最後の真実
第1章 お兄ちゃん、会いたい!
 
第2話 「最初の出逢い」
 
シルビア








********************************************************************

「…約束だよ」
元気な、でも、悲しい、少女はそんな声で話した。
夕焼けの光が肩まで伸びる少女の髪をオレンジ色に染めていた。


「また会えますよね?」
真剣な、でも、寂しさを感じる、少女はそんな声で話した。
薄暗い雨空の下、傘を差す少女の瞳が不安に怯えているようだった。

********************************************************************

(うーん、夢か…)

うう、寒い…冷える。


”北の街駅〜、終点・北の街駅〜。この列車は折り返し、8:50発東の街行きとなります。”
車内アナウンスが聞こえた。

(着いたな)

俺は大きなトランクとバッグを手に取り、列車を降りた。

ここが北の街駅か、もっとド田舎かとおもっていたが、案外大きい駅だな。
しかし、寝台特急ってのも結構体が疲れるもんだな。
ベッドは固くて、隣の寝息もうるさかいし、全然眠れやしない。


えーと…9:20か。
なら、早めにホテルにチェックインしておくか。
フロントで荷物ぐらいは預かってもらえるだろう。


さて、行くか、よっこらしょっと…

(うん?)



…かつかつかつかつかつ
…がん、どすん、ずでん



(痛ぇ〜、なんだよ一体)

いきなりトランクが俺の体にぶつかって、その拍子に俺は転んだ。




「うぐぅ〜…痛い〜」

???

「ううう、うぐぅうぐぅひっくうぐぅ」

何だ、この泣き声みたいのは? トランクが泣くか?

「ううう、うぐぅうぐぅひっくうぐぅ、うわーん、痛いよ〜」





(変だな?)

俺は立ち上がって辺りを見渡した。

トランクが泣くわけないし…って、あれ、トランクの影に女の子がいるぞ?
あ、そうか、この女の子がぶつかったのか。



「うぐぅうぐぅひっくうぐぅ」

「ねえ、君、大丈夫かい?」

「ううう、うぐぅうぐぅひっくうぐぅ、痛いよ〜」

この子、押さえている鼻頭が赤いところみると、顔面をトランクにぶつけたな?

「ううう、うぐぅうぐぅひっくうぐぅ、痛いよ〜」

まずいな…周囲の目が険しいぞ? どうするかな〜?
なんとかなだめて…ええい、いちかばちよ。

「痛いの痛いのとんでいけ〜、…あ、痛い、俺の鼻にとんできちゃった」

「うぐっ?」



「もう大丈夫だよ。ところで君は誰なのかな?」

「ううう、うぐぅ…あゆ」

「あゆちゃん?」

「うん、あゆ。ぐすっ。……”うぐっ”!?」

少女の表情が急変した。何かに驚いたのだろうか。

「ところで何してたの、急にぶつかったみたいだけど」

「うぐぅ…お兄ちゃんを…迎えに来たの。あゆのたった一人の…お兄ちゃん」




(そうか、お兄ちゃんに会いたかったのか、この子)





「あのね、あのね、ボク、お兄ちゃんを迎えにきたの」



「お兄さんを迎えに? そうか、じゃ、駅のどこかにいるんだね?
 じゃ、このお兄さんが一緒に探してあげようか?」

「ううん、違うの。そうじゃないの」

「だって、今、君のお兄さんを迎えにきたっていったじゃないか、違うのかい?」



「ううん、ボク、お兄ちゃんを迎えにきたの。ジュンお兄ちゃんだよね」



え、俺?

「ねえ、君の探しているお兄ちゃんの名前、もう1回聞いてもいいかな?」

「あゆのお兄ちゃんはね、キタガワ ジュンっていうの。
 ずっと昔に一度だけ会ったことがあるんだよ。
 それでね、また会おうねって約束したの」

そういえば、さっきから、この子、俺の方を指さしてないか?

「キタガワ ジュンって…それ、俺のことなのかい?」

「うん、たぶん、そうだよ」

なんで、俺に妹がいるんだ?
とにかく、この場ははなれようか、周りに変な視線を感じるし。




-------ぐ〜〜〜〜とあゆの腹の虫のなる音がした。




「お腹空いたの?
 じゃあさ、あゆちゃん、とりあえずお兄さんと何か食べに行こうか」

「うん。タイヤキがいい。タイヤキ食べたい」

「タイヤキ? ああ、わかった。じゃあ、タイヤキ買いに行こうな」(汗)

しかし、俺は何をやってんだ?
もし違ったら、これ少女誘拐だぞ?

でも…仕方ないか。
この子の話を聞いて、その後に警察にでも届けよう。



うーん、このタイヤキなかなかイケルな、あんこがたっぷりで甘いし。
…って、今はそんな呑気なこと考えている場合じゃなかった。
とにかくこの子から事情を聞かねば。


「ね〜、名字はなんていうの? 年齢は?」

「つきみや。ボク、つきみや あゆっていうんだよ。今9才」

「あゆちゃんはこの街に住んでるの?」

「うん」

「ね〜、君のお父さんかお母さんの名前は?」

「お父さんの名前、わからない。
 でも、ボク、昔一度だけお父さんに会ったことがあるんだ。
 お兄ちゃんがいるって教えてもらって、東の街まで連れて行ってもらったの。
 お母さんの名前はね、めぐみ…でも、この前、死んじゃったの」

俺に会ったことがあるだって?
いたかな〜タイヤキの好きな少女…うん?もしかして、数年前に会ったあの子か?
あのしょっちゅう転んでたドジな女の子、でも明るく笑っていた女の子かな?

「そうか…ところで少しここで待っていてくれないか?」

妹がいるなんて聞いたことがなかった。
でも、よくよく考えると、俺はこの子には確かに会ったことがあった。
この子のリボンにも覚えがある。
待ち合わせにはまだ早いが、父さんの所に電話してみよう。


----プルルルル、プルルルル


「もしもし? 北川といいますが…」

はっ、俺は母さんの姓の北川を名乗っていたんだ。父さんの姓は・・たしか三上!

「…えーと、三上純一郎さんはいらっしゃいますか?」

『当主の純一郎様はただいまおでかけしております。
 執事の水田と申します。
 北川潤さんですね、旦那様よりお話をお伺いしております。
 お約束の時間には2時間ほどありますが、もうこちらにいらしたんです?』

「ああ、今は北の町駅の、えーと…広場のベンチ前にいるんだけど」

『では、お迎えをさしあげましょう。20分ほどかかるかと」

「ありがとう。ところで、もし知っていたら教えてほしいんだ。
 俺にあゆという名の妹なんていたかな?」

『月宮あゆ様でございましょうか? たしかに貴方様の妹でございます。
 あなたの父親である旦那様が、月宮恵様より生まれたあゆ様を養子になさいました。
ただ…』

「ただ?」

『実はご説明するには少々込み入った事情がございまして。
 さしあたり、お迎えを差し上げますので、その時にでもゆっくりとお話いたしましょう』

「わかった。それじゃ、駅に俺とあゆの二人で待っているから」

『畏まりました。ですが、二人ですか?』

「ああ」



「お待たせしました。執事の水田です。北川潤様ですね? それと、…この子は・・」

うん? 水田さんは何であゆを見て驚いて居るんだ?

「ああ、北川は俺だけど」

「と、とりあえず、お車の方へ」





病院? 何でこんなところに?

「実は月宮あゆ様は潤様とお会いになって後に、事故で意識をなくし入院されてます。
 そのまま成長されていれば、今は15才ぐらいになっているはずなのですが」

え? 15才? あゆは9才って言ってたぞ?
じゃ〜、ここに寝ている少女は?

「そして、ここにお休みになられているのが、月宮あゆ様です。
 ですが、私はそのあゆという少女の面影が、昔のあゆ様そっくりに思えます。
まことに不思議なのでございますが…」

だとしたら、俺が駅で出会ったこのあゆという少女は?

-----北川はそばにいたあゆの方をみた。

幻?嘘だろ?
俺は二人のあゆを見ながら、ただ、その場に呆然とたたずんでいた。
あゆは水田の言っていることが理解できないのか、きょとんとしていた。






「潤兄様、おひさしぶりです」




突然の静粛を打ち破るように、俺の背後から、少女らしき声が聞こえた。
振り返ると、そこにミドルヘアーの女の子が立っていた。

「え? 君は誰?」

「あ、あなた様はひょっとして…美汐様?」

(うん? 水田、この子を知っているのか?)


「私は天野美汐といいます。
 母の姓を名乗っていますが、父は三上純一郎といいます」

「やはり美汐様だったのですね。お久ししゅう存じます」

「水田さん、お久しぶりですね。1年ぶりでしょうか」

「ええ、美汐様が昨年、潤様にお会いになった時、私がお連れしましたね」


(1年前?俺がこの少女に会っている? 覚えがないな…誰だっけ?)


「はい。
 ですが、兄様は1年前のことは覚えていてくれてなかったのですね?
 酷いです、人としてとても不出来です。
 せめて顔ぐらい覚えていてくれてもいいじゃないですか!
 …・
 あぁ、もしかして…こうすれば、私をお分かりになりますね?」

-----みしおはそう言って眼鏡をかけ、左右の髪を編み込んだ。


(あ、1年前のあの少女だ)


「き、君はあの時の少女…」

「やはり、雰囲気が違って見えたのですね。
 最近、髪型も変え、コンタクトレンズに変更したんです」

「そうか、すぐに気がつかなくてごめん」

「潤兄様…それでも、大事な妹に気付いてくれないのは、人として不出来です。
 …でも、潤兄様、北の街に来ていたんですね。
 お会い出来て、私、とても嬉しいです。
 ふふ、でも、メガネをかけてる潤兄様はまるで別人のようですね。
 なんかガリ勉みたいですよ。ぱっと見も心が冷たい感じです」

そう言うと美汐はにっこりと微笑んだ。

「そうか?」

「ええ、やっぱり私はこっちの雰囲気の方がいいですね。
 でも、なんか、去年会った時よりも格好よくなりましたね」

美汐は俺のメガネを試しにはずして、笑顔で言った。

しかし、すぐに表情を引き締めて言った。

「…さて、私がここに来たのもう一つ目的があります。
 まず、そちらの方を済ませましょう」


----美汐はあゆの寝ているベッドの近くに行き、あゆの手をとった。
そして、北川のそばにいたあゆを呼び寄せ、その手をとり、重ねた。
  あゆの体が透けていき、その体が寝ている少女の体に吸い込まれるように消えた。

----あゆの目がゆっくりと開いていった。


「お目覚めですか? あゆ姉様、美汐です」

「姉様?美汐?」

あゆはとまどった口調で答えた。

「それに…潤兄ちゃん?」

俺の存在に気がつくと、あゆは目を丸めて驚きの声をあげた。

「くすん、妹には気が付かないのに、潤兄様にはすぐに気が付くなんて、私、拗ねますよ」

「まあまあ、美汐ちゃん…」

「美汐様、あゆ様は自分に妹がいるなんて知らないのです。
 そのぐらいで許してあげてください。
ところで、あゆ様、お久しぶりです、私を覚えていらっしゃいますか」

「うん。水田さんだったっけ?」

「おお、嬉しかな、大分前にお会いしたのに覚えて下さっていたとは。
 あゆ様、こちらの北川潤様はあなたのお兄様です。
そして、こちらの天野美汐様はあなたの妹君でございます」

「そう。
 …ボクにはお兄ちゃんの他に妹までいたんだ」

「潤兄様、あゆさん、聞いていただけますか?
 私、8才の時にお母様を交通事故でなくしました。
お父さんの事はずっと知らず、いないとおもっていたのです。
あ〜これでひとりぼっちだと思っていたのですが、去年、水田が私のもとに
やってきて、私にお兄様とお姉様がいることがわかったんです」

「長い間、天野様のお母様をお捜しできず、申し訳ありませんでした」

「もういいんです、水田さん。
それよりも天涯孤独だと思った私に兄と姉がいたことを聞いた時の方がどれほど
嬉しかったか」

「その時の美汐様の嬉しそうな顔といったら」

「ふふ、そうですね、ガラにもなく、大分はしゃいでいましたから。
 ですが…
 私がお姉様がいると知った時、お姉様は意識をなくした状態で寝てました」

「あゆ様は潤様にお会いしてから、幾度となく森の大樹から街をながめていたそうです。
 そしてある日、大樹からその身が落下し、こうして意識を失ってしまいました」

「うん、ボクね、いつも木に登ってお願いしていたんだよ。
 お兄ちゃんとこの街で一緒に暮らせる日がくることを…ボク、そうお願いしながら木の上で街をながめてたんだよ」

「ええ。
 あれから、私はものみの丘の狐神様にお姉様の回復と潤兄様に会えることをずっと
 お願いしてました。
 そして、先週、狐神様のお告げらしき言葉を聞いたのです。
 『美汐よ。
  7日後に、お前の兄である潤がこの地にやってくる。
  そしてその時、お前の姉は、大樹の力によって少女の魂が姿となって現れる。
  その魂をお前の姉の体と重ねなさい。
  そうすれば、姉は意識を戻すだろう』
  …それで、私は今日、潤兄様とお姉様を捜して、ここにやってきたのです。
  思いもがけないことですが、こうして皆様にお会いできて嬉しいです。
  それに、お姉様もこうして無事に意識を戻してくれて、とても嬉しいです」

うん、待てよ?
…・ということは、

「水田さん、それじゃ、この二人とも俺の妹ということか?」

「はい、潤様。母は皆それぞれ異なりますが、父親は皆同じで三上純一郎様です。
 まぎれもなくお二人は貴方の義理の妹にあたります」

「妹…それもいきなり二人なんて…」

「いえ、潤様、それがですね…」

「それが?」

「他にも妹がいらっしゃいます。
 既に潤様がお会いした妹達も、行方が知れずまだお会いしたことのない妹もいらっしゃいます。
 皆、母は違いますが、現在の父親はすべて三上純一郎様でございます。
 そして、今現在、行方の分かっている妹様達は、みな母親を亡くしています。
 それで、私どもの屋敷に引き取るように手配しておりますので、近いうちに
 潤様も順次、妹様達とお会いできるかと」

「ということは、俺が昔会ったことのある少女達は、みな妹だったのか?」

「さようです。
 すると、母君もあなたにお話して居なかったようですね?
 妹である事は貴方には話しませんでしたが、母君様はご存じだったはずです」

「そうか…」

(うん? それじゃ、一体、俺には全部で何人妹が居るんだ〜〜〜〜〜〜?)

俺は多分その時、フリーズしていただろう。


「潤兄様、大丈夫ですか」

「潤兄ちゃん、大丈夫?」

俺は、明るい口調で俺を呼ぶ二人の声を病室で聞いた。



…同じ頃、北の街


潤との二人の写真の飾られた部屋で、服を選びながら、お兄ちゃんに憧れていた
少女がいた。

(大好きなお兄ちゃん、お元気ですか?
 本当はいつだってお兄ちゃんと一緒にいたいです。
 ずぅっとお兄ちゃんに会えないから……)


鏡の前でかってきたばかりの新作リップをひいている少女がいた。

(お兄様は絶対に私のモノなんだから)


愛しき人を思い出して、自宅の台所で嬉しそうに料理をしている少女がいた。

(にいさま。…最近はごはんちゃんと食べてますの?)


パソコン雑誌を見ながら、アニキがいたらな〜とつぶやく少女がいた。

(あーあ、アニキのあったかーい援助があったらな〜)










---------------------------------------------------------------------
後書き by 作者
---------------------------------------------------------------------

作者:「さて、Kanonからはあゆと美汐の登場だ」
あゆ:「SILVIAお兄ちゃん、ありがとう」
美汐:「私もお兄様とお姉様ができて、うれしいのですが…」
作者:「うん?どうした美汐」
美汐:「あゆさんが、お姉さんかと思うとちょっと。
それに他に姉妹が12人居るんですよね?」
作者:「いいじゃん、兄・姉妹がたくさん居て楽しいだろ?」
美汐:「SILVIA兄様・・あの〜まさか、このあゆさんが、長女とはいいませんよね?」
作者:「う!…それは考えてなかった。確かに子供っぽいからな、あゆは」
あゆ:「美汐ちゃんも、SILVIAお兄ちゃん、酷いよ!ボク、こどもじゃないよ」
作者:「案ずるな、あゆ。お前は長女ではないから。
    お前の長姉姿は、俺にも想像できん。
    さて、カノン出身の北川の妹役のふたりはこれで登場したわけだな。
    北川の高校生活の中で、他のキャラも何人か登場させる予定だ」
祐一:「作者、俺の出番はあるのか?」
作者:「今回の主役は北川だ。
残念ながら、祐一は主役じゃないんだが、一応、第3章から出番がある」


??:「次はいよいよ、私の出番ですね?」
作者:「ああ、長く待たせたな。
それに、君の他に3人の妹も同時に登場させよう」
??*11:「それって私のこと?」
作者:「見てないのか? 次の話の登場人物は本文で予告をだしたぞ?」
??*4:「あ、本当です…SILVIAお兄様、大好き〜♪」
??*7:「SILVIAさんなんて…嫌いです!」

SILVIAは「お兄ちゃん」と呼ばれると、ついついそのキャラを贔屓する。
それがこの娘たちには、もうばれているらしい。


PREV BACK NEXT