第貮話 『水-Sachiel-』後編
 しばらくして、廊下から包帯で巻かれた少女が運ばれてくる。ミサトが何か言うと苦痛の表情で起き上がろうとするが、痛みか、すぐ倒れこんでしまう。

(……… 正規のパイロット?が、この状態で乗せようとするのか。)

 それを観察している蔵馬。少女は何度も起き上がろうとするが、すぐ倒れてしまう。包帯からは血が滲み始めていた。

(……… 怪我の治療は適当、いや出鱈目だな。)
(……… 父さん、いやあの男は何を考えている。俺を乗せるための作戦か?)
(……… さっさと帰りたいところなんだけど見捨てることはできないな、よし。)

「彼女をのせるのですか? ミサトさん?」

 少し冷たい声をミサトにかけた。

「そうよ」
「では、俺が乗れば彼女をちゃんと治療してくれるのですか?」
「え?」
「傷口が開いているようですよ。出血が酷い」

 ちらりと少女を見る蔵馬。

「…! わかったわ」
「了解。……父さん」

 少女から、ゲンドウの方へ目を移す。

「なんだ?」
「後で理由を聞くことにしよう」
「………」
「……… えっと、それではどうすればいいんでしょうか?」

 蔵馬は、声のトーンを少し上げミサトに聞いた。答えたのはリツコだ。

「私が教えるわ。ついてきて頂戴」
「わかりました」




「停止信号プラグ。排出終了」
「了解。エントリープラグ挿入」
「第一次接続開始」
「エントリープラグ、注水」

 エントリープラグ内を黄色い液体が満たされていく。
 蔵馬は着の身着のままの制服姿だ。黄色い液体で濡れていくのは多少気持ち悪い。

「何ですか? この怪しい水のようなモノは」

 ゆっくりと黄色い液体が上がってくる。感触はあまりよろしくない。

「L.C.Lと呼ばれるモノよ。大丈夫。肺がLCLで満たされれば直接血液に酸素を取り込んでくれるわ。すぐに慣れるから」
「慣れたくないですね」
「…… そう」

(結構毒舌家なのね。きれ~な美少女顔しているのにね~。女装すればモテモテなんじゃないのかな~。)

 場違いの事を思うミサトだったが、すぐ気持ちを入れ替えた。

(その辺の事は生き残ってからにしましょうか。)




 L.C.Lに満たされながら、蔵馬は違和感を感じた。

(妖気でも霊気でもない… 何かいる…)

「A10神経接続開始」

(神経接続? 思った通りに動かすことができるのか?)

「思考形態は日本語を基礎原則としてフィックス」
「初期コンタクト問題なし」
「シンクロ率……… え?」

 オペレーターの一人が目を疑う。

「どうしたの?」
「あ、すいません。シンクロ率、78.27%」
「なんですって!?」

 その報告を聞いて、リツコが驚愕する。初めて乗った人間が出せる数値ではなかったのだ。

「計測器は?」
「全て正常です」

 オペレーターが機器のチェックを行うが、異常はなかった。何度も確認するも異常はなかった。

「………すごいわね」

 驚きの声を上げるミサト。

「ハーモニクス、全て正常位置。暴走、ありません」
「いけるわ、発進準備!!」

 ミサトの号令が響く。
 そして発進準備が一通り終わると、ミサトはゲンドウの方を向いて聞く。

「かまいませんね」
「もちろんだ。使徒を倒さぬ限り我々に未来はない」

 それを聞いて無言でうなずくミサト。

「発進!!」

 すさまじいスピードで打ち上げられる初号機。そして地上に射出される。
 しかし、場所をわかっていたかのように、使徒が現れた。

(そういえば、作戦聞いていなかったな……)




 エントリープラグ内の蔵馬。

「敵の前に出されても困るのですが」
『う』
「確か作戦もないですよね?」
『う』
「次回があるかどうか知りませんが、その時はちゃんとしてください」
『……はい』
『何やってるのかしら? ミサト?』

 通信にリツコが割り込んでくる。

「リツコさん? とりあえずどうすればいいのでしょう?」
『シュウイチ君。まずは歩くことだけを考えて』
「了解」

 蔵馬は歩く事を考えるとエヴァは使徒向かって歩き始める。

(なるほど)

 目の前に待ち構えた使徒がビームをエヴァに向かって発射。間一髪かわすと、後ろのある射出口のある建物が蒸発した。

(危ない危ない。しかしアレはなんだ? 妖怪の類ではないようだが。)

 ビーム発射後、ジャンプしていたであろう使徒が空から降ってくる。そして、頭を鷲掴みにされた。
 そのまま、地面に叩き付けられる。

「ぐっ!?」

(叩き付けられたのはこのエヴァとかいうロボットの頭だ。なのに何故俺までダメージが来る!?)
(……そうか、ダメージもフィードバックされるというのか。)

 使徒の胸部を攻撃し、なんとか拘束から逃れる。
 今の一撃でエヴァ頭部が損傷したらしい。赤い液体が流れ出ていた。




『生命維持に問題発生! パイロットが危険です!』

 ミサトはこれ以上の戦闘はムリと判断した。

『作戦中止! パイロット保護を最優先! プラグを強制射出して!』


「待ってください」


 しかし、オペレータたちの了解の言葉より先に蔵馬の声が発令所に響いた。

『シュウイチ君!?』
「これの操縦のコツがだいぶ判ってきました。大丈夫です」

 助走して使徒へ殴りかかる。しかし、壁のようなモノで弾き返される。
 弾き返された瞬間、八角形の波紋のようなものが流れた。

(なんだ今のは?)

 くるりと一回転して、着地した。

『A.T.フィールドと呼ばれるものよ。詳細は残念ながらわかってないわ』

 リツコから通信が入る。

「えーてぃーふぃーるど?」
『現時点でわかっているのことは、壊さない限り使徒には近づけない、それだけよ』
「…… わかりました」

 使徒はA.T.フィールドを張ったまま、突っ込んできた。対応しようとしたとき、突然制御不能に陥った。


 …ドクン…


 …ドクン…


 …ドクン…


 …ドクン…


 …ドクン…



 そして吠えた。



「ウォォォォォォォォォォオンンンン!」



(何!? 突然動かせなくなった。頭部破壊で異常発生したのか。)

 襲い掛かる使徒のA.T.フィールドに手をかける。そして、と無理矢理こじ開け始めた。



「グルルォォォォァァァ!」



 完全にこじ開けると中に飛び込む。
 そのまま使徒の腹部にある球体に一撃を入れた。使徒のA.T.フィールドが消失し、球体にヒビが入る。
 何かを感じたのか、使徒がぶるっと震えるとエヴァに抱きついた。

(!?)

 球体に光が集まりだした。

(これは一体!?)

 閃光とともに大爆発が起きる。エヴァと周りの町もろとも……




「使徒が自爆しました!!」
「初号機はっ!!」
「初号機を確認!! パイロット生存!!」
「ほっ…… よかった。回収班および救急隊の出動を要請して」
「はいっ!」




「南野、勝ったな」
「ああ」

 目の前のモニタには、後始末が行われていた。もちろん、この事実は隠蔽される。
 突如、司令室の暗くなり、番号の書かれた謎の板が姿を現す。

「使徒再来か。あまりに唐突だな」
「15年前と同じだよ。災いは突然訪れるものだ」
「幸いとも言える…… 我々の先行投資が無駄にならなかった点においてはな」
「そいつはまだわからんよ。役に立たなければ無駄と同じだ」
「左様。もはや周知の事実になってしまった使徒の処置」
「情報操作、ネルフの運用は全て迅速かつ適切に行ってもらわないと困るよ」
「その件に関しては既に対処済みです。ご安心を」
「しかし南野君。ネルフとエヴァもう少しうまく使えんのかね」
「左様。零号機に引き続き、君らが初陣で壊した初号機の修理代。国が一つ傾くよ」

 沈黙のゲンドウ。

「聞けばあのオモチャは君の息子に与えたそうではないか」
「人、時間、そして金。親子そろって幾ら使えば気が済むのかね」
「それに君の任務はそれだけではあるまい。人類補完計画。これこそが君の急務だ」
「左様。これこそがこの絶望的状況下における唯一の希望なのだよ。我々のね」
「いずれにせよ。使徒再来による計画の遅延は認められん。予算については一考しよう」
「では、後は委員会の仕事だ」
「南野君。ご苦労だったな」






「南野…… 後戻りはできんぞ」