4月、北の街にも桜の舞い散る季節が訪れた。
そして、北川潤はこの春から高校3年生となった。

四葉、白雪はこの春から高校生、雛子と亞里亞は中学生となった。
潤は妹達の入学式に参列するため、華音学園にいた。

幼稚園から高校まで、エスカレーター式のこの学園でも、幼稚園・小等部・中等部・高等部ごとに制服は異なる。
進学して新しい制服に身を纏う妹達の姿は、潤にはすこしまぶしく映った。
兄とはいえ、父が仕事で留守にしがちであった三上家では、潤はなかば保護者同然だった。
 









最後の真実
第3章 一番幸せだもの
 
第6話 「新しい季節」
 
シルビア








「兄チャマ、どう、四葉、似合っているデスか? でも・・裾がとても短いデスね」

「にいさま、姫も負けてませんですの! 姫も可愛いですのよ」

口調には幼さが残っていたが、高等部の赤い制服を着た四葉と白雪は少し大人びて見えた。

「ね〜、おにいたま、ヒナ、可愛いでしょ?」

「亞里亞、制服、好き〜♪」

幼さのまだ残る雰囲気だが、小等部の黄色い制服を着ると学生という感じもしてきた。

「ああ、みんな、良く似合っているよ」


「君…ちょっといいかな?」

妹達の入学式の参列を終えた潤の目の前に、一人の男性が現れて潤に声をかけた。

「北川潤だね。私は三上純一郎、君の父親だよ」

「父さん? 父さんだって?」

暖かい、だが少し強い春風が二人の間を吹き抜ける。

「おとうたま!」

「お父様!」

潤の側で、雛子と亞里亞は嬉しそうな表情を浮かべた。



「潤、少し二人だけで話がしたいんだが、いいかい?」

「ああ、構わないけど、1時間ぐらいでいいかな?」

「十分だよ。それほど時間はとらせないから」

「・・四葉、妹達を連れて行ってくれ。
 後で校門で待ち合わせようと、他の妹達にも伝えてくれないか」

「・・はいデス」

潤と純一郎は、中庭のベンチに腰かけ、話を始めた。

「突然、姿を見せたから驚いたよ」

「娘達の入学式、なんとか都合を付けて見に来たかった。
 だけど、今日ここに来れるかどうかも、直前まで定かでなくてね。
 四葉達ももう高校生か・・大きくなったな。
 ところで、潤、妹達とは仲良く暮らしているみたいだね」

「ああ、みんないい妹達だからね。
 まだ2年しか一緒に暮らしていないから分からないことも多いけど」

「そうか、それは良かった。
 本当はみんなとゆっくり話をしたいのだが、そうもいかないからね。
 それで、まずは、潤とゆっくり話がしてみたいと思ってね。
 潤には母親の静香の事も含めて、話したいことがたくさんある」

「母さんの事か…
 俺も、どうして離婚したのかを一度聞いてみたいとはおもっていたけど」

「私も潤に話すかどうかをかなり迷っているが、潤が聞きたいなら話そう。
 私はね、潤の母である、静香のことは今でも愛している。
 私の事情で別れてしまったが、潤のことを今まで育ててくれたこと感謝している。
 これは本当の気持ちだ、誤解しないでほしい」

「母さんの事を愛しているなら、何故、別れたりしたんだ?」

「愛情の問題ではない。さしずめ大人の事情だった・・とでもいおうか。
 私が事業を始めた頃、静香が秘書として私の許に現れた、それが静香との出逢いだった。
 静香はとても優秀な私の片腕で、やがて私達は恋をして結婚した。
 そして二人の間に生まれたのが、潤、お前だよ。
 だが、米国でテロがあって、その影響で私の事業は多大な損害を負い、投資家の信用を大幅に失った。
 危うく倒産するかという所で、ライバルであった倉田財閥の支援の話があったのだ。
 ただし、それは倉田グループと歩調を合わせることと、その保証として倉田家の令嬢との政略結婚を条件としていた。
 当時、秘書であった静香はその話を私よりも先に聞きつけ、離婚届と手紙を置いていき、行方をくらました。
 手紙の内容をみた私は静香の願いを聞きとげて、三上家と事業のために静香と離婚し、やがて倉田家の娘と再婚した。
 それからは懸命に事業を持ち直して今に至っている」

「母さんからの手紙には何て書かれていたの?」

「ここに持ってきている。潤、読んでみなさい」

***************************************************************************
純一郎 様

突然、こんな手紙と離婚届を書いてごめんなさい。

倉田財閥からのオファー、聞きました。
私と別れて、倉田家のお嬢さんと結婚してください。
そして、三上の事業を再建して下さい。

私はあなたとずっと一緒に暮らして居たかったです。
だけど、三上の事業が無くなることは、支援する慈善事業の多くが危機に瀕することを意味します。
多くの人が苦しむ事を考えると、いっそ私と息子の二人があなたの前から消え去り、
貴方が倉田家の支援を受けて事業を立て直していただく事がきっといい結果になることと思います。

同封した離婚届に貴方のサインを入れて届けてください。
私は息子の潤を連れて故郷に帰ります。

いつか息子が成長した暁には、あなたの子であることを告げると思います。
その時は、どうか、あなたの許に潤を迎えてあげてください。
それが私からの最後のお願いです。

あなたを愛しています、これからもずっと。

                          静香

***************************************************************************

「3年前、静香に会った。それが静香を見た最後だった。
 死の病にかかり、あと1年ほどしか生きられない、静香はそう言っていた。
 そして、自分が死んだ後、潤のことを頼むと私に言った」

「それで俺の高校受験の時、母さんはあんなに熱心にこの街の高校を薦めたのか。
 死期が近づいていたことを知っていたから…」

「最後の最後まで、聡明で心優しい女性だったよ、静香は。
 それに、静香と出会わなかったら、今の私はなかったかもしれない。
 静香と別れたこと、それは私のたった一つの後悔でもある」

「お父さん…」

「静香との約束・・潤、お前を迎え入れること、それしか私には出来ることはなかった。
 だが、若い潤が全ての真実を受け容れてもなお強く生きてくれるのか、私はそれがとても不安だった。
 それでも水田や孤児院の院長達の話を聞いて、ようやく話す決意がついたよ。
 去年の X'masの劇のビデオを見て、潤も成長したんだと確信したしね。
 それで、今日、私はこうして潤に事実を話すために来たわけだ」

「・・父さん、話してくれて嬉しかったよ。母さんの事、好きでいてくれたことも」

「潤、いつかは三上の事業を引き継いでくれないか?
 その事も含めて、出来ることなら潤が高校を出た後に、米国で一緒に暮らそう。
 無論、妹達も一緒にと考えている」

「米国に? 父さんには今の妻がいるのだろう、うまくやっていけるのかい?」

「今の妻もその事は承知している。残念ながら、私達夫婦に息子はいない。
 生まれた子は双子の亞里亞と雛子で、その出産後に妻は子供ができなくなった。
 だから、三上家の男子は、潤だけなのだ」

「そうか・・。
 ところで、父さん、妹達の過去の事を一度聞いてみたかったんだ。
 俺、妹達のことをほとんど知らないから」

「それも今日話そうと思ったのだが、話が長すぎて時間がとれそうもない。
 さしあたりのことはこの手紙に書いておいた。今度、ゆっくり話そう。
 それに、静香の親しかった斉藤弁護士に会ったことがあるだろう?
 彼なら娘達のことはよく知っていると思うから尋ねてみるといい」

「斉藤弁護士が?」

「ああ、そうだ。静香と離婚してからも、私は彼と接する機会があって、
 娘達の身の上に関する法律事務は今まで彼にお願いしていたんだよ。
 これからも娘達の事で何かあったなら彼に相談するといいかもしれない。
 他に、水田も少しは知っているはずだ」

「分かった」

「じゃあ、そろそろ行こうか、潤」

「そうだね。妹達も待ちくたびれているだろう。
 な〜、父さん、妹達には会って話していかないのかい?
 せっかく来たのだし、夕食でも?」

「今日の夜に米国に戻らないといけないが…
 うーん、飛行機の便をずらせば、少しは時間もとれるな。
 さしずめ、みんなで遅めの昼食でも取るとしようか」

「じゃあ、行こう、父さん。
 そうそう、言い忘れたけど、俺、いつか三上の姓を正式に名乗るから。
 実のところ、時々、名代で使うこともあったけど」

「・・そうか。気持ちの整理がついたらいつからでも名乗るがいい。
 お前は俺の息子なんだから」



潤と純一郎は、話を終えて、校門の方へと急いだ。
校門には妹達が全員揃って、潤達の帰りを待っていた。

「おとうたま♪」


雛子と亞里亞が嬉しそうに純一郎の許に駆け寄った。
亞里亞は少し戸惑っていたが、純一郎のことをじっと見つめてから、ゆっくりと近寄ってその袖を握りしめた。

「お父様?」

「亞里亞、雛子、元気にしていたか?」

「「うん♪」」

「他のみんなも・・元気でなによりだよ」

純一郎がそう言うと、他の12人の妹達も、純一郎の周りに駆け寄ってきた。
…その妹達の多くは、純一郎と血縁関係がない、養女であったが。

潤は父親の光景を見て、不思議な気持ちになった。
父親に言われるまでもなく、父親と妹達に必ずしも血縁関係があるわけでない、
それは潤も知っていたが、目の前に広がる父親と妹達の雰囲気は家族そのものだった。
目の前にいる父親は、全ての娘達に等しく明るい笑顔を向けていたのだ。

潤が妹達と初めて出会った時、それは衝撃的なことばかりだった。
振り返れば、血のつながりだけが家族の証ではない、この1年、その事を身を以て知った気がする、潤はそう思っていた。

『誰かを愛する気持ち、そう、人の愛情に勝るものは世の中にはないの』

母さんがそう言うことを言っていたな、潤はその事を思い起こした。


誰の思惑にもかかわらず、現実は目の前に確かにあった。

-----入学式の記念に撮った、潤と純一郎、そして14人の妹達の姿



新しい季節の始まりを告げる風が桜の花びらを漂わせていた。










後書き by 作者


北川:「随分いろんな過去が明らかになったものだな?」
作者:「さしずめ、今回の話は潤にまつわることだとでも言おうかな」
北川:「そうだな。これで俺についての過去はほぼ明らかになったな」
作者:「さて、これからは北川が妹達を受け容れる番というわけだ」
北川:「今後は、シスプリ系の話が主になるのかい?」
作者:「カノン系の話もあるよ。だが、SSの重点はシスプリ系に移す。
    カノン系シナリオのメインは第3章の第1話〜第4話で概ね出したつもり。
    でも、結論を書いてない恋愛の組み合わせはまだあるよね?
    恋愛の結末をきちんと書く、それは恋愛がらみのSSでは必須だもの」
祐一:「それもそうだな。カノン系がこれで終わりでは読者も納得しないし」

??:「ね〜、作者、何か企んでる?」
作者:「当然。
    まあ、結論を読者が納得してくれるのかという問題は残るね。
    いうなら、SSならではの、作者vs読者の想像力の駆け引きはこれからが
    本番になるかな」

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