-----1月1日 元旦
「新年あけましておめでとうございます」
「みんな、新年あけましておめでとう」
潤と妹達14人は一同に会して、互いに年始めの挨拶をした。
妹達全員と再会し、正月を迎えるのは、これが最初であった。
母と二人暮らしだった潤にしてみれば、こんな大勢で迎える正月というのは、なんというか感慨深いものがあった。
「アニキ、研究資金の援助(げふんげふん)……お年玉よろしくね~♪」
「鈴凛ちゃん、ちゃんと用意したよ。お父さんからも預かっているし。
はい、これ、みんなのお年玉、袋に名前書いておいたからそれぞれ受け取って」
「わーい♪」
かなり高額のお年玉であったが、考えてみれば妹達は過去にあまり貰った経験が少ないだろうな、と思い潤も奮発したのだ。
潤はまだ学生なのでお年玉をあげる立場ではないが、妹達のために特別に用意した。
「お兄様、初詣にいきましょう」
「いいよ。行こう」
「あ、咲耶ちゃん、抜け駆けはだめです。私もお兄ちゃんと行きます」
「花穂もお兄ちゃまと行きます!」
「兄君さまと初めて一緒に迎える正月、初詣もご一緒できるなんて♪ (ポッ)」
咲耶・可憐・花穂・春歌の4人は兄の潤と初詣に行くことになった。
他の10人はと言うと……花よりだんごといった状態で、おせち料理を食べる事に没頭していた。
「さあ、お兄様、今のうちにでかけないと大名行列になってしまうわ」
「そうだな……みんなにはちょっと悪いけど」
「あは♪……冗談よ、お兄様」
「お兄ちゃん、妹達は3日間・3組に分かれて、お兄様と初詣をすることに決まったのです。こうすれば、お兄様とじっくりと楽しめると思ったから」
「すると、俺は3日間、毎日初詣するのか?」
「うん……お兄ちゃん、迷惑だった?」
「そうでもないかな。
せっかくみんなで一緒に迎える正月だし、初詣もできればみんなと一緒に行きたいと思っていたから」
「お兄様、優しい♪」
「ははは、からかうなよ、咲耶ちゃん。
……でも、腕は放してね、ちょっと恥ずかしい」
賽銭を投げてお願い事をして、それからおみくじを引いて。縁日の屋台を楽しむ。
ちょっと古典的だが、古きよき伝統も悪くはないものだな、潤はそう思っていた。
ことの他、春歌はルンルンと楽しんでいたようだった。
「兄君さま、絵馬にお願い事を書きませんか?」
「そうだな。他のみんなもやらないか?」
「「「うん」」」
『今年も仲のいい兄妹でいられますように。 潤』
『今年もお兄ちゃんの側にずっと居られますように。 可憐』
『お兄様とたくさんデートができますように。 咲耶』
『兄君さまが健やかでいられますようお守りしたいです。 春歌』
「あと書き終わっていないのは花穂ちゃんだけか?」
「お兄ちゃま、ちょっと待って。すぐ終わるから。……出来た♪」
『今年もお兄ちゃまの事をたくさん応援できますように。 花穂』
「花穂ちゃんらしいお願いだね」
「うん。花穂、これからもお兄ちゃまのことをずっと応援したいんだもん」
応援か……、潤は花穂のいた孤児院の院長が話していたことを思い出した。
「花穂ちゃんはとても優しい子で、困っている子を放っておけないような子でしたね。
寂しそうにしていたり、元気がなかったりすると、すぐにその子に声をかけるような子でした。
そういえばこんな逸話もありました」
院長は話を続けた。
「花穂ちゃん、どうしたの? 珍しく元気がないわね」
「うん……あのね、花穂、また失敗しちゃったの」
「失敗って?」
「里佳ちゃんがね、鉄棒が出来ないって元気がなかったから、一緒に頑張ろうってしたの。でもね、里佳ちゃんも花穂も結局鉄棒が出来なかったの。
だから花穂、里佳ちゃんを元気にしてあげられなかったの。私がドジで失敗ばかりしたから……」
「そうなの。
でも、里佳ちゃん、きっと花穂ちゃんが励ましてくれたことを喜んでいると思うわよ?」
「え、どうして?」
「花穂ちゃんは結果だけを見てしまったのね。
人を励ますのは結果だけじゃなくて、頑張ろうと気持ちになったかどうかが大事なの。
それに、側で見守ってくれるだけでも、とても嬉しいものなのよ。
それは里佳ちゃんもきっと分かってくれていると思うわ」
「本当?」
「そうよ。それに、好きな人から励まされたら何倍も嬉しく感じるじゃない」
「じゃあ、花穂、これからももっとたくさんの人を励ますようにする」
「ふふ。花穂ちゃんに励ましてもらえる人は幸せだわね」
それから数年後、
「花穂ちゃん、これからはお兄さんと一緒に暮らせるわね。本当に良かったわ」
「うん。これからはお兄ちゃまを一杯、応援するんだ♪」
「そう……じゃ、先生に花穂ちゃんを応援させてね。幸せになるのよ、花穂ちゃん」
院長は昔を振り返って、潤にそう話した。
花穂ちゃんが人を応援するのはあの子なりの愛情表現だと、院長は話を締めくくった。
(あからさまに応援されるのは少し恥ずかしいものがあるけれど、それで花穂ちゃんが明るく元気でいてくれるなら……それが兄妹の絆の証なんだろうな、きっと)
「お兄ちゃま、どうかしたの?」
「お兄様?」
「お兄ちゃん?」
「兄君さま、どこか具合でも悪くされたのでしょうか?」
「……あ、いや、ちょっと考え事してな。さあ、そろそろ帰ろうか」
「「「「はい」」」」
潤は自宅の部屋に戻ると、部屋の片付けをすることにした。
年末の大掃除では、あちこち駆り出されてしまい、自分の部屋の整理までは手が回らなかったのだ。
机の整理をすると、大量の写真や手紙が出てきた。
大部分は妹関連のものなのだが、さすがに14人もいるだけに相当の量だった。
(四葉ちゃんも随分と熱心に撮ってくれているな。あの行動力には本当に感心する)
学年の近い可憐達なら普段一緒になることが多いのだが、幼い花穂・雛子・亞里亞なんかの場合は潤の目が行き届くものでもない。
幼い妹を心配する潤を見かねて、時々、四葉が妹達の様子を見に行っていろいろと教えてくれたりする。だから、四葉の撮ったスナップも相当の数になっていた。
潤はそのスナップ写真を整理しながら、ゆっくりと眺めていった。
こうしていると妹達の日常風景や学校生活の様子がよく分かる。
写真をパラパラと見ているうち、潤は1枚の写真に目が止まった。
それは、花穂がチア部の練習をしている情景のスナップだった。
潤はしばし、考え込んだが、なるほどねと納得した。
(本人に言ったら怒られそうだけど、花穂ちゃんらしい……かな)
やれやれ……潤はそう思ったが、ふと何かを思いたった。
潤は部屋を出ると、可憐を誘った。
「可憐ちゃん、俺はこれから買い物にいくけど、ちょっと一緒に来てくれないか?」
「はい、お兄ちゃん」
それから、潤と可憐は二人で商店街に出かけ、買い物をした。
-----1月7日 花穂の誕生日 当日
「花穂ちゃん。今日は花穂ちゃんの誕生日だろう? これ、俺からのお祝い」
潤は大きめのプレゼントを抱えながら、花穂の部屋に来ていた。
「わ~、お兄ちゃま、ありがとう。開けていい?」
「いいよ」
「わ~♪ 新品のユニフォーム! それにバトンやヘアバンドまである。
花穂、ちょうど新しいのが欲しかったんだ~。
ありがとう、お兄ちゃま♪」
潤はスナップ写真を見たとき、花穂のユニフォームがやたら照り光りしたり、ほころびているのが気になったのだ。
明るく元気な妹なのだが、いかんせん、ドジな所も人一倍目立つ。
だが、家でも人一倍練習している風景を、潤は日頃からよく目にしていた。
きっと何度も転んだりするうちにユニフォームも擦れたり切れたりしたのだろう、潤はそう考えたのだ。
あれだけ熱心な花穂ちゃんに俺も何かしてあげようかな、潤はそう思った。
「花穂ちゃんが頑張るのを、俺も応援したいからね」
---------------------------------------------------------------------
後書き by 作者
---------------------------------------------------------------------
花穂 :「SILVIAお兄ちゃま……」
作者 :「そうした、花穂?」
花穂 :「嬉しいのか悲しいのか分からない話です」
作者 :「ちょっと、話が浅かったかな~」
花穂 :「あのね……私のスリーサイズ、お兄ちゃまにばれてないかと」
作者 :「成長期だし、スタイルを気にしすぎても仕方ないと思うけど?」
花穂 :「ダメ~! 花穂が太ったら、SILVIAお兄ちゃまに嫌われる~」
~読者の皆様へのお願い~
このSSについて、気に入って頂いた方、投票をお願いします。投票方法:クリック→| 投票 |
(※ 2019年現在、サイト閉鎖してます)
最後の真実
シルビア
原作:Kanon/Sister Princess/Air
第2章 お兄ちゃんと一緒の時
第11話 「応援」 ~花穂編~
(1月7日 花穂の誕生日SS)
第11話 「応援」 ~花穂編~
(1月7日 花穂の誕生日SS)