第玖話 『空-Sahaquiel-』前編
(ここでなにがあったんだ?)

 セカンドインパクトで廃墟になった場所にポツリとある町工場跡。そこにスーツ姿の男が現れた。加持だ。
 周りを警戒しながら、壊れかけた半開きのドアを開けて入ると何もなかった。あるのは錆びついたデスクと線の切れた黒い電話のみである。

(……やっぱり)

 ふと加持は自分以外の気配を感じた。一瞬で警戒態勢に入る。懐にある銃に手が伸びた。

「私だ。流石だな、加持」
「驚かせないでくれないか?」
「そんなつもりはないんだがな」

 現れた謎の男と壁を挟んで会話をする。加持からは一切見えないが誰が来たかはわかっていた。

「マルドゥック機関とつながる108の会社の内、106がダミーだ」
「ここが107個目というわけか」
「そして、この会社の登記簿に書かれている取締役の欄……」
「南野、冬月、キール……か?」
「さすがだな、加持」
「知ってる名前ばかりなんでね。マルドゥック機関。エヴァンゲリオン操縦者選出のために儲けられた人類補完委員会直属の諮問機関。だが、活動は非公開でその実態も不透明」
「貴様の仕事はネルフの内偵だ。マルドゥックに顔を出すのはまずいぞ」
「ま、何事も自分の眼で確かめないと気が済まないたちなんで」
「そうか。でも気をつけるんだぞ。奴ら何を考えているかわからないからな」

 加持はおもむろに懐から煙草を取りだし火をつけた。

「緊張感のない奴だな」
「そうか?」
「まあいい」

 壁越しの男はそう言い残し気配が消えた。

「やるねぇ。俺も行きますか」

 周りを警戒しながら、加持もその場を後にした。
 しかし、足元に奇怪な生き物が走って行ったのは気がつかなった。




 蔵馬に割り当てられたマンションの一室。監視カメラや盗聴機などが仕込まれていたが、すでに無効にしてある。マボロシ科の魔界植物を利用して偽りの映像・音を流しているのである。
 しばらく使徒がやってこないので、高校からここへそのまま帰宅。そして、放っていた使い魔を交代で回収して情報精査を行っていた。

(俺たちを選んだという機関はダミーか。)

 加持に憑けていた使い魔の報告。

(あの男や冬月さんが頭が良いとはいえ、ここまで動けるものではない。裏に巨大な組織がいるのか。)

 他の人物に憑けていた使い魔からの情報は、有力なものはなかった。綾波レイを除いて。
 彼女の情報は全くないのだ。学校行った、ネルフに行った、家に帰った、などといった情報のみだ。あまりにも薄すぎる。

(俺や惣流より先に決まったチルドレン。しかもあの男にかなりの信頼…いや、世界の中心にいるという感じだ。何かない方がおかしすぎる。要調査だな。)

 蔵馬が最後に気になったのは、クー・シーからの情報。

(七つ目の巨人の上半身か…… こっちの方が先の方がいいな。)

 さっそく行動に移った。




 ネルフにやってきた蔵馬。ここの関係者なので入場は可能だ。ただ、見て回れる箇所はかなり少ない。

(俺の権限で回れないことろといえば…ターミナルドグマ…行ってみるか。)

 ターミナルドグマへの道を進む。監視カメラなどはマンションと同じく偽りの映像を見せている。
 かどを曲がろうとしたら、向こうからミサトがやってきた。蔵馬は素早く身を隠す。
 ミサトはそのまま、蔵馬に気付かず行ってしまう。かどから顔を出す蔵馬。

(ミサトさんの様子が変だな。しかも歩いて行った方はターミナルドグマの方だ。何かあったのか? つけて行ってみるか…)




 ターミナルドグマへの扉の前。一人の男が扉に手をかけようとしたとき、男の頭に銃が付きつけられた。男は思わず手を挙げた。

「君か」
「これがあなたのホントの仕事? それともアルバイトかしら?」 「これが貴方の本当の仕事かしら? それともアルバイト? 加持?」
「どっちかな」
「特務機関ネルフ特殊監察部所属加持リョウジ。同時に日本政府内務省調査部所属加持リョウジでもあるわけね」
「バレバレか」
「ネルフを甘く見ないで」
「南野司令の命令か?」
「私の独断よ。これ以上アルバイト続けると危険だわ」
「どうかな? 南野司令は知りつつ利用しているよ。でも君に言わなかったことは謝るよ」
「謝られても嬉しくないわ」
「そうかい。じゃあ、良いこと教えよう。これが、南野司令たちが隠していることの一部だ…」

 加持は銃を突き付けられながらも、懐から一枚のカードを取りだし、扉に通した。
 すると扉は開き、二人は中に入った。

「こ…これは…!」

 ミサトの目には、巨大な十字架に張り付けられた七つ目の仮面をつけた巨人の上半身が入った。

「エヴァ…? 違うわ、まさか、これは…!」
「人類補完計画の要………そしてすべての始まりでもある……」
「!」



「……アダム……」



 加持は静かにそう言った。

「アダム…! 一番最初に発見された使徒がこんなところに…! なるほど、ここは私が思うほど甘くないってことね」




 開け放たれた扉。その外では蔵馬が立っていた。二人に気付かれず。

(これが、ここの秘密の一つか。あの男はこれを使って何を企んでいる…?)




 今日はシンクロテストの日だったので高校から、直接ネルフに向かう蔵馬。入口につくとレイとアスカがいた。

「どうした?」

 蔵馬は惣流に声をかけた。

「カードが反応しないのよ」
「期限切れ?」
「いくらここがセキュリティのためとはいえこんなに早いわけないでしょ」
「確かに。俺がやってみよう」

 蔵馬はアスカの代わりに自分のカードを通すが反応しない。

「俺のもダメか。綾波さん、キミのカード貸してくれないかな?」

 レイにそう聞くと無言でカードを差し出す。

「ありがとう」

 蔵馬は受け取るとさほど同様カードを通した。反応しない。

「同じか…」
「なにやってんのよ!! こうなったら反応するまで…!!」

 ムキになって何度もカードを往復させるアスカ。

「う~~~~~~」

 これでもかっていうぐらい往復させているが何も起きなかった。

「もう!!!! 壊れてんじゃないの!!!!! これぇ!!!!!!!」

 飛鳥は完全にぶちギレた。回し蹴りを叩き込んだのだった。

「…………壊れるぞ惣流」




 ネルフ指令室。久しぶりに人がいた。

「やはり、ブレーカーは落ちたと言うより、落とされたと考えるべきだな」
「原因はどうあれ、こんな時に使徒が現れたら大変だぞ」
「ああ」

 ろうそくに火を灯しながら冬月が言う。そのろうそくのあかりでゲンドウの顔が浮かび上がったのだった。




 なんとかネルフ内に入った三人。明かりが全部消えている。
 レイがカチカチと何かのスイッチを押したが、反応はない。
 アスカも何かいじったが、こっちも反応はない。

「駄目ね。これも動かないわ!」
「どの施設も動かない。おかしいわ」
「下で何かあったってこと?」
「そう考えるのが自然ね」

 蔵馬は黙って携帯電話を取り出し、ネルフに電話をかける。

「だめだ。連絡がつけられない」

 ネルフの携帯電話は如何なる場所においても繋がると言う高性能な携帯電話である。その携帯電話でさえ繋がらなかった。

「こっちもだめ。有線の非常回線も切れちゃってる」

 レイが壁にあった電話を取りそう言った。

「とにかくネルフ本部に行こう」
「そうね。じゃあ、行動開始の前にグループのリーダーを決めましょ」
「リーダー?」
「そ、リーダー。リーダーはファースト。意義ないわね」
「私?」
「そうよ。あんたはここ一番長いんでしょ。だから、リーダーよ」
「わかったわ」

(なんだかんだで仲良いのか? この二人。)

 非常用の出入り口を見つけ、レイを先頭にアスカ、蔵馬と続いていく。
 非常用ドアは手動だった。しかし、さびついているのかアスカでは開けられない。

「ほらシュウイチ。早く開けなさいよ」
「仕方がないな。二人ともちょっと離れてて」
「はいはい」
「……」

 蔵馬から離れる二人。

「ふっ!!」

 回し蹴りを放つ蔵馬。非常用ドアは見事に吹っ飛んでしまった。
 それを見て、目を丸くして唖然としている飛鳥。無表情のレイでもちょっと驚きの表情を浮かべていた。

(派手にやりすぎたか……)




 扉に入ったとき、遠くの方で車の音とともにスピーカを通した声がした。

『現在、使徒接近中! 直ちにエヴァ発進の必要あり!!』

 ネルフ関係者が選挙カー?を使ってこちらに伝えているようだ。

「こんな時に使徒だと?」
「急ぎましょう」




 非常用電源でかろうじて稼働したネルフ作戦本部。ギリギリの中、目の前の大型モニターには使徒が映っていた。
 古代の壁画のような異様な佇まいの使徒。目玉模様が三つついている。相変わらず生物に見えない外見である。

「こんな時にこんな使徒が……」
「成層圏にいるようですね」

 使徒の位置を確認していた、シゲルが言った。

「しかもそんな高いところで。今回の出来事は奴の仕業かしら?」
「断定できません。何せ、これでは情報収集もままならず……」
「国連側も攻撃はしたようですが、効いていません」
「使徒なら通常攻撃効かないのわかってて……今回はこっちに連絡取れなかったのね」
「そうだと思われます」
「エヴァの準備は手動で進めてるけど…… 三人とも来れるかどうか……」


「ミサトさん、なんとか来れましたよ」


 そこへ声がかかる。蔵馬だ。

「シュウイチ君!? レイにアスカも」
「ファーストのおかげでなんとか来れたわ。で、ミサト使徒は?」
「成層圏で浮いているそうよ」

 ミサトはそう言いつつ映像をアスカに見せた。

「…………… キモイ」
「そういう問題じゃないでしょ」