海神航、プロミス島での12人の妹達との共同生活の後、航が米国に渡った。
現在22才、米国・バード大に留学する4年生で、大学院への進学を予定していた。
義妹・白雪は、16才、米国のハイスクールに入学を控えていた。


【白雪】

やっと、にいさまの側で暮らせるようになったですの♪
これからは、毎日、にいさまと…………むふふですの♪
にいさまに会えない間に、姫はたっぷりと新レシピを開発したんですの。
にいさまに、『美味しいよ、白雪!』、そう言って欲しくて……

あーん、もう、今晩の夕食から、早速、姫が作りにいくんですの!
ハイスクールが始まる9月まであと5ヶ月、毎日、姫はにいさまの側に……♪

待っていてね、にいさま♪
姫の料理の材料はいつだって……姫のハートですの♪









二人の時
〜Forever〜
 
第9話 「不精者でも好きですの」 〜白雪編〜
 
シルビア












「ランラン〜ラー〜、ルンルン、ルーン♪」

……ピンポーン♪

航が留学して以来、白雪は年に数日しか、航に会う機会がなかった。
今日、白雪が航のもとを訪ねるのも、1年ぶりであった。
とりわけ上機嫌の白雪は、航の部屋のインターホンを鳴らした。


「にいさま〜、久しぶりですの♪」
「げっ……白雪! お前、どうしてここに?」
「どうかしたんですの、にいさま?
 久しぶりに会えたのに……驚くことはないんですの」
「い、いや……それがな……」




「に・に・に・に、にいさま〜〜〜! 何ですか……これは……一体……」




航の部屋に上がった白雪はすぐさま真っ青な表情を浮かべて固まった。
……上機嫌の白雪を驚愕させる事実が航の部屋にあったからだ。
白雪は目の前の光景に、一瞬、言葉を失った。


「いや、あの、その、なんだ……」
「(ぐす、ぐすん)姫は……姫は……にいさまのこんな姿を見るために、にいさまと離れて暮らすのを我慢したんですか? ……あんまりですの!」
「ごめん、白雪。俺が悪かった。マジで反省している」
「にいさま……もう……いいですの。
 ……にいさま、そこにおかけになって、姫と真剣に話してほしいですの」
「わ、わかった」


落胆する白雪は航にそう言うと、姿勢を正してソファにかけた。
航は白雪に会わせる顔がない、そんな気持ちで、白雪の前のソファに腰かけた。


「にいさま、どうしてこうなったのですか? ……姫に教えてほしいですの」
「……実は、卒業論文の出来が悪くて、ここのところ毎晩缶詰状態なんだ」
「にいさま、一人暮らしなのに、家事が出来ないんですの?
 プロミス島にいた頃のにいさまを考えると、とても今のにいさまは想像できないんですの」
「家事は……苦手だ。というよりも、ほとんどやったことないし上手く出来ない。
 プロミス島にいた頃は、妹達がほとんどしてくれていたから、たまに手伝う程度しか
してなかったし……」
「料理も? にいさま、時々、姫と一緒に食事を作ったりしたんですよ」
「おかげで、少しは料理を作れるようになったけど……」
「はぁ〜〜〜」


白雪は航の部屋の荒廃ぶりを眺めながら、深い溜息をついた。

…流し台は食器の山で埋め尽くされ、水を汲むのさえきつそうだ。
…ゴミ箱はゴミであふれかえっていた
…服は部屋中に散乱し、洗濯機のそばには洗濯物の山ができていた
…机の周りは本と資料で埋もれていて、整理整頓というにはほど遠い
…布団は3日は干してなさそうで、ぺちゃんとしている。

それだけならまだいい。
部屋の荒廃ぶりよりも白雪をより落胆させたのは、兄の航の様子だった。
少し痩せてしまい、瞳に元気さを伺えない。
笑顔すら、どこか沈んでいる。

「にいさま、ちゃんと毎日食べているんですの? 今朝は?」
「今朝は……まだ、食べてない。昼食はパンをかじった」
「にいさま、冷蔵庫の中、見て良いですか?」

白雪はソファから立ち上がり、冷蔵庫の中を覗いた。
ろくな食材が見あたらない、作り置きもほとんどない、生鮮食品はほとんどない。
冷凍庫の中をみてもすかすかだった。

白雪ほどの料理好きならば、冷蔵庫の中を見れば有る程度、その人の食生活を想像できる。
何か作ってあげようとしても、この冷蔵庫の中身ではほとんど何も作れない。
白雪は更に深い溜息をついた。

キッチンの中をさらっと見渡し、そして荒廃した部屋に戻った。
そしてソファに座り直すと、航を真剣に見つめて口を開いた。

「にいさま……姫は今日からここに一緒に住みますのよ」
「えっ……?」
「こんなにいさまを一人にはできませんの。
 ……姫、学校が始まるまでにいさまと一緒に住んで、お世話するんですの」
「ちょ、ちょっと、白雪……何、言ってるんだい、急に」
「だめです、反対は認めませんの!
 にいさまがこんな生活をしたら……
 にいさま、いつか体を壊して……
 姫、にいさまのそばにいられなくなるんですの……
 姫、にいさまの笑顔をみれなくなるんですの……そんなの嫌、嫌ですの!」
「白雪……」
「第一、こんなにいさまを心配しながら、姫は離れて住むなんて出来ないんですの。
 にいさまに叱られても、ここに一緒に住みますの! 姫、そう決めたんですの!
 ダメですか、にいさま!」
「……わ、分かった。全ては俺が悪いんだよな……白雪の言うとおりにする」
「はいですの♪ 姫、にいさまのために一生懸命頑張るんですの♪」


それから3時間後、
荒廃した部屋はすっかり綺麗に掃除された。
洗濯物は跡形もなく洗濯され、台所周りは綺麗に片づけられた。

12人の妹達の中で、家事能力についてならトップの実力は伊達ではなかった。
白雪は、航の部屋の掃除をお茶の子さいさいとばかりにこなしていく。
その要領の良さに、側で見ていた航はすっかり拍子が抜けていた。

干したふとんを取り込みながら、白雪は航に言った。

「にいさま、買い物一緒にいきませんか♪」
「あ、ああ……」
「でも、買い置きが必要なので一度で済むかどうか……どうしましょうか?」
「心配要らないよ。車でちょっと行けばまとめて買えるスーパーがあるからね」
「嬉しいですの。にいさまとドライブするんですの♪」
「何だかな……」


白雪のふんばりですっかり片づいた部屋を後にして、白雪と航は車で買い物に出かけた。


ランラン〜ラー〜、ルンルン、ルーン♪

助手席で窓の内外を眺めながら、白雪は終始ご機嫌な表情を浮かべていた。

「嬉しそうだな、白雪」
「はいですの♪ にいさまの運伝する車の助手席に座るなんて、姫、感激ですの♪」
「おいおい、単なる買い物だぜ?」
「一緒に買い物できるだけでも嬉しいのに、ドライブまで一緒ですの♪」
「ま〜、たしかに距離はあるけどな……まあ、いいか」
「ルンルン、ルーン♪」

そして、白雪達はまるで新婚夫婦のように買い物を済ませた。



「さ〜、にいさま、姫の愛情、たっぷり召し上がれ♪」

その日の夕方、航は久しぶりに皿のたくさん並ぶ食事をした。
たくさんある家事の中でも、白雪の必殺技の料理の腕は群を抜いている。
当然、量とか栄養までしっかり考えてある出来なのだ。

「ごちそうさま、美味しかったよ」
「にいさま……
 ね〜、にいさま、お酒飲みたいんですよね?
 はい、にいさま、グラス。
 ちゃんとつまみも作ってあります♪」

そういって白雪は航にグラスを渡して、ビールを注ぐ。

「気が利くね、白雪。ありがとう」
「うふふ、にいさまの事なら、なんでも分かっちゃうんですの♪」
「きっと、白雪はいい嫁さんになるんだろうね」
「に、にいさま……嫁さんだなんて……姫は、まだ……」
「何を動揺してる、白雪?」
「い、いえ、なんでもないんですの。……にいさま、も、もう一杯いかがですの?」
「ああ」

再びビールを注ぐ白雪の表情は、恥ずかしさを隠した笑顔だった。


それから、数ヶ月、航と白雪の二人の生活が続いた。

「行ってきます」
「行ってらっしゃい、にいさま………………さて、今日も頑張るんですの♪」

ふとんを干して、洗濯機を回し、朝食の食卓の後かたづけをして食器を洗う。
部屋のほこりを払って空気を入れ換え、その後、ほんのりとアロマの香りを漂わせた。
夏向きのカーテンに替え、タオルケットを取り出して寝室のふとんと入れ替えた。

初夏の日射しが差し込む航の部屋は、じっとしていても汗ばむぐらいの陽気だった。
だが、流れる汗を拭う白雪の表情は、とても穏やかで明るい。

(にいさまと結婚すれば、きっと、毎日がこんな生活なんですの。
 にいさまの世話をするの、なんか嬉しいんですの)

白雪は一休みして、買い物を済ませ、部屋に戻った。
ほどなく、航が大学から戻ってきた。

「にいさま、お帰りなさい♪」
「ただいま〜……あれ?」
「模様替えですの♪ にいさま、気に入りました?」
「うん。いいね、なんか夏が来たって感じがするよ。ごめんな、手伝えなくて」
「嬉しいですの♪ にいさまが喜んでくれるのが、姫の一番の幸せですのよ♪」

航と白雪は晩酌を兼ねた夕食を取った。
航は白雪に伝えたい事があるといっては、ゆっくりと話した。

「今日、卒業論文、教授に見て貰ったよ。OKだってさ」
「良かったですの」
「これも全て白雪のおかげだね、ありがとう。
 健康な生活のおかげで、思考も冴えたしね」
「そ……そんな……姫、にいさまが喜んでくれればいいんですの♪
 今日は祝杯にするですの♪」
「そうか……なら、今日は一緒に飲まないか? 乾杯でもしよう」
「はいですの♪」

航はグラスを白雪に差し出して、ビールを注いで、乾杯した。
白雪はちょっと戸惑っていたが、航がいつもするようにグラスを空けた。
ちょっと一気飲みに近い飲み方だったが、酒に弱い白雪は平然ではない。

「いい飲みっぷりだな? 飲めるのか」
「違うんですの。姫はお酒は初めてですの」
「えっ、初めて?」
「はいですの。でも、苦いですの〜♪ でも、飲むんですの〜♪
 今晩はにいさまと一緒にお酒を飲むんですの〜♪」
「お、おい、白雪!」

白雪は空いたグラスを平然と航の前に差し出した。
ビールを1本位飲む頃には、白雪は眼がトロンとなった。

「うにゅ〜、むにゃ……お酒……美味しい……にいさまと一緒……」
「何を言って居るんだか……」

航はベッドに寝かそうと白雪を抱きかかえた。

「にいさま〜、……姫は、姫は……にいさまと……結…したい
 ずっ…一緒に…いたい…ですの〜」
「全く、も〜、相変わらずなんだから」

航は白雪の気持ちに、気が付いていた。
白雪がハイスクールに通い始める頃には、また離ればなれにならないといけない。
普段の白雪なら、酔っぱらうほどには飲まない、航はそれを知っていた。

航は寝着に着替えさせて、白雪を寝かしつけた。

「……今まで苦労かけたな、白雪。ありがとう」

航は白雪のおでこにそっとキスをした。
それは、航の白雪への感謝の気持ち+αの感情だった……いつも笑顔を絶やさなかった義妹への航の気持ちだった。
そして、航は部屋の扉をそっと閉めて、自分の部屋に行った。




それからしばらくして……

航はベッドに入り、眠りにつこうとしていた。
その時、部屋の扉をノックする音がして、航は目を覚ました。

「にいさま……入っていい?」
「うん? いいけど」

部屋に入ってきた白雪の顔は真っ赤に染まっていた。
航は上半身を起こして、ベッドに腰かけるように座り、白雪に向き合った。

「……どうした、白雪?」
「ね〜、にいさま……姫を着替えさせてくれたの……にいさまですの?」
「ああ、そうだけど」
「それじゃ……姫の恥ずかしい姿……にいさまに見られたのね?
 姫、それを考えたら急に眠れなくなってしまって……」
「気にすることもないだろ? 白雪は俺の義妹なんだから」
「……………」
「どうした?」
「……姫、女の魅力がないのかな
 ……にいさまは姫を義妹としてしか見てくれないのかな……」
「そんなことない。白雪はとても素敵な女の子だよ。
 それに……時々、俺もそんな風に白雪を見ていた事もある」
「にいさま……」

白雪はその場に立ちすくみ、そして、涙が頬を伝っていた。

「白雪もハイスクールが始まったら、部屋を借りてそこで住むのだろう?
 俺と一緒に住むのも、あとわずかの間だな……」
「……………」

白雪の表情がみるみるくしゃくしゃになっていった。
白雪の震える肩が、そんなのは嫌だという感情を露骨に表していた。

「……やっぱり、返事が無いんだな。そうだと思ったよ。
 ……なら、白雪、このまま俺と一緒に住むか?」
「にいさま?」
「ただな……これからも一緒に住むと、俺は白雪のこと、義妹として見る自信がなくなる。
 それでもいいのかい、白雪?」
「にいさま……姫は、姫は……(くすん、グシュ、わーん)……姫は……」

航はベッドから離れ、駈け寄る白雪を抱き寄せた。

「それが白雪の望みなんだろ?
 ……分かっているよ、白雪。俺と一緒にここにいろ」
「はい……ですの。姫は、姫は……にいさまとずっと一緒にいたいんですの」
「なら、もう泣くのはやめな、白雪。それとも、俺に泣き顔を見せたいのか?」
「ううん……にいさまを心配させたくないんですの
 ……だから、姫も一生懸命笑うんですの
 ……でも……でも、涙は止まらないんですの……許して、にいさま!」
「今夜だけだぞ、白雪?」
「はい……ですの……」




〜エピローグ〜


航と白雪の住まいで、今日も、航と白雪の家事伝説が紡がれていった。

____「にいさま、アタックとアクロンを一緒に使ってはだめですの〜!
   洗剤はひとつでいいんですのよ」
  「だって、白モノと手洗いもモノを一緒に洗うんだぜ? 
   だから、両方使わないといけないんじゃないのか?」
  「それは……普通、一緒に洗いませんのよ……」
  「………」

____バチッ、バウン、ドカン!
  オーブン・レンジから、激しい音が聞こえてきた。
  「にいさま……ひょっとして、オーブンとレンジを間違えませんした?」
  「すまん……白雪」

____「うわっ! なんだ、この梅ソーダ割りは?」
  「え? これ……水ですのよ? あっ……にいさま〜、ごめんなさい」
  「どうしてソーダの瓶の中身が水に化けてるんだ?」
  「……ごめんなさい、にいさま。その〜、水筒を割っちゃって
   ……それでソーダの空き瓶で代用していたの……」

____「にいさま、風呂場からへんな臭いしません?」
  「わ〜〜〜〜、風呂、沸かしっぱなしだ〜〜〜」

____「にいさま、どうしたんです、裁縫なんかして?」
  「いや、そのな〜、洗濯してて白雪のスカート切っちゃったんだ……それで…」
  「にいさま? それ、巻きスカートといって、最初からそんな形ですの」
  「へっ?」

無精はいけませんと白雪にたしなめられて、家事を手伝うようになった航だった。
時折、白雪もドジを踏むが、それもまた愛嬌というものだろう。
航が家事もこなせるようになるには、まだ当面時間がかかりそうだった。

「白雪〜、ごめんな……」
「いんですのよ、にいさま♪」

夕食時、テーブルを夾み、二人の間でこんなセリフのやりとりが飛び交う。

「なんか、せっかく手伝うといっていながら、迷惑ばかりかけているようでな……」
「きにすることはないんですのよ、にいさま♪
 にいさまが家事が苦手だと、姫はずっとにいさまと一緒にいられるんですの♪」
「俺……白雪に一生そんな風に言われそうだな」

白雪は、左手の薬指にはまっている指輪をちらりと眺めながら、航に言葉を返すのだ。
そして、白雪の手は航の手にあるグラスにビールを注いでいたりする。

「はいですの、姫はにいさまに一生言いますのよ♪
 それに……例え、不精者のにいさまでも、姫はにいさまが大好きですの」

はたして、家事の達人の白雪に、航が追いつくのはいつの日のことだろうか?
きっと、一生、無理に違いない。

航の家事伝説は、これからも白雪を笑わせ続けるに違いないが、航は有る意味でそれを楽しむようにもなっていた。
たとえ失敗してもいいのだ、それでも一緒に何かをするのが楽しいから、
……互いの笑顔がいつもそう語っているように見えたのだろう。

FIN.


後書き


不精者であっても好き、不思議とこういうカップルは世に存在してしまったりします。
母性本能をくすぐれる男性、羨ましいです。

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