最後の真実
第1章 お兄ちゃん、会いたい!
 
第1話 「潤、北の街へ」
 
シルビア








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俺は、東の街で母と二人で暮らしていた。
俺の両親は離婚し、母方に引き取られて以来、ずっと母と二人っきりで過ごした。
俺が高校の進学先を決める、中学卒業の間近、俺の母は他界した。
俺は初めて会った弁護士から母の遺書と遺品を受け取った。

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「潤、
 あなたがこの手紙を読んでいるということは、もう私はこの世にはいないわね。
 だから、母として貴方に最後に伝えておきたい気持ちを書くことにするわ。

 今まで潤が一生懸命勉強して立派になろうと努力してきたのを、母さん嬉しく思うわ。
 だけど、潤、人が生きるのに本当に大切なことは勉強からは学べません。
 誰かを愛する気持ち、そう、人の愛情に勝るものは世の中にはないの。
 それが「最後の真実」なのだと、今の私は切に感じるの。
 そのことは貴方もいつか理解してくれるわ。

 私は潤の父親との幸せな日々、そして生まれた潤と過ごしてきた日々が幸せだった。
 その幸せを守るために自分が役に立てる、そう感じる時、私は幸せだった。
 だから、潤、あなたはこれから、北の街に住む父親の許に行きなさい。
 そこであなたが体験することは、きっとあなたの人生を大きく変えるかもしれないの。

 潤が私のことを慕ってくれて、本当に嬉しかったわ。

 ありがとう、潤」
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俺は母から自分の今までの生き方を否定された気がした。

俺が今通っている中学校は東の街でも有数の名門の進学校、そこの3年だ。
母親譲りの頭の良さもあってか、俺の成績は学年のトップ3に入るとても優秀だった。
もっとも、勉強ばかりしていて、恋愛とかスポーツとかはどちらかというとからっきしダメな、いわゆるガリ勉タイプの俺だ。

……

俺が中学3年の12月、何故か母が北の街の高校を受験するように熱心に奨めた。
その理由は分からなかったが、その結果、今の俺の手元に北の街の高校に合格した。

俺は東の街にある、海生高校と亜砂布高校にも既に合格していた。
俺は将来は弁護士になろうと、母の母校でもあった京東大学への進学を考え、高校も進学校へと行こうと考えていた。
だが、母はそれを望んではいなかったようだ、何故か不思議さが残る。

弁護士は父親の連絡先を記した紙、母から父親宛への手紙、高校のパンフレットと合格通知、それに通帳と印鑑を俺に手渡した。

(これは……)

通帳を見開くと、最初の頁に"潤の将来のために使いなさい"と母の筆跡で書かれていた。
その口座記録を見ると、10年は楽に暮らせるほどの残高がそこに記されていた。

「潤君の母君は夫のもとから突然去りました。
 そのため、潤君の母君に係る後の法的措置は私が担当しました。
 その口座のお金は、離婚の時の慰謝料と、その後のあなたの養育費と思われます。
 先日母君より聞いた話では、必要最小限の生活費等以外は引き出さなかったとのことです。
 いつかは貴方のために役に立てて欲しいと、伝え聞いてます」

俺の母はエリートの道を歩んだ女傑とさえ言われた人物で、名のある企業の社長室秘書だったと聞いたことがある。後に俺の父親と結婚したらしいが、事情があってか離婚し、母は俺を連れて自分が生まれ育った東の街の実家に戻っていた。

「潤君は、北の街に行くのですか?」

斉藤弁護士が俺に尋ねた。

京東大学を出たほどのお母さんが、意味もなくこんな事はしないだろう。
母さんはいつでも俺の事を考えてくれたし、俺の意志を尊重してくれた。
母さんが遺言にまで書くなら……高校生活の間だけでも北の街に行ってみよう。

「しばらく行ってみようと思います。高校の3年間の間だけでも」

「そうですか。分かりました。では、今日は私はこれにて失礼します」
そう言うと、弁護士は複雑な表情をしながら、立ち去った。


……・その夜

俺は母の部屋でみつけたCDをラジカセにかけた。

(「Love Destiny」、母さんがよく聴いていた曲だったな)

ふっ、"運命のひと"……か。

俺も去年ぐらいまで、いろんな少女と時々出会ったな。
俺の父親が東の街にくる時には、いつも一緒に少女を連れて来てた。
そして、その少女と子供同士で、遊んだっけ。
受験生になってからは、母さんが時間を気遣ったのか、あまり会うことはなかったけど。

-----お兄ちゃん……

俺は少女達にそう呼ばれていたな。本当の兄妹でもないだろうに。
ああいうのを子供同士のじゃれ合いと言うんだろう。

-----いつかまた、一緒に遊ぼうね。

まるで幼なじみのようだったな。

-----約束だよ!きっとまた会おうね。

だけど、いつも、次にいつ会えるか分からない、そんな出会いだったと思う。

よくかんがえてみたら、それからだれとも再会していない。
あの子達、北の街に住んでいたらしいけど、今でも住んでるのかな。
あの子達のだれかが俺の運命の人になるなら、それもそれで面白いが。


その夜、俺は父親宛に手紙を書き、"北の街に住むことを決めた"と伝えた。
エリートを目指すことが俺の人生で重要でない、今はそう思えたからだ。


----------3月25日----------------

(さあ、行くか)

別れ際、いつも駅のプラットホームで泣きじゃくっていたそんな思い出の少女達
……潤はふとそのことを思い出した。

(今度は俺が見送られる番になるとはね。……とにかく、母さん、行ってくるよ)

いつも少女達を連れ去っていた特急に、今度は潤が乗り込んだ。
そして、北の街方面、21:00発寝台特急は、東の街をゆっくりと発った。

(「最後の真実」……か)
ふと俺は母さんの遺言の言葉を思い出したが、やがて眠りについた。










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後書き by 作者
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北川:「俺のエリート人生、どうしてくれるんだ?」
作者:「それが本当に大切だと思うのか? お前はカノンで何を学んだんだ?」
北川:「奇跡を信じる気持ち、かな?」
作者:「どんなエリートだって、人の気持ちを守り支えられない奴などクソだぞ。
お前は格好いい男を目指してみたくはないのか?」
北川:「そうだな。おー、萌えてきたぜ!これから俺は男のロマンを求めるぞ」
作者:("萌える"とはちょっと意味が違うが、いいか、このぐらいの夢は見てもらおうかな)



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