「おはようございます」

あまりに当たり前の挨拶、それを交わす相手がいることが、幸せな事だって気が付いた。
だから、潤は妹とのそんな関係をこの先も守りたいと思っていた。

 









最後の真実
第3章 一番幸せだもの
 
第8話 「存在」
 
シルビア









「さあ、帰ろうか」

この日は1学期の最後の登校日、終業式の日であった。
終業式を終えると、潤達は校門の前で待ち合わせをした。

「くふふ〜、これで明日からは兄チャマとずっと居られるデスぅ〜♪」

チェキ〜・チェキ〜・チェキ〜、兄チャマ、チェキよ〜♪
チェキ〜・チェキ〜・チェキ〜、秘密はお断り〜♪

相変わらず謎の歌を口ずさみ、ご機嫌の四葉であった。

「こらこら、宿題もきちんとやれよ〜。毎年、たくさん出されるから」

「ぶぅ〜、兄チャマが、意地悪しますデスぅ〜!」

「確か、夏休みに入ったらすぐに宿題をかたづける約束だったよな?
 じゃあ、四葉は日本に残って居残り勉強で決定だな」

「あぁ〜、そんなのダメですよ〜……・四葉もアメリカに一緒に行くデスぅ!」

「クシシシ♪ ヒナはね、絵日記だから、大丈夫なんだよ。
 おにいたまとたくさん遊んでね、それを描けばいいんだもん。  ヒナ、賢い〜♪」

「雛子ちゃん、いいな〜。ボクなんて、問題集が3冊もあるんだよ〜。
 この学校には絶対に悪魔がいるんだよ、そいつがあにぃとボクを一緒に遊べないようにしてるんだ」

「可憐達は宿題はほとんどありませんね」

「まあ、3年生は受験生だからね、受験勉強が優先というわけ。
 ただ、成績が悪いと、補習への強制参加があるらしいけど。
 何でも、名雪さんがそれに引っ張られたらしいから。
 良かったな、可憐、咲耶」

「お兄ちゃん、可憐はちゃんと勉強しています!
 だって、お兄ちゃんの妹が成績悪いと、お兄ちゃんの顔に泥を塗ってしまいますから」

「お兄様、私だって勉強しているわ。
 だって、補習なんかでお兄様との時間を邪魔されたくないもの。
 でも、お兄様ってさすがよね。香里さんと学年で同点首位なんだもの」

「まあ、勉強ぐらいは出来ないとな……他、何にもできないし」

「にいさまはそれで良いんですの。料理は白雪にお任せですの♪」

「兄君さま、掃除と選択ならワタクシにお任せくださいませ。
 これも兄君さまに嫁ぐ修行と思えば……(ポッ)」

「花穂はお兄ちゃまのために、庭を綺麗な花で一杯にするんだ♪」

「電気関係なら私に任せてよ♪
 アニキのパソコンの設定もばっちりOK」

「お兄様の服は私に任せてね♪ ばっちりコーディネートしてあ・げ・る♪」

「ヒナは、おにいたまに一杯〜一杯〜あーんしてあげるの♪
 クシシシ、それでね、おにいたまの添い寝もするんだよ♪」

(何か、俺って言いたい放題言われているよな……まあ、いいけど)

妹達なりの精一杯の好意に甘んじるのも悪くないか、潤はそう思っていた。

とはいえ、潤にも潤なりにやることはきちんとあった。
些細な幸せを楽しみにして生きている妹達のために、守るべきものを守る、それが兄の努めだと思っていたからだ。

事実、潤を中心に14人の妹達は引き寄せられて集まり、各々の幸せを紡いでいるのだ。
こんな日々がいつまでも続くといいな、潤はそう思っていた。

だが、現実はそう甘いものではないのだ。
これでも三上家の後継者が自分の役目だということだとを、潤はきちんと理解していた。
自分が妹達を守れないなら、妹達は離散するか過去の不幸の二の舞になる、それを避けることが自分の役目、そう潤は考えていた。

『幸せを守るために懸命に何かをすることが幸せだった』

ここ数年の妹達と過ごした日々の中で、こう遺した母の言葉も、今の潤には十分、理解できるようになった。

先日、父親と母親にそれぞれ会った潤は、あることを考えた。
それは、夏休みを利用して、妹達全員で、父母の元で1月の間暮らしてみることだった。
亞里亞や雛子は親元に帰れると大賛成だったし、他の妹達も概ね同意した。
……潤は自分の気持ちの整理はできていなかったが、それでも何かが変われば
   何らかの進展もあるかもしれない、そういう気持ちで臨むことにした。

潤は、全員のパスポートの手続きなどを事前に済ませていた。
出発は3日後、行き先はビバリー・ヒルズにある父の別荘だった。
ここなら、週の半分ぐらいは両親と一緒に過ごせるからだ。
日頃の慰安を兼ねて、世話になっている執事の水田やメイドの藤田さんも招待した。

当面の課題は残っていたが……

「兄君さま、宿題が難しすぎて……」

「潤兄ちゃん、問題集が全然終わらないよ〜!」

「潤兄様、ごめんなさい。世界史と物理を教えてくださいませんか」

さながら、潤は三上家の妹達の家庭教師と化していた。




--------出発の日



「出発デス〜♪」

「兄上さまと海岸でラブ・ロマンス……あ〜、なんていい響きなのでしょうか」

「お兄様とたくさんショッピングするんだから〜!」

それぞれの妹の思惑を乗せるべく、飛行機が成田に着陸した。


『AirJapan76便、成田発ロサンゼルス行き、ただ今より搭乗開始となります』


妹達の元気の良さは、飛行機に乗ってからの最初の数分しかもたなかった。

「兄や〜! 亞里亞〜、飛行機嫌い〜〜〜〜〜!」

「キャンディーはいかがですか?」

スチュワーデスが飴の入ったカゴを手にもって、亞里亞の所に差し出した。

「わ〜〜〜〜〜〜亞里亞〜甘いの好き〜♪」

「亞里亞ちゃん……
 あの〜、スチュワーデスさん、すいませんがもう少し飴を頂いていいですか?
 離陸と着陸の苦手な子がたくさんいますので」

「お兄様ですか? 大変ですね……」

さすがに15人もの人数で搭乗しただけあって、スチュワーデスにはすっかり顔なじみになってしまった。
春歌と四葉、可憐は飛行機に乗ったことがあるが、他の妹達は初めて乗るのだから、辺りが騒がしくなるのも無理はなかった。

離陸の加速Gが係る頃になると、10人程の妹は顔が真っ青になった。
潤とてあまり慣れていないのだが、怖がる兄チャマ〜チェキ〜と平気な顔をした四葉が狙っていたので
多少のことは我慢して平気なフリとした。

(やれやれ……なんとか離陸したな。さて、今のうちに寝ておくか)

学校で生徒集団の引率をする先生達の苦労がちょっぴり分かった潤であった。
側を見渡した潤は、真っ青でぐったりしている妹達を眺め、一安心とばかり眠りについた。



「ありがとうございました、良い旅を」

ロサンゼルス空港に着陸した飛行機の中で、スチュワーデス達に見送られた潤達は待合い広場目指して、歩いていった。

「いらっしゃい。長旅で疲れたでしょう?」

「おかあたま!」

「お母様!」

加奈子が潤と妹達を出迎えてくれていた。
亞里亞と雛子が駆けだして、加奈子に抱きついた。

「ええ、本当に疲れました……」

「あら、ふふふ。もう、弱音を吐くの、潤? まだまだこれからよ、ね、咲耶」

「そうよ、お兄様♪ 荷物を置いたら買い物と夕食なのよ? 約束したじゃない」

「俺……もう疲れた。後は勝手に行ってくれ」

「ダーメ♪ お兄様が一緒じゃないとつまらないわ」

女の買い物は長いもの、それは世の常識であった。
やっとありついた夕食を潤はがっつくように食べた。

「も〜、お兄様ったら……そんなにがっついたらこぼれるわよ?」

咲耶は潤の口元をナプキンで拭ってあげた。
得てして、こういうことをする妹がいると……・他の妹も動き出す。

「お兄ちゃん、はい、あーーん♪」

という事が当然起こりえる。
食事中に顔を真っ赤にする潤を見て、加奈子はすっかり笑いを抑えきれなくなっていた。

「私もしちゃおうかな♪ 潤、はい、あーん♪」

「か、加奈子さんまで……」

「いいじゃない♪ 私、一度は潤にしてあげたかったの」

「亞里亞も〜」

「亞里亞もこっちにお出で。はい、あーん♪」

「あーん♪」

そこには、母親に甘える亞里亞の姿があった。
潤は、へ〜という顔つきでその様子を眺めていた。
妹が自分以外の人に甘える姿はなかなか見られるものでもなかったから、興味を惹かれたのだ。

「ね〜、おかあたま、ヒナとも遊んで〜!」

「はいはい。じゃ〜、雛子を抱っこしてあげるわ」

「わーい♪」

「あら、ずいぶん大きくなったわね、雛子?」

加奈子は雛子を抱き上げて、胸に抱いた。

「うん♪ わー、いい香りがする〜。おかあたまの香り、いい香り」

「そう? じゃあ、今度は雛子の香りも選んであげるわね」

「うん♪」

「雛子の帽子、可愛いわね。よく似合っているわ」

「うん♪ おにいたまが選んでくれたの?」

「あらあら、潤もいいお兄様しているのね。ふふふ」

「おにいたま、ヒナにとっても優しいんだよ」

すっかりはしゃいでいる雛子と亞里亞を見ながら、潤は昔の事を思いだした。
幼い頃の潤はかなりの甘えん坊で、よく母の静香の胸の中で甘えたものだった。
母の体から香る、ジャスミンのような花の香りのこと、潤は今でも覚えていた。

(雛子も亞里亞もまだまだ親に甘えたい年頃なんだもんな……今後は俺ももう少し二人に優しくしてやらないとな)

日頃、雛子も亞里亞もかなり潤に甘えるのだが、潤はその理由のなんたるかを少し理解した。



そんなこんなで、米国での1月の滞在期間はあっという間にすぎた。
父母と過ごす日々の中で、妹達と父母との仲も随分と進展したようだ。
これでよかったのだろう、潤はそう思っていた。

だが、幸福の中で、潤達を襲う不幸が影を潜めていた。

「兄くん……ちょっといいかい?」

「千影ちゃん?」

「不吉な予感がする。
 気を付けた方がいい。兄くんも落ち着いて行動した方がいい」

千影の予感が的中したのかはわからないが、出発前夜に咲耶が高熱を出した。
医者に診てもらったところ、2〜3日寝てれば大丈夫とのことだった。

「まずいな……これでは帰ろうにも帰れないぞ」

「お兄様……ごめんなさい。私のせいで……」

「いや、咲耶が気にしないでいいよ。それよりも早く治さないと。
 水田さん、俺は帰国を延期して咲耶の看病をする。
 だから、俺と咲耶のチケット変更の手配、頼む。
 それと、俺の代わりに妹達のこと、水田さんと藤田さんの二人で引率して日本に帰国してくれないか」

「承知しました。では、責任をもって妹達の帰国に付き添わせて頂きます」

「頼むよ」

翌日、潤と咲耶以外の妹は、予定通り帰国の途についた。

3日後、回復した咲耶と潤は帰国の準備をして、空港にいた。

『PanAmerican11便、ロサンゼルス発成田行き、ただ今より離陸します』

そして、咲耶と潤の二人を乗せた飛行機が一路日本に向けて飛び立った。



「お兄ちゃんの乗っている便、まだなのかな〜。えーと……確か……」

「PanAmerican11便だよ、可憐君」

「あ、そうだったね」

可憐と千影は潤達を出迎えようと、空港に来ていた。

『PanAmerican11便に搭乗されているお客様をお待ちの方へお知らせします。
 いらっしゃいましたら、至急、空港内ロビーにお越し下さい』

「あれ、なんか呼ばれているみたい。PanAmerican11便ってお兄ちゃんの便だよね。
 私、行ってくるね」

「……私も行くよ」

可憐と千影は空港内ロビーに向かった。
そこには、涙を流す多くの人達で埋め尽くされていた。

「あの〜、案内で呼び出されたのですが、何でしょうか?」

可憐は空港関係者らしき制服を着た男性に尋ねた。

「PanAmerican11便に搭乗のお客様の関係者でしょうか?」

「はい。お兄ちゃんと妹が乗っているはずなのですが」

「乗っている方のお名前をお願いします」

「三上潤と三上咲耶です」

「しばらくお待ち下さい」

制服姿の男は名簿らしきものを取り出し、それを見て何かを探していた。
やがて、指がとまり、男は顔を上げて言葉を繋いだ。

「実は……PanAmerican11便がハワイ上空で事故に遭い行方不明との知らせを受けました。
 現在、全力を以て現地で捜索していますが、便の行方も分かっていません。
 乗客の安否についても、今のところ、わかっていません。  それに、三上潤と三上咲耶の両名は確かにこの便に搭乗されています」

「お兄ちゃん達が……事故……」

「可憐君!」

可憐はその場で気を失った。
千影もかろうじて意識はとりとめ、可憐の体を支えたが、千影自身も足腰がふらついた。


飛行機事故、潤と咲耶は行方不明……
その現実を前にして、その夜、三上家の妹達は悲観的な悲しみに囚われた。










後書き by 作者


作者:「北川、咲耶……お前達のことは忘れないぞ」(涙)
千影:「SILVIA兄くん、ずいぶんと派手にやってくれるね?」
作者:「千影……」
千影:「これで、私の目をごまかせると思ったのかい? いい度胸だね。
    さて、せっかくだし、私が茶でも入れてあげようか」
作者:「どうもご親切に……って、まさか!」
千影:「惜しかったね、SILVIA兄くん。
    もうすこしで私と一緒に永遠の愛の契りを結べると思っていたのに」
作者:「…………」(極寒)

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