何かを得る時、何かを失う……失われたものの上に幸せは存在するのか?
 









最後の真実
第3章 一番幸せだもの
 
第10話 「祈り」
 
シルビア











-----北の街、森の中の大樹の切り株にて


三上家の養女、あゆは森の大樹の切り株の上に座っていた。
あゆは夢の中で自分のことを語る存在によって、自分のすべきことを知ったのだ。
それで、この場所に来ていた。

(ボク、大切な事に気が付いたんだ。
 自分が何故生きているのか、その意味が、やっと分かったから。
 潤お兄ちゃん……『ごめんね』)

あゆが一人で考え込んでいると、美汐があゆの前に姿を見せた。

「美汐ちゃん、どうしてここに?」

「千影ちゃんに頼まれました。
 あゆちゃんが多分ここにくるはずだから、行ってあげてほしいと。
 それに、千影さんは潤兄様の許にと、今朝早く発ちました」

「千影ちゃんが? ……何か気づいていたんだね、千影ちゃん」

「何故私がここに来たのか、それと、私の役目もたった今分かりました。
 私はあゆちゃんの『力』の覚醒のため、今ここにいるのですね。
 千影ちゃんもそのために、私を来させたようです」

「うん。ボクが目覚めるためには美汐ちゃんの存在が必要だから、そうだよね?」

「はい。
 それと……祐一さんと舞さんの存在も必要なのです。
 まもなくここに来るはずです」

美汐がそう言っていた側から、祐一と舞が姿を現した。

「美汐ちゃん、こんな所に俺を呼び出して、一体どうしたんだ?」

「……美汐、やるの?」

「はい、舞さん。
 相沢先輩にはまだ話していませんでしたね?
 今日、これからやることのために、橘家の血筋を引く、相沢先輩・舞さん・あゆちゃんがここに集う必要があるのです」

「橘家の血筋?」

「ええ。まずは、これを見てください。千影ちゃんから預かってきました」

美汐は、千影の作った家系図のメモを祐一達3人に見せた。

「私は代々神官・巫女の血を引く、天野家の血筋とその能力を持って生まれました。
 今まではその能力が発現することは無かったのですが、千影ちゃんの話では、
 どうやら最近、私にも巫女としての能力が発現したらしいのです。
 そしてその能力はあることをするために、これから発揮すべきものなのです。
 その目的は……橘の血筋のもつ潜在能力を引き出すことだそうです」

「潜在能力だって?」

「私にも詳細はよく分かりません。
 ですが、私とあなた方3人と一緒に、私の力を解放するとその潜在能力が目覚めるそうです」

「美汐ちゃん……始めよう」

美汐の言葉を遮るように、あゆが口を挟んだ。

「ええ。
 相沢先輩、舞さん、私の右手を掴んでいただけますか。
 あゆちゃんは私の左手を掴んで下さい。…………では、始めます」

美汐は目を閉じて集中し、何かしらの詠唱をし始めた。

やがて、あゆ、祐一、舞の3人の姿が光に包まれて、神奈・柳也・裏葉の3人の幻影が浮かび上がった。

『神奈!』、祐一の口から、力強い男性の声が発せられた。
『神奈様、お久しぶりでございます』、舞の口から落ち着いた口調の女性の声が発せられた。

そして、

『柳也、裏葉……久しいな』、あゆの口から可愛い、だが威厳のある声が発せられた。





-----ハワイ島、ある森の中にて




千影は森の奥深くに立っていた。
だが、その森は、千影のいる所だけ焼け野原の跡と化していた。
巨大な金属の固まりが千影の目の前にあった……それは、墜落した飛行機の胴体らしきものだ。
事故の捜索でも見つからなかった、飛行機の胴体部分が千影の目の前にあったのだ。

千影は巨大な金属の中を探し歩き、潤と咲耶の手がかりになるものを探した。
燃え尽きた金属の固まりの中に、千影は潤と咲耶の荷物の一部らしきものを見つけた。
米国で潤が孤児院の院長宛に買ったお土産のロザリア、それを選んだのは千影だったので、千影はこれが兄のモノらしいことに気が付いたのだ。

千影はその場で水晶を手にし、その中をのぞき込んだ。
やがて、過去の映像が水晶の中に映し出されていった。

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揺れる飛行機の中の映像に、潤と咲耶の姿があった。

「お兄様〜! 私、私、怖い……」

「落ち着け、咲耶! 希望を無くすな!」

咲耶は潤の右手にしがみついた。
潤は咲耶のその手をしっかり握りしめていた。

次の瞬間、爆発音が響き渡った。
しかし……潤の周りを取り囲む何かが、潤と咲耶を守った。

奇跡的に潤と咲耶は機体の爆発から生き延びたようだ。
潤はほぼ無傷だったが、咲耶の方は軽傷を負ったらしく肩から出血していた。
そして、壊れた機体の隙間、炎の中を脱出する二人の姿が映し出された。

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(これは、夜の校舎の舞の事件で私が放った『力』のバリア
 ……そうか、それが兄くんと咲耶君の身を守ったのか……偶然にも。
 でも、咲耶君の方は多少傷ついたようだ)

千影は水晶を覗きながら、兄の辿ったらしい方角へと歩んだ。


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「はぁはぁ〜……咲耶ちゃん、大丈夫か!」

「お、お兄様……もう、私……ダメ!」

咲耶はその場で意識を失った。

「咲耶ちゃん! もう少しだ、頑張れ!」

潤は咲耶を背負うと、一歩ずつ歩き始めた。
だが、潤もまた滝の付近で力尽きた。

しばらくして、その二人に近寄る人影が見えた。

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(……ここまでか。兄くんが意識を失ったのでは、もう調べようもないな)

千影は水晶をしまい、ホテルへの帰ることとした。

(不思議だな……私の『力』だけではあの状況下で防ぎ切れなかったはず。
 すると……もう一人誰かの『力』が働いていた、ということか。
 舞かそれとも……)

千影は、橘の血を持つだれかの『力』、それが働いたであろうことは推測がついた。
自分と同じ『力』の性質を感じ取ったからだ。

『これから先、三上家の人間となり、多くの人と出会います。
 その中には、あなたと同じような能力者も存在するでしょう』

母君の言っていた通りだったな、千影は思った。
だが、これほど未来を見渡した母君程の力は自分にはない、千影はもどかしく思った。

(橘の一族か……やはり、間違いではなかったな。美汐君達も今頃は……)



-----同じ頃、ハワイ島



「千影チャマ酷いです〜、こんな役目を四葉にやらせるなんて!」

四葉は千影から言われたことを思い出しながら、ぼやいていた。

『兄くんが生きているとすれば、なんらかの犠牲の上に生き延びたということだろう。
 それなら、兄くんの心が今までと同じかどうか、分からない。
 佐祐理さんの話を聞いても、多分、兄くんらしくない様子、心して会ってほしい』

「四葉ちゃん、それでもお兄ちゃんが生きていてくれるなら……
 可憐はそれだけでも十分です。あぁ〜、お兄ちゃん……」

千影は先に向かいたい所があるからと、四葉達とは別行動を取っていた。
空港に着くやいなや、千影は水晶を覗き、なにやら考えて、四葉に伝言を残して去ったのだ。

四葉と可憐は佐祐理の待つホテルを尋ねた。
佐祐理はロビーで二人の到着を待っていた。

「ごめんなさい、わざわざ二人にここまで来てもらって」

「いえ、それよりもお兄ちゃんらしき人の事を聞かせてくれませんか?」

「お話するよりも実際に会った方がいいかと思います。では、これから案内しますね」

佐祐理は四葉と可憐を連れて、ジンとサリアのいるジュエリー・ショップを再訪した

「こんにちは。ジンさんとサリアさんはいらっしゃいますか?」

「あ〜、この前来た人だね? 二人なら、今は海辺の方にいると思うよ」

「そうですか」

「そこの二人は初めて見る顔だね?」

「ええ。この二人はジンさんの妹かもしれないのです。それで、来て頂きました」

「妹だって! ジンに妹なんていたのかい?」

ジェンヌは驚いて体をカウンターの上に乗り出した。

「ええ。サリアさんが咲耶さんであれば、彼女もまたジンの妹です。
 それに、ジンさんには全員で14人もの妹がいます」

「14人も……それに、サリアもだって? ああ、なんてこと……」

「どうかしましたか?」

「いや、私達は二人をてっきり夫婦だと思っていたのよ。
 とても仲がいいからね、あの二人は。でも、妹かもしれないなんて、驚いたわ」

「お兄ちゃんと咲耶ちゃんは、とても仲のいい兄妹なのです。
 それに、私が言うのも難ですけど、咲耶ちゃんはお兄ちゃんの事、兄というよりも
 恋人として憧れていた所がありますから、無理もないです」

「なるほどね。でも、今の二人はまるで恋人同士みたいだよ」

「そうですか……」

「会うのは構わないとおもうけど、今の二人は記憶を失っているらしいから、君たちのことを覚えているかどうかは分からないよ?」

「それでも、お兄ちゃんに会いたいのです。
 ……お兄ちゃんじゃないかもしれないけど」

「行ってお出で。まずは会って話してごらんよ」

「はい」

それから、佐祐理達はジェンヌの言った通り、海辺に向かった。
ジンとサリアの二人がそこにいた……まるで恋人のように寄り添いながら。

可憐と四葉は意を決し、ジンとサリアの二人に近づいて話しかけた。

「お兄ちゃん! 可憐です。覚えていますか?」
「兄チャマ! 四葉のこと……覚えているデスね?」

だが、ジンの返事は可憐と四葉の心を凍り付かせた。

「可憐? 四葉? 一体、誰だい、君たちは?」

「ジン……誰なの、この少女達? それに、お兄ちゃんなんて言っているけど」

サリアの言葉が可憐と四葉の心を射抜くように発せられた。

「お兄ちゃん……咲耶ちゃん……」
「兄チャマ……咲耶チャマ……」

ジンは二人の側にいる女性、倉田佐祐理を見て、何か気になったように、言葉を発した。

「すまない、俺は最近の記憶がないんだよ。
 もしかして、君たちは俺の過去の事を何か知っているのかい?
 だったら、何か、君たちの知っていることを俺に話してくれないか」

「……ジン」

「サリア、不安なのは分かるけど、知らないままも良くないと思うんだ。
 とりあえず、話だけでも聞いてみないか?」

「ジンがそれでいいというなら……私も一緒するわ」

そう言うと、サリアは嫉妬めいた視線を、佐祐理・可憐・四葉の3人に向けた。

可憐は少し戸惑いを覚えたものの、必死に冷静さを保ちながら、言った。

「お兄ちゃん、いえ、ジンさん……可憐達の話を聞いていただけますか。
 せめて、それだけでも……」

「分かったよ。それじゃ、どこかゆっくり話せる所にみんなで行こうか」

必死に懇願するような表情を浮かべる可憐を前にして、ジンは何か心に感じるものが
あったのか、可憐達の話を聞くことにした。

佐祐理達はジン達と一緒にホテルの部屋に行った。
自分に兄妹がいると知った時のこと、兄と再会できた時のこと、兄と培った思い出のこと……可憐と四葉は知り得ること全てをジンに話した。

「そう、そんなことがあったんだ。
 それに、話によれば、サリアは俺の妹かもしれないということだね」

「そんな……嘘よ。私がジンの妹だなんて……嘘よ!」

サリアはその場に立って、部屋を飛び出さないばかりの勢いで走り去ろうとした。
そのサリアを止める人影が部屋の扉に現れた。

「可憐達の言うことは全て事実だよ
 ……兄くん、咲耶君……いや、今はジンとサリアとでも呼んでおこう」

それは千影だった。

「ジン、それにサリア、二人とも飛行機事故から生き延びた。
 ……ただ、ショックで記憶を失ったらしいけど。
 さっき、事故現場に行って様子を確認してきた」

「そうですよ、ジンさん、サリアさん。
 サリアさんのつけている指輪は、北川さんと咲耶さんの二人の思い出の品です。
 サリアさんの付けているのがサリアさんの持っている分、そして北川さんの指輪は
 三上家にあります」

「その指輪ならここにあるよ。片方は兄くんの部屋にあったからね。ほら……」

そういって、千影は指輪を潤に手渡した。

「刻印を比べて見るといい。ペアであることは分かるはず」

「ええ、それにその指輪を作った水瀬秋子さんが、この刻印でのペアは1組だけだと言っていました。だから、三上潤と三上咲耶の二人の指輪だろうと思います」

「そ、そんな……私とジンが兄妹だなんて、一緒になれないなんて……」

サリアはその場に崩れた。

「サリア……」

「私……私……これから何を支えに生きていけばいいの! ね〜、教えてよ、ジン!
 こんな事なら、自分の過去なんて知らない方が良かったわ。
 そうよ、これからも過去なんて思い出さなければいいのよ!」

「サリア……俺は例え兄妹だとしても、俺はお前のこと愛している。
 それは変わらないよ」

「ダメよ! 私達、兄妹だったら一緒にはなれないのよ。
 そして、ジンもいつかは他の女の子と恋をして結ばれて、私の許から離れていくよ。
 私、そんなの嫌、ジンとずっと一緒にいたいの!
 ジンとの愛が永遠の愛だと思いたいの、側にずっといたいのよ!」

サリアは立ち上がって、ジンの胸元めがけて飛び込んだ。
ジンはサリアを抱きしめながら、言った。

「兄妹とかなんて関係ないさ。一緒にいたければ一緒にいればいい。そうだろ、サリア?
 結婚なんてしなければいい、形にこだわることもないさ」

「えっ……ジン、本当にそう思っているの?」

「ああ、そう思っているよ。
 だけど、俺は本来の俺を取り戻したい、サリアもサリアらしさを取り戻して欲しいし。
 その上で、俺はサリアと一緒にいたい。
 ダメか? 」

「う、ううん。
 私、ジンと一緒に居られるなら、他は何も要らない。
 自分の過去だって要らない……いいえ、過去を思いだしても絶対に側にいるわ」

「そうか」

その様子を見ていた妹達は、何かいたたまれない気持ちに囚われた。
自分達も兄である潤を慕っているだけに、サリアの気持ちも分からなくもなかった。

「兄くん……記憶を戻す方法はあるよ。手はずももう整っているはず」

「えっ?」

「だけど、そのためには取り返しのつかない犠牲が生じる
 ……それが星の導いた貴方の運命……ジン、いや兄くん。
 兄くん、一度、日本に戻ってくれないか?
 兄くんが今会わないと一生後悔する、そんな人が日本で待っている。  それに、残り時間があまりない」

「分かった……俺は一度日本に行くよ」

「それがいい」

「ジン……これ、持っていてくれる?」

サリアは手から指輪をはずして、ジンに手渡した。
ジンは、指輪に込められたサリアの想いを察し、サリアの手から指輪を受け取った。

「……ジン、記憶を取り戻しても、必ずこれを私に返しに来てね  ……お願い、そう約束して!」

「サリア……分かった。必ず返しにくる。待っていてくれ、サリア」



-----時が過ぎ、北の街、森の中の大樹の切り株にて


「間に合ったようだね?」

千影の声が森の中に響いた。

「ええ、あゆちゃんの命があるうちにということでしたね。潤兄様は?」

「連れてきたよ。……兄くん、妹のあゆちゃんだよ」

「潤兄ちゃん!」

「君が……あゆ、俺の妹?」

「うん。でも、実はこれは最後のお別れなんだ」

「えっ、お別れ?」

「ボクはね、本当は生きていないんだよ。
 今は神奈の『力』でこうしてここに存在しているけど、もうその『力』も尽きる。
 潤兄ちゃんを事故から助けるために、無意識にボクの『力』の大半を使い切ったみたいなんだ。
 だから、もうすぐお別れなんだよ、潤兄ちゃん」

「俺のために?」

「そう、潤兄ちゃんに会いたくて、ボクはこうしてこの世に存在してたんだ。
 ボクは7年前------------」

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(潤兄ちゃん、会いたいよ……(グスン))

ボクはいつものように森の大樹の上で景色を眺めながら潤兄ちゃんのことを想っていたんだ。
いつかこの街にこないかな〜、一緒にくらせないかな〜、いつもそんな気持ちでね。

その時、突然の強風が吹いて、ぼくの体は木の枝から落ちて宙を舞ったんだ。

ボクの体が地面にたたきつけられた時、ボクは薄れ行く意識の中で、天使のような人と
出会った。
翼をもつその人とボクは話した。

「お姉ちゃん、誰?」

『神奈。そう呼んで』

「ボクはあゆ、えーと、月宮、そう、月宮あゆだよ」

『ふふ。ところで何故、いつも祈っているの?』

「うん、ボクが世界で一番大好きな潤兄ちゃんが幸せになるようにって祈ったの。
 ずっーっと会いたくて、会いたくて、でも会えなくて、だけど大好きなの」

『そう、会いたい人がいるのね、だから祈っていたのね。
 それなら、私が潤兄ちゃんに会わせてあげる、約束してあげるわ』

「本当?」

『本当よ。その時が来たら、きっとあなたを目覚めさせてあげる。
 だから、しばらくの間、眠ったままで待っていてね。
 目覚めた時には、きっと、潤兄ちゃんに会えるから』

「うん」

『あゆ、今度潤兄ちゃんに会ったら、幸せになりなさい』

「今度会ったらね、潤兄ちゃんの幸せを側で見守るの、それがボクの願いだから」

『そう……それなら、私の力をあなたに貸してあげる。
 二人がいつも幸せでいられるようにね。幸せな思い出で満たされるように』

「ありがとう、神奈。バイバイ♪」

************************************************************************

「私はものみの丘の妖狐達から、その出来事を聞きました。
 そして、幼い姿をしたあゆの気持ちを眠っていたあゆの身に伝えたのです。
 目覚めなさい、そう思いながら。
 7年の月日を経て、あゆちゃんは眠りから覚めました。
 きっと、翼人であった神奈様が力を貸してくれてのですね。
 それから、あゆちゃんは兄妹の一員として、私達と一緒に過ごしました」

「神奈はあゆ君の身に転生したんだよ、兄くん。
 あゆ君に受け継がれたのは神奈の記憶と『力』、それが兄くんの身を守った。
 恐らく、それが事実だろう」

「潤兄様の飛行機事故があった時からでしょうか、私は夢を見るようになりました。
 そして、あゆちゃんの中に眠る神奈の『力』が目覚めたのを感じたのです。
 私は舞さんと祐一さん達の協力を得て、橘家の血筋に眠る方術使いであった柳也と裏葉の記憶、
 それを頼りに神奈を呼び寄せました。
 それが天野家に伝わる巫女の力、私に受け継がれた『力』のようです」

「美汐君、神奈は何と言っていたんだい?」

「三上の兄妹の中で自分は十分に幸せだったから、これかれ潤兄ちゃんと妹達が幸せになってほしい、あゆちゃんはそう神奈様にお願いしたようです。
 神奈様はその願いを叶えるために、潤兄様を助けることに力を貸すそうです。
 ただ、そのためには、あゆちゃんは犠牲になり、神奈様は再び転生することになる、
 そう言っていました」

「そう、だから、ボクは潤兄ちゃんとお別れするんだよ。
 そうしたら、潤兄ちゃんはきっと元にもどれるから」

「あゆちゃん……だったね? それは、お前が犠牲になるということだろ?
 それで、俺が幸せになるなんて……記憶なんてどうでもいいじゃないか」

「潤兄ちゃんはね、たくさんの人を幸せにできる人なんだ。
 妹達は、そんな潤兄ちゃんが妹達との大切な記憶を失うのを見ていられないんだ。  妹のボクにはその辛さがよく分かるからね。
 だから、妹達を、多くの人を幸せにしてね。
 そして、潤兄ちゃんもきっと幸せになってね。
 それが……ボクの最後のお願い。
 さようなら、潤兄ちゃん!」

翼を持つ乙女が現れ、その翼が光り輝き、ジンの体を包み込んだ。
柔らかい光の中で、ジンは自分の記憶を取り戻していった。
潤としての記憶を取り戻しているジンの目に映るあゆの姿が、次第に薄らいでいった。

「……あゆ、あゆ〜〜〜〜〜!」




遠く離れた地で、サリアの体も光に包まれた。

「今の光は、一体……それに、私、何でここにいるの?
 ……確か、お兄様と飛行機に乗って
 ……ジンと恋をして
 ……でも、ジンってお兄様そっくりよね?
 え〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!」

サリアは咲耶としての自分の記憶を取り戻していった。
……サリアとしてジンを愛した記憶はそのままに。




「兄くん!」

「あ、千影ちゃん、俺……」

「ところで、兄くん、サリアを迎えに行かないでもいいのかい?
 ……今頃、咲耶としての記憶が戻っていると思うけど」

「え、えっと……サリアは咲耶で……う、うゎ〜!」

「”彼女”が待っているよ、兄くん。違うのかい?」

「千影ちゃん……からかうなよ」

「フッ……運命からは逃れられないよ、兄くん。
 でも、私達も運命で結ばれた二人、先が楽しみだよ、兄くん」

千影は皮肉めいた口調で潤に言い放ち、その場を去っていった。

「潤兄様! 大丈夫ですか?」

美汐が潤に声をかけた。

「美汐ちゃん……うん、大丈夫だよ」

「良かった〜、元に戻ってくれて。本当に心配したんですからね、潤兄様!」

潤の胸に飛び込んだ美汐は、両拳を潤の胸にめがけて叩いた。
所詮は非力な女の子の叩く拳に痛さはなかったが、美汐の心情を思う潤には少し堪えたようだ。

「わかった、わかったってば、美汐ちゃん。
 でも、美汐ちゃんにそんな『力』があったとは本当に驚いたよ」

「きっと、潤兄様を助けるために、『力』が発現したのですよ。
 私だって、少しでも潤兄様のお役に立ちたいと思っています。
 ……も〜、潤兄様は私に心配ばかりさせて〜」(ポッ)

「俺って……無力だったんだな。なんだが、情けないよ。ははは……」

「さあ、帰りましょう、潤兄様。
 あゆちゃんもいってましたよね、妹達を幸せにしてあげてくれって。
 言っておきますけど、それは潤兄様にしかできませんからね。
 だから、あゆちゃんの事で、決して泣いてはいけませんよ。
 私も……とても悲しいんですから」

美汐はあゆのことを気にする潤の気持ちも分からないでもなかったが、あゆの意志を
きちんと受け継ぐことが潤にとって大切であることは理解していた。
悲しくても、それが運命の導きであることを巫女として理解していたから。

「美汐……とはいっても、あゆは……」

「それがあゆちゃんの意志なのですよ。受け止めてあげてください、潤兄様。
 そうでないと、あゆちゃんが……可愛そうです」

「そうだな。あゆの意志か……俺にはあゆが天使に見えたけどね」

妹達と再会してからの日々、事故からの生還、記憶喪失
……そんな一連の出来事は俺の幸せを願い続けた妹からの贈り物、
奇跡のような出来事の中で潤はそう思うしかなかった。



「あの〜、潤兄様、がっかりしないで聞いて欲しいのですけど、
 潤兄様のいない間に、妹達の気持ちが離ればなれになってしまって」

「そうか……じゃあ、みんなを迎えに行こうか、美汐。
 兄妹はみんな一緒にいるのが当たり前、そうだよね?」

「え、ええ♪ きっと、みんなも待ってますよ、潤兄様」





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