最後の真実
第2章 お兄ちゃんと一緒の時
 
第15話(第2章最終話)「X'mas Destiny」
            兼 2003年 クリスマス記念SS
 
シルビア








「うーん……」

ある日、教室で潤は考え事をしていた。

「北川君、どうかしたの? そんなに真剣に悩み事をしても似合わないわ」

「いやな〜、ちょっと頼まれ事をされて小劇をすることになったのだが、
 いかんせん、脚本がかけなくて、こうして考えてるんだ」

「あら、北川君、私が演劇部の部長だってことを忘れたの?
 どうして一言相談してくれないのよ。脚本なら、私、いつも書いているわよ」

「お〜、なんか美坂の背後に後光を感じるぞ」

「私をおだてるぐらいだから、相当困っているのね。
 いいわ。ケーキと紅茶を奢ってくれるなら、相談に乗るわ」

「美坂もちゃっかり、人の足下を見るよな〜。
 だけど、背に腹は代えられないし……いいぞ、好きなモノ奢る」

「ふふ♪ それじゃ、放課後にね」

放課後、二人は百花屋に行った。
香里はケーキと紅茶を好きなだけ頼んだ。

「まあ、----------というわけで、クリスマス・シーズンに小劇をするんだよ」

「あら、いい話じゃない。新入部員でよければ、うちの部のメンバーも貸すわよ。
 部員にもいろいろと経験させたいし、北川君だってうちの部員がいた方がいろいろと助かるでしょ?」

「そうだな、演劇部にも協力してもらえるとありがたい」

「でも、北川君と妹達14人が演じるような脚本ね〜……そうだ、この話なら。
 北川君、さらっと読んでみて」

香里はいくつか用意していた脚本から1つを取り出して、潤に差し出した。

「うん、この話なら、OKだね」

「北川君達だけではちょっと人数が足らないけど、その分、演劇部員で補えば大丈夫だしね」

「じゃ、よろしく頼むよ、美坂。恩に着る」

「気にしなくてもいいわよ。終わったら、また奢ってもらうから♪
 北川君、お金持ちだしね」

「これでも、けなげに暮らしているんだぜ、俺。
 妹達に日頃奢らされて、毎月のように妹の誕生日があって、鈴凛の研究資金を
 援助しなければならない俺の身にもなってくれよ」

「いいじゃない。楽しそうで。お金は有意義に使うのが一番よ。
 私なんて、勉強でアルバイト出来ないし、おかげでいつも懐が寂しいのよ」

「はぁ〜……まあ、いいけど。(母さんにたっぷり貰えて良かったよ、本当に)」

「次は何を奢ってもらおうかな、楽しみだわ♪」

これもまあデートみたいなものだよな、ご機嫌な香里を前にして潤はそう思っていた。



「お兄様、お芝居用の服を買いに行きましょう♪」

「芝居は口実のような気もしないでもないが……まあいいか」

咲耶はすっかりご機嫌であった。
咲耶にはよく誘われるのだが、忙しくて相手できないことも多い。
潤が断ることもしばしばで、こういう機会があると、ここぞとばかりに咲耶は意気込んで誘いに来る。
咲耶にしてみれば、やった〜、お兄様とのデートだわ♪、ということらしい。
更に、咲耶と出かけたことが、四葉のチェキでばれて、他の妹ともそれぞれでかける羽目になった潤であった。

こういった理由もあって、潤がある意味、一番忙しい身の上となった。
だが、人数はいるので、準備の方は滞り無く進み、劇を演じる当日を迎えた。

---------------------------------------------------------------------

司会「次は三上家の兄妹達と華音学園の演劇部の共演による、『翼』です。
   では、出演者の皆様、よろしくお願いします」

大勢の観客の拍手に迎えられて、芝居の幕はあけた。

ナレーター「ここはカノン公国。国王は少し前に崩御し、王家には春歌王妃と潤王子がいた」

春歌:「困ったわ。王子ったら王になろうというこの時期になっても、姫を娶らずじまいで。
   どうしたものでしょう……このままでは……」

王妃は召使いを呼ぶと、王子を連れてくるように命じた。
ほどなく、王子が王妃の前に姿を現した。

潤 :「お呼びですか、母君様」
春歌:「王子、お呼びしたのは他でもありません。
    あなたも3月後には王位に就く身の上、早いうちに妻となる女性を娶る
    ことが大切なのです。常々、私から貴方に言ってきましたよね?」
潤 :「母君様が仰ることはもっともですが、どうも政略結婚は苦手です。
    できれば自分が好きな人と結婚したいと思います」
春歌:「では、王子が気に入る女性がいらっしゃるのですか?
    それなら、その女性と会ってみたいと思います」
潤 :「それが……居るには居るのですが……」
春歌:「では、その女性にお会いしたいです」
潤 :「それが……どこに住んでいるかわからないのです」
春歌:「どこに住んでいるかも分からない女性を王妃に迎えることは出来ません。
    どうしても好きな女性と結婚したいなら、社交界等で探すしかありませんね。
    ならば、来月、あなたの后候補を選ぶ舞踏会でも開く準備をしましょう。
    王子、よろしいですね?」
潤 :「……は、はい。母君様」

王子は舞踏会を開催する王妃の申し出について、断ることができなかった。
せめて、舞踏会までに、その女性と再会できることを祈るしかなかった。


ナレーター「実はその時、王子はある女性に恋をしていた。
      しかし、その女性とは一度会ったきり、多くの事を知らない。
      時は少しさかのぼる。
      ここはカノン公国の国境はずれにある山の森の中、狩りに出かけた
      王子の一行を突然の雨嵐が襲った」


潤 :「まずいな……当分、止む気配はないぞ」
従者:「山の天気は不安定ですから。ですが、ここも安全とは言えませんね」

その時、王子達の前を一人の少女が駆けていました。

潤 :「君……この雨嵐の中では危ないよ」
可憐:「私でしたら、大丈夫です。すぐ先の山小屋がありますから。
    それよりも、あなた方こそ、この嵐の中で何をなさっているのです?」
潤 :「私はカノン公国の王子。ここでこの雨嵐が止むのを待っているのだが」
可憐:「王子様ですか? 無礼の程、大変失礼しました。私はこの森に住む娘です。
    僭越かと思いますが、この嵐は当分止まないと思います。
    ここにいるのは無茶だとおもいます。
    よろしければ、嵐の間だけ、山小屋で一緒に過ごしませんか」
潤 :「そうか……済まないが、俺達もしばらくの間、そこで世話になっても
    いいかな」
可憐:「たいしたもてなしはできませんが、それでよろしければ。
    では案内します、私に付いて来てください」

可憐は王子達の一行を山小屋に案内した。
3人ぐらいで住むためのたたずまいの山小屋、だが、数人が雨をしのぐには十分すぎる作りといえた。

可憐:「狭い小屋ですいません。
    男物の服はあまりありませんが、毛布とタオルでよければお使いください。
    濡れたままで居て、病気になられては大変です」
潤 :「ありがとう」
可憐:「暖炉に火を入れましたので、着替えたら服を暖炉で乾かしますね」
潤 :「かたじけない。ところで、ここは君の家なのかい?」
可憐:「ここは私が山で作業する時の作業場です。
    家は森の外れにありますが、森にいる時はここに居ることもあります」
潤 :「一人で住んでいるのかい?」
可憐:「少し前までは、おじいさまがいらっしゃいました。
    ですが、つい先日、亡くなりまして、今は一人で住んでいます。
    この小屋はおじいさまが私に残してくれた小屋なのです。
    私は拾われ子だったのですが、それでもおじいさまは私を可愛がって下さいました」
潤 :「そうか。大変だったね。
    そういえば、君の名前まだ聞いてなかったね」
可憐:「可憐といいます」

王子は目の前にいる娘に興味を抱いた。
年は15、6才ぐらいのうら若き乙女らしい。
外見は、それほどめかしていないし土にまみれていたものの、綺麗な顔立ちの可愛い少女だった。
王子はその娘・可憐に優しい印象と、上流階級ではあまり見られない純真な心を感じ取っていた。だが、娘の雰囲気にはどことなく高貴な印象も感じとれた。

やがて、雨嵐があがると、王子は山小屋から出発する準備を整えた。

潤 :「……世話になったね。可憐さん。ありがとう」
可憐:「王子様……道中、お気をつけてくださいね」

二人の間にはどことなく間があった。
礼を言う王子はどことなく晴れやかな笑顔を浮かべていたので、娘もまた王子の魅力に心を惹かれ少し俯きかげんに王子を見つめていた。

従者:「王子。そろそろ参りませんと、日が暮れてしまいます」
潤 :「そうだな。行こう」

王子は従者達と共に、山小屋を去った。
去り際、王子は一度だけ振り向いた。
その目には手を振る娘がまっすぐ潤達を見送っている光景が映っていた。

可憐:「王子様……どうして貴方は王子様なのですか……とても残酷です。
    もし、あなたが王子様でなかったら……」

可憐は王子の姿が見えなくなるまで手を振った。

ナレーター「町娘と王子とではあまりに釣り合いがとれない、そんな思いもあって
      出会って一目ぼれで合った二人だったが互いに気持ちを打ち明けられず別れた二人だった。
      あくる日、娘は、いつものように森の中に食べ物を探しに行った。
      そこで、娘は罠にかかって傷ついた小熊を見つける」

可憐が森で食べ物を収集していると、ふと、
 うぉーん〜、うぉーん〜、うぉーん〜
という可愛らしいとも勇猛ともいえない泣き声があたりに聞こえてきた。
可憐は不思議に思って、泣き声のする方へと向かいました。

可憐が目にしたのは、罠に掛かった小熊でした。
右足には罠の刃が刺さっていて、血がにじんでいました。

可憐:「大丈夫? 今、はずしてあげるからね」

小熊の泣き声が切なく聞こえた可憐は、小熊の罠をはずしてあげた。
それから、傷口の血をハンカチで拭って、荷物から布を出して傷口を覆ってあげた。

可憐:「おとなしい子なのね。人になついているのかしら?」

その時、可憐の背後の方から少女の叫び声が聞こえた。
可憐が振り向くと、可憐の方に駆け寄ってくる少女の姿があった。

雛子:「あ〜〜、ヒナのクマさん! ベアベア〜〜〜!」
可憐:「この小熊さんを知っているの?」
雛子:「うん。ヒナの飼っている熊さんなの。ベアベアっていうんだよ〜♪
    森の中でいなくなっちゃって探していたんだよ」
可憐:「そう、良かったわ。
    小熊さん、怪我をしているからどうしようかと思っていたの」
雛子:「あ〜、本当だ〜。ベアベア〜、痛い〜?」

雛子がそう言うと、小熊はうんうんとばかりに首を縦に振った。

雛子:「今、直してあげるね。『ケアルラ』!……もう大丈夫だよね、ベアベア!」

雛子がそう言うと、小熊は嬉しそうにくーんくーんとほえた。

千影:「雛子様、もうそろそろお戻りになりませんと。
    それに、人様の前で魔法を使ってはいけませんよ」
雛子:「あ、千影ちゃん。あのね〜、ベアベアいたよ〜♪」
千影:「雛子様、ちゃんと私の話を聞いていますか?
    小熊でしたら私が楽に探してあげられるのです。
    無茶ばかりしてはいけませんよ」
雛子:「は〜い♪」

可憐:「あの〜……もし……この子をご存じなのですか?」
千影:「あ、済まなかったね。
    私達はシスティーヌ王国の者で、こちらが水木伯爵のご令嬢の雛子、
    私は伯爵付きの魔術師で千影という」
可憐:「私は可憐といいます。小熊を助けたら、この子が現れまして」
千影:「様子は水晶で見させてもらったよ。
    それよりも、君の着けているその胸のペンダントは買った物かい?」

千影は可憐のペンダントをじっと見つめながら、何か考えていた。

可憐:「私は森で拾われたのですが、ペンダントはその時から見に着けていました」
千影:「なるほどね。森で拾われたとの事だが、拾われた場所は知っているかい?」
可憐:「場所ですか? 頂上に続く道の中腹にある1本だけ大きな杉の木だと
    おじいさまに教えてもらったことがあります」
千影:「そうか。ちょっと待っていてくれないか」

千影は水晶を取り出すと、杉の木の場所の映像を映し出した。
幼い可憐の姿がそこに映っていた。
千影は水晶に映ったものをみて、確信めいたような笑みを浮かべた。

千影:「可憐といったね。
    君は『テレポ』という魔法で杉の木にとばされてきたみたいだね。
    それに、君のつけているペンダントは、システィーヌ王国の王家の紋章を象ったもの。
    その辺で普通に売っている代物ではないよ」
可憐:「システィーヌ王国? 王家?」
千影:「確認したいことがあるんだ。
    可憐、一度、システィーヌ王国に来てもらえないか、案内する。
    来てくれるなら、私の右手に捕まって一緒に転移しよう。
    さあ、雛子様も行きますよ、捕まってください」
雛子:「うん♪」

雛子は小熊を片手で抱きかかえると、もう一方の手を千影と繋いだ。
可憐も千影の右腕を手にとった。
可憐は自分の知らない過去を知っているこの千影という少女に関心をもったからだ。

千影:「『テレポ』」

ナレーター「3人の姿が森から消え、やがて、魔法陣のある部屋へと転移した」

美汐:「お帰りなさい、千影お姉様
    ですが、千影お姉様、この方はどなたですか?」
千影:「多分、行方不明になった例の少女だと思う」
美汐:「え? まさか……生きてらしたのですか?」
千影:「これも運命かもしれないな。美汐、契約の儀式をするから準備を手伝って」
美汐:「はい。千影お姉様」

千影:「可憐、先に確かめたいことがある。魔法陣の中央に立ってくれないか?」
可憐:「は……はい」
千影:「では始めよう……」

そう言うと千影は口から詠唱を唱えた。
可憐の周りに不思議な物体が浮かんできて、やがてそれは可憐の体に吸い込まれた。

千影:「やはり間違いなかった。
    契約の儀式で、4大エレメントや光の精霊と契約できるのは王家の者のみ」
可憐:「あの〜……」
千影:「あ、済まない。説明してなかったね。
    今執り行ったのは契約の儀式といって、魔法を使えるようにするためのもの
    なんだ。システィーヌ王国の王侯貴族や一部の聖職者には魔法を使える能力を
    もつ者がいる。
    とりわけ、王家や高位の聖職者の場合、その魔法も高度なものだ。
    そして、可憐は、高度な魔法を契約できたのだよ。
    契約できること、それはすなわち可憐が王家の人間であることの証ともいえる」
可憐:「私が王家の人間なのですか?」
千影:「まずは、今までの非礼をお許しください、姫。
    それでは昔の話をお話させていただきます。
    数年前、王家が邪なる者の魔力に襲われた時、私は王家の王女を救出し、
    忍び寄る敵から貴方を助けるために『テレポ』で貴方だけ異国に送りました。
    その王女が貴方、可憐だったのです。
    名前の発音が変わっていても、そのペンダントはあのころのままです。
    ケレン(可憐:Keilen)王女、ご無事で何よりでした」
可憐:「私がケレン王女? そんな馬鹿な……」
千影:「論より証拠、実際にあなたの力を知れば納得しますね?
    あなたは『テレポ』を使って自分の記憶にある城に転移できます。
    システィーヌ王国の城はあなたの生まれた場所なのですから。
    雛子様、それでは私はしばらく出かけてきますので」
雛子:「ヒナ、寂しい……」
千影:「帰ってきたらまた遊んでさしあげますから、それまでベアベアと遊んでいてくださいね。
    では、ケレン王女、心の準備はよろしいですか?」
可憐:「はい」

千影と可憐は手を取り合った。

千影:「詠唱の文句はケレン姫の記憶の中にございます。
    城に行きたいと願いながらテレポの魔法を唱えてください」
可憐:「はい、やってみます。『テレポ』」

ナレーター「ここはシスティーヌ王国の王城にあるテラス。
      可憐ことケレン王女の唱えた魔法の力で可憐と千影はここに転移した」


可憐:「で、出来た……私が? ということは……」
千影:「『テレポ』はかなり高度な魔法で、これを使えるのは私の他には王家の者
    位です。それに貴方は他にも多くの精霊と契約を交わることが出来たので、
    他にも多くの魔法を使いこなせるはずです。
    では、さっそく、王と王妃に謁見しましょう」

千影は声高く、城の者を呼びつけた。

衛兵:「これは千影様、ようこそシスティーヌ王城へ。今日はどの要件で、いたしたのですか」
千影:「ケレン王女をお連れした。至急、王と王妃に謁見したい。急ぎ手配を頼む」
衛兵:「行方不明のケレン王女でございますか?
    まさか……はっ、畏まりました。直ちに取り次ぎます!」
千影:「相変わらず落ち着きのない衛兵だな。まあいいか」

しばらくすると、先ほどの衛兵が近衛隊長・衛を引き連れて戻ってきた。

衛 :「ケレン王女、ご無事でございましたか。
   申し訳ありません、私の力が及ばないばかりに辛い思いをさせてしまいました」
千影:「過去のことはもうよい。それより謁見の方は?」
衛 :「それでしたら、王と王妃が謁見の間で既にお待ちしております。
    ケレン王女にすぐにでもお会いしたいとのことです」
千影:「わかった。すぐ行く。……ケレン王女、私についてきてください」
可憐:「はい……」

千影は可憐を謁見の間へと導いた。

太郎:「ケレン……よくぞ戻ってきた」
白雪:「ケレン……本当にケレンなのですね? もっと近くで顔を見せてください」

千影:「ケレン王女、太郎国王と白雪王妃でございます。あなたの両親です」
可憐:「私のお父様、お母様……」
千影:「記憶を失われたようですね……王妃、お願いします」
白雪:「記憶を……そうですか、分かりました。『ライブラ』」

王妃の魔法によって、可憐の記憶が次第に蘇っていった。
王城で遊んでいた頃の幼い記憶、その記憶にある父と母の面影を王女は思い出した。

可憐:「私は……あ、お父様、お母様!」
白雪:「思い出してくれたのですね、ケレン。システィーヌ王国の王女であることを」
可憐:「私は……あ、お父様、お母様! そう言えば、私、婚礼の儀式は……」
白雪:「婚約者も思い出したのですね。ですが、あの儀式は中止しました。
    婚約者が反乱軍に協力していたことが明らかになったからです」
可憐:「……ほっ」
白雪:「ケレン、どうかしました? 結婚するのは嫌でしたか?」
可憐:「あの……実は好きな人が出来て……カノン公国の潤王子なんです」
白雪:「ふふ、恋をしたのですね。
    でも、カノン公国の潤王子といえば、舞踏会を開催して后を捜すとの
    おふれがつい先日私の許に届きましたけど?
    たしか、舞踏会の開催期日は今日ですよ」
可憐:「え、それは本当ですか? ……そうですか、后を捜すのですか……」
白雪:「何をがっかりしているのです?
    潤王子の后はまだ決まっていませんよ。
    でも、ケレンはカノン公国の潤王子のことが好きなのですね。
    その顔を見れば誰でもわかります」
可憐:「お母様……」
白雪:「潤王子の許へいっておいで、ケレン。自分の気持ちを伝えるのです」
可憐:「お母様……はい♪」
白雪:「でも、その格好では、潤王子の心が射止められるかしら?」

可憐は町街の格好をしている娘自分の姿に気が付き、慌てた。
王妃は侍女に命じて、王女の身支度を整えさせた。

可憐:「行ってきます、お母様。-----『テレポ』」

そして王女は、カノン公国の城に続く道、その先にある広場に転移した。



ナレーター「舞台変わって、カノン公国の王城の広間。
      そこで、潤王子の后を決めるための舞踏会が開催されていた」


春歌:「王子、気に入った女性はいらっしゃいましたか?」
潤 :「母さん……どうしても選ばなければいけないのかい?」
春歌:「王子、恋愛を望む気持ちもわかりますけど、あまり私を困らせないで。
    できることなら早くあなたの后の姿がみたいのです」
潤 :「母さん……」

王子は王妃の心配することも分かっていた。
だが、王子は舞踏会に参加している姫達をみても心がときめかないのでした。
王子は招待する側の立場として、儀礼的に付き合って踊ったり話したりするだけだった。
一方の姫達はといえば、王子の心を捉えるべく、必死の試みをしていました。

咲耶:「王子様、私と王子様は赤い糸の運命でつながれているのです。
    こうして、王子様といるだけで、私の気持ちは次第に惹かれているのです。
    分かりますか、王子様……」

咲耶は王子に胸が触れるほどに寄り添った。
しかし、王子は、顔立ちもスタイルも文句なしのこの令嬢の誘いにも関心を示すことはなかった。

鞠絵:「王子様、わたくし、とても幸せです。
    こうして王子様とお話しながら踊れるなんて、夢のようですわ」

鞠絵は物静かさの似合う姫で、その素振りの上品さが着ているドレスを一層引き立てた。
しかし、王子は、姫のことをじっくりと観察することもなく、話もなかばうわべの空だった。

鈴凛:「よく、あんな格好ができるよな〜。ドレスなんてボクの趣味じゃないよ」

鈴凛という姫は、さながらジャンヌ・ダルクを偲ばせる軽装歩兵のようなデザインの男物の服をあしらって、飲み物や食べ物ばかり口にしていた。

花穂:「花穂、王子様と一緒に踊れるように一生懸命練習したのです。キャッ!」

花穂という姫は、慣れないダンス・ステップに足をからませてしまい、自分のドレスの裾を思いっきり踏んづけては、王子を巻き込んで転倒した。
えへへ〜♪、と少女声で笑っていたものの、王子の前でドジをしたことで恥ずかしさのあまり顔は真っ赤だった。


潤 :「はぁ〜、決めなければいけないのか……」
春歌:「王子、もうそろそろ后をお決めにならないと舞踏会も終わってしまいます」
潤 :「はい、分かりました……って、あ!」

潤が思案していた時、舞踏会に一人の姫が広間の入口に姿を見せた。
姫らしく装っていたものの、その顔立ちと雰囲気から、王子はかつての森の娘だと気が付いた。

(あの時の森の娘、可憐!)

王子は心の中で神に感謝した。

潤 :「母さん、どの娘でもよろしいのですね?」
春歌:「王子、あなたが自ら選ぶ女性をむやみに断ると思いますか?」
潤 :「わかりました。私が選んだのは、あの娘です」

王子は、王妃のもとを離れ、一人の姫のもとへと急ぎ走っていった。
王子のその様子に気が付いた姫は、笑みを浮かべて、その場で王子を待った。

可憐:「潤王子……ごめんなさい、私、貴方に自分の気持ちを伝えられませんでした。
    だから、こうして会いに来ました。貴方に会いたくて……」
潤 :「姫、私と踊って頂けますか?」
可憐:「はい?」
潤 :「できれば、そのままずっと、私と一生踊って頂けると嬉しいのですが」
可憐:「潤王子……はい♪ 私でよければ、お望みのままに」
潤 :「ありがとう」

春歌:「王子、その姫を私に紹介してくれませんか?」
潤 :「かつて、森で出会った娘で可憐といいます」
春歌:「森で出会った娘?
    それは本当なのですか、王子?
    第一、その娘は、ただの娘ではありませんよ。
    王子、そのペンダントが象るシスティーヌ王国の王家の紋章が
    目に入らないのですか?」
潤 :「えっ? システィーヌ王国だって?」
可憐:「潤王子、カノン公国の言葉では"可憐"なのですが、
    ……私の本当の名前は"ケレン"(Keilen)、システィーヌ王女ケレンです」
春歌:「システィーヌ王女ですか、これは驚きました。
    王子も恋愛がいいといいながら、しっかりいい相手と出会っていたのですね。
    では、あとは二人で楽しくお過ごしなさい」

潤 :「可憐、さっきの話は本当なのかい?」
可憐:「私自身も、今日分かったことなので、自分でも驚いているのです。
    ですが、潤王子、私、貴方のことを一時も忘れることができませんでした。
    私はこのまま王子の側で一生寄り添っていていいのでしょうか?」
潤 :「もちろんだとも」

ナレーター「王子と王妃は結ばれ、後に、王子はカノン公国の国王となった。
      カノン公国は二人の幸せそのままに、幸せな国となった」


---------------------------------------------------------------------

劇が終わり幕が下りると、子供達の拍手が鳴り響き、歓声がわき起こった。

ナレーター「さあ、みんな〜! 王子と王妃にもう一度会いたいか〜〜〜〜〜?」

子供達:「会いたい〜〜〜〜!」

ナレーター「それじゃ、この際、今回の劇のスタッフ全員の紹介をするよ〜。
      みんな〜、拍手で出迎えてやってくれ〜」

ナレーター「まずは劇のナレーター……って、それって俺じゃん! 久瀬伸也〜!」

子供達:「…………」

久瀬「拍手がないぞ、そりゃないだろう? うーむ、じゃあ、次!
      子役を演じてくれた華音高校・演劇部の皆さん」

 演劇部スタッフが舞台に再登場して、各々のパフォーマンスを繰り広げる。

子供達:「わ〜〜〜〜(パチパチ)」

久瀬「いいんだ、いいんだ……どうせ、俺なんて……」

香里:「こらこら、久瀬君。ナレーターがいじけるなんて、紹介はどうするのよ〜!」

久瀬:「悪い、悪い。
    演劇部の部長で、この劇の脚本・演出をしてくれた美坂香里お姉ちゃん!」
 
香里:「なんでお姉ちゃんなのかな〜?……
    とにかく、みんな、最後まで観てくれてどうもありがとう」

久瀬:「水木伯爵令嬢・三上雛子、魔術師・三上千影、三上美汐!」

 かけ声と共に、舞台中央に吹き上がる煙と共に、雛子と千影と美汐が揃って登場する。
千影と美汐は舞台の上で、二人揃って手品を披露した。
 雛子は明るく元気に笑いながら、二人の手品を眺めた。

久瀬:「次は舞踏会の姫君の登場だ〜、咲耶・鞠絵・鈴凛・花穂ちゃん、よろしく」

 舞踏曲をバックに、2ペアで踊りながら舞台中央に咲耶・鞠絵・鈴凛・花穂が姿を見せた。

久瀬:「システィーヌ国王・山田太郎、王妃・三上白雪、近衛隊長・三上衛!」

 白雪に手を引かれ、なにげににやけた山田太郎が姿を見せた。
近衛姿の衛は軽やかな運動神経で剣さばきのパフォーマンスを披露した。

久瀬:「カノン公国王妃・三上春歌」

 上品極まりない素振りでゆっくりと歩を進めた春歌は、舞台中央から、
 にっこり笑って、ちょっと冗談めいた投げキッスを観客席の方に投げた。

久瀬:「さあ、待たせたね、君たち! 主役のお二人のご登場だ」
    さあ、まずは我らが王子とお姫様の登場だ〜、盛大な拍手で迎えてやってくれ!
    システィーヌ王女ケレン・三上可憐! カノン公国王子・三上潤!」

子供:「お姫様〜〜〜〜♪」「王子様〜〜〜〜♪」

 照明が暗くなり、舞台中央手前から奥に向かってスポットライトの円光が走る。
光は舞台中央奥に佇んでいる、プリンセスにふさわしい婚礼衣装に身を包んだ
可憐の姿をくっきりと浮き出す。

久瀬:「あれ、連れはいらっしゃらない?
    じゃ〜、もう一度みんなで王子様を呼んでみよう。せーの♪」

咲耶・鞠絵・鈴凛・花穂「「「「「王子様〜♪」」」」
その他ALL:「お兄ちゃ〜ん♪」
久瀬:「あらら……」

 やがて、可憐の右側にタキシード姿の潤が登場する。
そして、潤の差し出した左手に、可憐が腕を組んだ。
二人は揃って舞台中央を前に向かってゆっくりと歩み、スポットライトが二人の
歩む先をゆっくりと辿る。
 二人の歩む両脇から、花吹雪が舞い散った。
 二人は、さながらバージンロードを歩む二人のように歩を進めた。

潤 :「メリー・クリスマス、孤児院の子供達♪
    今日は劇を楽しんでもらえたかな?
    みんなの幸せになりたいという願いも、きっと神様は叶えてくれるよ。
    だから、明るく元気にこれからもがんばってね」

ここは、三上家の支援する孤児院のクリスマスのお祝いバーティの場だった。
それは、親のない孤独な子供達の心を励ましてあげたい、そんな三上家の兄妹達からの
ささやかなプレゼントだった。


咲耶・可憐・あゆ・花穂・白雪の5人が1歩前に出て、マイクを握った。

咲耶:「私達5人は君達と同じ親を亡くした孤児でした。
    他の妹達も皆、一人で寂しく過ごしてきました」
可憐:「でも、みんな、今はとても幸せです」
あゆ:「夢と希望を無くさなないで頑張ったから、」
花穂:「神様が素敵な出会いをくれたのです」
白雪:「人を愛して愛されて、その人と苦しみも楽しみも分かち合えました」
春歌:「みんなもきっとこれから先、素敵な人達とめぐり会えることを願っています」

衛 :「格好よくて、」
雛子:「……優しくて、」
鞠絵:「……誰よりもわたくし達のことを思ってくれる、」
鈴凛:「……・そんな世界でたった一人のおにいちゃんと」
千影:「…………永遠の絆で結ばれて」
四葉:「…………私達も幸せになります」
亞里亞:「だから、いつまでも優しく見守ってください、」
美汐:「せーの♪」


妹ALL:「この世で一番大好きなお兄ちゃん♪」

潤 :(あはは〜……照れるな、もう)


その様子を観客席で眺めていた三上家執事の水田と孤児院の院長は、そっと涙を流していた。それは、二人が長い間、望んでいた幸せな光景だったから。


---------------------------------------------------------------------
第2章 エピローグ
---------------------------------------------------------------------

ここは米国、40代半ばの一人の男が一人書斎にいた。
男は郵便物の小包を開いた。
その小包には初老の人物からの手紙と、1本のビデオテープが入っていた。

男は手紙を読むと、ビデオテープを取り出し、ビデオデッキに挿入して再生した。
やがて、舞台で元気に芝居をする潤と妹達その他の劇の模様が、ブラウン管に映し出された。
男はウィスキーのロック・グラスを片手に、その映像に見入っていた。
その男の表情には薄らかな笑みが浮かんでいた。

「あなた、ここにいらしたのですか。……あら、何をご覧になっているのです?」

男の妻、三上加奈子(旧姓:倉田加奈子)が書斎にいる夫を捜しにきた。

「加奈子も見るかい? 私の子供達の劇のビデオさ、孤児院で演じたそうだ」

そう、男の名は三上純一郎、三上家の当主にして、北川潤や妹達の父親にあたる人物である。

「私は食事の用意がまだなので、後で見させてくださいね。
 でも、子供達の様子をビデオで見るなんて、たまには貴方も父親らしいことをするのですね、びっくりしました。
 冷静で感情などないのかと思っていましたわ」

「そう言うなよ、俺だって出来ることなら子供達の側で一緒に暮らしたいさ」

「あら、口が過ぎましたね。
 ……分かっています、あなたが優しい人だということは。
 でも、私と二人きりのクリスマスでは寂しいですか?」

「一人きりでないだけ、ましというものさ」

「ふふ、つれない言葉ですね……。
 では、それを見終わったらリビングにいらしてくださいね。
 普段忙しくても、クリスマスの時ぐらいはゆったりと楽しんで下さい」

「ああ、分かった」

妻が去ったあと、純一郎はビデオの続きを見ていた。
映像が終わると、純一郎は書斎の机の引き出しを開いて、1枚の写真を取り出して見つめた。
その写真は、かつての純一郎の妻だった女性、潤の母親・北川静香、の写真だった。

(……静香、潤を立派な息子に育ててくれてありがとう。
 Merry X'mas 潤、そして娘達)

しばし過去の思い出にふけった後、純一郎は書斎を後にした。










後書き by 作者


作者 :「まずは、第2章完結までおつきあいいただき、ありがとうございます」
    (ペコリ)

咲耶 :「SILVIAお兄様、2章完結、おめでとう」
作者 :「これで第2章も完結か……全15話、長い道のりだった……」
咲耶 :「第3章も10話近いストーリーだものね、がんばってね、SILVIAお兄様♪
     もちろん、私を可愛く・美しく・華麗に描いてくれないとダメよ」

作者 :「Yes.でも、章の始めと最後はいつも苦労するよね」
咲耶 :「本当ね。
     それに、この話、演劇シナリオを書いているようなものだし」
作者 :「シスプリ愛好家なら気が付いたかもしれないけど、
     演劇シナリオでの可憐の名前、あれ一応意味があるのだよ」
咲耶 :「え? そうなの?」
作者 :「漢字圏の発音で、シスタープリンセス側は中国語発音を英語字幕でみると、
     可憐は Keilen、それで、姫の本名はケレン姫となったわけ。
     だから、シスプリの海外版DVDを見た人は気が付いたかもしれないね」
咲耶 :「普通、知らないわね」
作者 :「まあ、どこかで紹介をしようとおもっていたのだけどね。
     変な発想でごめんね」
咲耶 :「SILVIAお兄様らしいわ……この話といい……」
作者 :「そう言うなって。クリスマスの一般的なラブコメもよかったが、
     人情味のある心温まる話でも作ってみたいな〜とも思っていたんだ。
     それに、できれば今回のSSの登場キャラを全員出演させたかったし」
咲耶 :「でも、科白の少ない妹達はちょっと可愛そうかも」
作者 :「……ごめん」

祐一 :「さて、第3章から、いよいよ俺の出番というわけか」
作者 :「待たせたね、祐一。君には究極の脇役を演じて貰うから」
祐一 :「なんでカノンの主役を脇役にするんだ、お前は?
     それに北川が主役なんてあんまりだぞ!」
作者 :「クロス・オーバーとはいえ、あまり本編のイメージを損ねたくはないのでね。
     シスプリ側の話もなるべくイメージを損ねないように工夫している。
     祐一はそれまでの生き方がカノン本編に描かれているだろ?
     一方の北川は高校2年以前と3年以後の話が本編にほとんどない。
     だから、SSの都合で北川の過去と未来を自由に作れる。
     何よりも、”サブヒロインに愛の手を”を掲げるグループの
     リクエストがあったからというのが、一番の理由だけどね。
     まあ、嘆くなよ。それなりの役をあげて場を作ってあげるからさ」

佐祐理:「シナリオを見ると、なにげに、Airの設定も引用していましたね〜 。
     このSSをAirとクロスオーバーさせるつもりですか?」
作者 :「舞や千影の『力』の説明に、Airの世界観はちょうどいいからね。
     ちょっと方針変更したんだ。
     でも、クロス・オーバーというには部分的すぎる引用だから。
     Airの遠野美凪は出演させたいぐらい好きなキャラなんだけどね」
佐祐理:「SILVIAさん、私のいる時に、他の女の子の話をするんですか〜?」
作者 :「…………」

★ちなみに妹達の中国語発音を英文字で表記すると、妹達の名前は次のようになります。
 DVDを英語字幕で読むなら、知っておくと便利ですよ。
 シスプリの英語字幕は、口語英語がふんだんにでますが、見る価値もあるかと。
 だけど、いったん中国語に訳されて英語字幕になるのって、少し変な気分です。
 一方、プリ・ピュアの方は日本語発音で英訳されてました。

咲耶:Guanye 、千影:Qianying、雛子:Chuzi、鞠絵:Juhui、可憐:Kelian
四葉:Siye、亞里亞:Yaliya、鈴凛:Linglin、白雪:Baixue、春歌:Chunge
衛:Xiaowei、花穂:Huasui

〜読者の皆様へのお願い〜
このSSについて、気に入って頂いた方、投票をお願いします。 投票方法:クリック→| 投票 |  



PREV BACK NEXT