第拾壹話 『霰-Bardiel-』前編
 ………これが私………


 ………………………


 ………私をかたどっている形………


 ………………………


 ………でも、自分が自分でない感じ………


 ………………………


 ………体が溶けていく感じ………


 ………………………


 ………とても変………


 ………………………


 ………誰かいるの?………


 ………………………


 ………この先に………


 ………………………


 ………あなた誰?………


 ………………………


 ………あなた誰?………


 ………………………


 ………あなた誰?………


 ………………………


 ………………………


 ………………………




『どう? レイ。初号機は』

 ネルフに3体揃ったことにより、機体相互互換試験が行われていた。初めに零号機と初号機を対象に行われている。最初にレイが初号機に乗り、試験が行われた。
 しばらくして心あらずという感じになったレイにリツコが声をかけたのだ。

「……… 南野さんの匂いがする」




『……… 南野さんの匂いがする』

 レイからの報告。

「どんな匂いよそれは。臭い体臭とかだったら嫌ね」

 試験現場に来ていたアスカがつぶやいた。

「……知りたいなら乗ってみる?」

 そのつぶやきを聞いたリツコがアスカに問う。

「勘弁ね。アタシは弐号機以外に乗る気ないわ」
「でしょうね。なら、体臭とか限定できる要素は?」
「ないわね」

 零号機に乗る予定の蔵馬もここにいるので、この二人の会話は聞こえていた。

(俺の匂いって、獣臭いのかな?)




 初号機とレイの試験が終わり、零号機と蔵馬の番となった。

「零号機のパーソナルデータは?」
「はい。書き換えはすでに終了しています。現在再確認中です」

 マヤが端末を叩きながら、リツコの問いに答えた。

「被験者は?」
「全て問題ありません」
「へぇ。初めての機体なのにね」

 意外ね、と素直に驚くリツコ。そこにアスカが茶々を入れる。

「どう見ても、シュウイチはそんなにデリケートな奴じゃないわね。どっちかっていうとバリケード?」
『惣流聞こえてるぞ』
「まったくそんなこと言わないの」

 横にいたミサトがアスカを注意した。

「ふん」




『L.C.L満水第一次接続開始します』
『どう? シュウイチ君。零号機のエントリープラグは』

 エントリープラグの中にいる蔵馬。レイの時と同じ質問をリツコはした。

「いつもと違います」
『そう。それじゃあ、違和感とかは?』
「いえ、強いて言うのでしたら、綾波さんの匂いがします」
『こっちもこっちで、綾波さんの匂いがします、よ。変態じゃないの?』
「詳しく説明ができないのでこういう例えを使っただけだ。弐号機に乗れば多分惣流の匂いがすると思うが」
『アンタなんかに弐号機に乗せないわよ!』
「そうか」
『アスカ…… 喧嘩しに来たの?』

 ミサトが再度アスカに注意した。

『ふん』
「何やってんだが…」




「データ受信、再確認。パターングリーン」
「主電源、接続完了」
「各拘束問題なし」
「了解。では相互換テスト、セカンドステージにはいるわよ」

 リツコが宣言する。

「零号機、第二次コンタクトに入ります」
「A10神経接続開始」
「先輩、やはりシンクロ率は初号機ほどではありませんね」

 モニターに映し出されているシンクロ率のフラグを見ながらマヤは言った。

「でも、いい数字よ。これなら例の計画、実行に移せるわ」
「…………ダミーシステムですか? 先輩の前ですけど、私はあまり…………」

 マヤの顔が曇った。マヤにとってはそうとう気分の悪い計画らしい。

「マヤ、感心しないのはわかるわ。でも、人が生きていく行くためには常に備えは必要なのよ」
「…………先輩を尊敬してますし、自分の仕事はします。でも…………納得はできません」




「ん…?」

 零号機の中で目を瞑り、黙想をしていた蔵馬は突如、頭の中に直接何かが入り込んでくる感覚を覚えた。

「……なんだ? これは…?」

 目を開いた蔵馬。そしてレイのイメージらしきものが次々と頭に入り込んで来た。

(綾波? 綾波レイだと? いや違う…?)

 最後に、異様な顔をしたレイがシュウイチを見上げたイメージが現れたのだった。

「!?」




 ネルフ司令室に直接通信が入る。ゲンドウの代わりに冬月が出た。

「私だ。何かあったのか? ………何? …消滅!? 間違いないのか!? ………わかった。続報を頼む」

 冬月は通信を切った。顔色は良くなかった。

「どうした?」
「アメリカ第二支部が消滅したそうだ」
「消滅だと!? 赤木博士に詳細を調べさせろ」
「命令の必要はなさそうだな、南野」

 ちょうど司令室にリツコが入ってきた。いくつか書類を持っている。おそらく定期的に提出する書類と今回起きたアメリカ第二支部の消滅の件の報告書であろう。

「司令にも連絡が入りましたか」
「消滅したそうだな」
「その件も報告にあがりました。ただし、偵察衛星から送られてきたこの静止画像だけです」

 リツコはそういうと司令室にあるディスプレイにその写真を何枚か写した。爆発する前の支部の様子、消滅した瞬間の様子、消滅後巨大なクレーターができた様子。

「なるほどな、不明というわけか」

 渋い顔をする冬月。ゲンドウはいつものままだ。

「被害状況は?」
「エヴァ四号機ならびに半径49キロ以内の関連研究施設は全て消滅しました。タイムスケジュールから推測して、ドイツで修復したSS機関の搭載実験中の事故と思われます」
「こちらへの対抗意識で無理でもさせたのかね?」
「予想される原因が32,768通りあり、判断できませんでした」
「よくわからないモノを無理して使った結果か。こちらからは徹底的に調査するように通達を出したはずだ」
「それは間違いありません」
「そうか。どうする南野」
「消滅の原因は向こうに調べさせろ。こっちにはそんな余裕はない」
「しかし、すねるかもしれんぞ」
「…… ふん。参号機をこっちへ押し付けてくるだろう。なら、対価としてそのぐらいやってもらわなくてはな」
「確かにな。赤木博士、参号機受け入れは可能かね?」

 冬月はゲンドウの話を聞いて、リツコに確認をとる。それに対してリツコは頷きながら答える。

「可能です。まあ、予備ができたと思えば」
「パイロットがいないな。例のダミーを使うのか?」
「ダミーはまだ試用段階に達していません。難しいかと」
「フォースチルドレンを使う」
「何? 南野、報告は受けたのか?」
「………ふ」

 ゲンドウは不気味に笑っただけだった。

「し、司令?」

 このゲンドウの笑みに驚くリツコ。ゲンドウは基本的に笑うことがない。それ故にリツコは驚き、恐怖した。

(…………この人、何考えてるの?)




 リツコが退出してからしばらくして。
 何故かゲンドウと冬月は、向かい合って座っていた。二人の間には将棋盤が置いてある。将棋を始めたようだ。

「お前、何を考えている?」
「どうした?」
「さっきの笑顔怖かったぞ。赤木博士が怖がっていた」
「そうか」
「……… 老人たちのスケジュール通り進んでいるのは間違いはないな、南野」
「一応と言っておこう」
「また差異が?」
「フォースチルドレンのことだ。レイとセカンド…惣流といったか。あの二人の居るクラスから選ばれるだろう」
「そのために集められた子供たちだ。それが?」
「シュウイチとは無縁ということだ」
「……本来なら、シュウイチ君の心を攻めてスケジュール通りに進めようとしているわけだが、それが無理だと」
「我々が思っていた以上にシュウイチの心は強い。おそらく、ここからは誰もわからない道へ向かうだろう」

 ぱちりと駒を打つゲンドウ。

「それが先ほどの怖い笑みとの関係は?」
「人類補完計画。老人のも我々のももはや終わったと。第三の人類補完計画がシュウイチによって始まるのだ」
「それを楽しみにしているのか? 南野?」
「そうかもしれん。 シュウイチの行く道を見たい。今更ながらな。 ……王手だ、冬月」
「!? ま、まて」

 あわてる冬月。

「……… いいだろう」
「ふ、ふむ」

 将棋の打ち直しが始まった。

「シュウイチ君のことはわかった」
「…… まだ私についてくるのか?」
「ここで降りたら、ユイ君に怒られそうだからな」
「………ッッ」
「ところで、南野。四号機の事故、委員会にはどう説明する気だ?」
「事実の通り、原因不明さ」
「しかし、ここに来て大きな損失だな」
「四号機と第二支部はいい。SS機関もサンプルは失ってもドイツにデータが残っている。ここと初号機が残っていれば十分だ」
「しかし、委員会は血相を変えるだろう?」
「予定外の事故だからな」
「老人たちも慌てて行動表を修正しているだろう」
「死海文書にない事件も起きる。老人たちにはいい薬だ。いや、もはやそれ以外しか起きまい…!」

 ゲンドウはにやりと笑った。