最後の真実
シルビア
原作:Kanon/Sister Princess/Air
第2章 お兄ちゃんと一緒の時
第12話 「ロザリア」 ~千影編~
(3月6日 千影の誕生日SS)
(この街に来てもう1年になるな……いろんな事があったな)

潤は高校1年生、北の街にやってきて約1年が過ぎた。
潤と妹達との突然の出会いと再会、それからの15人の兄妹が紡いだ思い出は数え切れないほどあった。
それまでの潤の生き方からすれば、180度の人生の方向転換があったと言えよう。

だが、潤が14人もの妹達の過去を知るには、1年という月日は短いとも言えた。
2才下の妹・中学2年生の千影の過去について、潤はほとんど知らなかった。
魔術や占いの才能があり、過去や未来を見渡すことのできるこの妹の不思議な力によって、潤は今まで多くの助言を受けてきた。
だが、その千影の過去のことは、潤はほとんど知らなかった。

「兄くん……未来は変えることが出来るんだ。変える意志があるならね」

千影ちゃんは俺の未来をどれだけ見渡しているのだろうか、潤は時々考えたりする。

「兄くん……私と兄くんは運命で結ばれた二人。
 さあ、一緒に行こう、二人だけの場所に、二人だけの未来のために。私はいつでもいいよ」

兄妹でありながら、永久の契りを交わしたかのような謎めいた千影の言葉には、
得体のしれない謎が込められているように潤は感じていた。
それほどまでに千影に想われる程の出来事が過去に潤と千影との間にあったのか、潤はそれを思い出せないでいた。

だが、潤は過去の事よりも、今の千影ちゃんに兄として何かをしてあげたいと思っていた。
だが、実際は千影に助けて貰っているばかりで何もできなかった。
だから、何もできやしない、潤はそんな思いにばかりとらわれていた。

千影ちゃんの過去になにかその手がかりがあるのだろうか、潤はそう考えた。

「水田さん、千影ちゃんの過去の事、どの位、知っていますか?」

潤は執事の水田に尋ねてみたことがあった。

「潤様、私も多くのことは知りませんが、知っている限りでお話したいと存じます。
 ただ、千影様に関わることには謎めいたことが多く、不思議な事ばかりでございます」

水田は千影の事を語り始めた。

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千影様の元の名前は芙蓉千影といいます。
現在は、三上純一郎様が千影様を養女になさったため、三上千影となっています。

私が千影様を捜す時に知り得たことをこれからお話したいと思います。

東の街に、芙蓉家という元華族の家系をもつ一族がございました。
芙蓉家の当主は、橘家から橘香奈というお嬢様をもらいうけ、結婚なさいました。
やがて、二人の間に娘が生まれました、それが千影お嬢様であるとお聞きしたことがあります。

しかし、千影の母君である芙蓉香奈様は、橘家代々の女性に受け継がれたらしい不思議な力をお持ちでした。
噂ではありますが、霊術や占星術に長け、人の心の病を癒す力をお持ちだったそうです。
それはあたかも巫女のようだったと聞いております。

ですが、その力は芙蓉家にとって不幸をもたらしてしまいました。
未来を見渡す力が芙蓉家の後の衰退の前兆を示してしまった時、芙蓉の人間は香奈様の存在を疎うようになりました。
それで、香奈様は当主である夫から離縁されたのです。
香奈様の能力は娘の千影様にも継承されていたようで、結局、香奈様は娘の千影を連れて芙蓉家から去りました。
その後は母娘二人で暮らしていたのです。

当時、芙蓉家の事業は三上家の事業にとってライバル的存在でした。
純一郎様は芙蓉家との関わりの中で、香奈様と千影様の存在を知ったと仰ってました。
ですが、純一郎様が何故、香奈様とどのような関係だったのか、なぜ千影様を養女とされたのかの理由は私にも分かりません。
私は純一郎様の命ずるままに香奈様と千影様の行方を捜し、三上家にお迎えしようとしました。

私が千影様の居所を見つけた頃には、千影様の母君は過労で亡くなった直後でした。
千影様を三上家に迎えることを私が申し出ると、千影様はすぐに承諾して下さいました。

「……それは、私の運命はすべからく星が導いてくれているから」

その時の千影様が、承諾した理由について、そう仰せられたことは今でも覚えています。

「水田さん、北川潤という名の人を知っているね?」

「……はい」

「私の未来は、その人と出会ったことで変わったのだから。
 だが、その人は私の兄くんになるのか……運命も酷なことをする」

私はとても不思議に思いました。
なぜ、この少女が潤様のことを存じているのか、そして潤様と出会ったことがあると
いった少女の言葉に驚きを隠せませんでした。

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「ありがとう、水田さん」

水田の話を聞き終えた潤も、不思議な感情に囚われた。

(だけど……俺が、以前に千影ちゃんと出会っていた? 兄として会う前に?)

潤は必死に、記憶を辿ろうとした。
やがて、記憶の中で一つのアイテムを思い出した。
それはロザリア、千影の身につけているペンダントだった。

そのペンダントを着けた幼い少女の記憶がうっすらと浮かび上がってきた。
それは潤が中学1年の頃、東の街で暮らしていた頃の出来事だった。

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(あーあ、今日の模試、数学の出来が良くなかったな。
 なんで、あんな証明問題に苦労したのだろうか)

ガリ勉君タイプのメガネをかけている潤は、ぶつぶついいながら、参考書を片手に道を歩いていた。

ドン……ストン

(うん?)

「痛い~。……どこを向いて歩いているの!」

「悪かったな。じゃ」

潤は冷淡にそう言い切ると、先を急ごうとした。
ぶつかった相手など、しらん顔であった。

「何よ、それ! 心がこもってない、それでも謝っているつもりなの?」

「何だい、君は。邪魔しないでほしいな。俺は勉強で忙しいんだよ」

「ふーん、勉強がそんなに大事なの?」

「大事だ。俺の将来がかかっているからな」

「いいわ。勉強ばかりのあなたの将来がどうなるか、私が見てあげるわ」

少女は水晶らしきものを鞄から取り出して、水晶をのぞき込んだ。

「えっ……これは……まさか!」

少女は驚いた表情を浮かべて、水晶から目を離し、潤をまっすぐに見つめた。

「なんだかインチキくさいな。じゃ~、俺はいくからな」

「待って!」

「何だよ。まだ用か」

「貴方、そんなに勉強ばかりしても意味ないわよ。
 ……あなたはそれよりもっと大事なもの、それを見つけるのよ。
 でも、不思議ね……貴方の未来、何故か他の人よりもはっきり見える」

「何、訳のわからないことを言って居るんだ。なんとか商法とかの手先か、お前?」

潤は少女の胸にかかっていたロザリアのペンダントを見ながら、そう言った。

「信じてないのね?
 いいわ。じゃ~、一つだけあなたの未来を占ってあげる。
 貴方は3年後、自分の人生が変わるような出来事に出会うのよ。
 そして、貴方と私はその時、再び巡り会う」

「なんだよ、それ? 俺の人生が変わるだって?」

「誰も皆、星の定める運命から逃げられないのよ。
 ……自らの意志で運命を変えていこうとしない限りね。
 いつか、貴方もそれが分かるわ」

「本当かね? じゃ、俺、行くから」

もう関わって居られない、そう思った潤はその場を逃げるように去っていった。

「ま、待ってよ~!」

(あ~あ、行っちゃった、まだ伝えたいことがあったのに~。
 ……未来の兄くん、せっかちなのはいけないよ)

少女は残念そうな顔をした、だが、ほんの少し嬉しそうな表情を浮かべた。
独りぼっちの少女に、兄と多くの姉妹ができる、そんな未来を水晶の中に見たからだ。


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(まさか、あの時の占いの少女が……千影ちゃんなのか?
 確かに、3年後、俺の人生はがらりと変わったし……)

部屋で考え事をしていた潤は、昔の出来事を少しだけ思い出した。

「兄くん……私の過去を詮索しているのかい?」

「ち、千影ちゃん……ああ、少し気になったことがあってね。
 な~、千影ちゃん、いつか東の街で会った占い少女は君だったのかい?

「フッ……せっかちな所は、あの頃と変わってないね。
 第一、それを聞いて兄くんはどうしたいんだい」

「千影ちゃんの胸のロザリア、なんとなく見覚えがあるんだよ」

「ロザリア?
 これは、私が恋人と永遠の愛の契りを結ぶのに必要なものだよ。
 今の兄くんには……まだ必要ないけどね」

千影は手に握ったロザリアにそっとキスをして、潤の部屋を去っていった。

(私との最初の出会い……思い出してくれたね、兄くん。
 でもね、あの時私が見た未来は、兄くんの意志で今は変わっているかもしれない。
 だから、兄くん、今は私から告白しない。
 今は兄妹でさえいられれば、それでいいからね。
 それでも、兄くんが私と永遠の愛の契りを結ぶなら……私はいつでも構わないよ、兄くん)



------3月6日 千影の誕生日



「待っていたよ、兄くん」

「はは……千影ちゃんには俺の行動は見抜かれているみたいだね?」

「その手にあるのは、私へのプレゼントだろ?」

「その通りだよ。誕生日おめでとう、千影ちゃん」

「ありがとう、兄くん。
 ……この花束、ワスレナグサだね」

「ああ、去年、千影ちゃんが好きな花だって言っていたのを思い出してね。
 本咲きには少し早いけど、温室にある花穂の花壇ではもう咲いていたんだ」

「兄くん、ちなみにこの花の花言葉を知っているかい?」

「いや、知らないけど?」

「フッ……兄くんらしいね。兄くん、この花、ありがたく受け取っておくよ」

千影はうっすらと微笑みを浮かべていた。

(兄くんにはまだ女心はわからないようだね。
 ワスレナグサの花言葉は”私を忘れないで”だよ)



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後書き by 作者
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作者:「うーん……ちょっと締まりが悪いような……」
千影:「まあ、SILVIA兄くんの実力を考えればこれで限界だね。
    ワスレナグサか……花の名前と花言葉が似ているのは頂けないな」
作者:「うっ……ばれている!」
千影:「まあいい、今回は処罰はなしにしておくよ」
作者:「(ほっ)」

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