幽☆遊☆世紀エヴァンゲリオン
YU☆YU☆ GENESIS EVANGELION
第弐拾参話
神鳥ガルーダ(旧かのもの)
伊吹マヤ二尉は、我が目を疑っていた。
第13使徒殲滅後、蔵馬に呼ばれて初号機に極秘裏に搭載された物見せられて……。

「……ダミー……システム!?」

「それも、未完成品ですね……」

そう、ダミーシステム開発は60%のところで頓挫していた。
ダミーシステム開発に必要なレイから協力を拒否され、レイのクローン体が失われたからだ。
マヤは、ダミーシステム開発が頓挫したことを知り、心の底から安堵していた。
仕事と割り切っているつもりでも、もともと潔癖症であるため、納得できずにいたからだ。
完成しても嫌悪感があるダミーを、未完成状態で搭載するなど……嫌悪を通り越す所業だ。
当然、マヤも今の状態のダミーが起動すればどうなるか、最悪の可能性を想像できた。

「今の状態で起動させれば、最悪パイロットの命は……」

「マヤさんも同意見のようですね……では、あえて問います。マヤさんはこの不完全の代物を初号機に搭載したことは知らなかったんですね?」

蔵馬の質問に頷くしかできないマヤだった。

「……つまり、父さんの命令でリツコさんが極秘裏に初号機に搭載したわけですね…」

蔵馬の台詞にマヤは蒼白になった。

「そんな……まさか……先輩が……ありえないわ……今のダミーシステムの危険性は先輩が一番……」

「しかし、リツコさんに知られず初号機にこんなものを搭載できる者が居ますか?」

よしんば知らなくても、EVAの管理責任は技術部長のリツコにある。
知らないでは済ませられない。
それに、蔵馬は確信している。
間違いなく、リツコが実行している……っと。
マヤも冷静な部分では、同意しているが……感情が認められないのだ。
尊敬し、憧れている先輩が……こんなことをしたなんて……。

「まあ、リツコさんはいいでしょう……命令されれば拒否できる立場ではないでしょうから……問題なのは……」

蔵馬はマヤに背を向けている。
しかし、マヤは蔵馬の発せられる雰囲気に、背筋を凍らせていた。

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NERV本部に警報が鳴り響いた。
警報の原因は、司令室の扉が破られたからだ。

「何事だ!?」

冬月は、破られた扉の方に目を向けた。
そこには、蔵馬が立っていた。

「………シンジ君!?」

「……何の用だシンジ?」

ゲンドウはいつものポーズで蔵馬に応対した。

「理由はわかっているでしょう、父さん……いや、碇ゲンドウ……」

蔵馬の声にいつもの穏やかさがない……明らかに怒気が含まれていた。

「……何のことだ?」

「初号機に余計なものを搭載し、しかも先ほどの戦闘中に起動させましたね!」

ゲンドウの顔に動揺が走った。
まさか、気づかれたのか?
ダミーシステムは不発に終わった。
だから、ばれる筈がないと思っていたが……。

「父さんが俺に殺意を抱いていることくらい、こちらも承知している。だから俺の命を狙うくらいなら多少は大目に見てもいい。お前ごときに殺される程、俺は甘くはないからな……しかし……もし、あの時ダミーシステムが正常に起動していれば……間違いなくトウジが犠牲になっていただろう……俺を殺すため……トウジも犠牲にするつもりだったのか?」

ダミーシステムと聞き、冬月が驚愕した。

「碇!?ダミーシステムを起動させていたのか?あれは未完成品だろう……どういうつもりなんだ!?」

「……どうやら、その様子では副司令もご存知なかったようですね……」

そのとき、司令室に警備兵が数十名入室してきた。

「……サードチルドレンを拘束しろ……反逆罪だ……」

形勢逆転とばかりにゲンドウが命令を下した。
警備兵の一人が、蔵馬を手錠を掛けようとしたが蔵馬に殴られ、壁に叩きつけられた。

「反抗するか!取り押さえろ!!」

隊長の命令を受け、警備兵が取り押さえようと動き出した。
しかし、ただの人間がS級妖怪の蔵馬に勝てるはずがなく、1分も経たないうちに警備兵は全員叩きのめされた。
警備兵たちは、蔵馬の動きすら捉えることも敵わず……ある者は足の骨を折られ、ある者は顎の骨を砕かれ、またある者は背骨を折られ、床に蹲っていた。

「……こんな雑魚共に、俺が負けるとでも思ったか?」

もはや殺気を隠そうともせず、蔵馬はゲンドウと冬月を睨み付けていた。
蔵馬から発せられる殺気に中てられ、冬月は腰を抜かしていた。
ゲンドウも先ほどの元気はどこにいったのかすっかりと怯えきっていた。

「……俺が人類補完委員会に召喚されたとき、父さんも聞いた筈だな……『俺と俺の大事な者に危害を加えるなら、いかなる手段を用いても殺す』と言った筈だったが……まさか自分は除外されているとでも思っていたのか?」

蛇に睨まれた蛙……ゲンドウは動くことさえ叶わなかった。
蔵馬はゲンドウのサングラスをはずした。
蔵馬の眼光を目の当たりにし、ゲンドウは目を反らした。

「……相変わらず、サングラスなしでは息子の目を見ることも出来ないのか……情けない男だな…」

蔵馬は呆れた顔をしながら、ゲンドウの右目に薔薇の茎を突き刺した.

「ぐわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

ゲンドウの絶叫が、司令室に鳴り響いた。
蔵馬はそのまま右目の眼球を抉り取った。
大切な友を危険にさらされ、内心怒りに満ちていた蔵馬の心は妖狐に近づいていた。妖狐変化にはいたらなかったが……。

「……今回は、実害がなかったからこの程度で済ませてやる……だが、次はない。その事を覚えておけ!……あとで、リツコさんにでも義眼を作ってもらうんだな!!」

蔵馬は、冬月の方に視線を向けた。

「今回は、副司令は関与していなかったようですので、貴方には制裁は加えません……ですが…」

「分かっている……今回のことは碇に非がある。君の反逆罪は取り消す……そして、二度とこのような事がないよう碇を押さえる……」

怯えながら答える冬月。
流石に冬月も心底思い知った。
蔵馬が、自分たちの手に負える存在ではないことを……。
どれだけあがいても、この少年には歯が立たない。
冬月は、自分たちの計画が成功しないことを確信した。

「では、後のことは副司令に任せます」

蔵馬はそう言って、司令室をあとにした。

☆      ☆

病院に到着した蔵馬は、気配を探りながらトウジ達がいる場所に向かっていた。

「やあ、シンジ君」

そんな蔵馬を加持が呼び止めた。

「加持さん。……どうしてここに?」

「ああ、葛城とりっちゃんがここに運ばれたんでね……」

「そういえば、松代の第2試験場で爆発があったんでしたね……ミサトさんとリツコさんは大丈夫ですか?」

「ああ。2人とも命に別状はないよ……2、3日したら退院できるだろうね……」

「それは良かった」

ミサトの無事を知り、蔵馬は安堵した。

「ところで、シンジ君はどうしてここに?」

「俺は、トウジのことが心配で……レイとアスカが付き添っていますが……」

トウジを乗せたままEVA参号機が使徒に乗っ取られたのを思い出し、加持も表情を引き締めた。

「……そうか……じゃ、彼にお大事にと伝えてくれ…」

そういうと、加持はその場を後にした。

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検査の結果、問題無しと診断されたため、ほっとしていた。

「……トウジ……これからどうする?」

「どうするって、どういうことや?」

蔵馬の質問にトウジが疑問に思った。

「アンタ馬鹿ぁ!こんな目に遭ったんだから、チルドレンを辞めるのかどうか訊いているんじゃない!!」

理解力のないトウジに呆れながら言うアスカ。
レイも心配そうな顔で見つめていた。

「………いや、辞めん!……ワシは蔵馬の仲間としてふさわしい漢になるんや……こんなことでは負けへん……それに、これ以上怖い目なんかそうそう遭わんやろしな……」

今回の件はトウジの心胆を寒からしめたが、トウジの心を折るまでにはいたらなかった。戦闘か始まってすぐさま蔵馬に失神させられたのが功を奏したようだ。

「しかし、参号機はどうするの?」

使徒に乗っ取られた参号機をどうするのか……レイは疑問に思った。

「そんなもん、廃棄に決まっているでしょう!」

アスカがさも当然と言った。

「参号機は、回収されたがな……どうなることやら……」

数日後。
退院したリツコから参号機は実験用として使うことになり、チルドレンを辞めないと言ったトウジはとりあえず予備役のパイロットとして登録された。

☆  ☆  ☆

「いいなぁ……トウジがEVAのパイロットになったなんて……どうして俺じゃないんだろ……」

ケンスケが羨望の眼差しでトウジを見ていた。

「……アンタね……ジャージだってまともに務まるか分からないに、変態メガネに務まるわけないでしょ!!」

「そんなの分からないじゃないか……なあ蔵馬……俺のことを推薦してくれないかな、次のEVAが来たときに……」

先日、自分から頼もうとしたとき蔵馬に妨げられたので、今度は蔵馬に頼み込むケンスケであった。
前回あれほど脅したのに、まだ懲りてないケンスケに蔵馬は呆れ果てていた……。
正直、蔵馬の見たところケンスケにパイロットは務まらない。
よくサバイバルゲームなどを楽しんでいるケンスケだが、ゲームと実戦は違いすぎる……。
死ぬことがないゲームとは違い、実戦には必ず死が付き纏う。
そんな状況に対応できる度胸などケンスケは持ち合わせていないだろう。
妄想の中では無敵のヒーローでも、現実では醜態を晒すだけである。
蔵馬は、ケンスケを突然殴りつけた……もちろん軽く……それなりの素質があれば避けられるレベルで。

「痛て!何するんだよ蔵馬!!」

突然殴られたケンスケが抗議してきた。

「……この程度も避けられない奴にパイロットは務まらない。諦めろ!」

「そんな、いきなり殴りつけられて避けれるわけないだろ!」

「戦場ではそんな甘いことを言っていられん……それ以前にお前、進路志望に戦自を希望していたな……素質があるなら不意打ちでも避けれるレベルだぞ……お前に戦士は向かない……悪いことは言わない…辞めておけ…」

蔵馬にはっきりと言われ、ケンスケはむきになった。

「そんなのお前に分かるのかよ!!」

「アンタね……蔵馬はNERVお抱えの戦闘のプロよりはるかに強いのよ……その蔵馬が見込み無いって言ってるんだから素直に認めなさいよ」

「うるさい!蔵馬……いや、碇。お前とは絶交だ。じゃあな!!」

怒りにまかせてケンスケは蔵馬に絶交を言い渡した。
その態度に、レイとアスカは腹を立てたが蔵馬が押さえた。
ケンスケがその場を離れるとヒカリが心配そうな顔で、訊いてきた。

「いいの、碇君?」

「……いいさ……俺だけじゃなくトウジまでEVAのパイロットになった。ヒーロー願望のあるケンスケは『ならば自分も』なんて考えるだろう……しかし、さっきも言ったがケンスケに戦士は向かない……俺たちの傍に居れば……ますますパイロットになりたがるだろう……」

少し寂しそうに蔵馬はそう答えた。

「……しっかし、ケンスケの奴も売り言葉で買い言葉で蔵馬に絶交を言い渡すとはな……」

トウジは実際に恐怖を味わっている。
だからケンスケという人間をよく知っているトウジはケンスケがそれに耐えられる筈かないことも理解していた。

「さてと、それじゃ俺たちはそろそろ行くか」

「おう、それじゃ行こうか」

蔵馬に付いていこうとするトウジを、蔵馬が止めた。

「トウジは、洞木さんに話があるんじゃないのか?」

蔵馬の言葉に、トウジとヒカリは先日の話を思い出した。

「「………」」

「というわげで、レイ、アスカ。俺たちは先に失礼しよう」

トウジとヒカリを残し、蔵馬たちはその場を後にした。
その場に残された2人はしばらく無言であった。

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「あの2人も、そろそろくっつくかな?」

アスカが呟いた。

「どうだろうな……トウジもああ見えて、恋愛面においては奥手だからな……」

「鈴原君と洞木さんが付き合って、幸せになれば私も嬉しい……」

そう言うとレイは蔵馬の腕に自分の腕を絡めた。

「……でも、ホントにヒカリはジャージのどこがいいんだか?」

アスカも蔵馬の腕に自分の腕を絡めながらそう呟いた。
以前ヒカリはトウジの『優しいところ』が好きと言っていたが、アスカには理解できなかった。

☆      ☆

NERVの医療技術は世界一という自負がある。
ゲンドウの抉られた右目の治療が終わり、リツコ特性の義眼も調子も良好のようであった。

「……おのれ、シンジめ……」

ゲンドウは蔵馬を呪っていた。

「自業自得だ、あれほどシンジ君に手を出すなと言ったのに……言っておくが碇。私はもう付き合わんぞ……シンジ君の恐ろしさは十分理解した。我々の敵う相手ではない。これ以上、シンジ君を刺激するのは止せ……」

蔵馬の恐ろしさを痛感した冬月がゲンドウに忠告する。
しかし、ゲンドウは懲りるという言葉を知らないのか、蔵馬に対する呪詛の声を紡ぐだけであった。
そのとき、使徒襲来を告げる警報が鳴り響いた。

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第14使徒『ゼルエル』襲来。
霊界からの報告では、『力』を司る使徒という話である。
ゼルエルは、第3新東京市近郊に姿を出現し、駒ケ岳防衛線を突破、市内に侵攻してきた。
ゼルエルの目が煌いたとき、市街地に十字架の火柱が立った。

「第1から第18番装甲まで損壊!!」

日向が青褪めた顔で報告した。
発令所の他の面々に戦慄が走った。
たった一撃で、全22層の内18層まで破壊されてしまったのだ。
まさに『力』の使徒に相応しい破壊力であった。
これに比べれば第5使徒『ラミエル』の加粒子ビームなど可愛らしいものである。
前回の傷が完全に癒えておらず、包帯姿のミサトも戦慄していた。
しかし、手を拱いている暇は無い。
ミサトはEVAの出撃命令を出した。

「……シンジ君……悪いけど時間がない……あんな化け物相手に作戦なんか考えている余裕はないわ……お願い、何とかして!」

「……了解…」

蔵馬からすれば、先ほどの『ゼルエル』の攻撃は、ユウスケの霊丸や飛影の黒龍波に比べればたいした威力ではない。霊丸や黒龍波なら18層ではなく22層すべてを一撃で貫通したであろうから……。
しかし、普通の人間にとっては脅威以外の何者でもないだろう。おそらくEVAのA・Tフィールドでも持ち堪えられない。ミサトがお手上げになるのも理解できたので以前のように『無能』とは言わなかった。

《どうするの……シンジ……?》

ユイが心配そうに訊ねてきた。
ユイも、先ほどの威力を見て不安になったのだろう。

《……正直、今のEVAの力では難しいでしょうね……俺が妖怪としての力を使えば、問題なく勝てますが……》

《……えっ!勝てるのお兄ちゃん?》

1人目のレイが蔵馬の言葉に驚いていた。
実質、精神が幼女である1人目のレイは、十分恐怖していた……。
アスカもレイも、あの破壊力の前に内心で恐怖していた。

《『ゼルエル』は『力』を司る使徒……確かにパワーは今までの使徒とは比べものにならない……ならないが、それでもA級妖怪レベルだ。A級上位妖怪くらいのパワーだな……》

使徒クラスの力なら、『碇シンジ』として生まれ変わる前の蔵馬でも、十分対抗できた。A級妖怪ならA・Tフィールドに手こずるだろうが、それでも互角に戦える。
しかし、S級妖怪にとって見れば、A・Tフィールドなど20世紀の大人気ロボットアニメ『マジ○ガーZ』の光○力研究所のバリアーのように脆い。
つまり、S級妖怪にまで成長した蔵馬にとっては問題のない相手である。
読者諸兄に分かりやすく説明すれば、人間でありながらS級クラスの仙水を思い出してもらいたい。
聖光気をまとった仙水の力を全力で発揮すると、数分で人間界に影響をもたらした。
『ゼルエル』の力がいかに強力でも、そこまでの影響に至ってはいない。
S級の力がいかに強大であるか、理解できたと思う。
当然、蔵馬もユウスケも飛影も人間界では充分、力を抑えているのだ。

《しかし、まだ俺の力をさらすには早すぎるな……》

《でも、シンジ君…あれほどの力を持つ使徒をアスカちゃんたちが勝てるかしら?》

娘が心配なキョウコが不安であった。

《……考えはあります……少し、試してみたいことがあるんです……》

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弐号機と零号機が『ゼルエル』に攻撃を加えたが、びくともしなかった。
『ゼルエル』の帯状の腕が、弐号機と零号機の首に巻きついた。

「ぐ……うぅぅぅぅぅぅ!」

「……く……苦しい…!!」

フィードバックにより、自らの首を絞められる感覚に苦しむレイとアスカ。
そのとき、ブーメランのようなものが『ゼルエル』の腕を襲い、弐号機と零号機は開放された。
蔵馬が、初号機のA・Tフィールドをブーメラン状に変化させたのだ。

《予想以上に不味いわよシンジ……どうするつもりなの?》

蔵馬の考えというのが解らないので、ユイも少し焦りを感じていた。

《ええ、シンクロ率を上げ以前押さえ込んだ初号機そのものの意思を開放してやるつもりです》

その答えにユイは驚愕した。

《駄目よ!シンクロ率400%を超えたら、シンジも私みたいに取り込まれるわ!!》

初号機の意思の開放はシンクロ率400%と同じ意味である。
いくら蔵馬とはいえ、間違いなく取り込まれる。
以前は蔵馬を取り込もうとする初号機を押さえたが、今度は自分から取り込まれようとするようなものだからである。

《……そこで、母さんの協力が必要なんですよ……ぎりぎりのシンクロ率、399.99%くらいに調整してもらいたいんです》

《出来ないことは無いけど……かなり厳しいわよ……》

確かにぎりぎりなら、初号機の潜在された力を完全に引き出しつつ、しかも取り込まれない……しかし、その調整はかなりの難易度が高かった。

《俺の力を見せずに『ゼルエル』を倒すには、これしかありません……母さんのことを信頼しているから、試せるんです》

《………わかったわ……》

考えてみれば、蔵馬がユイを頼るのは初めてである。
ユイはその事を思いつつ、優秀すぎる息子の頼みを聞くことにした。

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弐号機と零号機を退けた、『ゼルエル』の攻撃は既にジオ・フロントにも及んでいた。

「……くっ!初号機は何をしている!!」

ゲンドウは焦っていた。
『力』の使徒の力がこれほどとは……。

「シンジ君の力は必要ではないんじゃなかったのか?」

ゲンドウの焦りを見て、冬月は辛らつな皮肉を言った。
前回、シンクロ率100%を越えたレイとアスカを見て、シンジ不要論をあげていたというのに……。
『ゼルエル』は発令所に迫りつつあった。

「総員、退避!!」

ミサトは、発令所の放棄を宣言した。
職員の退避が済んだ後、発令所は破壊された。

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一時、戦場を離脱していた弐号機と零号機が再度、使徒に攻撃を加えた。

《……蔵馬が何かするみたいだから、なんとか時間を稼がなくちゃ……ママ、お願い。力を貸して!》

《……行くわ、一人目!》

《《わかったわ!》》

アスカとレイは上げられるだけシンクロ率を上げた。

「弐号機、零号機、ともにシンクロ率180%を突破しました!!」

発令所を退避したあと、MAGIと接続されている携帯用の端末でシンクロ率の計測していたマヤが驚愕しながら報告していた。

「凄いわ、アスカもレイも……でも、何故ここに至ってシンクロ率をこうまで上昇できるようになったのかしら?」

リツコとしてはとても信じられなかった。
彼女の理論をあっさりと超越したアスカとレイに……。

「シンクロ率いうのは、そんなにも上がるもんなんですか?」

本来乗るEVA参号機を実戦で出撃させることが出来ない……そもそも、まだちゃんとシンクロが出来ないトウジが質問してきた。

「……本来の上限は100%。でも、理論上では400%まで上げられるわ……でも、少し前までは90%台が精一杯だったのに……ここまで急激に上げられる筈が……」

「先輩!」

マヤが会話に割り込んできた。

「どうしたの?」

「初号機のシンクロ率が399.99%まで上がりました!!」

「何ですって!?」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

《なんとか、上手くいったわね……》

《そうですね……さて、暴走状態に限りなく近づいた初号機の真の力……見せてもらいましょうか……》

一時的に、初号機のコントロールを初号機の意思に明け渡した蔵馬は、成り行きに任せることにした。
初号機は咆哮した。
初めて、自分の思い通りに動けることに歓喜しているようであった。

「目覚めたというの?彼女が……」

リツコは思い当たる節があり、そう呟いた。
しかし、誤解である。
既にユイの魂は目覚めている。
これは、初号機本来の意思が開放された故である。
しかし、そのことを知らないリツコは、そう推測したのだ。

《初号機……『ゼルエル』に対して攻撃することのみ自由を許す……しかし、それ以外に攻撃すれば……お前の自由はそれまでだ》

初号機の意思は現在、蔵馬の支配下にある。
いうなれば蔵馬の使い魔も同然である。
いかに開放されていても、蔵馬がその気になれば再び、押さえ込まれてしまう。
故に、初号機は蔵馬の命令に従った。

「グオォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!」

咆哮とともに初号機はその圧倒的な戦闘力で『ゼルエル』に襲い掛かった。
それはもはや、嬲り殺しと言ってもいいほどである。
もともと、EVA初号機は第2使徒『リリス』のダイレクト・コピーである。
実は『アダム』と『リリス』は、S級レベルなのである。
A級上位レベルの『ゼルエル』でも、生みの親である第1使徒『アダム』とその同格である『リリス』には歯が立たない。
その『アダム』と『リリス』のコピーであるEVAがA級レベルなのは、生命の実……つまりS²機関を持っていないからである。
『ゼルエル』は完全に抵抗する力を失っていた。
その『ゼルエル』に初号機はのしかかり……喰いつこうとしたが、初号機の自由はそこまでであった。

《さすがに、初号機にS²機関を搭載させるわけにはいかないわ》

《ああ、余計な力は与えない方がいいでしょう……》

再び、コントロールを取り戻した蔵馬は、『ゼルエル』のコアにプログレッシブ・ナイフを突き立てた。
第14使徒『ゼルエル』は、殲滅された。

☆  ☆  ☆

《これが、EVAの本当の力……あたしたち、あんな力を使っていたの?》

アスカは呆然としていた。

《自分がどんな存在を造りだし、そして取り込まれたか……正直、恐ろしくなってきたわ……》

キョウコも実際のEVAの力を見て、戦慄していた。
初号機とは違い『アダム』のコピーであるが、弐号機の真の力もあれくらいあるのである。
しかし、弐号機の意思を支配しているのは、アスカではなく蔵馬である。
ゆえに、アスカではあの力は引き出せないのである。
それは、零号機も同じであった。
『リリス』の遺伝子を持つレイでも、あの力を出すのは不可能である。
『リリス』の元に還らない限り……。
ユイも、想像がついていたとはいえ実際に初号機の力を感じ取り、キョウコと同じく戦慄していた。
これに、S²機関を取り込んでいたらと思うとぞっとする思いであった。
しかしそれ以上に戦慄したのは、これ以上の力を持つという蔵馬たちS級妖怪の力である。
もし、魔界が人間界に侵攻してきたら……そう思うと、恐怖に苛まれるユイだった。
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