「くふふ、いよいよ今日から兄チャマと一緒に暮らすデスよ」

この日は航の家に四葉が引っ越して来る日であった。


海神航、年齢は22才、米国に留学し、バード大学生である。
妹、四葉、18才、ハイスクールに通う3年生である。
プロミス島での妹達との共同生活の後、航と四葉は米国に渡ってきていた。
それから後、航と四葉は恋人同志の関係となった。

そして、重大な事件が起こった……
 









二人の時
〜Forever〜
 
第4話 「失われたチェキ」 〜四葉編〜
 
シルビア












「四葉、そんなに慌てると……」

ズドン……ガシャーン……

航の心配は、案の定、現実のものとなった。

航とPCを運んでいた四葉は、持っていたPC本体をものの見事に床に落下させた。
そして、航と四葉の顔が青ざめた、特に四葉は尚更青ざめた。


「だ、大丈夫デスよね……兄チャマ」
「多分……壊れたな」
「う、うぅ〜。そんな〜」
「と、とにかく……四葉、早く運んで起動してみよう」
「う、うん」

航と四葉はPCの結線をすまして、本体の電源を入れた。
やがて、ディスプレイに起動のロゴが出た。

BIOSのメモリーテストの後、いくつかのメッセージに続いて、残酷なメッセージが画面に表示された。

「う、動いたデス。ほら、動いたデスよ〜♪」
「いや……ダメっぽいぞ……」

Cannot find boot image. Insert system disk……

当然、RinRin-OSも立ち上がってこない。
四葉の目には、パソコンが壊れたとしか映ってなかった。

「俺では直せそうもないな……これ」
「そ……そんな……」
「四葉……がっかりするなよ、とにかく鈴凛に相談して助けて貰おう」

航は携帯電話で鈴凛の所に連絡を取った。

『はい』
「鈴凛か? 俺だよ、航。あのさ、悪いんだけど、頼みがあるんだ」
『アニキの頼み? いいよ、今日は何?』
「実は四葉のPCを落としてしまって、起動しなくなってさ、
 Cannot find boot image……なんてメッセージがでるんだ。
 なんとかならないかな?」
『うーん……直せるかどうかは、見てみないと分からないね。
 明後日でよければ、アニキの所に行っていいかな?
 あと、私が行くまで、いじらずに現状のままにしておいてね』
「そうか……じゃ〜、頼むよ、鈴凛。悪いな、本当」
『いいよ、アニキのたっての頼みだもん。でも、研究資金の援助、よろしくね♪』
「今財布がピンチなんだけどな……分かったよ」
『アニキ、感謝してます♪』

相変わらず現金な妹なんだから、航はそう思いながら、携帯電話を切った。
四葉が心配そうな顔をして近寄ってきた。

「兄チャマ、……どう?」
「すぐには無理みたい。明後日でよければ鈴凛がここに来てくれるって」
「…………」
「四葉、あとはなるようになるしかないよ」
「う……うん」

航達は引っ越し作業に戻り、なんとか片付けを済ませた。
四葉はすっかり落ち込み、口数も次第に少なくなっていた。
四葉と一緒夕食をとっていた航は、四葉の様子が妙に気になって、尋ねた。

「どうした、四葉。まだPCのこと、気にしているの?」
「うん……だって、あのPCには四葉の宝物のデータがたくさん入っているから」
「宝物のデータ?」
「そう……兄チャマをチェキしたデジカメの写真データと、兄チャマとのメールや
 チャットの記録とか……でも、データはあのPCに入っているだけなのデス」
「それ、本当か?」
「うん……たくさん有るからバックアップもきちんとしてなかったデス。だから……」
「全てパー、なのか?」
「…………」

四葉は食卓に顔を埋めて、泣き出した。

「う、うぅ〜、えーん
 ……四葉と兄チャマとの大切な思い出が
 ……出会ってからの全ての思い出が……ごめんなさい、兄チャマ〜」
「四葉……」

その夜、四葉はベッドの中に潜り込んで、泣いて過ごした。
航はそんな四葉の様子をそばで見ながらも、声のかけようがなかった。
とにかく今夜はそっとしてやろう、最初、航はそう思ったが、それでも不安が残った。

「な〜、四葉、もう気にするなよ。思い出ならまた作ればいいじゃないか。
 俺達はこれからもずっと一緒なんだからさ」
「……兄チャマはやっぱり優しいのデスね」

四葉はベッドから出ると、机の上にあった写真立て、デジカメ、それに手帳を手にして、

「兄チャマとの思い出はもうこれだけ……あんなにたくさんあったのに……
 ……会いたかった兄チャマとやっと会えて、
 ……兄チャマと一緒に暮らせるようになって、
 ……たくさんの姉妹達と楽しく過ごせて、
 ……兄チャマの彼女になれて、
 四葉、嬉しくて、いっぱいチェキしていたデス」

四葉はデジカメを操作し、メモリーの写真を覗きこみながら、落胆していた。

「兄チャマと一緒の四葉は、いつも幸せそうで、楽しそうデスよ。
 兄チャマも姉妹もいつだって幸せそうです。
 兄チャマ……四葉ね、いつもこんな思い出を眺めて元気を貰っていたのデスよ。
 毎日、今日も兄チャマとたくさん思い出をつくろうって…… 」
「そうか……」
「でも、兄チャマ、四葉、これかもたくさんチェキするデスよ。
 四葉はいつも笑顔のままで兄チャマと一緒にいたいのです。
 ……兄チャマが、思い出をまた作ろうって言ってくれたから。
 それがとっても嬉しいから……
 だから、四葉、もう泣くのは止めるデス」

泣きやんだ顔、だが目もとは少し赤く腫れていた。
それでも必死に笑顔を浮かべようとする四葉を、航は少しいじらしく思った。

「それがいい。四葉はやっぱり笑っている方が可愛いよ」
「……兄チャマ、四葉をからかっているデスね? 可愛いだなんて……」
「たまには俺が四葉をチェキしてもいいだろう?
 今日はそばで一緒に寝てあげるよ、おいで、四葉。
 眠るまで、たっぷり四葉の笑顔をみてもいいよね?」
「……兄チャマ……」



翌日の昼、航は四葉を自分の部屋に呼び、自分のPCを立ち上げた。
そして、PCの画面を指して四葉に見せた。

「あ、兄チャマ……この写真は……」
「四葉が俺にくれたものだよ。俺のPCに入っていても不思議じゃないだろ?
 今こうして見ると、随分たくさんあるよね。
 それに、俺と四葉のメールは、俺のメールボックスに大分残っていたよ。
 とにかく、これで、データ全滅は免れたな、四葉」
「うん。でも……これでは、全部じゃないデス……」
「まあ、慌てるなって。
 朝、妹達全員に連絡して、それぞれのPCのデータをメールで送ってもらっている。
 全部は無理かもしれないけど、四葉のチェキしたデータ、大分集まると思うよ」
「みんなも?」
「ああ、あとは鈴凛次第だが……無くしたデータの捜索は名探偵にお任せするよ」
「はいデス♪」

それから、航と四葉は二人で集まったデータの整理をした。
四葉の推定によれば、だいたい60%ぐらいのデータが集まったそうだ。

「はぁ〜、大分なくなっていますね。特に、四葉の秘蔵データはほぼ全滅デス。
 それに、メールも昔のものはほぼなくなってマスね」
「メールは俺も一度、全部ロストしたことがあるからね。
 でも、秘蔵データだって? 俺にも見せてないようなものということか」
「……はいデス。……大事なデータだったのに」
「何だかな……案外、天罰かもしれないぞ?」
「う、うぅ……」


翌日、鈴凛がノートPCと道具を抱えて、航の許にやってきた。

正味1時間、鈴凛は四葉のPCと格闘し、結論を出した。

「アニキ、HDDは交換だね。角度が悪かったのかな、落下した時に壊れたみたい」
「そうか……仕方ないな。当然、データもダメか」
「アニキ、私を甘く見てない? このPCは私が設定したんだよ。
 壊すことぐらいはある程度予想してるよ。
 予備のHDDも持ってきてるし、できるだけのことをするから。
 アニキ、2時間ぐらいしたら、また見に来てね」
「分かった」

「HDD故障だってさ、四葉。ならば、データもダメだろうね」
「ごめんなさい、兄チャマ」

2時間後、航と四葉はがっかりした表情で、鈴凛の許に行った。

「え、え〜! これ……これ……どうしたのデスか?」

四葉の見たディスプレイには、壊れる前の状況がほぼ復元されていた。

「どう? パーティションのバックアップと、定期の自動バックアップの差分を合成して復元したの♪
 バックアップの記録によれば、4日前までの状態かな」
「そんな魔法みたいな……」
「このPCには2台のHDDを付けてあるの。そして片方はバックアップ専用なの。
本当はRAIDにしたかったぐらいなんだけど、予算がなかったし……
完全には元に戻らないけど、私にできることはしたよ」

四葉はPCのファイルの状況やメールの状況などを確認した。
四葉の推定によれば、99%ぐらいのデータがあるそうだ。
わずかに数十カットの写真がない程度のものだった。

「あとは3日前に、兄チャマとデートした時の写真だけ……」
「四葉、それなら、まだデジカメのメモリーに残っているんじゃないか?」
「あ、そうデスね♪」

そして、復旧も100%達成し、四葉は歓喜の笑顔を浮かべた。

「四葉ちゃん、これからはちゃんとバックアップも取らないとね」
「よかったな、四葉。
 ……で、秘蔵データとやらを、俺に見せてくれるんだろうね?」
「アニキ、それって『四葉の秘蔵データ』というフォルダのこと?
 それならさっきCD−Rに焼いておいたよ。アニキ、見るの?」
「えっ……鈴凛チャマ、だめデス、それだけは!」

鈴凛はすっと四葉に振り向いて左右の手でポーズをとった。
それは仏像の右腕(親指と人差し指で○を作る)・左腕(左手を広げて正面に差し出す)のポーズだった。

「四葉ちゃん〜、研究資金の援助、よ・ろ・し・く・ね♪
 あ〜、復旧作業も大変だったし〜。100$ぐらいで手を打つよ?
 それなら『四葉の秘蔵データ』のCD−Rは内緒のまま破棄してもいいかな〜」
「う、うぅ〜……はい……」

四葉は財布から100$を取り出して、鈴凛に手渡した。
四葉のチェキ・データは救われたが、四葉の財布の中身は救われない格好となった。

「アニキ、何か美味しいモノでも食べに行かない?
 お金も入ったことだし、今日は私が奢るよ」
「それはいいけど、鈴凛、そのお金で四葉に奢ってあげろよ?」
「はいデス♪ 兄チャマ、いいことを言うデスね」
「え〜? アニキ、それって四葉ちゃんにかなり甘くない? アニキ、それは不公平だよ!」
「じゃ〜、こっちの資金援助は断るというのかな? 鈴凛と約束したから、俺の方も用意していたんだけど?」

航は100$を鈴凛の前にちらつかせた。
鈴凛はさっそうと、その紙幣を受け取った。

「感謝してます、アニキ♪」
「さて、これから鈴凛に奢ってもらうとするかな。いこう、四葉!」
「はいデス♪」

返事をする四葉は右手にデジカメが握り、スカートのポケットに拡大鏡と手帳を偲ばせていた。
_____それはおなじみの四葉のチェキ用アイテムだった。



〜エピローグ〜


「パパ、チェキ〜!」


航と四葉の娘、七海(ななみ)がママのデジカメで航の写真を取った。
それから、七海はうれしそうにママ・四葉の許に駆けていった。
航はそんな七海の様子を苦笑いを浮かべて眺めていた。

「ねぇ〜、ねぇ〜、ママ〜! 格好いいパパ、チェキしたよ〜」
「はい、はい……あら、よく撮れてるね。七海、とっても上手♪」
「えへへ♪ 七海もママと同じ名探偵なの」

FIN.


後書き

電子データはバックアップをきちんと取りましょう。
取らない人ほどなくす、そうですよね、四葉?

〜読者の皆様へのお願い〜
このSSについて、気に入って頂いた方、投票をお願いします。 投票方法:クリック→| 投票 |  




PREV BACK NEXT