最後の真実
第2章 お兄ちゃんと一緒の時
 
第9話 「看護」 〜亞里亞編〜
11月2日 亞里亞の誕生日SS
 
シルビア








----10月30日


(うーん……なんか調子が悪いな〜……)


潤はかなり疲れていた。
三上家の跡取りなので、学校の勉強の他に帝王学ともいうべき事業家の実務も学ばねばならない。
それに加えて14人の妹の兄であるのだから、かなり肉体的に辛いモノがある。


「兄チャマ、チェキです〜!」

「今度は……何だ……四葉……」

「兄チャマ?」

「…………」

「わー、兄チャマ、大丈夫デスか〜!
 えーと、チェキチェキと……熱は少しあるデス、口の中も腫れているデス、瞼を開いて……意識はあるデスね。
 ……って、わー、兄チャマが倒れちゃったデス〜。
 えーと……えーと……姉チャマ〜〜〜〜!」

四葉は部屋を飛び出して、急ぎ姉妹の誰かを探した。

「あ……春歌姉チャマ、亞里亞チャマ!
 事件なのデス。兄チャマが倒れちゃったのデス!
 えーと、熱出して……口の中が腫れていて……ぐったりしてるデス」

「事件……ですか? もしや兄君さま、風邪をひかれてしまったのでは。
 とにかく、お医者さまに連絡をとって来て頂きませんと」

「くすん、……兄や〜……ぐったり〜〜〜……」

冷静なのか慌てているのか分からない四葉、しっかり者の春歌、嘆いてばかりの亞里亞の3人は、医者の往診が終わると、揃って胸をなで下ろした。

「風邪ですね。ですが、体が少し弱ってますので、とにかく安静にして下さい。
 それでは私はこれで」

医者が去った後、3人は少し落ち着きを取り戻した。


「あら、困りましたわ。替えのシーツもパジャマもほとんどありませんわ」

「じゃ、四葉が洗うデスよ」

兄のシーツもパジャマ等は5人分位あるのだが、だが、妹達が借りてしまうせいか、すぐに洗濯済みのストックが底をついてしまうのだ。

「お願いね。ワタクシはおかゆでも作りますわ」

いつもは白雪が料理を作るので、あまり料理をしていない春歌であった。
だが、春歌は本来は料理は上手な方である。
そして四葉や亞里亞が料理がてんでダメなので、おのずと春歌が作ることになった。

「兄や〜、心配。亞里亞も〜何かお手伝いする〜」

春歌の服の裾を掴みながら、亞里亞は上目使いにおねだりした。

「えっと……それじゃ、兄君さまの側で様子を看ていてくださいね?
 具合が悪くなったりしたら、ワタクシ達に教えてくださいね」

「……うん。亞里亞〜、兄や〜のそばにいる」

こういう状況になると亞里亞はほとんど無力であると、春歌は分かっていた。
だが、妹の心配する気持ちもわかる、それは春歌なりの亞里亞への配慮だった。

「亞里亞ちゃん、兄君さまの様子は? 変わった事はありませんでしたか?」

「兄や〜、額がポワポワ〜」

「ポワポワ? あぁ、熱がまだあるんですね?」

「……うん」

春歌は水枕と、氷水の入った洗面器とタオルを亞里亞に渡した。

「はい、亞里亞ちゃん。兄君さまの熱を冷ましてあげましょうね」

「……うん。亞里亞、お熱、ひんやりさせる」

春歌は本当は自分で介護してあげたかったのだが、亞里亞の心配そうな表情を浮かべて兄の元を離れないので、亞里亞に任せることにした。
亞里亞のぎこちない手つきながらも一生懸命やっている姿を見るにつれ、春歌はふと微笑みを浮かべた。

「熱……少し、下がったようですわ。
 亞里亞ちゃん、もう少し兄君さまを看病していてくださいます?
 ワタクシ、食事と薬の準備を整えますので」

春歌はそういうと立ち上がって部屋を後にした。

「入るわね」

それからしばらくして、春歌は食事と薬と水を手にして、部屋に戻ってきた。

亞里亞はじっとその場に佇みならが、潤のことを見つめていた。
時々、潤が唸ると、心配そうな表情を浮かべながら、額のタオルの位置を直したりしていた。

亞里亞の視線の先には兄君さましか居ないのね、春歌はそう思った。
やれやれと苦笑いを浮かべては、側のテーブルに食事と薬を置いて、春歌は部屋からそっと立ち去った。

「春歌姉チャマ、洗濯、終わったデス」

たたんだ洗濯物を両手一杯に抱えた四葉が春歌の許にきた。

「じゃ、兄君さまのパジャマを着替えさせてさしあげましょう。
 四葉ちゃんも手伝ってくださいね」

「はいデス♪
 (兄チャマの裸、チェキ出来るデス……って、やっぱり気が乗らないです。
  兄チャマが元気じゃないと、四葉もチェキできないです)」

春歌と四葉が潤の部屋に入ると、相変わらず亞里亞はじーっとその場で佇んでいた。

「亞里亞ちゃん、兄上さまの様子はどう?」

「……熱、さがった」

「そう、それでは、兄君さまのパジャマを着替えさせましょうね」

春歌と四葉は潤の体を起こすと、着ているパジャマを脱がせた。
そして用意した洗面器にタオルを浸しながら、潤の体の汗を拭いていった。

「衛ちゃんといつもスポーツされているからでしょうか?
 兄君さま、最近、体ががっちりされてきましたわ。……ポッ」

「うぅ〜兄チャマの裸、チェキしたいデス〜」

「四葉ちゃん、いけません。
 兄君さまが病気に苦しんでらっしゃる時に勝手をしたら後で叱られてしまいます。
 ほら、四葉ちゃん、もう少し体を起こしてください。背中を拭きますから」

「はいデス〜……うぅ〜」

不満そうな口調で応えた四葉、春歌が背中を拭けるように、潤の体を少し起こしあげる。

「……亞里亞も〜兄やの背中をフキフキしたい〜」

側でその様子をじっとみていた亞里亞は物欲しそうな口調で春歌の服の裾を引っ張りながら言った。

「え? ……いいわ。じゃあ、亞里亞ちゃんにもお願いしましょうか」

「うん♪」

亞里亞は手拭きを春歌から受け取ると、少し明るい表情をうかべて後、両手で潤の体を拭いていった。

「……兄やの〜背中〜、とても大きい」

「ふふふ」

「亞里亞ちゃん、上手デス」

さすがにパジャマのズボンを履き替えるときは3人ともうつむき加減で手探り状態であったが、3人はなんとか潤の体を拭き終えた。
眠ったままの潤もなんとなしに気持ちよさそうな安堵の表情を浮かべている、そんな風に3人には見えた。


「「ただいま〜」」

そうこうしているうちに、可憐と咲耶が家に帰ってきた。

「お兄ちゃんの具合が悪いんですか?」

「え? お兄様が風邪ですって?」

「ええ、先ほど医者に診て頂きましたので、大事には至らないのですが」

春歌から話を聞いた可憐と咲耶は心配になって、潤の部屋に行こうとした。
春歌はそれをちょっとだけ引き留めて、

「可憐ちゃん、咲耶ちゃん、今は亞里亞が側にいますから。
 亞里亞ちゃんも熱心ですし、もう少しだけ、そっとしておいてあげましょう。
 その間、夕食の用意を手伝ってくれませんか?
 兄君さまの看病で、まだ何も作れなくて」

「う、うん」

「いいわ」

さらに、春歌は四葉を見やると、付け加えた。

「四葉ちゃん、手に持ってるデジカメで何を撮るつもりですか?」

「はは……ばれちゃったデス」

「チェキはいけませんよ、今日は兄君さまをそっと寝かしてあげましょうね。
 いいですか、四葉ちゃん、兄君さまの回復を妨げるようでは、ワタクシの稽古の相手をして頂くことになりますからね。
 それと、洗濯物がまた増えましたので、これもお願いします」

「……はいデス」

四葉は渋々、潤の取り替えた着替えとタオルケットを手に洗濯をしにいった。
四葉の好奇心もまた留まることを知らないという困りものなのだが……
大人しい春歌なのだが(特に兄の事の場合)怒らせるととても怖い、四葉はそれを身に染みて知っていたから逆らうことはしなかった。
だが、その春歌でさえ、亞里亞ちゃんの雰囲気を前にするとつい甘やかし気味なのだ。

(亞里亞ちゃん、まだ兄君さまの側で看病しているのでしょうか?
 あまり根を詰めたりしないといいのですが……)

気になった春歌は扉の隙間から潤の部屋を覗いてみた。
やはり亞里亞は潤の側で眠りについてしまっていた。
ただ、その小さな体の上に、タオルケットが掛けられていたので、春歌もそっとしてあげることにした。

(亞里亞ちゃんは、兄君さまのこと、本当に大好きなんですね)

本当は自分がずっと側で看病していたかったが、亞里亞の様子を見た春歌はそれをあきらめて自分の部屋に戻った。



夜も更け始めた頃、潤は容態を取り戻して目覚めた。

「あり……ありあ……亞里亞ちゃん」

「ふぁ〜、あ……兄や〜♪」

「亞里亞、ずっと看病してくれたのかい?」

「亞里亞……兄や〜のことずっと心配だったの。亞里亞〜、兄や〜の看病したかったの」

「ありがとう、亞里亞ちゃん。
 俺はもう大丈夫だから。
 でも、無理はいけないよ。こんなところで寝たりしたら、今度は亞里亞ちゃんが風邪をひいてしまうよ」

「……うん。……(グシュン)」

「ほら、言ったそばからこうだ。さあ、部屋に戻ってゆっくり休むんだよ」

潤は亞里亞の体を抱き上げると、亞里亞の部屋のベッドに寝かしつけた。

「兄や〜……」

亞里亞はそう言うと、去ろうとする潤の服の袖を引っ張る。

「どうしたの?」

「……亞里亞だけにしないで。……亞里亞〜、兄や〜がいないと、寂しい」

「分かった。ちょっとだけ、寝付くまで側にいてあげるから早くお休み」

「うん♪」

そういうと、亞里亞は疲れていたのか、すぐに寝てしまった。

(やれやれ……)

潤は亞里亞の部屋の扉を閉めながら、少し溜息をついた。
翌日、亞里亞は具合が悪化して、医者に見て貰うことになった。

「兄君さま、ごめんなさい。私が亞里亞に無理させてしまったみたいです」

「春歌ちゃん、気にしても仕方ないよ。
 とりあえず、今度は亞里亞が元気になるように看病してあげよう」




----11月2日



「亞里亞ちゃん、具合はどうかな?」

「あっ……兄や〜♪」

兄の姿を見た亞里亞の表情がぱっと輝いた。

「大分元気が出てきたみたいだね?
 あのね、亞里亞ちゃん。今日は亞里亞ちゃんの誕生日だっただろ? はい」

潤はそう言うと、プレゼントを出して、封を開けた。
そしてプレゼントの中身だけ亞里亞に手渡した。

「わ〜〜〜〜〜! ……亞里亞〜、ふわふわ好き〜♪」

プレゼントは亞里亞の半身ほどのうさぎのぬいぐるみで、亞里亞はそれを抱きかかえて頬にあてて喜んでいる。

「気に入ってくれたかな?」

「兄や〜も〜、好き〜」

亞里亞は潤の服を引っ張ると、寝ているベッドの方に潤を引き寄せた。

「はは……仕方ないな。少しだけだぞ?」

潤は亞里亞の枕元に腰かけると、その膝の上に亞里亞の頭をのせた。

「兄や〜、ぽかぽか〜♪」

しばし穏やかな時が流れたが、長くは続かなかった。

「兄チャマ! チェキです〜♪ 亞里亞ちゃんと膝枕で抱き合ってましたデス〜!」

「兄君さま! ずるいですわ。看病の邪魔なので、お退きになってください」

四葉と春歌は羨ましそうな、嫉妬を込めたような視線を潤に向けた。


「ふふ、亞里亞様ったら、すっかり、お兄様になついてますね。
 じゃあ、病気の方はもう大丈夫ですね?」

「あ♪ じいや〜」

じいや〜と呼ばれるこの女性、亞里亞と一緒にきたメイドであるが、そのまま三上家でメイドをしながら傍らで亞里亞をはじめ妹達の身の回りの世話をしていた。

「お兄様、ご存じですか?
 亞里亞様ったら、この前、急に将来は看護婦になりたいって言いまして。
 そして、兄や〜のずっと亞里亞が看るの〜、なんて言ってるんです」

「……じいや〜、言っちゃダメ〜」

「亞里亞ちゃんが看護婦に?
 ふーん、いいんじゃないか、亞里亞ちゃんなら一生懸命看護してくれそうだし。
 でも、なんとなく患者に甘えてしまいそうだな……」

「そうですね、ふふふ……確かに、看護する前に患者に看護されてしまうかもしれませんね」

「ははは……」

潤とメイドは二人して笑い合った。

「兄や〜、嫌い!」

側でそれを見ていた亞里亞は真っ赤になった。
そして、そのまま布団を顔まで被せて、いじけてしまった。

「兄や〜、嫌い! じいや〜、意地悪!……」

潤はその様子を見て、すっかり笑っていた。

だけど、潤は心の底で、亞里亞はきっといい看護婦になるんじゃないのかな〜と思っていた。
今は臆病で人見知りのはげしい妹だけど、一緒に住んでみると、亞里亞は明るい表情もする心優しい少女で人を想う熱意の一途なまでの強さと意志の強さを併せ持つ少女だということ、それを潤は気付いていたのだ。
今は甘えてばかりだけど、やがては人に頼られるような女性に成長していくんだろうな、潤はそう思った。










後書き by 作者


春歌 :「SILVIA兄君さま、今回は私の出番が多かったような?」
作者 :「亞里亞と四葉だけでは辛くって……」
春歌 :「でも兄君さまの世話をさせていただいて、ワタクシ、幸せでしたわ。ポッ」
作者 :「春歌ファンへのファン・サービスということで」


亞里亞:「SILVIA兄や〜、亞里亞〜、どうして看護婦なの?」
作者 :「亞里亞は、きっと白衣が似合いそうだから。ボクの勝手な好みだよ。
     だけど、亞里亞ちゃんて優しそうだし、笑った時はとても可愛くて
     天使みたいだから、白衣の天使なんてのもいいかなと。
     ほら、男だるもの、一度は笑顔の白衣の天使に看病されたいじゃない?」
亞里亞:「亞里亞は〜兄やだけ〜! 他の男の人は嫌!」
作者 :「……そう来たか……。でもファンが寂しがるぞ?」


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