最後の真実
第2章 お兄ちゃんと一緒の時
 
第5話 「天使の翼」 〜鞠絵編〜
4月4日 白雪の誕生日SS
 
シルビア








-------4月4日


「鞠絵ちゃん、体の具合はどう? まだ少し肌寒いし」

「兄上様、私のことでしたら、大丈夫です。
 それよりも兄上様の方こそもう少し厚着をしてきた方がよかったのでは?」

「そうかもな。こっちの海ってあまり来たことないけど、思ったより寒いしな」


潤と鞠絵は西の街の海辺にやってきていた。

泳ぐには到底早い4月のこの時期だと、日本海側の海風は冷たい。
だが、それほど海風も吹いていなかったので、耐えられないほどの寒さではない。
この日の海辺は、そこそこの厚着をしていれば、普通に過ごせるぐらいだった。


「兄上様、それでは……」

鞠絵は鞄の中から手編みのマフラーを取りだして、潤の首に巻きつけた。

「……これなら、少しは暖まりますね?」

「あ、ああ」

「これ、わたくしが兄上様と最初にお会いした頃からずっと編んでいたものです。
 なかなか出来あがらなかったのですけど、やっと出来ました。
 でも、ごめんなさい、ちょっと季節はずれになってしまいました。
 兄上様、このマフラー、受け取ってくださいね」

「ありがとう。今日みたいな日だと十分役にたつしな」

「ふふ。そうですね。それではわたくしも……」

鞠絵は長めにつくったマフラーの片側を自分の首に巻いた。
それから、鞠絵は潤の腕に自分の腕を絡ませた。
鞠絵の頬は恥ずかしさのためか、すっかり赤みを帯びていた。

淡々と流れる風のささやきが聞こえる、だが、寄せては返る波の音に風の音もかき消される。
そこは二人だけの時間だった。



鞠絵は思い出の中の情景を浮かべた。
それは鞠絵が最初に潤と出会った時のこと。

------------------------------------------------------------------------------

「君が鞠絵ちゃんかい?」

「はい。鞠絵はわたくしです」

「俺は北川潤、はじめまして。
 母さんが、一緒に遊んでお出でって、俺にいうんだ。
 ということで、俺と一緒に遊ばないか?」

少し大人しめだけど、言葉の端に優しさを感じる、そんな潤の口調だった。

「はい。(兄上様……)」


鞠絵はその男の子が自分の兄上であると、すぐに気が付いた。
だが、兄である男の子の方は鞠絵が自分の妹であることは知らないようだった。
なにか事情があるのでしょう、鞠絵はそう思いその話題には触れなかった。

鞠絵は生まれながらにして病弱で、そのため、年のほとんどを西の街の海辺に近いこの療養所で過ごしていた。
自分には年の離れた兄がいることは聞いていたが、療養所にいることの多い鞠絵は兄にそれまで会ったことがなかった。

だが、ある夏も終わろうとする頃のある日、療養所にいる鞠絵のもとに兄上とその母親が尋ねてきたのだ。


「海?」

「ええ、近くに海がありますので、そこで散歩しませんか?
 わたくし、体が弱いので、泳ぐのは無理なんですが、歩くぐらいなら大丈夫なので」

「ああ、いいよ。じゃあ、行こうか」

「はい♪」


それから、潤と鞠絵は海辺を散歩した。


「うー、さすがに日本海の海風は冷たいな〜」

「いくら夏の終わりの時期だといっても、そんな薄着では寒いですよ?」

「そうだな、もう少し厚着をしてくればよかった」

「今はまだそれほどでもないのですが、秋ともなればコート無しでは居られませんからね」

「次に来るときは気をつけるよ」

「はい」


「あ♪ 素敵な貝、みつけました。ほら、見て下さい」

鞠絵は波が打ち上げ際に、二枚貝を1つみつけた。

「面白い形の貝だな。名前、知ってる?」

「ええ。この貝は『天使の翼』っていうんです。
 本で見たことあるんです。
 ほら、貝を二つにわると、形が翼みたいなので、そういう名前がついたそうなんです」

「なるほど、言われてみると翼みたいだな」

白くて流線のような形のその貝の片割れは天使の片翼のような形をしている。
二枚貝の2つの貝を並べると、天使が翼を広げているようだ。

「これ、二人で1枚ずつ持っていませんか? 次に会う時の、再会の証にでも」

「ああ、いいけど」

二人は『天使の翼』の貝を1枚ずつ互いに分け合った。

------------------------------------------------------------------------------


「兄上様・・これ、覚えてますか?」

鞠絵はバッグから『天使の翼』の貝を取り出して見せた。

「覚えてるよ。最初に出会った時の再会の証だろ、鞠絵ちゃん」

「はい♪」

「鞠絵ちゃんも、覚えていたんだね。・・なら、これは気に入ってもらえそうだ。
 はい、鞠絵ちゃんへの誕生日プレゼント、開けてごらん」

潤はそう言うとFree Styleとメーカー名の書かれている細長い包みを取り出して、鞠絵にわたした。
鞠絵は包みを受け取ると開けて中身をのぞき込んだ。

「わたくしと兄上様の絆の証が増えたようで、とても嬉しいです」

鞠絵の開けた包みには、銀のチェーンにペンダントが付いているものだった。
ペンダントの形は、暖かく柔らかいラインの、そう天使の翼を象ったものだった。

「二人で分けた『天使の翼』の貝は、この次に会うときまでの再会の証だったよね。
 これは兄妹として出会えたことの、その絆の証だよ、鞠絵ちゃん」

「兄上様、ありがとうございます♪」

「鞠絵ちゃんも体を治して、天使の翼で飛び立てるといいね。
 早く病気を克服して元気になろうな、鞠絵ちゃん。
 それに、そろそろ俺も車の免許を取れるから、免許を取ったら一緒にドライブにでも行こう」

「はい♪」




後書き by 作者


千影:「SILVIA兄くん、今回の兄君はちょっと軟派な感じがするね」
咲耶:「そうですよ。それに、シルバー製品を兄妹間で贈るんですか?」
作者:「(ドキッ)ロマンチックな話でも書いてみたいな〜と、つい……」
鞠絵:「今回の話の雰囲気って、鞠絵ファンはロマンチックな話がいいとリクエスト
    されたからですよね、SILVIA兄上様」
作者:「まあ、そうなんだが。
    ただ第2章は回想シーンを織り込むことを共通事項にして、回想曲風に
    なるようにと工夫してるんだよ。でも今回の話、回想曲にはなってる
    かな……(不安)」
美汐:「……まだまだですね、SILVIA兄様」


p.s 設定資料

二枚貝:「天使の翼」 
ニオガイに属する二枚貝で、白く長細い形をしている。
放射状の肋が30本前後あり、あたかも羽のように見える。
両殻を拡げておいた形を天使の翼に見立ててこの和名が付いたのだが、見た目の美しいロマンティックな形の貝である。
英名も同じ意味でエンジェルウイング( Angel Wing )という。

ちなみに、今回の潤から鞠絵へのプレゼントのイメージは「FREE STYLE」というメーカーが実際に売っているシルバー製品だよ。
よければ、HPで見てね。

http://www.curio-city.com/silver51/7170/65953.html


〜読者の皆様へのお願い〜
このSSについて、気に入って頂いた方、投票をお願いします。 投票方法:クリック→| 投票 |  



PREV BACK NEXT