第漆話 『音楽-Israfel-』前編
「あ~あ。日本の学校ってツマンナイの!」

 放課後。訓練の名目でやってきたアスカが開口一番に言った。

「それにあの先生馬鹿じゃないのかしら? 政府の流したウソの情報を長々と喋ってさ」
「………」

 たまたまアスカに出会ってしまった蔵馬は、彼女の愚痴を聞かされる羽目になった。

「ちょっと、シュウイチ! 何か言ったらどうなの!?」
「……… なぜ俺に言う。文句があるなら、学校行けと言ったネルフ上層部に言ってくれ」
「なんですって!?」

 アスカは妙に蔵馬に好戦的であった。素人でありながら3体も倒していればそうであろう。幼い時から訓練してきた自分より、ぽっと出の素人が気に入らないのである。

「悪いけどそこ… 通してくれる?」

 遅れてきたレイが後ろから声をかけた。アスカは不機嫌な顔で道を譲る。

「コイツは何もしてないくせに偉そうに…」
「やめろ」
「まあ、いいわ。残りの使徒はアタシが倒してくれるわ!」
「そう」
「!? 何を…!」
「惣流やめろ」
「このオンナ…!!」
「私たちは使徒を倒すのが役目。そうでしょう?」
「そうよ!」
「ならそれでいいじゃない」
「ぬ。ぐぬぬ…」

 レイに正論っぽいことを言われてうなるアスカであった。




 ネルフの元に使徒が現れたと言う情報が入った。零号機はまだ使えないため、使徒撃退には初号機と弐号機に任される事になる。

「あ~あ。せっかく日本でのデビュー戦だって言うのに、なんでアタシ一人にやらせてくれないのかしら? しかもこんなヤツと一緒だし」

 弐号機の中でアスカが愚痴を言う。

「男の癖にロンゲよロンゲ」
『惣流聞こえてるぞ。長髪なら加持さんもだが』
「加持さんはカッコいいから良いのよ! アンタとは別よ別」
『そうですか』
「そうそう」

 そこへ割り込み通信が入った。ミサトだ。

『何をこんな時に言い争いをしてるの!?』
「してないわよ!」
『まったく。二人ともいい? 先の戦闘で追撃システムが受けたダメージが回復してないので、実戦での稼働率はゼロ。よって今回の迎撃は上陸直前の目標を水際で一気に叩く! 初号機と弐号機は目標に対し波状攻撃。接近戦で行くわよ』
「りょーかい」
『了解』
「でも、二人がかりなんて卑怯でやだな。趣味じゃない」
『来たわよ!』

 海面から水柱が次々と上がる。海中を泳いできた使徒の姿が浮かび上がる。今回は人型の使徒であった。

「よし! アタシの腕前、見せて上げるわ! シュウイチ! よっく見てなさいよ!!」

 ナギナタのような武器を持って使徒に突撃する弐号機。




(ま、やらせてみるさ。しかし……今までの使徒とは何か違う。姿形じゃない。気配が複数感じるが……)

 使徒の気配を探っていた蔵馬であった。複数の気配を感じたが、現れたのは一体。どこかに隠れているのではないかと判断する。




 弐号機は使徒を一刀両断にした。

「どう? シュウイチ? 戦いは常に無駄なく美しくよ!」

 おーっほっほっほっ と言うような笑い声が聞こえそうである。

『お見事! と言いたいんだが……まだ動いてる』
「え!?」

 真ん中で真っ二つに切り裂かれた使徒が再び動きだすのが蔵馬に見えた。そして、断面がモリモリ膨らむと、ぶりんっと妙な音を立てて再生した。

「い!?」

 アスカは倒したはずの使徒が再生したのを見て驚く。しかも分裂して二体になったのだ。



(気配が複数なのはこれのせいか。切り裂かれると分裂するのかもしれない)

 蔵馬の判断は間違っていたが、素早く修正する。



 分裂した使徒の一体は弐号機へ突進。弐号機はこれに対応し、再び切り裂くがすぐに再生した。何度も攻撃を加え切り裂くが無駄であった。一瞬で再生してしまう。

「何コイツ…!」
『惣流。コイツは切り裂かれると再生する。そしてさっきのように完全に切り裂かれると分裂して別個体になるようだ』
「なんてインチキ」
『弱点を探さないとどんどん増えるぞ。惣流が幾ら強くても100体の使徒にはかなわんだろう?』
「無理に決まってるでしょう!?」

 アスカが蔵馬と会話中に使徒の一体に足を掴まれた。アスカが切りあっていた使徒とは別の個体だ。片方に気を取られていたため、接近に気が付かなかったのだ。
 そして、使徒はそのまま弐号機を持ち上げると初号機の方へ放り投げた。

「うわーーーっ!!」

 弐号機をみごとキャッチする初号機。

『大丈夫か?』
「大丈夫よ! 降ろしなさい!」
『はいはい』

 初号機は弐号機をやさしく下す。目の前には二体仲良く並んでこっちを見ている使徒。冷笑しているようにアスカには見えた。

「こんな敵、どうすれば良いのよぉ~!!!!」




『本日、使徒甲・乙の攻撃により、エヴァ初号機及び弐号機共に活動を停止』
『同日、作戦指揮権をネルフは断念。国連極東方面軍に移行』

 ネルフ首脳陣と蔵馬たちは黙って惨めな報告を聞いていた。

「無様だな」
「申し訳ありません、副司令……」

 しょぼんとしたミサトが答えた。ここにはゲンドウに冬月、リツコ、もちろん蔵馬たち三人もいた。目の前の大型ディスプレイには、頭から地面に突っ込んだ二体のエヴァが映っている。何とかしようとしたアスカ。フォローしようとした蔵馬。結果、二人とも吹き飛ばされこの現状だ。

(………補完しあっているな、あいつら。二人で一人か。)

 対処法を考えてる蔵馬であるが、あったとしても実行はできそうもない。アスカが相変わらず反発するのである。

『同日、新型NN爆雷投下。目標攻撃』

 大型ディスプレイ画面では、ステルス爆撃機が上空より使徒に攻撃を加える。そして、巨大なキノコ雲が上がった。しかし、使徒には大したダメージを与えられてない様子。焦げただけだ。

『これにより、敵、構成物質の25%の焼却に成功』

(焦げただけとは…)

「死んでいるんですか? これ?」

 アスカは恐る恐る聞く。

「いや、死んではおらんよ。足止めにすぎん。再度進行は時間の問題だな」
「は… はぁ……」

 そこへ今まで沈黙を保っていたゲンドウが重い口が開く。

「パイロット両名」
「は、はい」
「……」
「君達の仕事は何かわかるかね?」
「エヴァの操縦です」

 冷や汗を垂らしながら答えるアスカ。さすがの彼女もゲンドウには逆らえなかったようだ。

「違う。使徒に…」
「使徒を倒すこと。違う? 父さん」

 ゲンドウの声に蔵馬の声が被さる。二人が目線を合わせた。

「シュウイチの言う通りだ。こんな醜態をさらす為に我々は存在しているのではない」

 ゲンドウはそう言うと、立ち上がり、冬月を伴って部屋から出て行った。




 惨めな報告会議が終わり、部屋から出てきた蔵馬の足を思いっきり踏んづけるアスカ。

「…痛い」
「全てはアンタの所為よ!! 何でアタシまで司令にあんな事言われなきゃいけないのよ!!!」
「俺の?」
「そーよ!!! グズで鈍感なアンタがアタシの足を引っ張るからでしょうが!!!!」
「……」
「今度は沈黙? はは~ん。本当の事言われて何も言えないのね?」

 蔵馬はこれ以上相手にしても無意味だと悟り、何も言わないだけである。だが、アスカの機嫌を悪くするだけであった。

(………父さんたちの前とは態度が違うな、この子。)