幽☆遊☆世紀エヴァンゲリオン
YU☆YU☆ GENESIS EVANGELION
第弐拾四話
神鳥ガルーダ(旧かのもの)
NERVは、『ゼルエル』に破壊された発令所を捨て、予備の第2発令所に機能を移していた。

「どうも、座り慣れた椅子じゃないと少し落ち着かないな……」

青葉がぼやいていた。
日向もマヤも、いつもと違う感触に落ち着かないようであった。

一方その頃、『SEELE』では緊急会議が開かれていた。

「サードチルドレンは完全にEVAを乗りこなしているな」

「そればかりではない。セカンドチルドレンの精神も安定しているようだ」

「セカンドチルドレンとサードチルドレンの仲は、良好だという話だ……」

「我々の計画では、あの2人はもっと不和になってもらわなくてはならなかった」

「その為に、セカンドチルドレンは我等のお膝元であるドイツの第3支部において、我等の理想どおりに育てたはずだ」

「しかし、実際はセカンドチルドレンはサードチルドレンに恋心を抱き、いまやサードに夢中だという話だ」

「そして最近、加持リョウジからは何の音沙汰も無い」

「惣流・アスカ・ラングレー、加持リョウジ……この二つのカードは我等の手札では無くなってしまった」

「加持リョウジは、もはや我等がNERVに付けた鈴の役割を果たさなくなった」

「あの男は始末するべきだ」

「いや、あの男などどうでもいい。すべてはサードチルドレン、碇シンジが原因だ」

「あの男に、EVA初号機を任せたのがそもそもの間違いではなかったのか?」

「しかしあの男でなければ、EVA初号機をここまで上手く使いこなすことはできなかった……」

「碇は、息子を御することもできんようだ」

「碇も、裏で何かを企んでいた様だが……サードチルドレンが、あの男が望んだ存在とはかけ離れていたため、既に瓦解している」

「あの男はもはや、我等に造反する力はない」

「しかし、サードチルドレンはもはや我等にとっても最大の障害になってしまった」

「碇ゲンドウ以上に危険な存在だ」

「しかし、あの男は簡単に排除できない」

「すべての使徒を倒し終わった後、軍隊を差し向け、最優先ターゲットにするべきだろう」

「あの男さえ始末すれば、セカンドチルドレンを寄り代にした『人類補完計画』を起こせるだろう」

「そうだ、サードチルドレンが死ねば、ファーストチルドレンとセカンドチルドレンは心の拠り所を失い壊れる筈」

「方針は決まった」

「すべての使徒が殲滅された後が、サードチルドレン、碇シンジの命日となる」

『SEELE』の方針は決まった。
最後の使徒『タブリス』殲滅後に、蔵馬を抹殺する。
皮肉にも、それはかつてゲンドウと冬月が企てた計画とほぼ同じものであった。

☆      ☆

「殺せ!シンジを殺せ!!」

ゲンドウは、再び蔵馬抹殺の指令をだそうとした。

「どうやって?」

冬月は、冷めた声で問い質した。

「シンジ君をどうやって殺すのだ。保安諜報部は今、ほとんど機能していないぞ」

先日、蔵馬を拘束しようとした警備兵は保安諜報部の保安部隊の精鋭たちであった。
しかし、全員蔵馬に返り討ちを食らい、半数以上が再起不能にされてしまい、何とか再起出来る者たちも現在は入院療養中である。
あの者たちが歯が立たない相手に、他の連中ではまず不可能であろう。
いや、既に冬月は理解している。
自分達ではどう足掻いても蔵馬には勝てないことを……。

「またシンジ君に手を出そうとしても確実に失敗するだろう。そして、今度は確実にお前がシンジ君に殺されるぞ」

「ふん。そんな脅しに屈するか!」

「片目を抉られてもまだ解らないのか!?脅しではない。シンジ君は殺ると言ったら確実に殺るぞ!!」

「所詮、青二才……」

「馬鹿だ馬鹿だと思っていたが、ここまで馬鹿だったとはな!その台詞は何回目だ。もう付き合いきれん……やるなら勝手にやれ!そして、シンジ君に殺されろ!!ただしお前が直接シンジ君を殺しに行けよ。他の者に迷惑だ。確実に返り討ちに遭うのか解っていて実行する奴もおらんだろうがな!!」

既に冬月の下には、保安諜報部の部長から嘆願書が届いていた。
『今度、碇司令がサードチルドレン抹殺の指令を出しても、保安諜報部はその命令を拒否する』
と、書かれていた。
これは、部長のみではなく、保安諜報部全員の総意であった。
ゲンドウの命令に逆らう者たちを、逮捕、拘禁する筈の保安諜報部がゲンドウに反旗を翻したのだ。
所詮、彼らも我が身が可愛いのだ。
前回、蔵馬に叩きのめされ彼には勝てないと最も骨身に染みたのは保安諜報部なのだ。
つまり、もはやゲンドウの権力は無力と化していた。
他の職員達も、蔵馬に対して恐怖を抱いているが、同時に信頼している。
冬月にも見限られた今、ゲンドウは完全にNERV内で孤立していた。
何とか、命令を聞くのはもはや、性的に縛っている赤木リツコ博士のみである。
そのリツコにしても内心では、ゲンドウを見下し始めている。
彼女もいつまでゲンドウに従うか……それはリツコ本人にも解らなかった。

☆  ☆  ☆

トウジは改めて、自分が目標としている人物が想像を絶する存在であることを理解した。
恒例の戦闘訓練に初めて参加したトウジは、蔵馬の本当の強さを目の当たりにした(本人はそのつもりだが、まだまだ蔵馬の真の強さは理解していない)。
以前、アスカがケンスケに言った台詞。
『蔵馬はNERVお抱えの戦闘のプロより遥かに強い』
まったくそのとおりであった。
あれ以来、ケンスケは蔵馬の傍に近寄って来なくなった。
しかし、トウジにはいつもどおり話し掛けて来ていた。
蔵馬が駄目なら、今度はトウジを通してEVAのパイロットにしてもらおうと考えたらしい。
しかし、トウジも蔵馬と同意見である。
ケンスケには、耐えられない。
トウジもそう考えている。
本当の恐怖の一端を知ってしまったから……。
理想と現実の違いを知ってしまったから……。

「まったく、ケンスケも頑固っちゅうかなんちゅうか……どうするんや蔵馬?」

「そうだな。もうケンスケとの仲の修復は無理だろうな……こちらから謝らない限り……しかし、それをすればケンスケが増長するだけだ」

ケンスケの最大の欠点は、自己過信にある。
ヒーローに対する憧れを、自身に投影して、己の能力に妄想を抱いている。
EVAのパイロットになった自分は次々と使徒を倒し、英雄となる。
そうなれば女の子にモテモテになり、レイとアスカは蔵馬から自分に乗り換え、蔵馬も己の非を認め、自分に平伏するだろう。
蔵馬に絶交を言い渡した今のケンスケはそこまで妄想しているのだ。
身の程と言う物をまったく弁えない男である。

「蔵馬!もうあの変態メガネなんてほっとけばいいじゃない」

「蔵馬君に対してあんなこと言う人なんて、どうなってもいい」

アスカは、もともとケンスケに対しては余り好意を抱いていなかった。
何故、蔵馬がケンスケを親友にしたのか理解できなかったのだ。
そして、今回のケンスケの態度で完全に見限ったのだ。
蔵馬至上主義のレイは、今回のケンスケの行動はとてもではないが認められない。
蔵馬もアスカとレイがケンスケを嫌うのを別に咎めなかった。
蔵馬は博愛主義者ではない。
当然嫌いな奴、殺したいほど憎い奴もいる。
『すべての人間を愛せよ』などという、宗教家が言いそうな言葉とは無縁である。

「ああ、アスカ達に言われなくても放っておくさ。むしろその方がケンスケの為だ」

蔵馬は今でも、ケンスケの事を嫌っていない。
ケンスケにもいい所は一杯ある。
だが、今のケンスケは妄想と現実の区別がつかなくなり暴走している状態である。
故に、蔵馬は一つの手を打っておいた。
そのことにより、ケンスケに益々嫌われるであろうが……。

☆      ☆

第14使徒『ゼルエル』襲来から一月が過ぎ、『バルディエル』戦で負った負傷が完治したミサトは、加持と飲んでいた。

「ねえ、加持君。聞きたいことがあるの?」

「何だ葛城、そんな改まって?」

「NERVの真の目的よ……使徒の殲滅。それが目的だと思っていたけど、それは表向きの理由。何か裏があるんじゃない?アンタなら知っていると思って……」

ミサトは前回の戦いでEVAの真の力を垣間見て、疑問に思ったのだ。
使徒をすべて倒した後、NERVはこんな化け物をどうするのか……と。
加持は答えることは出来なかった。
蔵馬から言われていたからだ。
『ミサトさんには真実から遠ざかってもらうように、出来たらさっさと結婚して、NERVから離れさせろ』、と。
蔵馬はミサトから『SEELE』によって作られた復讐心を完全に無くすことが出来なかった。
故に、蔵馬は加持に託したのだ。

「悪いが……俺も真相を掴んでいるわけじゃない……かつては真実を掴むことに命を掛けていたが……今は、怖くなった……」

「怖いって?……怖いもの知らずのアンタが!?」

「ああ、葛城を残して死ぬのが……な…」

その言葉を聞き真っ赤になるミサト。

「なななななな何言っての!」

「お前を失うのも怖い。だから余計な事に首を突っ込むのを止めろ。俺が止めたようにな……」

蔵馬によって真実を知った加持は、もはや無茶な行動は控えていた。
今の加持は、蔵馬の密偵である。
そして、蔵馬は加持の能力以上のことは命じなかった。
何かを探らせているときも、加持の安全を第一に考えていたのだ。
故に、加持に何かを頼むときは、こっそりと護衛を付けさせていたのだ。
飛影である。
先日、マナに余計なことを言った代償に、飛影に加持のガードを頼んだのだ。
断れば、雪菜にすべてばらし、桑原と雪菜が本当の恋人同士になるよう協力する……と。
桑原は雪菜に惚れ込んでいるが、雪菜はまだ恋愛云々をあまり理解していなかった。
桑原に好意を持っているのは確かだが、それが友愛なのか恋愛なのか判断がついていない。
面白いから、桑原に雪菜の兄が飛影であることを黙っている。
桑原と飛影は犬猿の仲と言ってもいい。
仲間とは認めているが(飛影は内心はともかく、表向きは否定しているが……)憎まれ口を叩きあい、果ては口論になるのだ。
だからといって真実を知っても雪菜への態度を変えないだろう。
桑原カズマは、そういう漢である。
話を戻そう。
飛影が加持の周りの危険な存在を邪眼で探索し、始末しているので加持の安全は確実に護られているのだ。
だったら、加持を使わず飛影の邪眼で突き止めればいいだろうと考えている読者諸兄もいるだろう。
しかし、飛影は邪眼を付けた影響で妖力がD級並に落ちた時に魔界から、人間界にやって来た。それからわずか数年しか経っていない。故に、何かを探ってくれと言われても、人間界の常識に疎いため、何がなにやらさっぱり分からないだろう。
だから、蔵馬は飛影ではなく加持を使っているのである。

☆  ☆  ☆

相田一尉は、余りにも意外な訪問者に戸惑っていた。
そして、彼から伝えられた真実を知り、戦慄した。
自分の息子のこと。
真実だとしたら、なんと愚かなことをしでかしたのだろう。あの馬鹿息子は……。
帰宅して、息子を問い詰め息子が止めるのも聞かず、息子のパソコンの中のデータを確認した。
機密事項のデータが次々と出てきたのだ。
自分の持っているデータとほぼ同じデータである。
余談だが女性の恥ずかしい盗撮画像も出てきて、息子の趣味を知った。
男として、許される行為ではない。
間違いなく犯罪行為である。
スパイ容疑に比べれば、微々たる物だが……。
相田一尉は息子を殴り飛ばし、パソコンのデータを消去した。
それどころか、パソコン、カメラなどを没収し、小遣いも当分抜きを言い渡した。
自らのパソコンのデータもすべてバックアップと取って消去し、バックアップデータのすべてをNERVに持ち帰った。
携帯電話も通話機能以外使えない簡易的な物に取り替えられた。
ケンスケは完全に引導を渡されたのだ。

翌日、ケンスケは蔵馬に問い詰めた。

「碇!親父に密告ったのはお前だろ!!」

蔵馬は否定しなかった。

「てめえ、俺に何か恨みでもあるのか……ぶべら!!」

蔵馬の胸倉を掴もうとしたが、その前にレイの平手打ちととアスカの蹴りの洗礼を受けた。

「蔵馬君に手を出すことは許さない!!」

「このお馬鹿!自分の身の程を知れ!!」

レイとアスカの剣幕に怯えたケンスケは、トウジに泣き付こうとしたが……。

「オノレ、ええ加減にしとれよ!蔵馬はオノレの為にやったんやぞ。スパイとして拘束されたいんか!蔵馬の忠告を毎度毎度無視しよってからに……。ワシもええ加減オノレには愛想がつきたわ!!」

返ってきたのは、糾弾であった。
とうとうトウジにまで見限られ、ケンスケの味方は1人もいなくなったのだ。
もともと、覗き、盗撮の常習犯であったケンスケは、クラスの女子、いや、学校の女子すべてに嫌われている。ケンスケと口を利いていた女子は、レイ、アスカ、ヒカリのみであった。
男子も、同類に見られるのを嫌がってか、あまりケンスケと話をしなかった。
こっそりと、ケンスケが売っていたレイとアスカの隠し撮り写真を買いに行く程度であった。
蔵馬に絶交を言い渡した後に、トウジが離れ、ケンスケは親しき友のすべてを失った。
しかし、まだ命はある。やり直すことも可能だ。
蔵馬は、ケンスケとの友情を無くしたことに少し寂かったが、ケンスケが立ち直り、新しい友を見つけ、新しい人生を歩むことを期待した。

☆      ☆

シンクロテストが終わった。
蔵馬、アスカ、レイのシンクロ率は90%台であった。
模擬体でのテストであるため、どうしても実戦レベルには到達しないが、十分満足できる結果である。
ちなみにトウジの現在のシンクロ率は起動レベルより少し上という数値であった。
テストが終わり、帰宅しようとしたとき、第一次戦闘配置のアナウンスが入ってきた。
第15使徒、『アラエル』襲来である。

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「使徒を映像で確認。最大望遠です」

『アラエル』は衛星軌道上で静止し、動く気配をまったく見せていなかった。

「動く気配がありませんね」

「ここから一定距離を保っています」

どういう能力があるかまったく分からないし、調べようがなかった。
攻撃衛星を仕掛けても、A・Tフィールドを展開するだけである。

「シンジ君。悪いけど貴方が様子を見てくれないかしら。つまり、以前シンジ君が言っていた様子見をやって欲しいのよ」

「……了解!」

「アスカとレイは、バックアップ……初号機から一定距離離れて待機。何かあったらいつでも動けるようにしていて」

「「了解」」

とりあえずの作戦を立て、EVAが出撃した。

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「敵は相変わらず、射程距離外か……」

《どうするの?シンジ》

ユイが心配そうに聞いてきた。

《さすがの俺も、衛星軌道上の敵に有効な攻撃方法は持っていませんからね……敵が動くまで待つしかありませんね》

そのとき、『アラエル』から一条の光が照らし出された。
さすがに照らされる光を避けることは無理だったので、初号機はその光に包まれた。

☆  ☆  ☆

「ここは?」

蔵馬は周りを見渡した。
自分は初号機に乗っていたはず……しかし、今いる場所は……何も無い空間であった。

「……なんだこの世界は……むっ誰だ!」

気配を感じた方角を睨み付ける。
そのとき、聞き覚えのある声が応えてきた。

「……久しぶりだな、蔵馬!」

「まさかお前は……黒鵺!?」

その場にいたのは、盗賊時代の友、黒鵺であった。
黒鵺は黄泉とは違い、妖狐・蔵馬がかつて最も心を許した友であった。
黒鵺はペンダントを手に持ち、それをくるくると振り円を描いていた。

「死んだはずのお前が何故、それにここはどこだ?」

「……ここは貴様の死に場所だ、裏切り者!」

黒鵺は、そう言うと蔵馬に襲い掛かってきた。

「何をする黒鵺!」

「裏切り者には死を!」

黒鵺の攻撃が続く。

「……俺がお前を裏切った?……馬鹿な……」

「フン。忘れたのか……ならば思い出させてやる!」

蔵馬の頭に、当時の記憶が蘇ってきた。

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蔵馬と黒鵺は魔界のある宮殿に忍び込み、秘宝と呼ばれる鏡を盗み出した。
宮殿からの脱出に成功したが、追っ手が迫ってきておりその追っ手を突き放そうとしたときであった。
黒鵺のペンダントの鎖が突然切れてしまい、ペンダントを落としてしまった。
黒鵺は、それを拾いに戻ろうとした。

「止せ!黒鵺!!」

「大切な物なんだ!」

ペンダントを拾い上げたとき、そこに設置されたトラップが発動し、管のような矢が黒鵺の全身に突き刺さった。

「ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「黒鵺!!」

突き刺さった管から、黒鵺の血液が吹き出ていた。まるで体内の血液を全部抜き取るかのように……。
蔵馬が、黒鵺に駆け寄ろうとしたときであった。

「裏切者~~~~~~~!!」

黒鵺の呪詛の声が響き渡っていた。

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「お前は俺のペンダントの鎖を切り、俺を犠牲にして逃げ延びた!」

蔵馬の顔は蒼白になっていた。

「何を言っているんだ……黒鵺……そんな、馬鹿な……」

蔵馬は頭を抱え、うずくまっていた。

「裏切りの罪には、死の罰を……死ね、蔵馬!!」

☆      ☆

発令所では、蔵馬の精神状態に異常が発生しているのを感知していた。

「これは……使徒はシンジ君の精神に直接攻撃を仕掛けている……」

リツコは、データを見ながら結論を下した。

「精神攻撃!?そんな……あのシンジ君にそんな攻撃が通じるの?」

ミサトは微動だにしない初号機を見て、呟いた。

「わからないわ……でも、いまのシンジ君の精神状態はかなり危険だわ!!」

その話を聞き、ゲンドウはほくそ笑んだ。

「このまま上手くいけば、あの使徒がシンジを始末してくれるかもしれん……」

「馬鹿な!?あのような攻撃を仕掛けてくる敵をどう倒すのだ。シンジ君の敗北は同時にNERVの敗北につながるのだぞ」

不謹慎なことを言うゲンドウを冬月が嗜めた。

「問題ない。レイに『ロンギヌスの槍』を使わせる……己の手で、シンジの敵を打てばレイの気も晴れ、その方法を示した私に再び縋るようになる」

まだ、レイを自らの手元に取り戻すチャンスを伺っていたようだ。

「……確かに、その可能性はあるかもしれんか……『ロンギヌスの槍』の事を教える前に、レイが自暴自棄になり、自ら命を絶ったらどうする?」

「その前に、教えればいい」

楽観的にそう答えるゲンドウであった。
しかし、冬月は今まで蔵馬はゲンドウのすべての期待を裏切ってきた。
今回も、そう上手く運ぶとはどうしても思えない冬月であった。

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《おば様。蔵馬、どうしたんですか?》

アスカが涙声で、ユイに訴えてきた。
蔵馬の異常に、すっかり取り乱していた。

《おば様、蔵馬君は大丈夫ですよね?》

レイの顔は蒼白で、震えているのが感じられる。
蔵馬が死ねば、レイは自らの死を選ぶ。
残念なことに、ゲンドウの企みは上手くいかないだろう。何故なら、レイはもはやゲンドウの言葉など聞く気はさらさら無く、たとえ『ロンギヌスの槍』を用いて『アラエル』を倒しても、その後すぐ自らの命を絶ち、その魂を消滅させるだろう。

《………》

ユイは返答しなかった。
シンクロしているため、現在蔵馬の体感していることをユイは感じ取っていたからである。しかし、こちらから呼びかけても蔵馬には届いていない。まるでテレビを見ているような感じであった。

《シンジ……》

☆  ☆  ☆

蔵馬は黒鵺の攻撃に、満身創痍であった。
しかし蔵馬は、黒鵺の糾弾に動揺しながらも、冷静に対処法を考えていた。

「黒鵺……俺は…」

「止めだ、蔵馬!!」

そう言うと、黒鵺は持っていたペンダントを投げ捨てた。

「何!?」

蔵馬の脳裏に、あのときの出来事が思い浮かんできた。

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「止せ!黒鵺!!」

「俺に構わず、逃げろ蔵馬~~~!!」

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そうだあの時、黒鵺は………ということは、目の前のこいつは!
俺は妖気を放出し、黒鵺を吹き飛ばした。

「蔵馬、貴様!?」

「芝居はそこまでだ!貴様は俺の友、黒鵺ではない!!」

黒鵺の姿が変貌し、『アラエル』の姿になった。

「何故、わかった?」

感情のこもらぬ声だ。

「貴様が本物の黒鵺なら、なぜあのペンダントを捨てる?あれは、黒鵺が命と同じくらい大切にしていたものだった。それを無造作に投げ捨てるなぞありえない!」

こいつは結局、心を理解していない。
奴の作り話は、黒鵺の大事にしているペンダントの鎖を俺が切り、黒鵺を罠に嵌めたというものだ。
なのに、その大事なペンダントを捨てるなど……心を理解していない証拠だ!

「それに黒鵺は、自分の命が消えようとしているときになのに、俺に逃げろと言ってくれた……貴様は俺と黒鵺の友情を踏みにじった!!」

こいつだけは許せない!
その存在さえ、認めない!
この世から、消えうせろ!!

☆      ☆

「初号機から、A・Tフィールドを確認!……そんな…!?」

「どうしたの日向君?」

日向の驚愕の声に、リツコが問いただした。
日向は震えながら答えた。

「このA・Tフィールドの濃度は、通常の数百倍です!!」

「何ですって!!」

初号機から発せられるA・Tフィールドは、どんどんと上空に上がって行き、衛星軌道上に存在している『アラエル』の下まで届いていた。
その『アラエル』の全体を包み込んだとき、『アラエル』の体が崩壊した。
まるで、その存在自体を拒絶するかのように……。

「……パターン青……消滅………使徒……殲滅……を確認……」

青葉は呆然としながらも、殲滅の確認を報告した。
発令所は……しばらく沈黙に包まれていた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

《冷静なシンジでも……あそこまで我を忘れることがあるのね……》

すべてを見ていたユイがそう問いかけてきた。

《……俺はあの時、黒鵺を助けることができなかった》

《シンジ。………過去、心に傷を持たない人なんていないわ……むしろ、わたしは安心しているの》

《安心?》

《ええも貴方は昔の自分は、血も涙も無い極悪非道な盗賊妖怪だったって言っていたけど……それでも、黒鵺さんのような心を許せる親友がいたということ。昔の貴方にも友達を思う心が存在していたんだって、わかったから》

《…………》

《さあ、戻りましょう。レイとアスカちゃんも、シンジの事、心配していたんだから…》

帰った後、レイとアスカが蔵馬に抱きついてきた。

「蔵馬君!大丈夫!?」

「蔵馬!何処もなんとも無い?」

泣きながら、蔵馬の無事を確かめるレイとアスカを抱きしめ、無事を告げた。
人目も気にせず3人は、しばらくの間抱き合ってていた。


後書き
アラエル戦は、1994年に放映された『冥界死闘編 炎の絆』の蔵馬VS傀麒のエピソードを組み入れました。
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