第参話 『昼-Shamsiel-』
 エヴァの暴走もあり、精密検査を行うため、蔵馬はネルフ直属の病院に来ていた。
 検査結果が出るまで、廊下のソファで待つことになる。

(とりあえず、父さんから話を聞こう。判断はそれからだ。)

 しばらくして、名前を呼ばれて結果を聞く。問題はなかった。
 ありがとうございます、と診察室を退室した蔵馬はそのままエレベーターへ向かう。
 そこにはゲンドウが立っていた。

「父さん」
「ついて来い」

 そう言うとエレベータに乗る。その後へ蔵馬も乗る。

「戦闘前に言った話をしたいんですが」
「今から司令室へ向かう。ここでは無理だ」
「わかった」




 司令室につくとそこにはすでに冬月がいた。

「シュウイチ君、大丈夫かね?」
「検査結果は問題ないようです」
「それはよかった」

 ゲンドウが席につき、蔵馬は指令席の前に立った。

「話してくれますか?」
「アレは使徒と呼ばれる人類の敵だ。詳細はわかってない」
「敵と判断した理由はなんですか?」
「攻めてきた以上、対抗せざるを得ない」
「目的も不明ですか」
「ああ」

 蔵馬はため息をついた。呆れたからだ。

「まあ、今はいいでしょう。何かわかったら話してくれますか?」
「……… 良いだろう」

(隠し事満載ですか)

 ゲンドウが詳細は知っているようだが話そうとしない。薄々と感づいていたが顔に出さない蔵馬。

「帰るのか? 帰るのではあれば多少監視を付けざる得ないが」

(非公開組織だから、仕方がない。いざとなればいくらでも誤魔化せる。しかしながら、俺自身も興味がわいたのは確かだ。条件付きで乗ろう。)

「……… 条件付きでよければ乗りますよ」
「その条件とは?」
「まずは住居。監視付で構わないのでマンションあたりをお願いします」
「問題ない。すぐ用意する」
「そして使徒。何かわかったら話してください」
「機密以外は伝えよう」
「機密が多すぎるような気がしますけど」
「………」
「後は、俺が何をしようとも不干渉でお願いします」
「不干渉だと」
「さすがに一日中干渉されるのは嫌ですからね」
「わかった、問題ない。冬月」
「すぐに準備するとしよう。それでいいな、南野」

 蔵馬には冬月に丸投げしたように見えた。

「父さん、丸投げはよくないですよ」
「………」




 半日もたたず、住居であるマンションの一室のカギが渡される。
 場所は、ミサトの住むマンションと同じ階であり、隣同士ではない。

(親睦を深めるという意味もあるし、監視という意味もある。離れているのは俺が年頃の男だという事か。興味もないが。)




 第三東京市立第三東京高校への転入が決まる。ここは、もちろんネルフ支配下にある学校だ。
 美形の転入生徒とあって、女生徒は黄色い声を上げ、男子生徒は嫉妬の声をぼそっと上げた。

(高校生活が楽しめると思えないが、まあいいか。)

 しかしながら、蔵馬はそう思うだけだった。




 使徒が来ない間は、一学生として高校へ通う蔵馬。そして、授業が終わるとその足へネルフへ向かう。
 名目上は戦闘訓練だろう。ゲンドウからすれば息子の調査であり、蔵馬からすればネルフの調査である。
 どちらも詳しいことがわからないまま。

(……… 俺とユイの子であることは間違いない。しかし…)
(組織が組織だけあって、監視カメラが多いな。しかも俺を探っている気配もある。父さんか、ここが気に入らない連中だな。)

 その日の訓練でエントリープラグ内にいた。シュミレーション用だが、本物と変わりがない。

『おはよう。シュウイチ君。調子はどう?』

 リツコより通信が入る。

「悪くはないです」
『それは結構。エヴァの出現位置、非常用電源、兵装ビルの配置、回収スポット。全部頭に入ってるわね?』
「はい」
『では、おさらいするわね。前にも言ったけど、通常、エヴァは有線からの電力供給で稼働しています。でも非常時に体内電池に切り替えると、蓄積容量の関係でフルで1分。ゲインを利用してもせいぜい5分しか稼働できないの』

(……ウルトラマンですか、このエヴァという兵器は。)

『では、インダクションモードの練習、始めるわよ』

 通信が切れるとビル群からこの前初号機が殲滅した使徒が姿を現す。蔵馬は無言のまま、パレットガンから銃弾が照射される。
 そして、見事に命中。倒れる使徒。

『その調子よ。次。』

(こんな武器が通じるとはとてもじゃないが思えないな…)

 ほぼ100%の命中率を見せる蔵馬。
 ガラス越しからリツコ、オペレータの一人伊吹マヤ、その後方でミサトがその様子を見ている。

「しかし… よくまた乗ってくれる気になってくれましたね。彼」

 マヤがリツコに言う。

「あの子は強いわ。あの程度でくじけたりしないみたいね」

(でも、何かがおかしい。射撃の腕はゲーセンでと言っていたけど、調査ではそんなのなかったし…)

 ミサトは無言で初号機を見ているだけだった。




 前回使徒が現れて数日後、通常通り蔵馬は高校で授業を受けている。
 教師が何時ものように脱線が始まった時間、蔵馬の携帯が鳴った。ネルフより持たされた携帯である。
 教師に一声かけると廊下へ出る。教師も蔵馬がネルフ関係者と知っているので「わかった」しかわなかった。
 電話を見ると『綾波レイ』と表示されている。彼女との接点は少ない。ゆえに電話も今回が初めてであった。

「もしもし」

 電話に出る蔵馬。

『私』

 簡潔すぎる返答。

「何かあったんですか?」
『非常召集。先、行くから』

 そう言うと電話が切れた。と、同時にサイレンが鳴り響いた。




 ネルフ作戦本部──

「総員第一種戦闘配置!」

 冬月の命令が飛ぶ。ゲンドウは不在。

『了解。総員第一種戦闘配置。地対空迎撃戦用意』

「碇司令の留守の間に使徒の襲来か。意外に早かったわね」
「前回は15年のブランク。今回はたったの三週間ですからね」

 オペレーターの一人、日向マコトが答える。

「こっちの都合はお構いなしか。女性に嫌われるタイプだわ」

 主モニターには使徒を攻撃する様子が映し出されている。しかし、ミサイルも銃弾も第三使徒同様まるで効果が見受けられない。

「税金の無駄遣いだな」

 冬月が半ば呆れた表情で言う。

「葛城一尉!! 委員会からエヴァンゲリオン出動の要請が来ています!!」

 青葉シゲルが叫ぶ。

「うるさい奴らね。言われなくても出撃させるわよ」




 レイが到着し、蔵馬が続いて到着する。

「シュウイチ君、悪いわね」
「作戦ありますか」
「う~ん。ライフルで牽制して様子見るしかなわいね」
「前回から何もわからなかったんですか?」
「映像を見てもらえばわかるわ」

 モニタに外の様子が映し出される。そこにはイカの胴体のようなモノが暴れていた。

「なんですか、あれ」
「使徒よ」
「前回とまったく姿が違いますか… これは厄介ですね」
「ゴメンネ」
「時間稼ぎますから、対処法お願いします」
「わかったわ」

 蔵馬はエヴァに乗り、使徒より離れた場所に射出された。




 ビルを背に相手の動きをうかがう。

(あのビームの件もある。距離を取りつつ牽制ぐらいしか出来ないかな。)

 ネルフではなく蔵馬自身で判断した距離を保つ。しかし、うまく隠れているつもりであったが、突如使徒にエヴァの居場所がばれた。
 エヴァの方へ移動してくる使徒。それをパレットガンで迎え撃つ。
 着弾と建物の崩壊で、煙があたりを包んだ。目の前が見えなくなる。

(しまった!)
 煙から鞭のような腕(?)が飛び出し、 エヴァが持っていたパレットガンを真っ二つにする使徒。

(これがヤツの武器か。)

『予備を出すわ! 受け取って!』

 即座にミサトはエヴァのいる近くのビルからパレットガンを射出。それを受け取ろうとした初号機だが、使徒によって阻まれてしまう。
 その一瞬がスキとなり、電源コードを切断される。

『初号機! 活動限界まであと4分53秒!』

(なんという反応速度の速さだ。エヴァに不慣れの俺だと追いつけない。)

 さらに使徒の腕が初号機の足を捕らえる。そのまま持ち上げると投げ飛ばされた。




 町はずれの神社。エヴァはそこへ落ちた。

(見かけ以上にパワーはある。…ん?)

 システムがエヴァの足元に何かあることを示していた。蔵馬は足元を見るとそこには……
 中学生と思われる人が三人いたのだった。

(逃げ遅れか…!)

 足元に気を取られ使徒の接近を許した。使徒の鞭がうなる。
 思わず両の手で受け止めた。しかし、エヴァの手が高熱を発した鞭で溶け始める。
 蔵馬の腕にも熱さと痛みが走る。

(しまった! このままでは俺はともかく足元の人たちが危ない!)




「!? 避難してなかったのね!」
「避難遅れというより、好奇心で見に来たというところかしら?」
「リツコ、なんでそんなに冷静なのよ…」
「ミサト、それよりどうするの?」
「使徒はエヴァが、シュウイチ君が抑えてる。でも長くそう持たない。戦闘行為もできない。巻き込まれて最悪死んでしまう」

 ミサトは悩む。しかし、判断を下さなければならない。そのとき……


『そこの逃げ遅れか見学か知らないが、こちらに来い』


 エヴァの外部スピーカから声がした。

「シュウイチ君!? 何をする気!?」
『命令違反の懲罰なら十分に後で受けますので、今はこれしかないと思います』

 そういうと、エントリープラグを少し射出。そしてハッチを開けた。

「乗せる気!?」

 この動きに反応したのはリツコだった。

「危険よ。そのエントリープラグは、パイロット特化型と言って間違いないわ。異物が入れば何が起きるかわからないわ」
『命令違反の懲罰なら十分に後で受けます』

 もう一度そういうと強制的に通信をきった。
 時間がない。投げ飛ばされたときに背中の電源コードが外れていたらしい。活動限界までのカウントダウンが表示されている。
 エヴァは使徒に押され膝をついていた。いや、中学生三人を登らせるための処置か。どちらにしても蔵馬の限界は近い。

(やはりエヴァは背が高い。登るのは無理か。)

 シュウイチは両手で掴んでいた使徒の手を片手に持ち帰る。そして、手を三人の前に差し出した。

『乗れ』

 そういうと、三人は手に乗った。そして背中のエントリープラグへ持っていくとそのままハッチの中へ放り込んだ。




 放り込まれた三人。

「うわあああ、み、み、水ぅ。カメラ、カメラ」
「げぼがぼぐぼがぼ………」
「きゃあきゃあ、スカートぅ」

 ちらりと見るシュウイチ。眼鏡をかけたカメラを気にする少年。ジャージを着た少年。そして二つに髪を縛ったスカートの広がりを気にする少女。

(少年が見学のために避難所を脱走、気が付いた少女が連れ帰るために避難所を出たというところか。)

 問題なさそうなので、ハッチを閉じてエントリープラグを戻す。同時に、エントリープラグ内でエラーが表示された。

『ちょ。ちょっと待ちなさい! 許可のない民間人を乗せられると思ってるの!? シュウイチ君!?』

 強制的に通信が入る。ミサトだ。

「もう入れましたが」

 さらりと言う蔵馬

『く。仕方ない…… 退却して! ゲートは34番! 山の東側よ!』
「了解」

 使徒の腕を引き寄せると腹?に蹴りを入れる。腕が切れ吹き飛んで行った。

(今のうちに…)

 しかし、時間が残っていなかった。カウントダウンを表示していたモニターの色が変わったのだ。1分を切った。

(間に合わない!? ならば…)

『シュウイチ君!?』
「時間切れが近いようです。何とかします」
『なんとかって……』

 また強制切断。

(作戦とか俺に丸投げ状態なんだから黙ってろ)

 そう思う蔵馬であった。




 使徒の腕が再生して、こちらに攻撃を仕掛けてくる。その攻撃をあえて腹で受けた。使徒の腕は貫通し、背中から飛び出す。

「ぐ……」

 さすがに苦しい。フィードバックされる痛みや熱さ。耐えられるものではないが、蔵馬は耐えた。
 その様子を後ろで見ているしかできない三人。

「私たちのために…」

 少女がぽつりとこぼした。

「とりあえず動かないでください。終われば俺の一応上官にあたる人に怒られるかもしれませんが、自業自得です。覚悟していてください」
「はい…」
「すんまへん…」




 肩からナイフと取り出す。使徒の球体の部分に突き刺した。使徒は苦しむが、こちらへの攻撃はやめない。ここは根性勝負だ。
 カウントダウンがついに10秒切った。

(間に合うか!?)

 腕に力をこめる。深くナイフが突き進む。


 そして……

 エヴァ、活動停止。
 使徒、活動停止。

 ダブルノックアウトであった。




「ふう」

 蔵馬は一息ついた。

「だ、大丈夫ですか…?」

 少女が恐る恐る声をかけた。

「なんとか…」
「ありがとうございました」
「いや…」




 お互い腹を貫通し合った恰好のまま回収された。
 格納庫につくと三人は、そのまま黒服の大人たちに付き添われて出て行った。

「シュウイチ君大丈夫?」
「なんとか大丈夫です」
「リツコに検査受けてきて。あの状態で体にどんな影響あるかわからないから。その後ね、懲罰は」
「わかりました」


(学業優秀、スポーツ万能。人当たりも悪くない。一高校生としては飛び抜けているけど、本当に高校生なの? 一流の傭兵を相手してるような気がするわ。)