最後の真実
第2章 お兄ちゃんと一緒の時
 
第6話 「キャッチ・ボール」 〜衛編〜
10月18日 衛の誕生日SS
 
シルビア








-------10月10日 体育の日


(はぁ〜、はぁ〜、はぁ〜)


「お兄ちゃん、頑張って〜あと少しです〜!」
「お兄様〜!ファイトよ〜」……放送席の咲耶の声がマイク越しに聞こえる。
「おにいたま、頑張って〜」……甲高いが可愛い声がグラウンドに響く。
「お兄ちゃま〜、頑張って〜!」……ドジがチャームポイントのチア・ガール姿の
                 少女は懸命にバトンを手に個人的な応援をする。

もっとも、可愛らしいが、少し場違いな応援も混じっていた。

「兄君さま〜、素敵ですわ〜」……それは運動神経のいい人にいってくれ。
「アニキー!」……その姿はこの場の雰囲気に合いそうも無かった。
「兄くん、がんばるな」……冷静な声援は兄に聞こえようがなかった。
「兄チャマ〜、走る姿、チェキです〜」……こういう場所に必須のアイテムをもつ
                少女は見ているのだか撮っているのだか分からない。
「兄〜や〜、はしる〜」……意味不明?
「にいさま〜!」……もはや祈っている状態?

「あにぃ、やった〜、3着だよ〜!」……ゴール前で迎えた少女はちなみに1着の人。

全学園あげての体育祭、潤はクラス対抗リレーのアンカーを努めていた。
潤はどちらかと言えばガリ勉肌で、運動は苦手な方だった。

「お兄ちゃん、可憐はお兄ちゃんと一緒の競技に出たいです〜」

そ、の可憐の言葉に乗せられて、ついクラス対抗リレーに参加した。
というより、させられたというのが正しい表現かもしれないが。


「はぁ〜、はぁ〜、はぁ〜。それにしても衛ちゃんは駆けるの早いね〜」

「うん。走るのは大好きだよ♪」

1着のメダルを10競技分もぶら下げる少女は、まさしく体育祭のヒーロー……いやヒロイン的存在だった。それも、幼稚園から高校まで一緒に開催するこの体育祭において。

「衛ちゃんは運動なら何でも得意そうだよな〜。男だって、顔負けだったりして」

「そ、そうなのかな〜……ボクだって苦手なものあるよ〜。
 それに、ボクだって……女の子だもん!」

運動神経がいい衛であったが、意外なことに球技は苦手な方であった。
ちょっとだけ、いやな思い出が衛の頭によぎった。

「あはは〜、ごめん、ごめん。でも、衛ちゃん、やっぱ凄いよ」

「あにぃと一緒だからね♪ 楽しいよ」

----------------------------------------------------------------------------

【衛】

ボクにあにぃがいるのを知ったのは、ボクが小学4年の頃だった。
いつも会うことのできなかったあにぃだったけど、兄妹のいないボクには、あにぃがいるということだけでも嬉しくて、年上の男の子を見るとあにぃのことを連想していた。

足の速さにはちょっと自信があったから、体を動かして遊ぶことが好きだった。
自然と、パンツ・ルックで帽子をかぶったボーイッシュな格好でいつも過ごしていた。
いつしか男の子に混じって運動するようにもなっていた。
でも、球技はどうも苦手でドジばかり踏んでいたけどね。

ある日、男の子とサッカーをした時、タックルされて気を失ったことがあった。

(だいたい無理なんだよ、女の子が男に混じってサッカーするなんて)
(やっぱ、衛は女の子だよな。
 あれぐらいのタックルで気を失っちゃうぐらいじゃ〜、使えないよ。
 ま〜、あいつも、女の子っぽい格好すれば、それなりに可愛いけど)

ボクは男の子がそう話しているのを聞いて、ショックだった。
男の子と遊ぶようになったのも、そうすると、あにぃと一緒に遊んでいる気がするから。
ボクはあにぃと一緒に運動したかった。
……あにぃの背中をずっと追っかけたかっただけなのに、
……あにぃといつかは肩を並べて走れるようになりたかっただけなのに

やがて、ボクも女の子としての儀式を迎えるようになった。
それからは、ボクは否応無しに女の子であることをより自覚するようになった。
だけど、その一方で、あにぃがボクを生涯のパートナーに選んでくれたら、そんな事も考えるようになった。
だから、ボクはちょっとだけ、女の子だとあえて意識するようにもなった。
どんな形でもよかった、ただ、あにぃが側にいてくれて、楽しそうにしてくれれば。

そして、ボクは、あにぃと初めて会い、やがて一緒に暮らせるようになった。

----------------------------------------------------------------------------




-------10月18日 衛の誕生日


放課後、衛は教室を出て、グラウンドの方に行った。
潤が、放課後に遊ぼうと、衛に声をかけていたからだ。

衛がグラウンドに姿を見せると、潤が先に来ているのに気が付き、大きな声で呼んだ。

「あにぃ〜!」

「おー、衛、来たか!」

潤は衛のところに走りよってきた。
同じクラスの可憐も一緒だった。
その手には、少し大きめの包みを抱えていた。

「衛、今日は衛の誕生日だろ?
 これ、俺と妹達からの誕生日プレゼント。はい」

「あにぃ〜、ありがとう。……っと、野球の道具?」

「兄妹はたくさんいるし、たまにはみんなでスポーツでもとおもったんだけど、
 妹達が野球やりたいっていいだしてだな〜。
 だから、プレゼントはスポーツ用品に決まったというわけ。
 どうせだし、早速使おうと思って、みんなも呼んでおいたよ。
 他の妹も呼んであるから、直に集まってくる」

「でも、あにぃ〜、野球って9人1チームだから18人居ないと試合は無理じゃない?」

「あ、そう言えば、そうだな……えーと俺と妹が14人だからあと3人足らないな〜」

「お兄ちゃん、それなら大丈夫ですよ。さっきね〜……」

「やあ、妹達! 来たよ」
「可憐ちゃん、私も仲間に入れてくれる?」
「私でよければ仲間に入れて下さい」

山田、香里、栞の3人がグラウンドに姿を見せた。
可憐に頼まれて助っ人にきたのだ。加えて、もう一人、姿を見せた。

「北川君、ちゃんと18人全員の分の道具を用意しないとダメじゃないか。
 というわけで、咲耶ちゃんに頼まれたから、準備しておいた。使いたまえ。
 それに、お節介かもしれないが、野球グラウンドの使用許可も取っておいた」

「お兄様、ぬかりはないわ。久瀬さんにも手伝ってもらっちゃった♪」

久瀬と咲耶がたくさんのグローブとボールだのバットだのを抱えてやってきた。
咲耶は香里に以前教わった方法で、久瀬を味方に抱き込んだのだ。

「な〜、久瀬、お前さ〜、スポーツ得意だっけ?」

「北川君、少し失礼じゃないかね? いいかね、野球には頭の必要とするポジションで
 審判という重要な役目があるのですよ。
 私は今さっき野球のルールを見て、内容をさらっと覚えてきた。
 さしずめ、歩くルールブックとよんでくれたまえ」

「そうよ、北川君。せっかくの久瀬さんの好意を無にしてはいけないわ」

「久瀬さんって、いい人なのよ。
 お兄様の提案に協力してくれといったら即にOKしてくれたし」

そう言う香里と咲耶も、久瀬の見えない死角で、こっそりウィンクしていた。
おだてて使い走りさせるには久瀬は便利な存在なのだ。
だからこそ、こういう時は少しばかり久瀬の面目を立ててあげることも忘れてない。
当然、当の久瀬はご機嫌そのものだった。

「北川君。妹思いの北川君のために一肌脱ごうという私の気持ちは不純なのかね?」

「い、いや、立派な心がけだと思うぞ……ははは」

香里の意味ありげな強い視線の前に山田は少したじたじになってそう答えた。
まあ、ここは少し折れておくか、山田はそういう懸命な判断をした。
ちなみに、香里が今回久瀬との交渉に際して、咲耶ちゃんの体操着姿を側で見ることができるわ、と香里が久瀬に囁いたからこそ久瀬も応じているので、動機が不純といえばそれまでだが。

「さあて、兄妹+αで野球大会といくか」

「あにぃ〜、気持ちはうれしいけど、ボク、球技はちょっと苦手だから……」

「大丈夫だよ、衛。俺の方がもっと下手だから。気軽に考えて楽しもうぜ」

潤はそういうと、ちょっとだけウィンクしてみせた。

「う、うん。そうだね」

球技は苦手だけど、あにぃと一緒で♪、それも気の合うみんなとスポーツするなら、それもいいかな、衛はそう思った。

お兄ちゃんと一緒のチームがいい、そういう妹達のリクエストはあったが、結局くじ引きで2チームに別れた。潤と山田がそれぞれのキャプテンを務めた。


「プレイボール!」……アンパイアの久瀬の声が響きわたった。
            それなりに、貫禄のある声だった。お似合いかもな。

咲耶がバッターボックスに入って構えた。
ピッチャーの山田がそれなりの球を放ると、咲耶は初球を空振りした。
なんとなく意地をみせた咲耶がバットを振り回すと、ボールは高々とライト方向に飛んでいった。

ライトフライか〜、山田はほっとしていたが、次の瞬間、フリーズした。
ライトは亞里亞が守っていた。
亞里亞はボールをとるどころか、グラブから落球し、頭にボールをぶつけた。
跳ね返ったボールはそのままスタンドに入っていった。

「エンタイトル・ツーベース」……久瀬が判定を下した。

「くすん……亞里亞、ふわふわが好き……固いのは嫌い」

亞里亞はその場でポツリ泣きをした。
センターにいた香里が駆け寄って、なだめた。

「あにぃ〜、次はボクの番だよ〜。ボク、自信ないよ〜、きっと打てないよ〜」

「いいか、ボールをよく見てバットを振り回すだかだ。衛の運動神経ならちゃんと球に当てられる! 難しく考えるかいことだ」

「うん。ボク頑張るね」

次の瞬間、山田と潤は驚きでフリーズした。
衛の一振りは、打球に当たるどころか、そのままセンターの奥深くのスタンドにポーンと入っていったからだ。

「ホームラン」……久瀬が判定を下した。

一挙に2点が入った。
衛はにこにこしながら塁を周り、ホームベースを踏むと、潤に駆け寄った。

「あにぃ、やったよ〜♪」

「ああ、凄いな、衛は……」

その後も珍プレー続出ながらも試合は続き、結局10対9で北川チームが勝利した。
山田は、咲耶と衛と潤のクリーンアップにめった打ちにあい、大量失点した。
一方の潤は、山田と香里と春歌、四葉にめった打ちにあい、大量失点した。

「なあ、北川、お前の妹達ってどうしてこんなに打つんだ?」

「俺に言うか? お前達の方だってかなり打ってたじゃないか」

大量得点を与えた二人のピッチャーはそれぞれ意気消沈したのだが。

「あにぃ、楽しかったよ。また、野球やろうね」

衛は打っては4打数4安打、守ってはセンターからダイレクトでバック・ホームする肩の良さが光り、走っては3盗塁と、すべての面において大活躍であった。
かのイ○ローなみとまではいかないまでも、野球部から勧誘がありそうな程であった。

「おう。たまには二人でキャッチ・ボールというのでもいいぞ」

それから潤と衛は二人の名前の書かれたグローブを使って、時々キャッチ・ボールをするようになった。
衛はいつも嬉しそうにキャッチ・ボールをしていた。
あにぃと一緒に遊べて、あにぃが喜んでくれて、それが衛はとても嬉しかったから。
それに、キャッチ・ボールは二人の心そのもののやりとりのようだったから。

「あにぃ、今度、ボクの服選んで欲しいんだけど〜」

「え? 俺より咲耶か可憐にでも選んで貰った方がいいんじゃないのか?」

「あにぃが選んでくれるからいいんだよ……」(ポッ)










後書き by 作者


可憐:「SILVIAお兄ちゃん、お兄ちゃんのこと優しいお兄ちゃん風で描くのですね?」
咲耶:「そうね。とりあえず、今回は特別に許してあげるわ」
作者:「(ドキッ)強くなければ男じゃない、優しくなければお兄ちゃん
    じゃない……変か?」
衛 :「変じゃないよ。お兄ちゃんはやっぱり優しくないとダメだよ」
作者:「衛か……後書きに出るのは珍しいな。
    まあ、シスターズとカノンメンバーで野球ができそうな人数だよな〜、
    なんて思って、こういう話をかいてみたんだが。(不安)」
美汐:「ふーん、女の子の誕生日に野球の道具をあげる兄様ですか?
    まだまだですね、SILVIA兄様」
作者:「……やっぱり突っ込まれる宿命なのね、私。
    そこは……まあ、ギャグとして……見逃してくださいまし。
    だから、最後の3行を加えたんであって……ははは。
    まあ、ボーイッシュな衛もピュア編アニメでは可愛く描かれていたけどね」


〜読者の皆様へのお願い〜
このSSについて、気に入って頂いた方、投票をお願いします。 投票方法:クリック→| 投票 |  



PREV BACK NEXT