最後の真実
第2章 お兄ちゃんと一緒の時
 
第10話 「王子様」 〜雛子編〜
8月15日 雛子の誕生日SS
 
シルビア








「雛子ちゃん、何の絵を描いてるの?」

可憐は熱心に絵を描いている雛子の側に座って尋ねた。

「ヒナね、今、王子様を描いているの。絵本にする絵を描いてるの」

「そう、でも、この王子様、なんとなくお兄ちゃんに似てない?」

「うん♪ これ、おにいたまがモデルなの」

嬉しそうに雛子が応えた。
可憐はその絵を見て、どことなく嬉しいやら悲しいやら、そういう気持ちになった。
雛子の絵では、大好きなお兄ちゃんがデフォルメされているからだ。

「お、お兄ちゃんなのね……上手に描けてるわね……」

「うん。ヒナ、おにいたまが大好きだから、一生懸命絵を描いてるんだよ」

一生懸命描いても、幼稚園生の書く絵というのは可愛いものなのだ。
可憐の想像する格好いいお兄ちゃんとは、やはりほど遠かった。

「ね〜、雛子ちゃん。お兄ちゃんにモデルになってもらったら?
 そうしたらもっと上手に描けるかもしれないわ」

「うん♪ ヒナ、おにいたまにお願いしてみる」

実物を見ながら描けば少しは似るかもしれない、可憐はそう思った。
だが、結果は……想像を絶していた。

「おにいたま♪ ヒナの絵のモデルになってくれる?」

「え? 俺がモデルだって? 今はちょっと……」

その時、潤は机に向かって勉強している最中だった。

「お兄ちゃん?」

雛子は明るく健気にお願いをしている。
可憐は自分が誘導してしまったようで、しまった〜といわんばかりの顔をしている。
可憐の表情には、ゴメンね……といわんばかりの気持ちがその上目使いに現れていた。
潤には可憐の視線をちょっと痛痛しく感じたので、断りきれなくなった。

「分かった。じゃあ、少しの時間だけだからな?」

「わーい♪」

「……お兄ちゃん……勉強の邪魔をしてごめんなさい……」

「まあ、いいさ。ちょうど一休みしようと思っていたから」

「お兄ちゃん……それでは、私、コーヒーでも淹れてきますね」

可憐はその場に居辛そうな雰囲気を避けるように、早々に部屋を出て行った。

「それで、雛子ちゃんは何を描いているの?」

「王子様♪」

「王子様? それで、俺が王子様のモデルをするの?
 あ〜、なるほど、それで可憐ちゃんが……」

「おにいたま、モデルは嫌?」

「……そんなことはないぞ。雛子ちゃんのためなら」

「おにいたま、ありがとう。ヒナ、一生懸命描くからね」

雛子はスケッチブックに熱心に向き合って、なるほど一生懸命だな、と潤が思うほどに一生懸命に絵を描いていた。

「出来た♪」

「……どれ、見せてごらん?」

潤は出来上がった絵を見て、頭がピカソになった。
せっかく雛子が頑張ったんだし、と潤は絵を褒めてあげたかったのだが……褒めようのない絵だった。

「お兄ちゃん……雛子ちゃんの絵、描き終わったんですか?」

トレイにコーヒーと紅茶、ケーキを乗せた可憐が部屋に戻ってきた。

「描き終わったには描き終わったんだが……あまりにピカソなもんでな……言葉を無くした」

可憐は雛子のスケッチブックを覗きこんで、はーっと深い溜息をついた。

「……やっぱり。……お兄ちゃん、ごめんなさい」

「ね〜、おにいたま、ヒナの絵、上手?」

潤の表情や可憐の表情の意味するものを察してない雛子は、明るげな表情で尋ねる。

「ははは……・ヒナの年にしては、よく描けてると思うよ」

仕方ないな、と潤は雛子を傷つけないように言葉を選んで応えた。

「わーい♪ ヒナの絵、おにいたまに褒められちゃった。クシシシシシイシ……」

「お兄ちゃん……」

「ね〜、ヒナね〜、この絵、取っておきたい」

「……えっ?」

「ね〜、描いた絵をどうすれば、取っておける?」

「そ、そうだな……額縁にいれるのも良し、パソコンに取り込んで加工するのもよし……」

「おにいたま、手伝ってくれる?」

「あ、ああ、分かった。手伝ってあげるよ」

「わーい♪」

雛子は喜び勇んでは、駆けながら潤の部屋を出て行った。
あの絵を取っておくのか〜、と潤は少し戸惑ったが、雛子の笑顔を見てはむげに嫌だとは言えなかった。
可憐も潤のその表情から潤の気持ちを察したのか、悩ましげな表情を浮かべている。

「お兄ちゃん……ごめんなさい。絵、凄く下手でしたよね?」

「まあ、悪気があるわけでなし、雛子ちゃんだって一生懸命描いたんだろ。
 記念にとっておきたいって言うなら、仕方ないだろう」

「お兄ちゃんがいいと言うなら……」

「でも、どうする、あの絵? 無下にはできまい」

「難しいです。……あ! お兄ちゃん、こういうのはどうですか?
  ------(ぼそぼそ)」

「そうだな、それなら雛子ちゃんも喜びそうだし。
 じゃ、鈴凛ちゃんには俺から話して協力してもらうとしよう」


数日後、

「可憐ちゃん、これなら少しは見れるようになったよな?」

「そうですね、お兄ちゃん。あの絵をそのまま取っておかれるよりはマシかと」

潤と可憐は手作りの完成品を見ながら、少し嘆きともとれる会話をした。

「でも、俺が王子様ね〜……なんか照れくさいよな」

「お兄ちゃん……雛子ちゃんの気持ち、私も少し分かるんです。
 私もお兄ちゃんに会うまでは、お兄ちゃんの事、いろいろと想像してましたから。
 絵本に出てくる王子様のように憧れる気持ち、私も少し分かる気がするのです」

「そういうものか。
 ……俺の時は、いきなり14人も妹が出来てびっくりしただけだったけど」

「お兄ちゃんにとっては14人なんだけど、私達妹からすれば、お兄ちゃんはたったひとりのお兄ちゃんです。雛子ちゃんもきっとそう思ってますよ」

「そうだよな……まあ、たまには王子様になって見るのも悪くはないな」

「ふふ、お兄ちゃんったら、もう♪
 でも、可憐、お兄ちゃんは王子様も似合うとは思いますよ」



----8月15日 雛子の誕生日



「雛子ちゃん、誕生日おめでとう。
 これ、雛子ちゃんにあげる。俺と可憐ちゃんと鈴凛ちゃんとで作ったんだ」

「わ〜〜〜〜、ヒナの絵の王子様がぬいぐるみになった〜♪」

それは、王子様の形をした手作りの人形のぬいぐるみだった。
雛子の絵を原案に、潤と可憐と鈴凛の共同製作でつくったものだ。
プレゼントのメッセージ・カードには次のように書かれていた。

『雛子ちゃん、誕生日おめでとう。

             星の国の王子より』

人形の顔には、絵をスキャナで取り込み、そのイメージで刺繍の編機で模様を織り込んだ布が縫い込まれていた。
いうならば、雛子の絵にあるおにいたまがぬいぐるみに化けた、そんな感じだった。

喜んでいる雛子の様子を見て、潤と可憐は互いに向き合い照れ笑いをした。


(いつかは雛子を迎えにくる本物の白馬の王子様が現れるだろうけどね)










後書き by 作者


春歌 :「SILVIA兄君さまのSSでの誕生日プレゼントはいつも無茶苦茶ですわ」
作者 :「絵から刺繍にプリントする機械は実在するけどね。
     ぬいぐるみの顔にプリントを縫いつけたら面白いかなと。
     世のママさん達が子供に刺繍付きのアイテムを作ってあげたりしてるぞ?
     だから、こんなプレゼントが実在してもおかしくはないと思うぞ」
春歌 :「それは……刺繍プリントは可愛いかもしれませんが……」
作者 :「ならOKということで」

美汐 :「プレゼントはOKだとしても、ストーリーが回想曲になってませんね?」
作者 :「…………かもしれない」
美汐 :「SILVIA兄様、寄稿すると書き直しは難しいのですよ?
     このストーリーで本当にいいのですか?」
作者 :「…………雛子、俺はお前とお前のファンに謝らないといけないかも
     しれない」


作者がそんなやりとりに明け暮れているさなか、シルビアとシスター・プリンセス少女達の話す片隅で、二人のカノン側出演者が密談をしていた。

美汐 :「あゆさん、第2章では、私とあゆさんは肩身が狭いと思いませんか?」
あゆ :「美汐ちゃんはまだいいよ。ボクなんて、きっと作者に忘れられているもん」
美汐 :「まさか、あの作者が私達2人を差し置いて第2章を完結させるなんてことは
     しないと思いますが」
あゆ :「でも美汐ちゃんとボクは、タイトルには名前をださないって言っていたよ。
美汐 :「はぁ〜……酷い扱いですね。
     この際、佐祐理さんに密告しましょうか。効き目も抜群でしょうし」
あゆ :「その方がいいかもね。下手をすると外伝扱いにされるかもしれないよ」
美汐 :「そうかもしれません」

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