-外伝 グラナの双剣-
- 中編 -
ゴン
             その小さな出会いと物語は、一つの戦乱で始まった。






敵部隊の後方で1人の翼有る青年が奇妙な武器を持って佇んでいる。
どうやら敵に囲まれているようだ。
「通りは『疾風』名は『ジュン』!私を恐れぬならば掛かって来い!」
その青年が気高く敵兵に向かって咆えた。
それを聞いて敵兵がざわめき始めた。
「なに・・・こ、こいつが『疾風のジュン』・・・!」
「なんでこんな奴がこの戦場に・・・まさか!奴ら、ピョルト傭兵団を雇っているのか!!」
「蛮族風情がやってくれるわ・・・」
敵兵がたじろいだと思いきや、それを束ねる兵長が。
「えぇい、貴様等怯むな!それでも偉大なるセントハーゼンの民か!!我らにはノースウッド族の、『グラナの双剣』が居る!臆する事はない!弓隊、前へ!」
敵兵長が後ろに控えていた弓隊を前衛に呼び出した。
「狙いは『疾風のジュン』だ!放てぇい!!!」
号令と共に幾多の矢が雨となってジュンに向かって放たれた。だが。
「弓矢など、私の敵ではありません!!とおりゃあぁぁぁっ!」
ジュンが手に持った奇妙な武器を前方にかざし円を描くように回し始める。
すると彼の周りに風が集まり始め、ジュン目掛けて放たれた矢が風によって軌道を変えられ天高く舞上がっていった。
「おのれ!妙な武器を使いおってぇ!!」
「あなたにこの武器の名を知る資格はありませんよ。そうですねぇ、『双戦斧』、とだけ言っておきましょう。」
そう言うと、ジュンは天高く飛翔した。
「今度はこちらの番です。」
ジュンは軽やかな笑顔でそう言うと、『双戦斧』と呼ばれた斧の刃が持ち手の後ろにも付いている武器を天高らかに掲げ、地上に目掛けて降り投げた。
「これが私の力です、くらいなさい!アーゼルリヒテイン!!!」
そして勢いよく地上にぶつかった『双戦斧』は風を纏ってその場に猛烈な竜巻を起こした。

ゴオォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!

「うわああぁぁぁ!」
「た、助けてくれえぇぇ!」
「ぎやあぁぁぁぁぁ!」

荒れ狂う竜巻は周囲の敵兵を巻き込んで吹き飛ばしていった。
「へ、兵長殿!もうこの場は持ちません!どうかご決断を!!」
「うぅむ、『疾風のジュン』めぇぇ。撤退、撤退だぁ!!!」
敵兵長が自分の部隊に撤退命令を出した刹那。
「へ、兵長殿!ああああ、あれを!」
「なんだ想像しい!」
兵士が指した方向を兵長が見ると、そこには1人の女性が大剣を担ぎ、自らが斬ったと思われる兵の骸の上に立っていた。
「き、貴様、誰だ!!!」
兵長がその女性に言うと。
「あん?あたしが誰、だって?ハッ!あんたの目は節穴かい!?」
「何だと!貴様、私を愚弄する気か!?貴様が誰だろうと関係な・・・・・・!」
その時、兵長の言葉が止まった。
「兵長、どうなされましたか・・・」
一般兵が兵長に尋ねる。
「き、金色の目・・・まさか、お前アンチノースウッドか!!!?」
畏怖の念がこもった眼差しで女性を見るが、その女性はそれに対して冷淡な嘲笑で返事をした。
「あぁ、そうさ。あたしはアンチノースウッド族出身だよ。そんなにこの目が珍しいかい・・・?」
アンチノースウッドとはノースウッド族の敵対部族で、ノースウッド族の殲滅に人生を捧げるのを戒めとする一族の事だ。
「・・・悪魔の一族めぇ・・・」
「そう褒めてくれると嬉しいねェ。」
「えぇい黙れ!!」
兵長がそう言うと、女性、ランドの周りを剣兵が取り囲んだ。
「この状況でも強がっていられるかな?」
皮肉めいた口調で兵長がランドに言う中、ランドは表情を変えずに周りを見渡した。
「ひー、ふ、ー、みー・・・おおよそ20人ってとこか。雑魚ばっかだねぇ。」
「フン!そう強気でいられるのも今のうちだ。かかれぇ!!!」
兵長の命令と共に剣兵達が一気にランドに襲いかかる。
「はっ!このあたしを、なめんじゃないよぉッッ!!!!!」

ランドは再び担いでいた大剣を振り上げた。

その頃、ミルフィー隊は・・・

斬・斬・斬!

「ぎゃあっ!」
「ぐおぉぉっ!」
「うぐおぉっ!」

次々とさっきまで兵糧を占拠していた敵兵が絶命してゆく。
「ふぅ。これでここのはあらかた片付いたな・・・」
「ミルフィー様!こちらの兵糧も奪還いたしました!」
額の汗を拭うミルフィーのもとに1人の兵士が駆けつけて来た。
「よし。もう兵糧は安全だ。一応警戒配備を強化する為に数人の兵を残していく。残りの者は再び戦場に戻ってくれ!」
「了解しました!!」
そう兵士が言うと、多くの兵士が戦場に戻っていった。

「はぁ・・・クウェアーさんは、大丈夫かな・・・」
疲れ気味の声でミルフィーが1人呟いていると。

クスン……クスンクスン………

「?、泣き声?・・・・・・まさかな。」
ミルフィーは疑いながらもその泣き声を確かめる様に耳を研ぎ澄ませる。

クスン…クスン…

「・・・やっぱり泣き声だ。近いぞ・・・」
ミルフィーは泣き声の正体を確かめるべく、泣き声のする森の中へ入っていった。

ガサガサ

森の中へ数十メートル入った所でミルフィーは戦場で思いがけないものを目にした。

「お、女のコ!?」
そこに居たのは空の様に透き通った青髪を両サイドでロールパンの様な形にして碧色の大きなリボンで結んだ少女だった。
どうやら泣いていたのはこの子らしい。
「くすん・・・くすん・・・・・・」
ミルフィーは不思議に思いながらもその少女に近づいて行く。が。
「!!!」
少女が身構えた。どうやら気付かれてしまったようだ。
「あ、あの、その、僕は怪しいものじゃないよ!」
・・・怪しい。今のミルフィーは怪しさ満点だ。
背を屈めて気付かれない様に近づいていたのだ。そのポーズから怪しさを感じない方がおかしい。
そして、案の定青髪の少女はミルフィーから遠ざかるように後ろに下がった。と。
「ッ!!!」
青髪の少女が身を丸くして悶えた。
「ちょ!君、どうしたの!?」
ミルフィーの問い掛けにも青髪の少女は応えない。
ミルフィーは少し様子が変だと思いながら青髪の少女に近づいた。そして、近づくと流石にミルフィーも少女の様子が変な状況に気が付いた。
「君・・・!どうしたんだいその傷!?」
青髪の少女は太腿を押さえ身悶えていた。その太腿は約10cmほどパックリと裂けており、血が太腿を押さえた手を伝ってポタポタと落ちていた。
「ぅ・・・ぅううっ・・・!」
青髪の少女は血の気こそは引いていないものの、その表情からはこれ以上無いというくらい苦痛に耐えているのがわかった。
「凄い傷・・・!見せてみて。」
そう言ってミルフィーが近づくが、ミルフィーが近づく分少女が離れて行く。
そうして彼女が少しずつ動いている間にも、動いた後には地面に血が1本の線を引いていた。
「ダメだよ動いちゃ!!」
ミルフィーがそう言うものの、やはりこの少女はミルフィーから遠ざかろうとする。
ミルフィーは何故この少女がこんなにも自分を避けるものかと彼女の視線に目をやった。
そして、少女の視線の先にあったものは。
「・・・あ。」
ミルフィーは何故自分が避けられているかわかった。剣だ。
ミルフィーは今右手に剣を持っている。しかもオマケとして新鮮な血がついている。
これでは恐がられるのも当然だ。
ミルフィーは剣を放り出し、少女のもとへ近づいた。
「う・・・ぅぅぅ・・・」
それでも多少は恐がられているようだ。さっきの様に避けられるまではいかないものの、今度は上目遣いでこちらを不安そうに見つめてくる。
「大丈夫、大丈夫だから、ね?」
ミルフィーはゆっくりとその少女に近づき、なんとか彼女の目の前まで行く事が出来た。
「傷、見せて。」
ミルフィーがそう言うと、少女はおどおどしながらもゆっくりと傷口を押さえていた手を離してみせた。
「傷は・・・大丈夫。そう深くはないみたいだ。」
そうミルフィーは言って少女の太腿に手をあてた。
「大丈夫、ゆっくり目を閉じて・・・」
ミルフィーがそう言うと、まだ不安が残るらしいが、少女はゆっくりと目を閉じた。
少女が目を閉じた事を確認すると、ミルフィーが何か集中しながらブツブツと唱え始めた。
「アル・セムティ・ノア・ウルス・ノーク・ユアノス・セム・オトゥリィ(風と大地の精霊よ、汝の御心を今ここに)」
ミルフィーが唱え終わると、少女の傷口をやわらかい光が包み込んだ。
その光に驚いて目を開けた少女はびっくりしたらしく、今度はミルフィーにしがみついてきた。
「大丈夫だよ。傷口を見てごらん。」
ミルフィーの言う通りに少女は自分の負った傷を見てみるが、光が消えたころには傷口など見る痕も無くなっていた。
不思議そうに少女が傷口があった場所をペタペタと何度も触る。
「ハハハ、大丈夫だよ。傷は治ったからね。」
少女は未だに我が身に起こった現象を理解出来ず、眉をヘの字に曲げて不思議そうに傷があった場所を見つめていた。
その光景下にある少女はさっきまでとのギャップが激しく、今の少女の困った様な表情がミルフィーにはなんとも微笑ましく見えた。
「魔法、見た事が無いの?」
ミルフィーの問い掛けに少女は小さくコクリと頷いた。

「・・・ありがとう・・・ございます。」
小さく少女が呟いた。
「いや、いいんだよ。」
どうやら言葉は喋れるらしい。
「君、名前は?」
ミルフィーが少女に問い掛けると。
「・・・・・・ラミア・・・。」
どうやらこの少女はラミアというらしい。だが、如何せん声のボリュームが小さい。
「そう、ラミアちゃんか。僕はミルフィー。女みたいな名前だけどれっきとした男だよ。よろしくね。」
「・・・よろしくお願いします・・・」
・・・ボリュームが小さい。聞き取るので精一杯というくらいだ。

「ラミアちゃんはどうしてここに?」
「・・・・・・ちょっと・・・」
「・・・ちょっと?」
その時、花が咲かない会話に四苦八苦するミルフィーのもとに。

ラミアーーーーー!ラミアどこに居るのーーーーーーー!!

何処からかこの少女の名を呼ぶ声が聞こえてきた。
「・・・・・・お姉様・・・」
ポツリとラミアが呟いた。
「お姉様、ってことは・・・君のお姉さんかい!?よかったね。心配して迎えに来てくれたんだよ。」
ミルフィーがラミアの喜びを代弁したように喜んでいると。
「・・・・・・逃げて・・・」
ラミアがまた何か呟いた。
「・・・何?ごめん、良く聞こえなかったんだ。もう一度言ってくれる?」
「・・・・・・逃げて・・・早く・・・!」
今度はミルフィーにも聞こえた。【逃げて】だ。
だがミルフィーにはその意図したものが全くわからなかった。
「早く・・・逃げてください・・・!でないと・・・ミルフィーさん・・・!」
ラミアが必死の表情で訴えかけるも、ミルフィーには意味が全くわからなかった。
「ちょ、ラミアちゃん!どうして僕が逃げなきゃならないんだい!?」
「・・・・・・それは!―――――」
ラミアが続きを言おうとしたその時。

「あぁーーー!ラミア、いたいた!何してるのよ全く心配かけさせてぇ!」

ラミアがびっくりした表情で視線を送った先をミルフィーも見てみると、
そこにはやわらかい赤の色をした髪をラミア同様に両サイドでロールパンの形にし、黄色いリボンで結んだ少女が佇んでいた。
だが、その少女とラミアとの決定的に違う点は・・・

彼女の両手には2本の剣が握られていた。
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