側にいると安心できる。
一緒に紡ぐ時間が、二人の心を繋いでくれるから。

だけど、不安な気持ちにもなるの……私の知らない貴方がいるから。









蒼き新星45万HIT記念
 
系譜
第1章 秘められた想い
 
第5話 深愛 II
 
シルビア








【秋子】

(ここが、お兄様の通っている大学なのですね)

お兄様というのは田代 信二、今は私の彼氏なの。
でも、年上の幼なじみで、今でも”お兄様”というのが癖になったままなのよね。

大学構内に入った私は約束している9号館の学内喫茶に向かっていた。
道の脇にはたくさん庭があったりして、大学って結構広い所だって思った。
道行く学生らしき人たちもいて、恋人らしきカップルの姿もちらほら見かける。

「ね〜、彼女、今暇かな?」
「えっ……あ、あの〜、私はここの学生ではないので……彼と約束していて……」
「えっ? あ〜、なんだ……彼氏がいるのか……ごめん、それじゃ!」
「あ、は、はい!」

構内を歩いていて、結構格好のいい男子に声を掛けられた。
大学生って、あんなに開けっぴろげに告白したりするんだ……ちょっと、びっくり。
よく見ると……肩を寄せ合う、芝生で膝枕しているカップル、腕を組んで歩いているカップルもいる……すごいかも。

でも、ああいう関係、羨ましいな〜。
私達恋人です〜、と人前で言えるのって……恥ずかしいけど……ちょっと、してみたいかも♪
お兄様に、”あ〜、紹介するよ。この娘は俺の彼女の秋子。”、なんて言われたら……あっ、もうだめ〜、私、赤くなっちゃう〜、きゃっ♪


待ち合わせの場所にいったら、お兄様が居た。
他の男女も一緒みたいね……へ〜、どんな話しているのかな、聞いちゃおっと♪

(いや〜、今日のゼミ、きつかったな〜。信二はどうだった)
(そうだな〜、俺は発表がなかったからそうでもなかったかな。でも、来週は俺の番だし、頭いたいよ)
(え〜? 信二君、頭いいもん。そんなことないんじゃない?)
(水凪さん、俺がそんなに頭いいなんてわけないよ。苦労しているんだよ、俺)
(ふーん、信二さんがね〜……余裕なのかと思っていた。
 へへ〜、案外、恋の方も同じだったりして)
(そ、そんなことないよ。ドキドキばかりさ……)
(ほほ〜、そのセリフは……さては、彼女居るんだね〜♪)
(いや、彼女ってほどの……単なる幼なじみだよ。……付き合って間もないし……)
(ほほう、さすがは信二君ですな。幼なじみとは…光源氏計画を遂行していると)
(やめろよって……勘弁してくれよ)
(だーめ……でも、その子を紹介してくれたら勘弁してあげてもいいかな♪)


(えっ、わ、私のこと……そ、そんな……でも……
 でも、お兄様……彼女っていってくれるかな〜
 ……でも、さっき……”単なる幼なじみ”だって……)

私の心に少しだけ不安がよぎった……私、お兄様の彼女になれてない?
そんなこと……ないよね、お兄様……

「おっ、秋子、来てたのか?」

あ、気づかれた。

「…………」
「どうした、秋子? ……こっち来て座れよ」
「う、うん」

私は言われるまま、お兄様とその友達らしき人たちの輪に入った。

「秋子…って、随分親しそうね。この子が今話していた子なの?」
「ああ、幼なじみで二宮秋子っていうんだ。
 秋子、こっちが俺の基礎ゼミの仲間で、洋介と水凪さん」
「あ、初めまして、二宮秋子といいます。
「水凪よ、よろしくね。ふーん……随分若くて可愛い子じゃない。高校生かしら?」
「あ、はい。今、高校1年生です。えーと、お兄様とは…………」

でも、人前ではとても恥ずかしくて言えないわ……彼氏だなんて。

「……お兄様? じゃ、信二君の彼女じゃないんだ。妹さんなの?」
「そ、そういうのじゃなくて、あの……その……」

でも、こういう時は言わなくちゃ……いけないんだよね……

「あは♪ 照れているの…可愛い子ね♪」
「水凪、それぐらいにしてくれよ。秋子は恋愛ごとには慣れてないんだから」
「ほほ〜、信二、やけに優しいね♪ さすがは彼氏といったところか?」
「洋介までからかうなよ。そりゃ、秋子は俺の……」
「彼女ってわけだ?」

えっ? あ、あの〜、お兄様……

「はは……まだつき合い初めて間がないし、幼なじみの感覚がぬけてないよ」
「ふーん……そう。いいね〜、つき合い初めってあたりが初々しくて♪」

水凪さんが言葉を発する度に、ドキドキしてしまう。
でも、お兄様に……彼女だって言ってほしいな……

「そうだ、信二…今度、俺のサークル主催するディスコ・パーティ、彼女と一緒にくれば? 相手がいないと寂しいぞ?」
「俺と秋子が? ……秋子はまだ高1だから、ディスコはちょっと早いんじゃ……」
「お兄様……」
「ほらほら、誘ってほしがっているじゃないか。じゃ、彼女の分のチケット渡しておくぞ。特別に2000円にまけておくから。連れてこいよな、ちゃんと♪」
「そうよ。信二君、彼女を連れてこないと、他の子にもてちゃって大変よ?」
「おいおい、水凪……俺はそんなにもてないって!」
「嘘よ! 現に、信二君を好きだって人、同じクラスにもいるわよ?」
「そうだな、信二は確かに女にもてる!
 この間も、新歓コンパでもいい雰囲気の子がいたしな、羨ましいぞ♪」
「……………」

私、ちょっとショックだった。どうしてかよく分からないけど、ショックだったの。

「あっ、私……悪いこと言っちゃったかな
 ……彼女のいるところでの話ではなかったわね。
 ごめん、私、用事を思いだしたわ! それじゃ」
「信二……ごめん、あとのフォローは頼むわ。
 じゃ、彼女、パーティーには連れてこいよ? それじゃ、俺もこれで……」
「おいおい、お前らな〜!」
「ばいばい!」「じゃ〜な〜」

二人きりになっちゃった。
どうしてだろう……なんとなく、気まずい。

「……………」
「……………」
「……………お兄様……」
「……な〜、秋子、ディスコ……一緒に行くか? チケット、買っちゃったし…」
「……う、うん。お兄様が一緒なら……行きたい。行ってもいい?」
「ああ。じゃ、来週の日曜日、チケット、渡しておくよ。
 はい、これ。待ち合わせは後で決めよう」
「……うん。……ありがとう」



翌日の昼休み、中庭にて。

私は木の周りのベンチに腰かけて、財布からチケットを取り出し眺めた。

(ディスコ……か。やっぱりお洒落していかないといけないよね……)

ふと、私の手元からチケットが離れていった。

「何してるの、秋子?
「あ、雅〜!」
「……へ〜、ディスコのチケットじゃない。
 ……秋子がディスコに行くなんか珍しいね、どういう心境の変化かな?」
「えっと……それ、お兄様に貰ったの……その、誘われて」
「信二さんが?」
「……うん、来週の日曜日にって。本当はね…ちょっと困っているの」
「確かに、秋子がディスコに行くって、ちょっと意外だね。踊るって感じでもないし……」
「ううん、それはまだいいんだけど……私が行かないとお兄様に他の女性から声がかかるんじゃないかって。
 ほら……お兄様って、そこそこ格好いいとは思うし、クラスメートの人もお兄様はもてるって言っていて……ね、雅もそう思う?」

雅がちょっと真剣な表情で私の話を聞いてくれている。
私もこんな話は雅に話すのが一番楽な気がする。

「信二さん? うーん……幼なじみだから、あまり気に掛けたことはなかったけど、よくよく考えれば格好いい人かな。
 頭もいいし、ルックスもスタイルもそこそこ、結構スポーツも得意な方だしね。
 それといって欠点があまりない。
 ま、私には浩がいるから全然気に掛けないけど、言われてみれば彼氏にするならいい相手かもしれないわね」
「……やっぱり、そう思う?」
「そうよ。でもね、秋子だってまんざらでもないわよ。結構、秋子が男子にもてるっていうの、知っているわよ♪
 今日だって、秋子宛にラブレター渡してくれって男の子いたもん♪」
「雅ったら……」
「あはは、でもね、秋子が頑張れば、そうそう信二さんを他の女に取られることってないと思うよ」
「そうかな……」
「そうだって!
 でも、ディスコ、何着ていくの? なら、一緒に買い物にでも行かない?」
「う、うん。雅……一緒に行かない?」
「だーめ! その日はね……浩とデートが入っているの♪」
「そ、そうなんだ……うまくいっているんだね、よかった♪」
「そりゃ、私の裸まで見られた仲……って」
「裸? えっ、雅、まさかもう……!?」
「い、いや、何でもないの。それに、ただ見られただけで……え〜と、何言っているんだろう、私……まあ、いいじゃない、秋子、ね?」
「うん、聞かないでおくね♪ でも、あれって気持ちいいの、雅?」
「あのね……秋子……可愛い顔でさりげなく誘導尋問しようとしてもだめよ!」
「あは♪ ごめん、ごめん、雅」
「も〜、秋子ったら!」


それからお兄様と約束した日曜日、私はディスコに行った。

(お兄様、遅いな〜、まだかな〜)

店の中、カウンターに座ってお兄様を待っていたの。
ちょっと背伸びして、ボーイの奨める酒を少しのんじゃった。
えへへ♪ カクテルって、案外、美味しいかも♪

(あ、お兄様!)

入り口の方に、お兄様が姿を見せたから、私、ゆっくりと出迎えに行こうとした。
その時、お兄様の方に女性が近寄って、なにやら腕を組んだりしていた。
綺麗な人……ルックスも凄く綺麗……私、勝てる自信がなかった。
私はちょっとその場に立ちすくんでしまっていたけど、その足はディスコからつい出て行ってしまった。

(……馬鹿。馬鹿、馬鹿。お兄様の馬鹿……こんな光景を見せたくて私を誘ったの? 私、私……)

「秋子〜!?」

去る私の背後から、お兄様が声を掛けてくれた気がした。
でも、私の足は店からどんどん遠のいていった。

せっかくお洒落したのに……
ちゃんと、化粧だってしてきたんだよ……
今日のために、洋服も雅と一緒に選んだのに……
お兄様の…………馬鹿ぁ〜、……馬鹿。馬鹿、馬鹿。お兄様の馬鹿!

頬が暖かい……私……泣いているのかな……
どうして……これが嫉妬なの?

「ほら、貸してやるよ」
「……お兄様?」

そのとき、私の目の前にお兄様がいた。
その手にハンカチを持って、私に差し出していた。

「ごめんなさい、お兄様……私、つい…」
「いいって、秋子。俺が誤解させたのが悪いんだから」
「お兄様……本当に私が彼女でいいの? もてるんでしょ、それなら他の人を好きになったりしない?」
「馬鹿……俺の彼女はお前だけだって。他の女の外見がよくたって、秋子の心の純イサの魅力の前には何も叶わないさ。
 好きだよ、秋子。信じてくれるか?」
「お兄様だもの……いつでも、信じているわ。でも、私を嫌いになったら……その時はちゃんと私に言ってね? ……お願い!」
「不安なのか?」
「……うん。お兄様の彼女になれたけど、私の知らないお兄様、たくさんあるから。
 おかしいよね……幼なじみなのに……それでも分からないこと、たくさんあって」
「秋子の知らない俺?
 ……そうか、もっと一緒にいないとダメだったのかな。
 それなら、秋子……今度ドライブにでもいかないか?
 俺、車の免許をとれたし、中古だけど車もバイトして買ったんだ。
 ごめんな、バイトばかりで、デート、あまり出来なかったね。
 でも、最初の助手席は、秋子に乗ってほしいんだけどな、ダメか?
 ほら、その、なんていうか……ちょっと、初心に返ってデートでもしたいな、と」
「デート……してくれるの?」
「ああ、他に誰とデートするって俺が言うんだい?
 秋子だけだよ、俺が誘いたいのは」
「……うん、連れて行って……お兄様と行きたいわ、私」



次の休みの日。

私が出かける準備を済ませた頃、お兄様が家に迎えに来てくれた。

「あら、信二さんじゃない? いつのまにか、ずいぶん大きくなって」
「ご無沙汰しています、春子さん。えーと……その、今日は、秋子を迎えに来たんです。
 居ますか?」
「はは〜、デートってわけね? それで秋子ったら今朝から張り切ってるのね……」
「あ、あは、あはは……なんていうか、その……今、互いに付き合っているので」
「やっぱり? 待っていて! すぐに呼んできてあげる……って、あら、秋子?」
「……………」(ポッ)
「信二さん、どうやら、秋子はずっと貴方をお待ちかねだったようね?
 やれやれ……恋をするとこういうことに敏感になるって本当だわね」
「お、お姉様!」
「はいはい、行ってらっしゃい、秋子。
 仲良くね♪……お母さんはごまかしてあげるから、今日泊まってきてもいいわよ♪」
「……………」(ポッ)


「やれやれ……、さて、お姫様、お乗り下さいませ」
「は、はい」
「それでは、まいりましょうか、お姫様」

お兄様の愛車はセレナ、6人以上乗れるワゴンタイプなんだって。
とっても意外だったけど、中古が安いし、サークルとかだと重宝しているって言ってた。
車は市内から2時間ほど行った西華音高原にある美伊予美術館に向かった。
二人は美術館で絵画や彫刻作品を見て回り、美術館の近くにある丘に二人で腰かけた。

「あ〜、腹減った。早く食べようぜ? 秋子の弁当、楽しみにしてたんだから」
「も〜、せっかく芸術鑑賞をしたばかりなのに、ムードのないお言葉ですこと……」
「いや〜、芸術作品をたくさんみたところでお腹がふくれるわけじゃないからな」
「はい、はい。……たくさん食べてくださいね」

広げられたランチ・ボックス、かなりの量……それでも、嬉しそうにお兄様はゆっくりと平らげていった。

「な〜、秋子。昔さ〜、よく俺に食べさせてくれなかったか? あーんってさ」
「……そ、そんな昔のこと……どうして覚えて居るんですか……恥ずかしいです」
「無理矢理、思いだしたんだよ。今、してほしくなったから……ダメか?」
「ダメ……じゃないです……じゃ、はい、あーん♪」
「あーん……って、やっぱ恥ずかしいな、これ……」
「も〜、お兄様が言い出したんですよ、責任とってください。はい、あーん♪」
「……あーん」
「はい♪」

なんか不思議……こんなに大きくなった人に、こんな子供っぽいことするなんて。
あはは、照れてる、照れてる……可愛い♪

「ごちそうさまでした」
「お粗末さまでした」
「ちょっと横になってもいいか?」
「食べてすぐ寝ると牛になるっていいますよ? でも…いいですよ。運転、疲れましたでしょうから」
「そうか、じゃ〜、少し横になるよ。芝生で寝るのが好きでね。大学でもよくこうして昼休みに10分ぐらいゴロンとするのさ。頭がリフレッシュしていいんだぜ?」
「まぁ〜、いつもそんなことしてたんですか?」
「そうさ。ふぁ〜、お休み」
「はい♪」

ランチボックスをかたづけていると、お兄様の寝息が聞こえてきた。
本当に寝付きがいいのね、驚きました。
あ、そうだ♪ ……ふふふ、お兄様、驚くかな?

うわ〜、お兄様、なんて可愛いの♪
(むにゃ)
……あ、くすぐったい……だめ、お兄様、あんまり動いちゃったらダメ〜!
ふふ……お兄様の頭、ころころしてて暖かい……

「あれ? あ…秋子…俺、一体?」
「どうでした、私の膝の上は?」
「……気持ちいい……このままもう少しこうしていたいな」
「嬉しい♪」

抱きついちゃった♪
あれ? どうしてお兄様、なんかさっきより顔が赤いような?
あら、お兄様、起きあがっちゃったみたい。

「秋子……あのさ〜、もう1回、今みたいなことしてくれる? その、ぎゅって…」
「えっ? あっ!」
「ダメ?」
「…………いいえ、お兄様が心地がいいのでしたら……」

恥ずかしいけど……お兄様の顔を私の胸に埋めて、ぎゅっと抱きしめて……

「……ずっとでも、こうしていたいです、私」
「秋子……心地いいよ。……ずっと、こうしていたいぐらい」

……ポツリ…ポツリ…ポツン、ポツン

「雨、降ってきましたね?」
「そうだな、じゃ、急いで車に戻ろうか」

……ザー、ザー

「うわ、マジで降ってきた。……秋子、ほら、入れ」
「お兄様? ……あ、うん」

お兄様、上着を脱いで、頭上で広げて私を入れてくれた。
男の人の上着って、大きいのね……

「げー、びしょびしょ……うわー、上着、絞れちゃうよ」
「ごめんなさい、お兄様、私のせいですよね?」
「いや、そんなことない……」

あれ、お兄様、どうして私から急に目をそらしたの?
私、何か変かな……あ〜! 私のブラウス、濡れて透けている〜〜〜〜!

「……秋子、ほら、タオル。小さいのしかないけど……」

やっぱり見られているよ〜……恥ずかしい。

「見てない……よね?」
「……ああ」
「でも、本当はしっかり見たのよね?」
「ああ」
「やっぱり〜! お兄様のエッチ〜〜!」
「あっ! すまん! その、悪げはなかったんだよ、本当だって!」
「横向いていて……ちょっとだけ、見ないでね……」
「う、うん」

タオルで少し乾かして、タオルを返すと、それで頭をふいていた。
お兄様、運転席に戻りエンジンをかけて、エアコンを入れてくれた。

「服を乾かそう。しばらくこうしているから」
「うん」

雨足が強くなって、車を激しく打ち付ける音がする。
フロントガラスとドアの扉窓が曇って来て、視界は何も見えなくなった。
後部シートの窓はスモークのように濃くて、内からですら外がほとんど見えなくなった。

外は大雨、車の中はまるで二人だけの密室みたいだった。

「……雨足、強いね」
「……ああ。ちょっとこれだと運転し辛いから、しばらく車内で休むとするか」
「……そ、そうね」
「………………」
「………………」

沈黙が私達の間に横たわった気がした……言葉が出ない、まるでそんな時間に支配されているかのように。
横には、お兄様がいる。
二人だけ、その嬉しさと緊張が……私を沈黙に耐えられなくしてしまう。

「お兄様」「秋子」
「「何?」」

タイミングぴったり…お互い、プッ、と吹き出した。

「秋子と一緒で、こんなに緊張するなんて、今までほとんどなかったな」
「そうね。私もお兄様と一緒にいて緊張するなんて、思ってもみなかったわ」
「付き合って、恋人になったって意識したせいかな?」
「……うん、私もそうじゃないかって思う」
「秋子、昔のように、自然に付き合うのって、もう無理なのかな?」
「昔の方がよかった?」
「いや、今の方が……多分、幸せな気がする。……こんなにドキドキしているから」
「そんなこと言わないで……私まで、ドキドキしちゃうから……」

「秋子……」「お兄様……」

どちらからともなく、自然に唇が重なった。
いつもは、お兄様か私か、どちらかが意識してキスしてきたけど、こんな風に息が合うように近づいてキスしたのは、これが初めてかも。
キスって……こんな風に出来るんだね……初めて、知った。

もっと触れていたい、そんな気持ちが私の中で激しくわき起こる。
唇だけがふれるようなライトなキスではなくて
……恋人だからできる、交わすようなキスなのかな。
お兄様から、そして、私から、お互いに求め合うような長い時間を感じる。
……いえ、どれだけ経ったか分からないような、そんな求め合う二人の気持ち。
私、お兄様とこんな風に触れることが……出来るのね。

唇を離して、お兄様の瞳を見つめると、私、とろけるような甘美な気持ちになっていた。
その気持ちが私の唇を再び、お兄様のそれに重ねていた。
受け止めてくれるお兄様の唇が、とても暖かく感じた。

「秋子、好きだよ」
「嬉しい♪ ……私もお兄様のこと大好き」
「きっと、昔には戻れないね……」
「……ええ。私も、もう、単なる幼なじみに戻りたいとは思わないわ。
 ……こんな素敵なお兄様を知ってしまったから」

時がずっと止まってくれたら……ダメ、だよね。

「……雨……止まないね」
「心配するなよ、秋子。遅くなってもきちんと送るから」
「……送ってくれなくても……いいの。
 こんな雨の中の運転危ないから……そんなのダメだよ」
「そうだな、しばらく様子を見るか」
「……いいんだよ、泊まっても……」
「えっ? あ、ああ、そうだな……秋子がいいなら……」

お兄様、携帯電話を取り出して宿を探している。
なかなか見つからないみたい……あ……見つかったんだ。

しばらくして、雨足が少し弱くなると、お兄様、車を走らせたの。
車は少し古い和風旅館の前に止まったわ。

「申し訳ありません、せっかく若くて素敵な”夫婦”にいらしていただいたのに。
 今夜はお客様が多くて、あまりいい部屋を用意できませんで」
「……い、いえ…あまり、お気になさらず……」
「……は、はい、そうですね」

若夫婦に見えたみたい……ちょっと恥ずかしかったわ。
仲居に通された部屋、8畳1部屋・窓際に座椅子が並んだスペースがあるこじんまりとした古い部屋だったの。
しきるものとして、木のついたてがあったけど、本来は一人用の部屋だったの。

大風呂でゆったりと体を温めて部屋に戻った。
お兄様、窓際でビールを飲みながら、ぼんやりと外を眺めていたみたい。

ふとん、2組敷かれていた。
それに、間に敷居が立てられていた。
お兄様が気を遣ってくれたのかな。

お兄様のビール瓶を手にとって、グラスに注いであげた。

「秋子も飲むか? 飲める口だって雅に聞いたことあるぞ?」
「……えへへ♪ ちょっとだけ私も頂こうかしら」
「本当はいけないんだが、まあ、いいとしようぜ」

2,3本のビール瓶が空になった。
私もお兄様も少しほろ酔い気味になった。

「な〜、秋子。俺のこと、今でもお兄様のように思っているのか?」
「えっ? お兄様……いけなかった?」
「俺は大分前から、秋子を従妹とは思えなくなっていた……好きになっていたから。
 でも、お兄様と慕う秋子を見ていて、なかなか気持ちが吹っ切れなくてな……
 今でも変わっていないな」
「私、信二さんと呼んだ方がよかった?」
「それも、それで今更照れくさいんだよな。まったく難儀だよ」
「じゃ、信二さんは”お兄様”のままでいてくれてもいいな〜♪
 でもね、お兄様は私の彼氏、そう思っているから安心してね♪」
「秋子、お前は俺の彼女だよ」
「……私ね、その言葉、ずっと聞きたかったのよ。
 お兄様…もてるから、私、ずっと心配になって」
「俺なんかもてないって! 俺は……俺は……ずっと秋子一筋だよ。
 えーと……そろそろ寝よっかな」
「あ〜、お兄様ったら♪」

もっと彼女だってはっきり言って欲しいのに……
でも、嬉しいな♪ 彼女だって……きゃっ♪

床に入ると、ちょっとついたてが気になる。
その下から、手を差し出してみる……お兄様、気が付いてくれたのかな、私の手がお兄様の手に握られていた。

この雰囲気……私とお兄様の関係とちょっと似ているかも。
どこか心に境界みたいなものがあって、その境界の先にはいつもお兄様の存在を感じて居られた、そんな今までの私達の気持ちに似ているみたい。

でも……このままではいけない、そんな気持ちになる。
恋人になって、お兄様の気持ちもたくさん分かって、私、ちょっと変わったんだ。

手を離し、体を起こし、ついたての反対側に行った。
お兄様、とても驚いていた。
私は掛け布団を少し持ち上げ、自分の体を布団の中に滑らせたの。

「……お兄様」
「秋子?」
「……教えて、お兄様。どうやったら、お兄様を喜ばせてあげられるの?」
「……………」

お兄様、考え込んでしまったみたい。
でも、答えてくれた。

「ほら…腕枕してあげるよ。だから、楽にしてなよ」
「お兄様の胸と肩……広いね」
「秋子だって……柔らかくて暖かいよ。これで、十分幸せだよ、俺は」
「……いいの、お兄様?」
「……言わせるなよ、秋子。
 一応これでもお兄様なんだから、秋子から誘われたなんて、ちょっと恥ずかしいし面目がないよ。
 今度は俺から誘うから、今夜は……こうして二人ですごさないか?」
「いいよ。こういうのって好き♪」


なんでなのかな、翌朝、私はとても幸せな気持ちだった。
それに、いつもよりもお兄様が大人の男性に思えたの。
支度を終えて部屋を出た。
お兄様は会計を済ませて、玄関にいる私の所にお兄様が近づいてきた。

「秋子、行こうか?」
「はい、あなた♪」
「あ、あなた〜?」
「いいじゃない、あなた。ここでは夫婦に思われているんだから? えへへ♪」
「はぁ〜、やれやれ」
「昔、ままごとにちゃんと付き合ってもらえなかったもん♪ だから、あなたなの!」
「はぁ〜、これならお兄様の方が……まだ、よかったかな〜」


秋子にからかわれて、信二のの脳裏に浮かんだとある情景……
*******************************************************************

「信ちゃん、ただいまは?」
「…………秋子、やっぱやめようよ、ままごとなんて、俺、いやだよ」
「(ぐす、ぐすん、うわーん)……信ちゃん、意地悪だよ〜」

*******************************************************************

「ふふ、冗談ですよ♪ じゃ〜、お兄様、行きましょう♪」
「お兄様か、……まあ、いいか」









後書き

名雪:「SILVIA、おかあさん、いろんな性格をしてるんだね」
作者:「まあね」
名雪:「でも、すごいシチュエーションばかりじゃないの?
    あまり、お母さんのことを酷く書くと……知らないよ」
作者:「一応……気を付けている」
名雪:「今日も、お母さんからSILVIAさんにってジャム瓶を持ってきてるんだよ?」
作者:「げっ……見なかったことにしておく」
名雪:「うーん、どうしようなか〜?」
作者:「百花屋のイチゴサンデー、それも3杯でどうだ?」
名雪:「あ、ごめんね。預かったもの、家に忘れたきた! 今度、もってくるから」
作者:「(持ってこなくていいよ〜、名雪〜)」




<作者・シルビアよりSS読者の皆様へ>

作者・シルビアは永らく寄稿専門で活動していましたが、2004.1よりHPを開設しました。
シルビアの全作品はここに掲載していますので、他作品も見たいと思われた方は是非いらしてください。
これからも読者の皆様に愛されるSSを書いていきたいと思います。

Home Page 「風の妖精 〜シルビアの居城〜


また、シルビアは、風の妖精HPにて、「投票」と「掲示板」によって読者の皆様の声を頂きけたらと考えています。
ほんの少しのお時間を割いて、ぜひ皆様の声を作者のシルビア宛にお伝えくださると嬉しいです。

※サイト内でも利用できますが、投票及び掲示板のショートカットを下に掲載しますのでご利用ください。

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