恋でも友情でも失ったものを取り返すことができるのだろうか
……取り戻せても、きっと、元のようになれない。

でも、本当にそうなのでしょうか?
何かを得るために何かを失う……違います。
得たものがあるから、失いそうな何かを見つけられるように人は成長するのでは?





蒼き新星45万HIT記念
 
系譜
第1章 秘められた想い
 
第8話 喪失
 
シルビア





【浩】


俺は屋上にある貯水場のところに昇っていた。

いつからか、ここが俺の一人で過ごす場所のお気に入りのスポットになっていた。
授業をさぼって流れる雲を見ながらぼんやりと時を過ごす、こんな時間も悪くない。
考え事をするなら、ここは一番の場所だな。

結局、俺は秋子のことが好きみたいだ。
あれだけ雅の事を知り、好きになり、恋人になって時を過ごしたにもかかわらず、だ。
信二さんの存在が俺の秋子への気持ちにブレーキを掛けていたのだろう。
そして、そのブレーキがなくなったとたん、俺の心は再び秋子を求めている。

……皮肉なものだな。

幼い頃から好きだった女の子、それは秋子だった。
それは自分でも分かっている。
だから、秋子が信二さんとつきあい始めた時、俺は泣いて諦めるしかなかった。

いや、諦めるもなにも、告白する勇気すら、あの頃の俺にはなかった。
今の俺なら、ためらいもなく秋子に告白できただろうに。
あの夜の俺の出来事にしても、以前の俺なら考えすらしなかったことだ。
昔の俺は一方的な片想いで、秋子の気持ちを確かめることが怖かった。
なぜか、今の俺にはその怖さはない。

いつから俺は変わったのかな。
雅と付き合ったからだろうか?
……きっと、そうなのだろうな。

雅が俺を一途に愛してくれたことで、俺は何かが強くなれたのかもしれない。
恋すること、愛することの素晴らしさを知ったのも雅と付き合ったおかげだ。
だが、そんな雅に、俺は別れを告げようとしている。
……そんなことが、俺に出来るのか?

一体、俺は何をしていたんだ?
幼なじみの4人はいまや3人になった。
そして、俺は残りの二人の少女を傷つけようとしている。
まるで悪魔だな、俺は。
昔のようにみんなで笑い会える日なんて……もう来ないだろうな。

懐かしいよ、昔が……とっても。
想いこそ告げられずとも、側で秋子や雅を傷つけずに見ていられる。
恋などしなくても、俺達は笑って過ごしていられた。

馬鹿だよ、俺は……
信二さんが居なくなった今だからこそ、秋子や雅を守ってあげないといけないのに、
俺の言動はその仲すら壊しかねない。


『私を見てってお願いしたよね? だから、これから浩君に見せてあげる…………』

雅……知れば知るほどいい女の子だったな。
だから、これから先、彼女を女の子として意識しないことはもはやない。
そして、ただの友達に戻ることは、もう出来ないだろう。

『お願い、浩君……今夜有ったこと、全て忘れて……。
 そうしてくれないと、もう、私はあなたを友達とさえ呼べなくなってしまう』

秋子……俺には、もうお前の友達でいる資格なんてないよ。

俺の望みは何だ?
俺の願いは…………


「あ〜、またこんな所でさぼっている。もう昼休みだよ」

雅か。
その手に弁当箱を2つ抱えている、一つは俺の分にと作ってきたものかな。

「どうしたの、何か考え事でもしていたの?
 うーん、とにかく、お腹が空いてはいい考えは浮かばないよ。
 これは浩の分のお弁当、一緒に食べよ♪」
「ああ……」

俺は弁当を受け取って食べ始めた。
いつもながら、結構美味いし、見かけも綺麗だ。
それに、雅の腕前は最初の頃より格段に上がっている。

腹が減っているせいなのか、俺の箸は普段よりも早いスピードで動いている。
さっきまで恋愛ごとを真剣に考えていたくせに、現金なものだよ、俺は。

「早いのね、もう食べ終わったの?」
「そうみたい。妙に食欲があるらしい」
「そんなにお腹が空いているなら、私の分も少し分けてあげる。はい♪」

雅は自分の弁当箱から箸でごはんやおかずを俺の弁当箱に分け入れた。
雅はご機嫌そうな笑顔を浮かべている。
おかずを分けるのが面白いのか、俺がたくさん食べるのが嬉しいのか。

そうでなくても、雅は自分の感情をはっきりと俺に伝えようとする。
嬉しければ嬉しい、哀しければ哀しいと。
だから、俺は雅と付き合っていて、気苦労はしたことがない。
せいぜい、雅がほしがるプレゼントを財布の中身が気になって買ってあげられない時ぐらいなものだ。

「ごちそうさま、美味しかったよ」
「お粗末さまでした♪」

嬉しそうな顔をしているもんだな。
だが、俺もこれから先別れ話をしようとしているのに、どうして優しく接しようとしているのかそれが不思議に思った。

できるだけ雅を傷つけず別れたい、俺はそんな調子のいいことを考えているのだろうな。
そんなこと出来るわけない、分かっているのに。

「浩、何かあったの?
 だいたい、浩がここに来る時は、決まって一人で何かを考えたい時じゃない」
「……気にするな。久しぶりに来てみたかっただけさ」
「そう?」

何かあった、か……まったく雅の洞察力には恐れ入る。
確かにあるよ、雅が聞きたくない話が。

『ダメよ……これ以上雅を傷つけるなんて、私には出来ない。
 だから、今後も雅の彼氏としてきちんと彼女を愛してあげて』

その秋子の言葉が俺の心にブレーキを掛けていた。
そうでなければ、俺は雅に別れ話を告げていただろう。


「ね〜、浩。放課後、一緒にCDでも買いに行ってくれる?」
「……ああ、いいよ」

雅は何をするにも俺と一緒に何かをしたがる。
俺も断ればいい場でも、つい断り切れずにいる。


こんな状態がもう数日も続いている。

彼女達と友達でいたいのか?
俺の彼女であってほしいのか?
俺は秋子と雅に何を望んでいるんだ。
俺は秋子や雅と一緒にいる時、ずっと心の中で考えていた。

優柔不断だな……俺は雅と別れることが出来るのだろうか?
はたして、俺は秋子とつき合えるのだろうか。

【秋子】


体調がすぐれない……ここ数日、ずっとこうね。
めまいがしたり、すぐ吐いたり、食欲がなかったり。

やっぱり、信二さんのことが忘れられないからなのでしょうか。

私は家で一人の時間を過ごしていました。
再び吐き気がして、私は洗面所で吐いてしまいました。

「秋子、あなた、まさか!」

姉さんが急に私に大きな声を掛けてきました。

「えっ、どうかしたの、お姉さん」
「どうかしたって? それは秋子の方よ。秋子、もしや妊娠しているの?」
「妊娠!」
「その驚きようは、身に覚えがあるということね?」
「…………」

考えてみると、確かに、ここ2月ほど生理がありませんでした。
ただ、いろんなことが有りすぎて、私はすっかり忘れていたのです。

「秋子、とにかく医者に診てもらいなさい。いいわね?」
「……はい、姉さん」

姉さん、驚きと落胆の表情を浮かべていました。
母子家庭の二人の姉妹、そんな女家族の私たちです。
子供を産むことの重みは、私でさえ分かります。

翌日、私は医師の診断を受けました。

「懐妊しています。現在は、10週に入ったところですね。
 ところで、貴方はまだ学生で、それに未婚ですね……
 ご両親や相手方とよく話してできるだけ早く、産むか、堕すのかを決めてください。
 時が過ぎるのは精神的にも肉体的にも良くありませんので注意してください」
「……はい」

私は途方に暮れました。
相手……それは亡くなった信二さんと浩君のどちらか、それすら分かりません。
偶然とはいえ、最後に関係をもった時期が近かったためです。

今、相談できるのは、母さんと姉さんだけです。
私は姉さんに最初に相談にのって貰いました。

「姉さん、ごめんなさい……私、妊娠していました」
「そう……相手は分かっているの?」
「それが……信二さんと浩君のどちらかですけど、時期が近くて分からないんです」
「亡くなった信二さんと友達の浩君? それは困ったわね」
「姉さん、私、どうすればいい?」
「ほんの少し前の私なら、高校生が子供を産むなんて無理、そう言っているわね」

当然かもしれません。
私の心配しているのも、同じ理由です。

「でもね、秋子。
 私は貴方が産みたいと思うなら反対しないわ」
「えっ?」
「先に私のことを話しておくわね。
 実は、私も妊娠したの。
 相手は相沢祐介さんで、子供の事を話したら……結婚しようっていってくれて。
でも、その返事がなくても私も子供を産もうと思っていたのよ。
だって、授かった命に勝る大切なものなんてないじゃない」
「姉さん、おめでとう……だよね?」
「うん。だから、秋子が産んで育てるなら、私も協力してあげられるから。
 だから、産むかどうかは秋子の心で決めなさい。
 でも、秋子は知っていたかな……お母さんが私を産んだのは17才の時よ」
「あっ!」
「だから秋子の年で子供を産んで育てることができない、そうは思えないの。
 ただ、苦労するかもしれないけど、相手次第でなんとかやっていけるわよ」
「でも、学校の方は……」
「そんな事はたいした問題じゃないわ。
 高校のことは気になるけど、所詮、女の学歴なんて後からでも付けられるしね。
母さん、私を産んでから大学に通っていたんだって言っていたもの。
 結婚して子育てするのに学歴なんて要らないし、子持ちの女が社会でやっていくのは実力以外にないって母さんが言っていたわ。
 そんなことは子を産むかどうかに比べれば些細なことよ、何とでもなるし」
「母さんが……初めて知ったわ」
「秋子……信二さんの遺族や浩君とよく話して、貴方自身で決めなさい。
 私のいうことはそれだけよ」
「はい」

この子が信二さんの子なら、信二さんの忘れ形見……産みたい。
でも、浩君の子なら……どうしましょうか。

私はかなり迷いましたが、浩君と雅にきちんと話をすることにしました。
ただ、浩君との関係についてだけは、今は話せないと思いましたが。

翌日、ファミレスの隅の方の席で私は雅と浩君に事情を話しました。

「秋子、それ本当なの?」
「秋子……」

二人の反応は予想通りでした。

「どうするの、秋子?」
「できることなら産むつもりなの」
「そう……信二さんの子を……」
「…………」

私は黙ってしまいました。
雅は私のお腹の子の父親は信二さんだと思いこんでいます。
ですが、側にいる浩君は、もしやと疑いの目を私に向けています。

やはり、雅が化粧室に行って席を離れている時、浩君は私に言いました。

「秋子、お腹の中の子が俺の子である可能性があるのだろう?」
「可能性……あるわ。でも、同じ時期に私は信二さんとも関係があったから」
「そうか……」

浩君の表情には迷いがある、それは分かっています。
私のことを好きだと言い、さらに子供が自分の子かもしれないと告げられれば、普通で居られるわけがないですから。

「秋子、俺、この後で雅と二人で話したいことがある。
 だから、店を出たら、適当な理由を付けて別れてくれるか?
 それに、秋子とも後で二人きりで話をしたい」
「うん……分かった」

私はこの後の二人の話の内容は容易に想像できました。
私はたったひとつだけ決めていました。
もし私のせいで浩君が雅と別れるのなら、私は浩君と付き合う覚悟でいました。
これが私の贖罪、親友を裏切り、心から願ってもいないのに身を任せた、そんな自分への贖罪だとおもっていたからです。


【浩】

秋子の話を聞いて、俺は覚悟を決めた。
どんな結果になろうとも、自分の気持ちを貫くことを。

俺は雅を連れ、公園の噴水の所にいった。
ここは、見晴らしの綺麗な場所なのだが、なぜか人気の少ない場所なのだ。

「浩、どうしたの、急に?」

俺に連れられた雅は不可思議そうな表情で俺に尋ねてきた。

「雅に話がある。
 ………………俺と、別れてくれないか」
「本気で……言っているの?」
「ああ、本気だ」

雅の目に涙が流れ落ち始める。

「信二さんが亡くなってから
 ……いつかはこんな日がくるんじゃないかって
 ……私、覚悟していたわ。
 分かっていたの、浩の気持ちが秋子に次第に傾いていくのが。
 …………でも、いざ別れを言われたら、涙、止まらなくなっちゃった。
あはは……私、こんなに涙脆かったかな……」

肩が次第に震えていき、口元から嗚咽がこぼれていく。

「(う、うぅ、ひっ、ひっぐ)
 ねえ、浩、私ってこんなに弱い女の子だったかな……
 でも、許してね、これでも精一杯頑張ったんだから。
 浩が私を選んでくれるって信じていたんだから。
 馬鹿ね……私って」

俺の胸に顔を埋めて、雅はただ泣き崩れた。
俺は雅がそうなることぐらい、容易に予想できた。
だが、俺は雅と別れる決心をした。

「馬鹿なのは俺だ……雅じゃない。
 雅、このままでいいから、話を聞いてくれ」
「…………うん」
「秋子のお腹の子の父親は俺かもしれない。
 俺は一度だけ、雅を裏切り秋子を抱いた」
「…………!」
「すまない、雅」

雅は俺から離れると、俺の表情をただじっとみつめて無言のままでいた。
自分の涙をハンカチで拭い、泣き顔を必死に堪えているように見えた。

「……教えてくれる?
 秋子を抱いてから、私にキスしたいとか抱きたいとかの感情を持ったことあるの?」
「それは……ない」
「もう一つ、教えてくれない?
 私と付き合って幸せだった?
過去形でもいいから、私の事を愛してくれた?」
「……俺は雅と付き合ったことを一度も後悔したことはない。
 幸せだったし、雅のことを確かに愛していた。
 俺に恋する楽しさや愛する喜びを教えてくれたのは、他ならない雅だ」
「……ありがとう、浩。その言葉を浩の口からずっと聞きたかったの」

噴水の水が吹き上がり、水しぶきのシャワーが沈みゆく夕日の光に照らされていた。
雅はその噴水の水しぶきをしばし眺めて、俺に言った。

「……綺麗だね。沈みゆく夕日の光でもこんなに輝くんだね」
「ああ、そうだな」
「まるで、私たちの恋人同士の頃の思い出みたい。
 私ね、今でもつき合い始めた頃のことを覚えているわよ。
 秋子が信二さんに告白した時、浩、私の胸の中で泣いていたものね」
「そんなこと覚えてなくてもいいのに。
 第一、そういう雅だって、さんざん甘えていたくせに」
「うん、それが私の幸せだもん♪
 ね〜、今ここで私を抱きしめてくれない?
 私のこと、好きでなくてもいいから……」
「雅のことを嫌いになったわけじゃないさ、雅はいい女だよ。元彼の俺が保証する」
「元彼……だめよ……まだ、私、別れを承諾してないわ。
 今晩まで、浩はまだ私の彼氏なの!
 でも、明日からは、もう恋人だと思わないようにするから……だから」
「分かった。今夜は雅の言うとおりにする」

俺と雅は噴水の脇に横座りで腰かけ、俺は雅を胸の中に抱いた。

「雅、俺はできることならお前と笑顔で別れたい。
 幼なじみの友達に戻れるなら、やり直したい。
わがままだってわかっているけど、本音だ」
「ふふ、私をたくさん知りすぎて惹かれたから、別れても名残惜しいのかな?
 浩の望むようにしてあげる。
それで、浩が幸せになってくれるなら、私も嬉しいから」
「こんな俺と付き合ってくれて、ありがとう、俺は雅にそう言いたい」
「あはは、馬鹿ね、私……普通なら、殴り倒して二度と会わないものらしいのにね。
ダメみたい、私も浩とさよならなんて出来ないみたい」
「雅……」
「ね〜、これから思い出話をしない? 最初に出会ってからの事を」
「ああ、いいよ」

俺と雅は時間を忘れて思い出話に浸った。
幼なじみの頃の想い、告白した頃の気持ち、付き合ってからの日々
……こうして話してみると、俺と雅の間には本当に多くの時間があったことが分かる。
そして、驚いたことに、そのどれもが色褪せていなかった。

もし、俺の好みが秋子でなく雅であったなら、雅はきっと運命の人になり得たのだろう。
そうでなかったことを、俺は少し残念に思えた。

「浩は秋子を選ぶのよね?」
「……ああ、そうだ」
「これから大変よ?」
「覚悟はできているさ。第一、秋子にはこれから正式に告白するのだから」
「それで玉砕したら、私のところに帰ってくると♪」
「酷いな……そうだな、その時、雅のことを好きなら、もう一度告白するかな」
「馬鹿……嘘でも帰ってくると言ってくれればいいのに」
「仕方ないだろう、俺の本音だよ。どうせ、雅に隠してもすぐばれるし」
「そうね♪ 浩の心、みえみえだから」
「言ったな〜! この〜!」

俺は冗談めいた拳を宙に振り上げた。
だが、その拳が降りる前に、俺の唇が雅の口で塞がれていた。

「ごめん……今夜までは、あなたの彼女だから……最後に思い出を貰うの」
「そうか……なら、俺もこの一瞬はお前の彼氏でいる」

俺は雅の唇に自分の唇を重ねた。
それは雅への最後の恋心、自分の全ての気持ちだった。

【秋子】

駅前、私は浩君を待っていた。

昨日の夜の電話……

『秋子、明日の土曜、俺と付き合ってくれないか?
 一緒に行きたいところがあるんだ』
「うん」

……私は雅から話を聞いていました。

「秋子、私の分以上に幸せにならないとダメよ?」

その言葉の意味は分かっていました。
今日、きっと、浩君は私に告白するつもりなのでしょう。

私の贖罪……それを私は自分のものとして受け容れる覚悟はできています。
運命の人だと思っていた信二さんを失い、私に残されたのはこのお腹の子だけ。
その子も信二さんの子か浩君の子なのか分からない。
でも、私の子であることは確かなこと……宿った命に私の想いの全てを伝えてあげたい。

浩君の姿が見えます。
私に気が付いたのか、手をあげながら駆けよってきました。

「お待たせ、秋子」
「遅刻ですか?」
「す、すまん! この通り!」
「もういいです。その代わり、罰として、後で奢ってもらいますからね」
「えっ…………あのな、今日は勘弁してくれ。マジで金欠気味なんだ」
「はぁ〜……それが、女の子を誘って言う言葉ですか?」
「ははは(汗)……これでも、海より深く反省しているから、責めないでくれ。
 それじゃ、行こうか」
「はい。……でも、どこに?」
「行けば分かるよ。ついておいで」

この時、私は頭に疑問符を浮かべていました。
告白しようかというデートなのに金欠気味と言うし、場所もつげずに先に行くなんて
……浩君は、本当に私に告白するつもりがあるのでしょうか?
私、何か、勘違いをしているのかしら?

ですが、そんな疑問は目的地に到着した時に、すぐになくなりました。

「ここは…………」
「そうさ、信二さんの眠る場所だよ。
 今日はどうしてもここにくる必要があったからな」

浩君は私の左手を握ると、薬指に指輪をはめました。

「秋子、よく聞いてくれ!
 俺が秋子にしたことは、どんなに償っても償いきれない。
 でも、俺は秋子のことが誰よりも好きだ。
 俺のことを一生恨んでもいい、それでも、俺は一生秋子のそばにいる。
 お腹の子は誰の子でもいい、俺の愛する秋子の子は……俺の子として育てる」
「そんな……浩君……強引すぎです。私の気持ちは……」
「秋子は嫌なのか?」
「……いいえ。でも、心の準備がまだ……」
「なら、これから準備すればいいさ」

浩君は信二さんの眠る墓の墓石に向かって宣言するように声をあげました。

「信二さん、秋子は俺が幸せにします。
 いつか、秋子が貴方への気持ちを越えられるように、俺は秋子を愛し続けます。
 だから、信二さん、秋子に別れを告げてあげてください。
 そして、俺に秋子を託してください。
 ……あなたの秋子への気持ちと一緒に、俺に託してください」

浩君……

その時、風が吹いた気がしました。
木々を揺らすその音が、信二さんの声のように感じたのは私だけでしょうか。
柔らかな、やさしいその音は、私の心にひとつの希望を宿してくれたように思えました。

「信二さん、私、今、あなたへの恋を失ったかもしれません。
 結婚してずっと一緒にいられるとおもった運命の人、それがあなたです。
 でも、叶いませんでした」
「秋子?」
「でも……それでも……私、もう一度、恋をしてもいいのですね?
 もう一度人を愛してもいいのですね?
 だって……目の前の人に、私は恋の予感を感じましたから」
「秋子、それって……?」
「浩君、これ以上は私の口からは言わせないで……」


浩君、私の心の負けです。
その情熱、私はそれに賭けてみます。
心の中で、私はあなたを頼ってしまいましたから、正直になります。

浩君……私を恋する乙女にしてください。
そして、いつかは貴方が私の運命の人になってください。


「秋子、俺と結婚を前提に付き合ってくれ……これで、いいのか?」
「はい♪ お受けします。まだ、自信はないのですけど」


何かを得るために何かを失う、違いますよね。
得たものがあるから、失いそうな何かを見つけられるように人は成長するのですね。
きっと……信二さんがいてくれたから、こうして浩君と一緒にいるのでしょう。
信二さんが私の愛を育ててくれたから、生きる糧になる思い出をたくさんくれたから。


(さようなら、そして、ありがとう、信二さん。……私、浩君に付いていきます)






後書き

名雪:「うわぁ〜、お父さんのプロポーズって強引だね」
作者:「プロポーズが甘い言葉だと誰が決めた?」
秋子:「そのために前話で強烈はシーンを用意したぐらいですからね。
    まったく、SILVIAさんには困ったものです」
作者:「やりすぎでしょうか?」
秋子:「SILVIAさんが本気でそう考えているとは思っていません。
    Grand Themeの内容はこれでもまだ不十分、そう言いたいのでしょう?」
作者:「さすがに秋子さんにはバレバレですね」


繭 :「うーん……繭にはちっとも分かりませんわ」
作者:「大人の恋、がか?」
繭 :「繭はもう子供じゃないです! 薫様も繭の魅力にぞっこんなのですから」
作者:「ほ〜? それは先が楽しみだな」

美汐:「いつになく派手にやってますね、SILVIAさん」
香里:「もう数話で第1章が終わりだから、焦って居るんじゃないのかしら?
    構成がどこか甘いし」
栞 :「いつものことです。章末が近いと急展開する傾向がありますし」
作者:「…………香里、栞、頼むから内情をばらさないでくれ」


<作者・シルビアよりSS読者の皆様へ>

Home Page 「風の妖精 〜シルビアの居城〜

シルビアは、風の妖精HPにて、「投票」と「掲示板」によって読者の皆様の声を頂きけたらと考えています。
ほんの少しのお時間を割いて、ぜひ皆様の声を作者のシルビア宛にお伝えくださると嬉しいです。

【投票】…1クリック投票です。下のリンクをクリックしてください。コメントの入力もありません。
 
  このSSへの投票 →
| 投票 |

【掲示板】… 風の妖精 掲示板


PREV BACK NEXT