゲンドウを見た。ゲンドウの表情は変わっていない。

「初号機との回線をこちらにまわせ」
「りょ…了解…」




 初号機、エントリープラグ。司令部のやり取りは通信を介してすべて聞こえていた。

(なんてことだ……)

 そこにサウンドオオンリーであるが、割り込んできた通信がある。

『シュウイチ』

 ゲンドウである。

「父さん」
『目標接近だ』
「……あれが使徒だと言うのか?」
『そうだ』
「エヴァ参号機……」
『ああ』
「鈴原君は…パイロットはどうなっている?」
『聞こえていたと思うが、エントリープラグは使徒によって抑えられている』
「そうですか…」
『頼む』
「!? 父さん!?」

 ゲンドウの通信が切れた。

(………最後の言葉は一体?)