ただ君だけを想えることができたから、俺は勇気を持てた。
 









最後の真実
 
エピローグ
 
シルビア











数年の月日が流れた。


「行ってらっしゃいませ、潤様。お気を付けて」

執事の水田とメイドの藤田らに見送られて、潤は三上邸の玄関を出た。

「おはようございます、会長」

玄関先に車を回して、後部座席のドアをあけてから挨拶をする秘書がいた。

「堅苦しい挨拶は抜きにしようぜ、可憐。おはよう、可憐」

「だめです! お兄ちゃんは三上グループの会長なんですよ」

「そう言っている可憐だって、言っている側からお兄ちゃんって言っているけど?」

「あっ! ごめんなさい、お兄ちゃん。つい、癖で……」

「ははは、いくぞ、可憐」

潤は現在、三上グループを束ねる会長職についていた。
潤を慕う可憐は、必死の努力が実って、会長秘書として潤の側で働いていた。




「おはようございます」

玄関ロビーの受付に雛子がいた。

「おはよう、三上さん」

「あ〜、ヒナのこと三上と呼ぶなんて酷いです、おにいたま……あっ」

「雛子。勤務中だし人前じゃないか?
 それに、この年になって”おにいたま”と呼ばれるのは少し恥ずかしいよ」

「あは♪ また失敗しました」

入社一年目の雛子は、まだ新人研修のさなかで、今は受付嬢をしていた。
まだ、挨拶の素振りとかに不自然さが残るものの、聞いたところによれば、可愛らしさと愛嬌の良さで、社内外の人に評判がいい。
ただ、新人の女の子にありがちな話なのだが、男性の誘いが多くて困っているらしい。

「おにいちゃ……いえ、会長、雛子ちゃんも頑張って居るのですから……」

「可憐……お前もか……
 はぁ〜……俺も妹には甘いのかな〜。反省しないと」

「そう仰せられるなら、会長も、妹達を名前で呼んでいるじゃないですか」

「……・名字はみんな三上なんだから、仕方ないだろ?」



「おはようございます、会長」

会長室の側の秘書室に、大和撫子のしとやかさをもつ女性がいた。

「おはよう、春歌。今日はやけに早いね」

「お恥ずかしいのですが……今年度のグループ企業の連結決算が終わらなくて。
 それでいつもより早く出勤したのですが……」

「まだ、期間はあるんだろ? あまり無理をするなよ、春歌」

「いえ、兄君さまにとって大事な資料ですので、一生懸命作りますわ」

春歌は会計士の資格をとり、三上グループの経理関係の仕事を担当していた。
グループ全ての決算書等をとりまとめ、経営判断のための資料作りなど、とても細やかな仕事をしていた。

「兄チャマ〜!」

潤の背後から元気な声が響き渡った。

「うん、四葉? お前もやけに早いな〜」

「えへへ〜♪ 調査が終わったので報告に来たのデスよ。
 これで兄チャマとまた一緒に過ごすデス♪」

「どれどれ……ふんふん、なるほど。……ばっちりだね。ありがとう、四葉」

四葉は三上グループの調査関係の仕事に従事していた。
内部の不正やM&Aのための企業の情報収集など、企業に必要な情報収集をするのが四葉の仕事だった。
名探偵転じて、企業スパイとなった四葉だが、もって生まれた根性と潤の役に立てるならという気合いのこもった調査結果はかなり役に立った。
だが、調査期間中は、潤となかなか会えないといつもぼやいていた。
だから、暇ができると潤のいる会長室に入り浸っていた。

「そういえば、四葉、花穂が結婚するんだって。知っていたか?」

「無論チェキしてあるデスよ。
 なんでも、大学時代にチア・リーダーをしていた時に出会った人です。
 当時スポーツ選手で、たしかアメフトの……、ジェネラル財閥の御曹司で
 ……あった、これが彼氏の写真なのデス」

「ほう、花穂もなかなかやるもんだな、ずいぶんとハンサムで格好いいじゃないか」

「ふふふ……なんか、兄チャマにそっくりですね」

「わー、本当にそっくりです。可憐もこんな人と結婚したいな〜」

「世の中、自分に似た人が3人はいるとはいうが……確かに似ているな。
 そうそう、スポーツといえば、衛が水泳のオリンピック選手に選ばれたんだってな」

「兄チャマ、三上グループはオリンピックの協賛企業ですよ。
 もし、見に行くなら、チケットは四葉にお任せです♪ ちゃんと14枚あるデス」

「さすが、四葉だな。じゃあ、みんなで応援しに行こうな」

「兄チャマ、あと、これは亞里亞ちゃんをチェキした収穫です。
 初版本限定、亞里亞の直筆サイン入りのプレミア本デスよ」

四葉はそう言って、1冊の本を潤に手渡した。
それは亞里亞の書いた本だった。
背表紙の裏を見ると、亞里亞の直筆サインと”親愛なる兄やへ”のメッセージが
書かれていた。

「おっ、もう、新作が出来たのか。亞里亞の作品、いい話なんだよな」

亞里亞は童話作家になっていて、三上グループの出版社が独占契約していた。
亞里亞の話には、必ずといって兄的存在が登場する。
人間だったり、動物だったり、植物だったり、それは多彩な対象なのであるが、
とてもやさしい兄が弱い存在を優しく導いていくあたりが、亞里亞の作風で、子供にはとても受けがよかった。



「可憐、介護ロボットの研究プロジェクトの進捗はどうなっているんだい?」

「順調とのことです。ですが、予算オーバーだと鈴凛ちゃんが研究資金の追加援助を要請してますけど、
 いかがなさいます、会長?」

「単に鈴凛の口癖なんじゃないのか? まあ、本当に必要なら検討しよう。
 鈴凛の場合、こっそり何か別の開発でもしてかねないからな」

「わかりました。  いつも通り、春歌ちゃんには監査、四葉ちゃんには調査を命じておきます。
 確かに、この前は、こっそりと『メカ鈴凛3号』を作っていましたからね」

「鈴凛の場合、勝手に作った作品が時々ヒット作品になることがあるからね。
 ヒットする可能性が5分5分なのが頭の痛いところだが。
 だが、失敗作でも特許をとるような技術を開発するんだから、偶然というのは何が幸いするのかわからないよな」



「会長、芙蓉グループの三上千影会長がお見えです」

「そうか、会長室に通してくれ」

しばらくして、千影が潤のいる会長室に通された。

「兄くん、久しぶりだね」

「千影も芙蓉グループの会長職が板についてきたな。どうだい、そっちの方は」

「今のところ、順調だよ。
 これも兄くんの協力あってこそだね。
 芙蓉メディア・ワークスに出資してくれたから、今の私があるんだしね」

「三上グループも大分儲かったし、お互いさまさ。それに千影の名演技もみれたし。
 まあ、さすがに本物の能力者だけあって、迫真の演技だったね」


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「魔女に魅せられた愛」

古代ローマ帝国勃興期のローマとプトレマイオス朝に降りかかる
魔女の呪いが……

キャスト:
 カエサル・シーザー       相沢 祐一
 クレオパトラ・プトレマイオス  川澄 舞
 魔女サウザンド・シャドー    三上 千影
 ……

原作:美坂 香里

☆---☆--☆---☆--☆---☆--☆☆---☆--☆---☆--☆---☆--☆

それは、千影・舞・祐一の橘家の血筋をもつ3人が産んだ快挙であった。

「兄くん……恥ずかしいよ。あれも水瀬秋子さんが是非にと推薦したからで……」

「美を追求するプロ、そんな秋子さんの目利きは確かだからな。
 モデルで人気の咲耶を発掘したのも秋子さんだ。
 同じ芙蓉の血を持つ千影が、秋子さんの目にとまっても無理はないさ。
 最近、ますます綺麗になったよ、千影」

「兄くん……あんまり私を褒めると……未来が変わってもしらないよ。
 私は兄くんといつでも永遠の契りを交わしてもいい……そう、思って居るんだから」

「はは……俺も秋子さんのストレートさに影響されたかもな」

「私も秋子さんには頭があがらないかもしれない」

千影は芙蓉家の跡取りとなり、会長を務めることとなった。
咲耶もまた秋子さんの元でモデル兼コーディネーターとしての指導をうけていた。

千影は芙蓉メディア・ワークスという映画等の企画会社を設立した。
千影自身もその会社の製作する映画に出演し見事な演技力を発揮した。
映画は全米第1位の記録を樹立し、その実績と蓄積した資金力を投資し、斜陽しかけた親会社の芙蓉グループを逆に吸収してその会長職についた。
千影には、三上グループと倉田グループ、秋子の会社がバックボーンについて、千影の活動の後押しをした。

「芙蓉グループの失敗は、千影の母親のいうことを曲解したことにあるからね。
 橘と三上の血縁の力なしには芙蓉グループは弱体化する、千影の母親はそのことを
言っていたのだろうね。
 だから、千影が後を継いで復興するのは自然な事かもしれない」

「所詮、会社は人が動かすもの……弱い意志決定では会社は動かせないさ」




「そういえば、舞に聞いた話なんだが……
 今度、佐祐理さんが倉田財閥の総帥に就任するって」

「ああ、聞いているよ。
 だけど、佐祐理さん自身は倉田グループと三上グループとの合併を望んでいる。
 会社経営の部分は、後に三上にまかせる意向だと言っていたよ。
 なんでも、佐祐理さんは親の跡をついで国会議員になりたいと考えているらしい。
 兄くんも当分楽ができそうもないね」

「ははは……これ以上大きくなるのは勘弁してほしいけどね」

「でも、兄くん、慈善事業の方も力を入れているね。
 米国でも孤児院の事業再開と奨学基金の設立をすると聞いていたが?」

「ああ、そっちは白雪と鞠絵がやってくれている。
 母さんがアシストしてくれているから大丈夫だと思うよ。
 この件で芙蓉グループの方でも、協力してくれるって話だが?」

「ああ、既に手がけているよ。
 企業イメージ向上のためのメセナにはちょうどいい。
 箱モノを作るよりも社会的に有意義だし、優秀な人材が育つ母体にもなるだろうから。
 論より証拠で、父さんや妹達がいい例だ。
 舞も協力するって」

「舞が? でも、スターに協力してもらうのもいいな」

「兄くんの想いの強さと優しさが人を集めているんだよ。
 その分、兄くんは苦労が絶えないだろうけどね」

「想いの強さか……そういう現実をたくさん見たからな、不思議だったけど」

「あゆ君のことがあったからかい?
 今日、ここに来たのは、その件で、兄くんに伝えたいことがあったからでもあるんだよ。
 これ、覚えているかい、兄くん?」

千影はペンダントを取り出して、潤に手渡した。

「ああ、覚えているよ。だけど、どうしてここに?」

「兄くんが今、これを持っている必要があるからね。
 近いうちに必要になるはずだから。
 それで、咲耶君から置き場所を聞いて持ってきた」

「そうか……」

その時、会長室のドアがノックされて、秘書の可憐が入ってきた。

「会長、急な用事が入りました。急いで頂けますか?」

「ああ、分かった。じゃ、千影、また今度」

「そうだね、兄くん、また来るよ。
 あとは、美汐君に残りの話を聞かせてもらうといい。私からの話は伝えてある。
 それじゃ、私はこれで失礼するよ」

それから、千影は会長室を立ち去った。

「可憐、急ぎの用事って?」

「勝手な判断ですし、プライベートの用事のためで申し訳ないのですけど、
 すべての仕事のスケジュールはキャンセルして後回しにしました」

「え?」

「お兄ちゃん、これから病院に向かってください。
 妻の咲耶ちゃんが破水しました、危険だそうです。
 車は手配しましたので、すぐに出かける準備をしてください」

「そうか……分かった!」

咲耶は潤の子供を身ごもっていた。
妊娠9ヶ月の妊婦なのだが、難産になると医者に指摘されていた。
それでも咲耶は産むと主張していたので、潤も出産に同意した。

潤と可憐と春歌、それに四葉は揃って病院に向かった。
潤達が病院に着いた時、義母の加奈子が先に病院に来ていた。

「母さん……咲耶は無事なのかい?」

「帝王切開に切り替えた所で、まだ予断はゆるされないみたい」

その潤の背後から、潤を呼ぶ声がした。

「潤兄様!」

「美汐? どうしてここに?」

「千影さんから連絡を受けまして。
 とにかく話は後です。千影さんからペンダント、預かっていますね?
 貸してください」

「あ、ああ、これ……」

美汐はペンダントを受け取ると、なにやら祈りを込めた口調で詠唱した。
美汐の手にあるペンダントから何か白い光が灯っていたのを潤は見ていた。

「娘ですよ、潤兄様……それに、この娘はあゆちゃんの魂を引き継いだ娘。
 あゆちゃん、お兄ちゃんの側に居たいと願ったのです。
 それで神奈様が、あゆちゃんの魂を生まれる赤子に託したみたいです」

美汐が言い終わるかいなか、赤子の泣き叫ぶ声があたりに響いた。

「生まれたようですね。あなたの娘ですよ、潤兄様。
 さあ、潤兄様、彼女を迎えてあげてください」

「俺の……娘? あゆが?」

美汐の言葉を裏付けるように、看護婦が潤達に呼びかけた。

「おめでとうございます、三上さん。母子ともに無事です。元気な娘さんですよ」

「おめでとう、お兄ちゃん!(兄チャマ)(兄君さま)」

「おめでとう、潤」

「あはは……ありがとう。でも、なんか実感がわかないよ」



「咲耶……よく頑張ったね」

「あなた……愛しているわ」

「ところで咲耶、この子の名前なんだけど、『あゆ』とつけてもいいか?」

「私もそうしようと思っていたの。
 この子を産むとき、夢の中で天使の翼をもった姿が『あゆ』と名乗っていたわ。
 不思議ね」

「そうか……『再会』『願望達成』、あゆが約束を守ってくれたんだね。
 じゃあ、このペンダントはこれからはこの子の持ち物だな」

潤はそう言うと、ペンダントを赤子の枕元にそっと置いた。

「やっと会えたね、あゆ……」

潤は目の前にいる赤子の頭を愛おしげに撫でた。

「……約束、守ってくれたんだね。
 ペンダント、あゆに返すよ。
 これは、俺達の間で受け継いだ絆の証、そうだったよね。
 ……これからはずっと一緒だよ、あゆ」




「最後の真実」 完





Thanks for your reading
”The Final Truth 〜My final decision, thinking of only you〜”
2003.10-2003.12 written by SILVIA


〜完結にあたって〜

「KANON」と「Sister Princess」の2つの世界で共通する要素は、
『人を想う気持ちの強さ』と『誰かのためにふりしぼる勇気』だと思っています。
その要素を具現化しようとしたのが、この『最後の真実』SS連載でした。
37話にわたる長編SSを書くのは初めてなので、至らない所が多いと思いますが、
少しでも心に残ってくれる作品になれば幸いと存じます。
第3章第13話「最後の真実」は咲耶のためのハッピーエンドですが、
本当は妹達全員のハッピーエンドを書きたいと思っていました。
別の機会にでも、妹達全員の幸せなストーリーを書いてあげたいと思ってます。

皆さんなら、妹達をどのように幸せにしてあげるのでしょうか?
きっと全国のお兄様諸君の数だけのハッピーエンドがあるのでしょうね。
私も自分が”お兄様”になりきって書いていたので、とても楽しかったです。

ちなみに私が大好きな妹の上位5人は、咲耶・春歌・四葉・可憐・花穂です。
多少、SS執筆に際して、えこひいきが入ってすいませんでした。

   〜読者の皆様へのお願い〜
   このSSについて、気に入って頂いた方、投票をお願いします。 投票方法:クリック→| 投票 |  
   また、最後までよんでくださった方、本当にありがとうございました。
   ぜひ、感想などをいただけるとうれしいです。
   HP:風の妖精  http://www.silvia.interlink.or.jp
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