第拾話 『空-Sahaquiel-』後編
「使徒による電波攪乱のため、目標を喪失しました」
「なんですって!?」

 シゲルの言葉に驚くミサト。使徒がこちらに向かっている現時点でロストは痛い。
 そこにリツコが助け舟を出した。

「ロスト直前まででわかっていることは、使徒自らの体の一部をA.T.フィールドで包み落としているという事。このことから、予想でしかないけど使徒丸ごとここに落ちてくる可能性があるわ」
「使徒の癖に試射か。生意気な」
「どうやってるかわからないけど学習機能はありそうね」
「で、ここに落ちてくるってことはもう落下地点予測はできているのよね?」
「もちろん。正確な位置の測定ができないけど、ロスト直前までのデータからMAGIの予測した落下位置が、これよ」

 モニターに地図が写り、落下予測地点は赤色になっている。

「こんなに範囲が広いの!?」

 ミサトとともに覗き込んだアスカが目を丸くする。

「これはまた…」

 アスカが驚いたので、覗いた蔵馬がつぶやく。それもそのはず、第三東京市全体が落下予想地点で真っ赤だった。

「……第三東京市ごとここを吹っ飛ばす気ね?」
「みたいね。で、どうする? 作戦本部長さん?」
「………………… 目標のA.T.フィールドをもってすれば、この何処に落ちても本部を根こそぎえぐる事が出来るわ。だから、エヴァ三機をこれら三カ所に配置します」

 少し考え込んだミサトが作戦を言う。

「受け止めんの!?」

 驚くアスカ。

「配置は…これでいいわね」

 ミサトが端末をいじると、エヴァ各機の配置が表示された。

「ミサト、聞くけど根拠は?」
「勘よ」
「勘って、貴女……」

 リツコが呆れた。

「女の勘よ」
「奇跡なんて信じないけど……ますます奇跡ってのが遠くなっていくイメージね」




「使徒、最大望遠で確認!」
「おいでなすったわね…… エヴァ全機、発進位置」

 エヴァ三機はすでに、ミサトの勘による位置に配置されている。ミサトの指示により、腰を沈め、発進準備をする。クラウチングスタートの体制だ。

「使徒接近、距離20,000!」
「頃合いね。作戦開始!」




 エヴァの外部電源がバージされた。あとは内部電源のみでの行動だ。

「いくぞ!」

 蔵馬の声に、無言でうなずくレイとアスカ。
 同時に発進するエヴァ三機。凄まじいスピードで駆け抜ける。



『使徒接近。12,000!』



 上空の雲が切り裂かれて、使徒全体が見え始める。

(大きいのはわかっていたが、思った以上に大きい。耐えられるのか?)

 蔵馬は目測で、使徒の真下へ到着した。そのとき、他の二機は少し遅れている。

(少しずれたのか。なら…)

 初号機は両手を上げた。

「A.T.フィールド、全開!!!!!」

 凄まじいA.T.フィールドが展開される。このA.T.フィールドは、作戦本部にいるミサトやリツコが驚くほどだ。

(リツコさんの話だと、俺の心で作られるものだそうだ。ならば…もっとはれる!)

 A.T.シールドがどんどん大きくなっていく。

(使徒とやら、見せてあげるよ…… 伝説の極悪盗賊である妖狐・蔵馬を……)

「はああああああっ!!!!」

 さらに数倍に展開されるA.T.フィールド。




「何これ…?」

 想像を超えたA.T.フィールドの展開を見て驚くリツコ。

「リツコ、A.T.フィールドってここまで展開できるものなの?」
「まさか、想像以上よ。でも興味深い…」

 黒い笑みを浮かべるリツコ。それを見てしまって、冷や汗を流すミサト。

(シュウイチ君、解剖されないように祈っとくわ……)




 零号機と弐号機が初号機の位置につく。

「弐号機、フィールド全開!」
「やってるわよ!!」

 さらに強固なA.T.フィールドで、支えることになる。

「綾波さん! 今だ!」

 零号機が肩から、プログレッシブナイフを取りだし、使徒のA.T.フィールドを切り裂いた。

「こんの目玉お化け!!」

 弐号機がプログレッシブナイフで、中央の目玉模様に突き刺した。すると、へなりと力を失って三機覆いかぶさったのだ。

「え?」

 使徒は大爆発を起こし、エヴァ三機を巻き込んだのだった。




 第三東京市で目玉お化けな使徒との戦闘終了後。ゲンドウと冬月は南極にいた。いや、かつて南極と呼ばれていた場所だ。
 今は赤く染まった海面。そして白い塩柱。その場所を進む艦隊の中に二人はいたのだ。

「いかなる生命の存在も許さぬ死の世界か」

 冬月は窓から外を眺めながらつぶやいた。

「いや…地獄というべきか」
「だが、我々は……我々人類はここに立っている……」

 横に立っていたゲンドウが言った。

「そうだな。生物として生きたままな」
「科学という名の力で守られているがな」
「科学か… だが、南野よ」
「なんだ」
「科学という力への傲慢さがセカンドインパクトを引き起こしたのだよ。その結果この有様だ」
「神に与えられた罰にしては大きすぎると?」
「かもしれん」
「そうか」
「ところで南野。お前最近様子がおかしいが?」

 様子がおかしいゲンドウに気がついていた冬月は、ここは二人っきりなので聞いてみることにした。

「目や耳は?」
「ないはずだが」
「そうか。老人たちが保持してる死海文書の記述についてな、誤差がある」
「何?」
「まずは、使徒再来が死海文書の予言より1年遅れている。老人たちはこの程度の誤差は…などと言ってるが気になる」
「私にも誤差のような気がするが」
「2015年8月・・・ この記述には問題はない。だが、シュウイチが15歳だ」
「2000年の早生まれだったな。それがおかしいのか?」
「エヴァのパイロットは予定では満14歳のパイロット… セカンドインパクトの影響で狂った世界で生まれる予定だった子供たち。これが最初の誤差だ」

 セカンドインパクトは、2000年9月に起きたのだ。

「!? シュウイチ君はセカンドインパクト以前だな。レイはともかくアスカ君は12月・・・以後か」
「正確にはシュウイチは1年早く生まれた」
「私がいうことではないが、なんというか同意の上だろう?」
「………… それにもう一つ。シュウイチの言動や行動だ。10年も放っておいたので俺が知らぬだけかもしれぬがおかしい。赤木博士から報告が来ている。シュウイチは一流の傭兵もしくはそれに準じた動きをしているそうだ」

 リツコの個人としての興味として始まった蔵馬への調査だったが、彼女自身もわからなくなってきた…いや、業務の方が修羅場と化したのでゲンドウに報告しておいたのだ。ただしすべてではなかった。

「一流の傭兵だと…! それは赤木博士の働き過ぎなのはないのか? 使徒が来るたびエヴァを壊しているようだしな」

 驚く冬月だが、そんなことありえないという顔をする。

「疲れか」
「休暇を与えるべきだな」
「一考しよう」
「……… それに南野、シュウイチ君とエヴァに乗るときに約束したこと果たしてないだろう?」
「情報開示か」
「話せば不安も解消されるかもしれないぞ」
「そうか?」

 冬月はこのとき、ユイが言っていた『不器用な人』を思い出す。苦笑する冬月。

「お前は昔っから不器用な人だったな」
「突然何を…」
「ユイ君が言っていたことをふと思い出してな」
「……先生」
「お。お前に先生と呼ばれるのは久しぶりだな。南野、いったんシュウイチ君と上司部下としてではなく父息子として話してみたらどうだ?」
「むう」
「自分の中にため込むな。ユイ君に怒られるぞ?」
「善処する」

 サングラスと髭で表情はわかり辛いが、明らかに狼狽えているゲンドウをみて苦笑する冬月。

「それよりも、冬月先生」

 外にはもう一隻空母が横に並びかけるのをゲンドウは見て言った。

「回収できたようだな」
「ああ。だが、コレを手に入れたことにより我々人類は、約束の時まで少しばかりの時間を手に入れたことになる…!」

 空母には棒状のものが袋に包まれしっかりと固定されていたのだった。




 使徒討伐から数日後、ミサトは自ら言い出したこととはいえ後悔していた。エヴァ回収後になんでもおごると言ってしまったのだ。
 そのため、逃走しようとしたミサトをアスカが捕獲、引きずってネルフより外へでて、おごってもらうため道を歩いている。

「約束は守ってもらうわよ」

 にやりと笑うアスカ。

「はいはい。大枚おろして来たからフランスやイタリア、ドイツのフルコースだって耐えられるわよ」

 ミサトの心の中では土砂降りの大涙だった。

(給料前だけどね…… ああ、えびちゅが~ 愛しのえびちゅが~)

 ミサトにとってはえびちゅが飲めないことが重大のようである。

「んでもって、ここでおごって貰うわよ!」
「へ!?」

 アスカが止まって指をさした場所を見てミサトは、素っ頓狂な声を上げる。屋台のラーメン屋であった。

「ミサトの財布の中身くらい、わかってる。無理しなくてもいいわよ。ファーストもシュウイチもラーメンならつき合うって言ってるし」
「……」

 呆然となった後、笑顔になるミサト。そして4人屋台に入って注文する。

「私、ニンニクラーメンチャーシュー抜き」
「アタシはフカヒレチャーシュー、大盛りね」
「味噌ラーメンで」

 四人並んでラーメンをすすったのだった。




「でも、なんでラーメンなの? アスカ?」
「ネルフのパーソナルデータには、個人の好物とか書いてあるわけないか。アタシ九州ラーメンが大好物なの」
「そ、そうなんだ……」