海神航、プロミス島での12人の妹達との共同生活の後、航が米国に渡った。
そして22才の時、米国・バード大に留学を終え、日本に戻ってきた。
義妹・鞠絵は、17才、高校2年生となっていた。


【鞠絵】

嬉しかったです…悲しかったです…寂しかったです…
会いたかったです…一緒に居たかったです…泣いた顔を見せたくなかったです

………

……白い建物の中ですごした私の長い人生の日々、積み重ねたわたくしの気持ち。
言葉に託して伝えたかった想いの数々。

プロミス島で兄上様とすごした3年間
……毎日1つずつ想いを言葉にしていけば、いつかは最後の想いを告げられる、そう思っていました。

でも、ダメでしたね。
毎日、新しい想いがわたくしの心の中に、積み重なりました。
減りませんでした、それよりむしろ溢れてしまいました。

どれだけあるのでしょう……わたくしが兄上様に伝えたい想い。
わたくし、気が付いたのです……全てを伝えられないと。
だから、全ての想いを込めて、たった一つお伝えします。

『兄上様、愛しています』…………とだけ。









二人の時
〜Forever〜
 
第8話 「1000の想い」 〜鞠絵編〜
 
シルビア












「鞠絵、退院おめでとう♪ 約束通り迎えに来たよ」
「兄上様……ありがとうございます」


鞠絵は航から色とりどりの花束を受け取った。
鞠絵の表情にも、いつになくカラフルな明るさが伺えた。


「感謝の言葉なら、俺だけに言っても仕方ないだろう?
 帰ってから、みんなに直接言うといい」
「ふふ、そうですね♪」

・・花穂の栽培したハーブや漢方に使う薬草、
・・それを煎じて薬を開発する千影と鈴凛
・・鞠絵の心を穏やかにする香りを考えてくれた可憐と咲耶
・・なにかと研究データを集めていた四葉
・・etc.

鞠絵の回復のために、兄と姉妹の数多くの協力があったのは否めない。
とりわけ、千影の開発した薬の効果には、医者も奇跡的だと目を見張ったそうだ。

「鞠絵、乗りなよ。鞠絵の体に支障がない程度に、ドライブでもしながら帰ろう。
 途中で1日、外泊するけど、いいだろう?」
「はい、兄上様♪」

家まではここから丸1日ぐらいかかるので、日帰りはきつい。
だが、永らく診療所生活だった鞠絵と出かけようと、航は車でやって来た。
それに、二人きりでドライブでもしておいで、というのが妹達の意見だった。

だが、単にそれだけではない。
航は千影に言われていたことが気になった、それも外泊する理由の一つだった。

……ちょっと、時を戻そう、それはほぼ1000日前の話だ。

「兄くん……ちょっと聞いておきたいことがあるんだ?」
「何だい、千影? そんなに真剣な顔をして、俺に相談?」
「ああ、これは兄くんと鞠絵くんにとって重要な話だからね。
 話というのは…鞠絵くんのために作っている秘薬のことだよ」
「秘薬?」

千影の表情が怖いほど真剣な表情になった。

「鞠絵くんの病気は先天性の疾患だから、今の普通の薬ではなかなか治らない。
 魔術などの秘薬であれば、治した例もあるのだが、これも問題がある。
 副作用がね」
「問題? 副作用?」
「簡単にいうと……秘薬には媚薬と同じ成分が含まれている。
 医学的には信じがたいかもしれないが、恋する心が体を活性化させるといってもいい。
 そして、誰かを恋するなら、その思いは当然恋する相手への一途的な想いになる。
 ……だから、副作用といっている」
「とても信じがたいな……恋するエネルギーが体を治す…か」
「そうだね……だけど、事実には変わりない。
 そして、投与を開始して1000日後、そのエネルギーは最高潮となる。
 病気の完治も1000日後になる可能性が高く、以後、定期的に1000日ごとに心のエネルギーは最高潮に達する」
「なるほど、1000日周期というわけか」
「副作用については以上の通りだよ。
 ……問題は、鞠絵の恋の対象が兄くんである可能性が高いということだよ。
 つまり、秘薬の投与を初めてから、鞠絵は兄くんへの想いを胸に体が回復する可能性が高いということだよ。
 私達姉妹も、鞠絵の兄くんへの想いにはうすうす気がついている。
 最後に、兄くんが鞠絵の想いを受け止める覚悟があるか、それが秘薬の投与を決定する重要な判断要因になる。
 答えてほしい……兄くん。それでも鞠絵に秘薬を投与するのかい?」
「……する。……なによりも、大事な妹の鞠絵の命には代えられないから」

千影の言うとおり、投与開始から1000日に近づくにつれ、鞠絵の健康は回復していった。身体的にも、年相応の健康さを取り戻しつつあった。

そして迎えること999日目、それが、鞠絵の退院の日となった。

『秘薬を用いると、日々、恋する想いが心にたまる。
 1000日目には、その想いが一気に心から溢れてくる。
そして想いが満たされれば解消され、また、新たな想いで再び心を満たしていく。
1000の想い、それを兄くんは受け止めなければいけない
……これから先、ずっと。それが運命』

今夜の夕方には、千影の言う、投与開始から1000日目となる。


【航】

俺と鞠絵は車に乗っては小高い丘にある草原にやって来た。

「いい風ですね♪ 心が澄んでいくようです」
「そうか……良かったな」
「それに……兄上様とこうして居られるなんて
 ……わたくし、これ以上の幸せはありません。
「……………そうか」

千影が言っていた、
誰かを恋するなら、その思いは当然恋する相手への一途的な想いになる、と。
ならば、千影達の推測するとおり、鞠絵の言葉の端には、俺への一途的な想いがある、
そういう結論が俺の脳裏に浮かんだ。

たんなる兄妹としての気持ちであってほしい……俺は心の片隅にそう願った。
だが、それはすぐに違うということを実感させられた。

鞠絵は俺に抱きつき、しばしの抱擁のあと、俺と唇を重ねた。
まさか、鞠絵からいきなりこういうことをされるとは、予想すらしていなかった。

「とても恥ずかしいです。ですが、兄上様、これはわたくしの本当の気持ちです。
 兄上様のことを想わない日は1日とて有りませんでした」
「……………」
「元気になったら、きっと兄上様の側で寄り添って生きていきたい……それだけがわたくしの願いでした」
「……………」
「その願い、今日なら叶えられるかもしれない、そんな予感がしたのです」
「……………」
「兄上様、わたくしを一人の女の子として側において頂けますか?」
「……………」

……俺は答えられなかった。
俺は思案した。
俺のことを恋人として想う、その気持ちが嬉しいのはやまやまだ。
血は繋がっていない義妹だから一緒になることは支障がないのだが、俺の知る鞠絵は妹としての鞠絵でしかない。
そんな俺が鞠絵の告白に対して、答えを出すことができるのだろうか。
妹として見る日々を捨て、彼女として鞠絵を受け容れられるのだろうか。

わたくしを一人の女の子として側において頂けますか…それは、1000の想いの全てを1つの言葉に託した鞠絵の本心だろう。
今の鞠絵の言葉が秘薬の副作用である媚薬効果で増幅されたものであったにせよ、鞠絵の心の底に気持ちのかけらがなければ出ては来ない言葉、それは分かっている。
兄妹だが、血の繋がらない義妹……それが俺たち二人の関係、恋人にもなれる
……それは俺も分かっている。

そして、俺は1000日前に、千影に言った言葉……

『なによりも、大事な妹の鞠絵の命には代えられない』

それが俺の今の気持ちを如実に表している。
しかし、千影達が俺に一人で鞠絵を迎えに行かせるというのは、
有る意味で俺が鞠絵の気持ちに応えて鞠絵を彼女として受け容れるのかどうか、
その結論を俺に求めていたのだろう。
言い換えれば、結論を出すまでの猶予期間が、1000日あったということだ。



俺は意を決し、鞠絵に告げた。

「俺は……鞠絵が俺を好きなほど鞠絵を…妹でない一人の女の子として…好きといえる自信がない」
「兄上様……」
「ごめん、覚悟を決めようと何度も考えたけど…まだ、自信がないんだ」
「……………そうですね、わたくしは兄上様の妹
 …そして兄上様には、それがわたくしへの全ての気持ちなのですね。
 でも……わたくし、兄上様にお伝えできてよかったです」
「ごめん」
「兄上様、謝らないでください……そうされては…わたくしも辛くなります」




「俺は……鞠絵の命を助けるために……悪魔に魂を売ったようなものだ。
 鞠絵に投与された薬は……『兄上様!』……」
「……兄上様……わたくし、秘薬の副作用について、あらかじめ知っていました。
 それでも、わたくしは秘薬を使うことを選ぶことにしたのです」
「……………」
「わたくし、生きていたかったのです……そして、兄上様の側にいたかったのです。
 わたくしが死んでしまって、兄上様のお心を苦しめるなんて出来なかったのです。
 兄上様の言葉を借りるなら、悪魔に魂を売ったのは……わたくしです」
「鞠絵……」



「兄上様、わたくしの1000日の間、ずっと積もった想い、受け取ってください。
 わたくし、それを思い出にして、これから生きていきたいのです」
「……本気なのか? ……いや、聞くまでもないな」
「はい」
「分かった…………今日と明日は、鞠絵の事を妹ではなくて、ひとりの女の子として接するようにする」
「ありがとうございます、兄上様。それでも……わたくし、とても幸せです」
「その代わり、少しの間でいいが、兄上様ではなくて、航と呼んでくれるか」
「はい♪」


……更に1000日後

航 「後悔しているか?」
鞠絵「兄上様……いいえ、航様……その逆です。
   わたくし、この上ないほど、幸せですから」
航 「鞠絵………俺と結婚してほしい」
鞠絵「はい、兄上様……いいえ……航様」


だが、鞠絵と心を交わして以後の1000日間は、以前の1000日間とひとつだけ違っていた。
最初の1000日間が鞠絵の片想いなら、次の1000日間は両想いだということだ。
1000日間、俺は鞠絵の事を義妹ではなく一人の女の子として見つめてきた。

そして、俺は鞠絵を妻として迎え入れる決心をするに至った。
これは、2000の想いに導かれた二人にとって自然な、とっても自然な、結果だった。
そう、…………『兄上様、愛しています』…………鞠絵のその想いが導いた結果なのだ。


〜エピローグ〜


花穂「千影お姉ちゃま、鞠絵お姉ちゃまに使った秘薬、効果あったのかな〜?
   あの薬を使うと、だれかに恋するのかな〜?」
千影「いや、あれは単なる強精剤の一種だよ。
   市販の薬より効き目があるが、恋愛感情とは関係ない」
花穂「じゃ〜、どうして、お兄ちゃまと鞠絵お姉ちゃまには、あんな風に説明したの?」
千影「それはね……強く願うから、奇跡に近いことが起きる。
   特に、恋愛感情は並の願いとは比較にならないぐらい…強い。
   鞠絵の病気はね、本人が強く生きる気持ちがなくては到底治らない。
   兄くん達には申し訳ないが、たとえ騙してでも、私は鞠絵に生きてほしかったのさ」
花穂「想いの強さ……。
   でも、嘘が本当になったね……お兄ちゃまと鞠絵姉ちゃま、結局、結ばれたもん」
千影「ああ……これも星が導いた未来、そう、二人の拓いた運命なんだろうね。
   それは兄くんと鞠絵の願いが、未来すら変えた、ということかな。
   それも1000日もの長い日々に培われた想いだから、強い。
   ……さて、花穂ちゃん、兄くんの所にそろそろ着くよ」
花穂「うん♪」

千影と花穂は、航と鞠絵の住処を訪れた。
千影の運転する車が、航の家のガレージに留まった。
二人は車を降りて玄関に歩いていき、千影が家の玄関の呼び鈴を鳴らした。

花穂「やあ、千影、花穂、いらっしゃい。よく来たね」
千影「やあ、久しぶりだね、兄くん」
花穂「えへへ〜♪ 花穂ね、お兄ちゃまに会いたくて来ちゃったの♪」

千影と花穂は、航に出迎えられた

航 「ありがとう、花穂。でも、ここに来るのは俺に会うためだけじゃないんだろ?」
花穂「えーと……それだけじゃないの……えーとね」
航 「分かってるいよ。俺の娘の絵里の顔、見たくなったのだろう?」
花穂「えへへ♪ そうなの」
航 「はは…花穂、お前がこんなに赤ちゃんが好きだとは知らなかったよ」
花穂「だって可愛いんだもん♪
   よちよち歩くのを見ているとね…応援したくなっちゃうの♪」
航 「鞠絵によく似た女の子だからな、可愛いからな」
千影「兄くん……のろけだね? 妻の鞠絵が可愛いと」
航 「……………」
千影「図星だね。兄君……私に分からないことがあると思うのかい?
   まあ、そう言いたくなるのも分かる気がするけどね………」


「あなた、どうかされましたか? 上がって頂かないと申し訳ないですよ」

玄関でなにやら話している3人のもとに、鞠絵が姿を見せた。
上品さと綺麗さを兼ねるその顔立ちであり、メガネからコンタクトに切り替えて優しい光を帯びたその瞳、物腰の上品さを兼ね備えた女性が、ショートカットの髪に手を当てながら姿をみせた。
その足下には、鞠絵の長いスカートの丈を引っ張る赤子がいた。

絵里「……かほ。かほ〜♪ ……か〜ほ〜♪」
花穂「きゃ〜、可愛い♪ ね〜、お兄ちゃま、花穂、絵里と遊んでいいかな?」
絵里「きゃっ、きゃっ♪」

母のスカートから手を離して、絵里はとぽとぽと花穂達の方へと歩いていった。
花穂は絵里に近づいて、転びそうになった絵里をすくい上げながら言った。

航 「はい、はい……お好きなだけ、遊んで下さいな」
鞠絵「あなたったら……何を面倒くさがっているんですか」
航 「まあ、そう言うなって。今日くらいゆっくりさせてくれ」
鞠絵「仕方ありませんね。それでは、千影さんの方をお願いしますね」

鞠絵は花穂と絵里の方へ向いて、一緒に部屋の中に入っていった。

千影「フッ、兄くん……相変わらず苦労しているね。 
   これから一生、”2000”の想いを受け止めるというわけだ」
航 「千影の言葉を借りれば、これも星の導く未来というやつなんだろ?
   なら、しっかり未来を受け止めるまでさ。
   それに、2月後には”3000”になる予定だしな。
   胎児は順調に育っているらしい、男の子らしいよ」
千影「兄くん……未来は刻々と変化するけど、きっと兄くんの未来は明るいね。
   願いをうけとめるのは勇気と優しさ……もうそれに気が付いているから」
航 「勇気と優しさ?」
千影「それは、兄くんの1000の想いだよ。
   ……兄くんの鞠絵への愛情から生まれるんだ」

1000の想い
……それは相手を想う日々の中に培われ、1000日後に心から溢れる純粋な感情、
……心の底から発せられる留らない想い。

FIN.


後書き


会っていない時間でも、想いは募るもの。それもまた恋愛なのでしょうか。

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