永遠の恋だと思った恋が永遠でなくなるとき、
 心にぽっかりと開いた空虚を誰が埋めてくれるのだろうか……




蒼き新星45万HIT記念
 
系譜
第1章 秘められた想い
 
第7話 錯綜
 
シルビア





----1年後。
秋子と雅は高校2年生の秋を迎えていた。

冬服への衣替えの終わった秋子達は、高校生になりたての初々しさとは違う、少し大人びた雰囲気をまとうようになっていた。
少女から女性へ、大人への階段を上りつつある、そんな秋子達を変えていったのは恋心であることは明白なのだったが。

ある日曜日の朝、信二のアパート。


【秋子】


「秋子……早く起きないと遅れるよ」
「うーん……あともう少し……」

少し眠い……えっ? どうして……

目を開くと普段と違う天井が私の視界に入ってくる。
側にいるのは……えっ、信二さん?
ここは……

私は慌てて体を起こして、辺りを見渡します。
信二さんが横で心配そうな顔をして私を見つめています。

「目覚めたみたいだね、秋子?」
「ここは……信二さんの部屋……あっ!」

自分の姿を見渡して、私は昨晩、何があったかを思いだしたのです。
そう、昨日……信二さんに抱かれたことを。
家の両親が出かけて居なかったので、信二さんのアパートに外泊してたのです。
昨日、雅と浩君を交えて4人で食事して…それから2組に別れて…信二さんのアパートに来て……

「秋子、今日は雅と出かける約束が有るって言っていたじゃないか。
 約束、駅前で10時なんだろ?
 ほら、時間……今は朝の9時だよ」
「あ〜〜〜〜〜〜〜!」

そうだわ!
昨日、雅と約束していたのです。

「まぁ〜慌てなさんな。
 急いで着替えれば朝食ぐらいは食べていけるだろ?
 もう準備してあるよ」
「信二さん、作ったの?」
「いつも秋子に作ってもらっているから、たまには俺が、と思って。
 たいしたものじゃないが、朝食ぐらい食べてから行きなよ」
「う、うん。ありがとう、信二さん」

あら、あはは、凄い髪型……すっかり乱れているわ。
でも、こんな私を見られるなんて、ちょっと恥ずかしいかも。

私は顔を洗って、髪をとかして身だしなみを整え、軽くリップを塗る。
それから信二さんの用意してくれた朝食を食べにリビングの方に行った。

「美味しい♪
 信二さん、料理の腕、上がったみたい」
「はは、一応これでも独り暮らしの身の上なんでね。少しはできるさ。
 それでも、秋子の腕に比べれば天と地の差だけどね」
「ふふ。これでも一応女の子なのよ、私。料理が出来ないと恥ずかしいわ。
 でも、ごめんなさい、本当は私が作ってあげようと思ったのに」
「いいさ。たまにはこういう風に秋子に作ってあげるのも悪くない」

夏の終わりに、私は信二さんのアパートの合い鍵を貰ったのです。
それからは、朝、信二さんのアパートで朝食を作って食べて、一緒に学校に出かけるのが日課のようなものでした。
私は高校生、信二さんは大学生なので授業の時間帯は違うのですが、信二さんのアパートから大学までは遠いので、概ね同じ時間に出ればそれぞれ間に合います。

信二さんは大学の授業やサークルが忙しく、週末でも必ずしもデートできるわけではないので、こうでもしないとなかなか会えないのです。
それに、信二さんの一緒に朝の時間を過ごすのって、なんだか奥さんにでもなった気分で、ちょっとドキドキします。

ちょっと早めにアパートに行って、
私が信二さんの寝顔を眺めてぼーっとして、
朝食を作って一緒に食べて、
一緒に通学する
……こうしていると、信二さんの彼女だって自覚して、それがなんだか嬉しくて。

「信二さん、来週の週末、予定は空いていますか?」
「あ、ごめん、秋子。来週の土・日、登山のサークルで山に登ることになって。
 一昨日決まったんだけど、秋子にはまだ話していなかったね」
「え〜!
 ……水族館のチケット貰えたので、一緒に行こうとおもっていたのに」
「秋子、すまん!」
「……仕方ないです。そのかわり再来週は私とデートしてくださいね」

複雑な気持ちですね。
信二さん、高校の時よりも体格ががっちりしてきたのです。
登山サークルで鍛えたっていっていました。
格好よくなったのはとても嬉しいのですが、サークル活動でデートが減るのは少し寂しいです。

「それじゃ、信二さん、行ってきます♪」
「行ってきますって、すっかり、ここが秋子の家みたいだな……まぁ、いいけど」
「ふふ…信二さんがプロポーズしてくれれば、ずっと一緒にいられますよ♪」
「……俺たち、二人ともまだ学生なんだけど」
「いつかは、ねっ♪」

せっかくの二人の時間、本当はもう少し一緒に居たいのですが……
私は雅との待ち合わせ場所の駅に急ぎ足で向かいます。
時間は、えーと……ぎりぎりでしょうか。
あ、雅、先にきていますね。

「雅〜!」
「秋子、時間どおりね。……うん?」

雅は私の姿を見てから不思議そうな表情を浮かべています。
どうしたのかな?

「秋子〜♪ 信二さんと何かあったわね?」
「えっ、どうして分かるの……」
「誰にだって分かるわよ、昨日と同じ服着ているもん」
「あっ!」

本当は朝、一度家に戻るつもりだったのですが……寝坊してここに直行したことを忘れていました。

「あ・き・こ♪ 後でその話を聞かせてくれるよね?
 そうか〜、秋子も信二さんとラブラブなのね♪」
「…………雅ったら〜、人に話すようなことじゃないよ」
「分かってないわね、それを聞くから楽しいんじゃないの」
「…………意地悪。なら、雅の事も聞いちゃうよ? 浩君とラブラブなんでしょう?」
「うん♪ えへへ、聞いて、聞いて、秋子、昨日ね……」
「雅、ちょっと……」
「あ…そうだね。じゃ、この話は後でね。じゃ、秋子、買い物に行こう♪」

そういえば、ここは駅前で人がたくさんいます。
さすがにこんな話をすると、私達、ちょっと浮いているように思えて恥ずかしかったのです。
その場を立ち去りたかったので、雅と一緒に私は早々にその場を離れます。

買い物を終えて立ち寄った喫茶店、隅の方のボックス席に私と雅は腰かけます。
なぜ雅がこの席をわざわざ選んだのか……その理由は察しが付きます。

「さて、秋子、信二さんとどんな感じなの?」
「話さないとダメなの?」
「親友の恋愛だもの、気になるの」
「……信二さんのアパートの鍵を貰ったの、自由に入っていいってことで。
 それで朝食作ったり、一緒に学校に出かけたりしているの。
 信二さん、忙しいけど、週末に時々デートしている」
「うぁ〜、秋子、それってまるで通い妻じゃないの。
 知らなかった〜……いつから、そんな関係になったの?」
「……去年の夏の終わりぐらいから」
「ということは、秋子、信二さんとラブラブHも経験した、かな?」
「…………そんなこと、言えないわ」
「秋子とは長いつき合いだもの。隠しても何となく分かるけどね」
「…………」

Cの経験があるかなんて、例え親友でも言えないわよ。
でも……雅には見抜かれているに決まっている。
雅も夏以来、随分雰囲気が変わったもの、きっと浩君と何かあったに決まっている。

「私ばかりずるいよ、雅。雅こそ浩君とどうなのよ?」
「うーん……秋子が想像しているような関係かな?
 つき合い始めはいろいろあったけど、今はいい仲だと思っているの♪」
「そうね、雅と浩君って、いいカップルだと思うわ」
「そ、そう? うふ、そう言われるとなんとなく嬉しいな♪」

あーあ、雅ったらすっかりのろけてしまっているわ。
でも、最近の雅も随分綺麗になった気がする。
やっぱり愛されていると綺麗になるのかな〜。

雅とこんな話をして居るとき、近くで私達を呼ぶ声がしたわ。

「雅、秋子、こんな所でなにしているんだい?」
「きゃっ、浩君!」
「あら、浩、こんなところで会えるなんて、なんか運命を感じるわね♪
 ね、ね、隣に座って……はい♪」

雅は自分の隣の空間をパンパンと叩いて浩を招き寄せたわ。
それに応じるかのように、浩君は席に座ったの。

「あ、ああ、別に構わないよ、暇だからね。
 でも、女の子同士の話に俺が混じって平気か?」
「大丈夫、大丈夫だって。話題も私たちの話だから平気よ」
「私達って、俺と雅のこともか?」
「……あはは〜」
「いくら秋子相手だからって、あまりベラベラ喋るなよ?
 恥ずかしいだろう?」
「いいじゃないの。だって私、幸せなんだもん♪」
「はぁ〜」

私と雅と浩君の3人でしばしの時間、雑談していました。
雅は浩の腕を取って、さっさと二人でどこかに出かけていってしまった。

今日は私と雅とのお出かけだったのに……
あ〜あ、年頃の乙女って、友情よりも恋なのね。
信二さん、これから会えないかな〜。
電話してみましょう。

プルルー、プルルル〜…………カチャ。

あ、居た♪

『はい、田代です。ただ今留守にしています。伝言のある方は……』

がっかりです。
私は目の前にあるレモン・ティーをすすりながら、これからどうしようかと考えを巡らせました。
その時、男の声で私に声を掛けてくる人がいました。
聞き慣れた声です♪

「秋子、お待たせ!」
「信二さん♪ どうして、ここに?」
「さっき、雅から電話を貰って。それで出てきた次第ってわけ。
 ”これから浩と二人でデートするから、ひとりぼっちの秋子をお願いね”なんて
 言われては、俺も出てこないわけにはいくまい?」
「そう……雅ったら〜」
「まぁ〜、いいじゃないか。そういえば、外でこうして茶を飲むのも久しぶりだな。
 さて、俺はと…………ブルー・マウンテンにでもするか」

信二さんは自分の注文をウェイトレスに告げたわ。
テーブルに届いたコーヒーをすすって、幸せそうな表情を浮かべている。
男の人がゆっくりコーヒーを味わうのって、見ているとなんか不思議な気分になる。

はぁ〜と息をはく信二さんの表情にちょっぴりドキンとしちゃった。
よく考えたら、こんな信二さんの表情、みたことなかったわ。
いつも、朝、ゆっくりコーヒーを飲む程時間がなかったわね。

「ところで、秋子はこの後どこか行きたい所があるのかい?」
「はい。なんとなく買い物がしたくなりました」

それから、私は信二さんと買い物にでかけました。
コーヒーメーカーとコーヒー豆とかをまとめて買い込んだのです。
どうしても、明日の朝からドリップ・コーヒーを淹れてあげたくなったからです。

信二さん、苦笑していました。

「そんなことしたら、毎朝、もう10分は早く来ることになるぞ?」
「そうですね♪ でも、幸せだから、いいんです」

ふふ、信二さん、気がついていませんね。
私、信二さんを起こす15分前にはアパートに着いて居るのです。
でも、寝顔を見るのが好き、それは信二さんには内緒なのです。

次の目標、決まりました。
信二さんに、秋子のコーヒーは最高だよ、そう言わせてみたいです。
二人で立ち寄った本屋、なにげにコーヒーの淹れ方、覚えました♪
さっそく明日からは……ふふふ、楽しみです♪

…………そんな私と信二さんの二人に日々は、突然音もなく崩れ去ったのです。


1週間後。

あーあ、今週末は信二さんとのデート、出来ない〜。

今週の土日、信二さん、サークルの仲間と山に登るって。
でも、信二さんにもおつき合いってものがあるし、駄々こねられないし……

私は宿題や予習をこなしながら、週末を家で過ごしました。
明日の朝になれば、信二さんに会える、それだけが楽しみなのです。

(信二さん、お休みなさい)

信二さんの写真の入ったスタンドを手にとり、そっと口づけて、私は眠りに就きます。


翌朝、月曜日。

朝6時、私はいつも通りに目を覚まします。
準備をして信二さんのアパートに向かいます。

こんな風にアパートに行くのも、これで1年以上になります。
アパートまで20分程、二度目の秋風の寒さが身に染みてきます。
玄関の前で、私は財布から信二さんの部屋の鍵を取り出して、静かにドアを開けます。

うるさくすると、信二さんが起きてしまい寝顔が見られなくなりますから。
リビングに鞄を置いて、信二さんの寝る部屋までゆっくりと歩いていきます。

いつものように…………あら?

信二さんが居ませんね。
外泊したのでしょうか……めったにそんなことはないのですが。

不可思議に思っていると、私の鞄の中にいれてある携帯電話が鳴りました。
急ぎリビングに戻り携帯電話を手に取りました。

着信表示に”水瀬浩”と表示されています。
浩君ですね。

「はい、秋子です」
『秋子? 俺、浩。
 こんな朝早くに電話を掛けて済まない。
 だけど、急用なんだ、勘弁してくれ』
「急用ですか?」
『ああ。とにかく、今、秋子はどこに居る?』
「信二さんの部屋ですけど」
『そうか……それで連絡が行ってないんだな。
 いいか、秋子、よく落ち着いて聞けよ。
 今朝、俺に、信二さんの両親から電話があったんだ。
 それで……信二さんが山で事故に遭った、そう伝えてきて。
 信二さんは華音中央病院に運び込まれて……意識不明の重体だと。
だから、秋子、急いで華音中央病院まで来てくれ。
雅には俺が連絡する』
「信二さんが……意識不明の重体……」

私は手に持っている携帯を落とし、その場に膝から崩れ落ちました。

意識不明?
嘘……嘘でしょう?
先週まであんなに元気だったのに。

私は部屋を飛び出し、タクシーを拾い、急いで病院に向かいました。
病院の待ち合いロビーに浩君がいました。
そばには、男女が一組、私のよく知る信二さんの両親が居ました。

「秋子!」

私の姿を見つけると、浩君は声をあげて駈け寄ってきました。

「信二さんは……信二さんは!」
「……危篤らしい」
「そ、そんな……嘘、嘘だと言ってよ〜! ねぇ〜、嘘だと言って〜!」
「秋子……とにかく……」

集中治療室にいる信二さんの姿が痛々しかった。
でも、目の前にいるのは、確かに信二さんだということが分かる。

「秋子さんですね……同じサークルの山瀬といいます。
 こんな事態になって本当にすいませんでした。
 田代さんは仲間を助けようとして転落し、そのまま川に落ちて流されたんです。
 救助を呼び、仲間も必死に探したのですが……申し訳ありませんでした」
「あなた達が……あなた達が……
 どうして信二さんだけがこんな目に遭わなければならないの!
どうして! ねぇ〜、どうして……」
「秋子!」
「離して!」

私は動揺して、山瀬さんという人に掴みかかってしまいました。
そんな私を浩君が制止しようとしてくれていました。

「”身体の方の傷は問題ないと思います。
 ですが、体を冷しすぎたのが原因なのでしょう、意識が戻らないなのです。
 もし、意識が戻らないようであれば、恐らくここ数日が峠となります。”
 お医者様がそう仰っていました」

医師がそう言っていたと、両親が私に教えてくれました。


そして数日後、実家で信二さんは静かに息を引き取りました。
信二さんの葬式が執り行われ、私と雅、それに浩君が参列しました。

「秋子……大丈夫?」
「雅……私、信二さんの部屋に行くね。
 信二さんの部屋、今月末で引き払われることになったから。
 さっき、両親から信二さんの形見分けをして欲しいって言われて」
「そう……それなら、私と浩も一緒にいった方がいいかな?」
「うん」

私と信二さんとは幼なじみで恋人同士の間柄、両親は結婚することになってもいいと思ってくれていたようです。
せめて信二さんの形見だけでも受け取ってほしい、私はそう言われました。
恋人同士の思い出の品は全て私が受け取ってほしいと。

私は雅達と信二さんの部屋を訪れました。

ここには私が信二さんと過ごした思い出がたくさんあります。

私が信二さんに贈った誕生日やバレンタインのプレゼント……幼ななじみの頃の私たちの思い出の品。
二人の写真、私の好みで選んでくれた調理道具、一緒に聴いた音楽CD、私の書いたラブレター……恋人として過ごした日々の思い出の品。

「秋子、美味しいよ。さすがだね」
そう言って貰えた私の淹れたコーヒー、それを淹れる時に使うコーヒーメーカーはいつもの場所に置かれている。

私が信二さんに初めて抱かれたのも、この部屋でした。
不安だらけの私に本当に優しかった信二さん、その出来事は今でも思い出せます。

でも、そのベッドの主はもう居ないのです。
私はそのベッドを背にかけて、床に座り込みました。
両足を抱え込むように、私は……泣き崩れました。

泣いて、泣いて、泣き崩れて、疲れて眠り果てるまで…………


【浩】

やっぱり泣いてしまったか……無理もないな、昔は泣き虫秋子だったぐらいだし。
でも、信二さん、俺は貴方が少し羨ましいですよ、これほどまでに秋子に愛されて。
仮に俺が秋子の相手だったら、きっとこれほど悲しんでは貰えないだろう。

「浩……秋子、大丈夫かな?」
「……今はそっとしておいてあげよう。
 秋子、泣き疲れて眠っているみたいだから」
「そうね……」

俺は、静かに秋子を抱き上げて、ベッドに寝かしつけた。
その秋子に、雅はそっと毛布を被せ、ティッシュで目元を拭ってあげた。

「元気だせよ、秋子。俺たちが側にいてやるから」
「そうよ、秋子。私達、親友でしょう?
 こんな時ぐらい頼ってくれていいのよ」

俺は信二さんの両親から預かった鍵で、玄関の扉を閉めて、雅と一緒に信二のアパートを出た。
それから雅を家まで送り、自宅に戻った。

「あれ、俺の財布、どこにあるんだ?」

自宅の玄関を開けるために財布の中にいれてある鍵を取り出そうとしたが、俺のどのポケットにも財布が見つからない。
落としたのか……えーと……思い当たる節は……信二さんの部屋で財布を出した時ぐらいだな。
仕方ない、戻って探してみよう。

そして、俺はもう一度信二さんのアパートに戻った。
だが、玄関の扉を開けた時、俺は不意に違和感を抱いた。
今さっき俺が鍵を掛けた時と何か様子が違っていたからだ。

さっきと違って灯りがついているが、人はいない。
ここには秋子以外には居ないはずだ……起きたのかな?

「秋子〜、起きたのかい?」

俺は玄関に入ると、俺は声を掛けて、秋子を捜した。

「……浩君?」

ベッドのある部屋から秋子のか弱い声が聞こえてきだ。

「秋子……もう大丈夫なのか?」
「大丈夫……じゃない。
 だって……私にはもう何も無いんだから。
 ダメだよ……これから、私、どうやって生きていくの?
 不安だよ、自信ないよ」

寂しそう、哀しそう……どんな形容詞も当てはまらない秋子の言葉に俺は驚いた。
信二さんが亡くなってから、俺は秋子を注意深く見ていたが、こんな秋子を見たのはこれが初めてだった。
ならば、ずっと堪えて我慢してきたのだろう。

俺はかなり困惑したが、やっと秋子にかける言葉を見つけ、口にした。

「何を言っているんだよ、秋子。まだ俺達だっているじゃないか?」
「無理よ……だって、浩君は私の彼氏じゃないもの。
 私の恋する気持ちは信二さんにしか埋められないよ。
 二度と恋なんてできない、人を愛するなんてできない。
 信二さんは、信二さんは私の運命の人だったんだもの」
「運命の人……か……」
「そう……運命の人」

思えば4人は不思議な出会いなのかもしれない。
それが運命の導いたいたずらなのかもしれないな。

秋子は信二さん一筋で恋をしてきた。
信二さんはそれを受け止め、二人は晴れて恋人同士になった。
俺は秋子に思いも告げられず振られ、雅と付き合っている。
雅は幼い頃から俺一筋だって言っていた。

ずっと結ばれて恋人同士で居られたなら、幸せな運命だろう。
だが、現実はどうだ?
秋子は運命の人だと思った人を喪った。
これからだという時に。

信二さんと秋子が結ばれた様子を見ていた俺の姿に、秋子の姿が重なって見えた。
同情……その気持ちだけなら、良かった。
悲しみにくれる秋子は、俺の秋子に恋する気持ちを思い出させてしまった。

「俺が秋子の彼氏だったら、秋子をこんな風にしなかったのにな……」
「えっ? 浩君、何を言っているの!」

口が滑った、いや、俺の本音が出てしまったのかもしれない。
俺は今でも秋子に恋をしている、叶わない恋だと諦めてもくすぶり続けたそんな想いを、
…………俺は秋子に対して抱いている。

「秋子……俺は、秋子が好きなんだ。だから、今の秋子を見るのは辛い」
「浩君には雅という彼女がいるじゃない。ダメ! ダメだよ、そんなの」
「雅とは……別れる。自分の気持ちに嘘を付けない」
「ダメ! ダメだよ。雅は浩君のこと、誰よりも愛しているんだよ?
 そんなことしたら、雅は……」

俺は秋子を強く抱きしめていた。
秋子はその俺の気持ちに気が付いたのだろうか、強く抵抗することはない。
だが、雅の事が気になっているのだろう、どこか懇願するような表情を浮かべている。

「俺の事が嫌いなら、俺を拒んでくれ!
 俺の事が好きなら、俺を受け容れてくれ。
 俺は信二さん以上に、秋子のことを愛する、それだけが俺の本心だ。
 きっと秋子に運命の人だって思わせてみせる!」
「浩君……」

この夜の出来事の事を、俺は一生忘れることはないだろう。
俺は、彼女を裏切り、悲しみにくれる少女を選んだのだから。

「お願い、浩君……今夜有ったこと、全て忘れて……。
 そうしてくれないと、もう、私はあなたを友達とさえ呼べなくなってしまう」
「昔には戻れない……俺は秋子が好きなんだ」
「ダメよ……これ以上雅を傷つけるなんて、私には出来ない。
 だから、今後も雅の彼氏としてきちんと彼女を愛してあげて」

そう言うと、秋子は俺の胸の中で、泣き始めた。
きっと秋子は俺に同情してくれたのかもしれない、ゆえに俺の望むままに受け容れたのだろう。

俺は心の中に空虚に近い感情を抱いていた。
本当にこれで良かったのか、と。
俺が望んだことは秋子に愛されたいということだった、だが、俺は人に愛し方を知らなかったのかもしれない。







後書き

佐祐理:「うわ〜、SILVIAさん、秋子さんをこう描いて大丈夫ですか〜?」
作者:「話はまだ終わっていないよ。
    第1章のクライマックスはここから始まるわけだし」
美汐:「SILVIAマジックですか?」
作者:「まあね。
    今回のネタはかなり強烈で、秋子さんや雅さんでないと無理だとは思うけど。
    SSのテーマ、甘いネタばかり並べると思ったら大間違いです。
    愛はそんなに単純なものではありませんから」
美汐:「つまり、Kanon高校生ヒロインでは役不足な深いレベルということですか?」
作者:「そう。
    あれほどの思慮深さは、普通相当の人生経験を積まないと身に付かない。
    ならば、ビフォア・ストーリーでソレ相応の経験を積んで貰う」

名雪:「SILVIAさん、お母さん手製のジャム、届けにきたよ♪
    よくわからないけど、お母さん、凄く張り切っていたみたい」
作者:「…………」

  作者は同梱された手紙を読んだ。
   「これほどの話を書く以上、相応の結末を用意してくださるんですよね?
    ともあれ、SILVIAさん、お体に気をつけてください♪
    ジャムは私の気持ちです」

<作者・シルビアよりSS読者の皆様へ>

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