幽☆遊☆世紀エヴァンゲリオン
YU☆YU☆ GENESIS EVANGELION
第拾九話
神鳥ガルーダ(旧かのもの)
家庭科の調理実習。マナが家庭科室から飛び出していった。
原因は、アスカとマナの喧嘩である。
アスカの邪険な態度に、マナが授業中にもかかわらず家庭科室を飛び出し、ヒカリに促され、蔵馬が追いかけた。

「……ちょっと、なんで蔵馬が追いかけなくちゃいけないのよ…!?」

「アスカが必要ないのに無闇に喧嘩するから……」

余計な事を……と、言いたそうな視線をレイから受けるアスカは、冷や汗を掻いていた。

「鈴原君も……」

もともとは、トウジの冷やかしが原因である。
レイの非難の視線を受けているトウジもアスカと同じく冷や汗を掻いていた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

マナはかなりの霊感の持ち主である。
故に霊気量が多く、それを辿り、直ぐにマナの居場所を突き止めた。
テニスコートのフェンスにもたれかかっていたマナに蔵馬は声をかけた。

「霧島……あまり、アスカの言う事は気にするな…実験と訓練続きで怒りっぽくなっているだけだから……」

もちろん、アスカの本当の怒りの原因はただの嫉妬に過ぎないのだが……流石にそう言うのは照れくさいので、蔵馬は適当な理由をつけた。

「実験?」

「ああ、EVAの操縦方法は、普通の乗り物や、国連軍や戦自の戦闘機や戦車とは違う方法で操縦している……簡単に言えば……思考コントロール・システムの様な物だ……その調整の為の実験だ」

「操縦桿とかペダルとかはないの?」

「先程も言ったが、思考で動く物だからな、無いわけではないが……」

「それで、実験って何処まで進んでいるの?」

「……興味があるのか?」

「シンジ君のことなら、なんでも知りたいのよ!」

積極的に訊いて来るマナの態度に苦笑しながら問う蔵馬に、明るい笑顔で答えるマナ。
その時、物音が聞こえた。

「誰!?」

物音と同時に反応したマナにケンスケとアスカ、レイが現れた。
結局、アスカとレイも蔵馬とマナを2人きりにしたくないので、授業ほっぽり出して追いかけてきたのだ。

「蔵馬!EVAの秘密は人に話しちゃいけないんじゃないか?」

ケンスケが忠告っぽく、問いかける。

「……だったらケンスケも、お父さんの端末から情報を盗むな!……下手をすれば、お前にスパイ容疑がかかるぞ!!」

鮮やかな切り返しに、言葉が詰まるケンスケ。

「別にこの程度話しても構わないさ……たとえ、何処かの組織に漏れても、困るのはNERVの上層部の連中だ……俺は困らないな」

あっさり言う蔵馬に、マナは間の抜けた顔をしながら見つめていた。

「私も困らない……」

「まあ、確かに困らないわね、あたしも……」

既に心情ではNERV上層部から離反しているレイとアスカも、この程度のEVAの秘密など、ばれても気にもならなかった。

「とにかく、教室に戻ろう。お前ら3人まで抜けているということは、洞木さんが苦労してそうだ……霧島もいいな!」

とりあえず家庭科室に戻ると……みんな居なくなった為、トウジと2人でいるため、顔を真っ赤にしながら調理しているヒカリの姿が目に入った。
しかし、トウジはいつもどおり、平然としていた。

「……洞木さん…別の意味で……苦労……しているな……」

「……トウジは相変わらず委員長の気持ちに気付いてないね~」

「報われないわね……ヒカリ……」

トウジを想うヒカリの気持ちにまるで気付かないトウジに、蔵馬、ケンスケ、アスカの3人は嘆息していた。

☆      ☆

家に戻ったが、レイとアスカはどことなく不機嫌だった。

「……何を怒っているんだ……」

「……別に!」

「………」

そう言いながらレイとアスカは、蔵馬の左右の腕にそれぞれ自分の腕を絡めた。
スパイかもしれないマナが、蔵馬に接近し、アタックする様を見て無性に腹立たしくなっているのだ。
蔵馬も、レイとアスカが不満なのはよくわかっていた。

マナに対する未練は、蔵馬の心の奥底に確かに存在していた。
別れ方が別れ方だったからである。
彼女の為を想ってしたことだが……初めて好きになった人間の少女。
『碇シンジ』としての自分に初めて、素直に自分の気持ちを伝えてきた少女。
蔵馬は、その容姿故、中学の頃から女性に人気はあったが……その大人っぽい雰囲気の為、女子はそんなに近付いてこなかった。遠巻きに蔵馬を眺めるだけであった。
故に、蔵馬に告白してきたのは意外とマナだけであったのだ。
蔵馬も彼女に好意を寄せていた。
告白されて、喜びを感じていたのは確かである。
しかし、前述したが当時の蔵馬の環境は、人間の少女にとっては余りにも危険であった。
だから、応えられなかった。

今は、レイとアスカの想いを受け入れている。
環境が変わったのもそうだが、今の蔵馬は2人を護りきる自信があるからだ。
蔵馬が現在勝つ自信のない妖怪は、黄泉、軀、ユウスケ、飛影、修羅、そして雷禅の昔の仲間たちだけである。
ユウスケと飛影と修羅とは、実力はほとんど互角だし、それに間違いなくユウスケと飛影はレイとアスカに手を出さない。
黄泉も、一年前ならいざ知らず、和解した今なら手を出さないだろう。息子の修羅も同様だ。
黄泉を変えてくれたユウスケに感謝している蔵馬だった。
飛影と通じ合っている躯もあえて、蔵馬の関係者の人間を喰いはしないだろう。
もっとも現在は、人間を勝手に喰う事は禁じられているが……。

「今度の日曜日……3人で遊びにいくか?」

蔵馬の提案に、レイとアスカの表情が明るくなった。

「それって…デートしようって事?」

「ああ、考えてみればこういう関係になってから、それらしい事はしていないからな……芦ノ湖の周辺を3人で周ろう」

「デート……恋愛関係にある男女が、連れ立って外出し、一定の時間行動を共にすること……私と蔵馬君との……初めてのデート…」

「あたしが抜けているわよレイ!」

さっきまでの不機嫌は何処に言ったのか、レイとアスカは上機嫌になっていた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

3人で今度のデートの予定を立てるため、図書館で地図を見ていた蔵馬達に、NERVから呼び出しがかかった。
蔵馬は、初号機で芦ノ湖に出動した。レイとアスカはEVAには乗らず、ミサトと行動していた。

「謎の移動物体は、湖の中に逃げ込んでいるらしいわ!」

「潜りますか?」

「その必要はないわ。ここからは日本政府の管轄になるから、私達NERVとは無関係に成るの……」

「判りました」

そのとき、ユイが話しかけてきた。

《シンジ、戦車の陰に女の子がいるわ!》

蔵馬がそちらに目を向けると、戦車の陰にマナが芦ノ湖の方を窺っていた。

《……やはり、霧島は謎の移動物体に関わりがあるのか……》

《あら、シンジの知り合いなの?》

《中学の同級生で……俺の初恋の相手だよ…母さん》

《へぇ~、シンジの初恋の相手か……うれしいな…》

《……何故です?》

《だって、人間として生まれ変わって、人並みに恋をしてくれていたんだもの……人間としての母として、シンジが人間として……『碇シンジ』として生きてくれているのは、本当に嬉しいわ》

《……母さん……》

《でも、何故彼女がここに居るのかしら?》

《図書館で調べ物をしていたとき、彼女は扉から俺達の様子を窺っていたからな…》

彼女の目的が、何処かのスパイとして窺っていたのか、それとも、蔵馬が女2人と何処かに出掛けるのをチェックしていたのか……今の時点では判断がつかなかった。
とりあえず、デートの予定は別に知られても特に問題もなかったので、放っておいたが……。

《彼女が、シンジに害をなす存在じゃない事を祈るわ……初恋の相手が敵じゃ、シンジも苦しいでしょ……?》

《……彼女1人くらいなら、特に害には成りませんよ…》

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

ミサトは用事があるため、蔵馬達は繁華街でミサトの車を降りた。蔵馬達は本屋に寄り道する予定であった。
歩いていると、喫茶店の中にマナと見知らぬ少年が居た。

「なんだ……あいつ、彼氏が居るんじゃない……」

アスカは、その男がマナの彼氏だと思いホッとした。
しかし、蔵馬がそれを否定した。

「いや、俺は彼に見覚えがある。霧島と同じく俺の中学の同級生、ムサシ・リー・ストラスバーグ……確か、霧島の幼馴染だな……中学時代、彼にはよく敵意を向けられたよ……」

マナには2人の幼馴染が居る。
ムサシと、もう1人、浅利ケイタという少年である。
ケイタのほうは特に印象に残っていないが、ムサシは何かと蔵馬に突っかかってきた。
ムサシがマナにぞっこんなのは、想われている本人を除いてクラスの皆が知っていた。もちろん蔵馬も……。
しかし、マナはムサシの気持ちなど欠片も気付いておらず、蔵馬を見ていたので嫉妬に駆られたムサシは、蔵馬をよく思っていなかった。
ムサシは、蔵馬に喧嘩を売っているのかと思うほど突っかかってきたが、蔵馬は全く相手にしなかった。

「つまり、あの男の1人相撲か……」

アスカは納得したが、ぬか喜びさせられたので、ムサシに対して八つ当たり気味な失望を抱いた。

本屋に到着した蔵馬達はそこで加持とリツコに出会った。
レイとアスカは、不機嫌になった。
加持は同志であるが、リツコはNERVの上層部の1人で、レイとアスカにとって、もはや敵以外の何者でもなかった。もともと、レイはリツコを嫌っていたし……NERV本部内においてシンクロテストで顔を合わせるのは仕方が無いが、それ以外の場所で会いたくない相手である。

「よっシンジ君。アスカとレイも、今帰りかい」

「ええ。日曜日に3人で芦ノ湖に出掛けるのでその下調べをしようと思いまして……」

「あら、3人でねぇ……本当に仲良くなっているのね……」

皮肉っぽいリツコの台詞にムッとなるレイとアスカだが、蔵馬は平然としていた。

「……おや、パイロット同士仲良くしなくてはいけないと、ミサトさんは言っていましたが……リツコさんはそう思わないんですか?」

「……もちろん仲良くするに越した事はないけど……」

リツコは答えに詰まった。
まさか、人類補完計画の為の生贄として壊れてもらわなくてはならないとは、口に出せないのだろう。

「私、用事があるのでここで失礼するわ……」

居心地の悪さを感じ、リツコはその場から退散した。

「シンジ君。あまりりっちゃんを苛めないほうがいいんじゃないかい」

加持は苦笑していた。
加持にとっても、リツコは敵側なのだが、大学時代は仲が良かったため複雑な心境だった。

「それは、リツコさんの態度次第ですね。こちらから彼女に攻撃する気は今のところありませんし……」

蔵馬はリツコに対しては、それほど重要視していなかった。
彼女も所詮、ゲンドウの駒でしかない。
プライドの高い彼女が、果たしてそれで満足し続ける事ができるか……。
蔵馬は興味半分で、そう考えていた。

☆  ☆  ☆

日曜日。
3人は一緒にマンションを出た。
本日のデートコースは、駒ヶ岳で景色を眺めた後、湯本温泉街でウィンドウ・ショッピング、そして、芦ノ湖といえば『おとぎの国の海賊船』……楽しみは最後に取っておいた。

ロープウェイで駒ヶ岳の山頂に昇り、そこでレイとアスカは蔵馬の作った弁当を堪能した。
今まであまり触れていなかったが、蔵馬の料理の腕はかなりレベルが高い。預けられていた家で勉強部屋という名の離れで1人で生活していた為、ほとんど自炊だったからである。シオリが家に帰ってくるときは、彼女に作ってもらっていたが……。
レイは最近、ようやく不味くはないというレベルに達したばかりだし、アスカは相変わらず料理はしなかった。

昼食を終え、駒ヶ岳を後にした3人は、温泉街を回り、様々な土産物を見物した。
レイもアスカも、戦いのことを忘れ、普通の女の子として楽しんでいた。

最後の『おとぎの国の海賊船』に到着したとき、3人を待っている少女が居た。

「やぁ、シンジ君。奇遇だね…」

マナであった。
奇遇も何も、どうせ待ち伏せしていたのだろうと3人は思った。
図書館でこちらの様子を窺っていたことは、レイもアスカも蔵馬から聞いて知っていた。
本当に偶然に会ったのなら、不快になっただろうが……今回は恐らく、居るだろうと3人とも思っていたので、レイもアスカも心の準備は整っていた。

「ねぇ、シンジ君。海賊船に乗るんでしょ?私もご一緒してもいいかな?」

甘えるように、蔵馬に同行しようとするマナに、意外な人物が許可を出した。

「いいわよ、霧島さん。別にアンタが一緒に居ても、全然困らないし…」

アスカであった。
今回は心の準備が整っているアスカである。マナに、自分達の関係を見せつけてやろう……等と考えていたのだ。

「……アスカもああいっているし、別にかまわないよ、霧島」

蔵馬も許可を出した。
レイは、何故アスカが許可を出したかわからず、きょとんとしていた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

アスカからたくらみを聞いたレイは、アスカの考えに賛同し、海賊船の中で蔵馬にべったりとくっついていた。
2人の企みなどあっさり見破っている蔵馬であるが、そんな2人を可愛く思い、彼女達のしたい様にさせていた。
そんな3人を見つめるマナは、なんとも複雑な表情をしていた。
まさか、蔵馬が2人とそういう関係とは思いも寄らなかったのだ。
もしかしたら、どちらかと……とは、思ってはいたが、まさか、2人共とは想像外だった。

「……シンジ君。……2人と付き合っているの?」

「……ああ」

「シンジ君って……けっこう不道徳なんだね……」

「……何処ぞの誰かが勝手に決めた道徳に従う気などないだけですよ……俺達は、それぞれ納得していることですからね…」

いけしゃあしゃあと蔵馬は言い切った。

「そういうことよ!あたしたちは納得してるんだから……アンタにとやかく言われる筋合いないの!!」

文句があるなら、とっとと帰れ……そう言いたげな視線を送るアスカ。
その視線を受け、言葉を失うマナであった。
しばらく、沈黙していたが……マナは再び蔵馬に話しかけた。

「シンジ君……私の気持ち……シンジ君にとって……邪魔でしか……ないのかな……」

「………」

蔵馬は沈黙した。
レイとアスカにとっては、邪魔でしかない……。
しかしレイとアスカは、彼女に対する想いが蔵馬の心の奥に残っているのを察していた。
そう簡単に割り切れるものではないことを……。
だから、2人は霧島マナという少女にヤキモキするのだ。

「ねぇ、シンジ君……もし、私が敵だったら……どうする……?」

マナは蔵馬に問う。
ほんの一瞬だが、辛そうな顔をしたのを蔵馬は見逃さなかった。

「……特に、どうもしませんが……」

想いも寄らぬ蔵馬の返答にきょとんとするマナ。

「……正直に言えば……霧島、君が敵だったとしても……それほど脅威とは感じないな……もし、君が俺達からNERVの秘密を探ろうとする諜報員だったとしても……一介のパイロットから掴める情報などたかが知れているし……本気で俺達から、NERVの全貌が探れるなどと考える組織など取るに足らない……。君が、俺達の暗殺をたくらんでいるとしても……君に殺られるほど間抜けではないよ」

マナは霊感を持っているが……S級妖怪を相手に戦えるほどの力は持っていない。
マナと知り合った当時なら、やり方次第では、蔵馬に損害を与えることも出来たであろうが……S級までレベルアップした今の蔵馬に、人間の霊能力者が対抗するのは不可能である。
あなどっているわけではない。蔵馬は、マナが来てから……いや、霊界から人類補完計画の阻止を依頼されてから、まったく油断していなかった。どのような状況に陥っても、常に相手の2手3手先を読み、的確な対処を取れる……それが蔵馬という男なのだ。

「……そうなんだ…」

何故か納得しているマナであった。
元々、中学の時から蔵馬は他の人達と違っていた。そんな蔵馬を好きになった。
再会してからも、やはり蔵馬は他の人達と違っていた。
子供の頃から、一緒にいたムサシやケイタとはまったく違う。
マナは、ムサシが自分に恋愛感情を抱いていることに、まったく気付いていない。
彼女にとって、ムサシとケイタはそういう対象ではないのだ。
故に、気付かない。
想像さえ出来ないのだ。
マナにとって、もはや蔵馬以外考えられなかった。
一時的に、夢幻花によって失った想いも、一週間で再び燃え上がった。
しかし、マナには……やらなければならないこともある。
蔵馬に対する罪悪感があった。
しかし、蔵馬は特に気にしていないという。
そして、蔵馬の言うように、自分達は蔵馬に勝つことはできない。
根拠はないが、なんとなく確信しているマナであった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

マナと芦ノ湖で別れた蔵馬達は、市街に戻りレストランで食事をした。

「……蔵馬君の料理の方が美味しい……」

レイの率直な感想に苦笑する蔵馬。

「いや、けっこう美味しいじゃないか……」

「無駄よ蔵馬。レイにとってはアンタの料理が一番なんだから……」

そう、『大好きな蔵馬が作ってくれる料理』がレイにとっては一番なのだ。
料理の味ではなく、感覚の問題……要するに『お袋の味』と同じようなものである。

レイとアスカにとっての初デート(ヒカリに頼まれてした大学生とのデートはカウントに入れていないアスカ)はこうして終了した。

☆      ☆

「謎の移動物体は、新型の人型兵器だと思われます……周りの状況を見て……何者かに襲われたと見て間違いないかと…」

ミサトは弐号機を伴って謎の移動物体の一機が発見された場所に来ていた。
ミサトは周りの風景を見ながら、冬月に報告していた。
確かに、所々、爆撃のあとがある。
同士討ちでもしたのだろうか?
『白糸の滝』と呼ばれる名所であったのだが、今はただの戦闘跡に過ぎなかった。
花崗岩に激突して、スクラップと化した人型兵器が横たわっていた。

《生存者はいるのか?》

「胴体の中央に、コックピットが有りますが……ハッチは開いているようです…コックピットの中は無人です」

《周辺を探索して、その人型兵器のパイロットが居ないか、調査するように…》

「了解しました」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

「下らん……あんな物に付き合っている暇は無い筈だ」

報告を聞いていたゲンドウは不快そうに呟いた。

「無視するわけにはいかないだろう…すぐ終わるさ」

そんなゲンドウを宥める冬月。

「……冬月、シンジの待機命令を解除……テストを続行させろ」

「……自分で言え」

「……」

「……怖いのか?シンジ君が…」

「あいつはもう、私の息子ではない……そして、いずれは排除せねばならない……それだけだ」

今更、何を言っているんだ……冬月はそう言いたかった。
10年前、蔵馬を捨てた時に父親としての資格など、とっくに失っている事に思い至らないゲンドウである。にもかわらず息子が自分を蔑ろにするのは許せないと考えている。
まったく、何処までも自己中心的なのか……冬月は呆れ返るだけであった。

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待機してる間、蔵馬は加持から受け取った『謎の移動物体』についての報告書を読んでいた。
わざわざ報告書を作成した加持のシャレに、苦笑する。
既に加持は、未だNERV保安諜報部が掴んでいない情報を探りだしたいた。
加持の諜報能力はNERVの中でも、他の諜報員とは比べ物にならないほど優秀である。
だからこそ、ゲンドウやSEELEにある程度、重宝されていた。
信用はされていなかったが……。

トライデント級陸上軽巡洋艦。
戦略自衛隊のロボット兵器計画のもとに戦自の切り札として試作された人型兵器。
6基の背部スラスターにより地上滑走、ハイドロジェットにより水上滑走、水中行動が可能。
固定武器は特になし。だが、各部にオプション兵器の装備が可能。
動力は熱核型原子炉。
操縦性は、パイロットの肉体に損傷を与えるほど劣悪。
パイロット候補生の中に、霧島マナ、ムサシ・リー・ストラスバーグ、浅利ケイタの3名の名前があった。
ただし霧島マナは、内蔵損傷の為、情報部に転属。
その後、霧島マナはEVAのデータを盗用し操縦系統を改良する為、そのデータを手に入れるべく、第壱高校3-Aに転校。EVAパイロットと接触し調査する事を命じられた。

蔵馬は報告書を燃やして処分しながら、マナが芦ノ湖で一瞬見せた、辛そうな顔を思い出していた。
おそらく、戦自はマナが蔵馬の中学のクラスメートであることも計算していたのだろう。
しかし、マナにしてみればただの元クラスメートでは無く、当時から想いを寄せていた相手である。
そんな相手を、スパイしなければならない罪悪感が、彼女を苛んでいたのだろう。

《シンジ君、待機は解除。実験棟の方に行ってテストを続行してくれたまえ》

冬月からの命令を聞き、蔵馬は実験棟の方に移動したが、リツコから予定変更の旨を伝えられた。
トライデントのパイロットが発見され、戦略自衛隊病院に収容されたので、そちらに向かうことになったとの事。

☆  ☆  ☆

蔵馬はアスカとレイと共に、パイロットの少年が収容された集中治療室に来ていた。

「あいつが、あの人型兵器のパイロットね」

蔵馬は、少年の顔を見て、呟いた。

「……やはり、浅利……か」

「……蔵馬君……彼を知っているの?」

「ああ、以前話した、ムサシ・リー・ストラスバーグと同じく、中学のクラスメートで霧島の幼馴染の浅利ケイタだ」

「こいつの乗っていた機体は何者かと戦闘を行っていた形跡があったわ……人型兵器は2機存在していたから……同士討ちの可能性もあるらしいわよ……脱出して…ちょっと離れた所で倒れていたわ…背中には、刃物で斬られた後があった……」

アスカは、ミサト達の推論を説明した。

「そんな筈ありません!」

病室にマナが現れた。

「ケイタとムサシが……同士討ちするなんて……ありえません!」

「ふ~ん。やっぱりアンタ、どっかのスパイね!……蔵馬のこと…好きだとか言って……蔵馬を騙そうとしたんでしょ」

アスカは断定した。

「違います……私がシンジ君のことを好きなのは……嘘じゃありません!」

「どうだか!」

「シンジ君は、信じてくれるよね?」

マナは縋るように蔵馬を見つめる。

「とりあえず、ここで話すことではないだろう。場所を変えるぞ!」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

蔵馬達4人は屋上に出た。
蔵馬は加持からの報告をレイとアスカに説明した。

「……やっぱり、スパイじゃない!」

「ああ、だが俺達には特に害があるわけじゃないな。彼らが欲しかったのはEVAの操縦系統のデータだからな……それくらいの技術提供くらいしてやればいいのにNERVは何でもかんでも、『機密』で済ますからな…それよりも……俺は戦自の奴らの神経を疑うな……パイロットをスパイしてEVAの操縦系統のデータを手に入れようとは……そんな曖昧なデータが役に立つはずがあるまいに……」

蔵馬は戦自のいきあたりばったりな計画に呆れ返っていた。

「……シンジ君は……最初から私のことを疑っていたの?」

「……疑っていたのではなく、確信していた。中学のときとは違う、君の身のこなしでな」

「え?」

「今の君の動きは、訓練された人間の動きだ……中学の頃は、普通の人間の動きだったのにな……」

マナは沈黙した。
まさか、そんなことで見破られていたとは思ってもいなかった。
改めて、蔵馬を見つめるマナ。
もう既に気付いていたことだが、最初から自分がスパイできる相手ではなかったのだ。

「霧島、とにかくもうここには来るな。そして、しばらく大人しくしているんだ。浅利のことが心配だろうがな」

「……ごめんなさい…」

マナはただ、謝るだけであった。

☆      ☆

ムサシ・リー・ストラスバーグは、何がなんだかわからなかった。
トライデントで脱走したまではよかった。情報部の任務で第3新東京市にきたマナとも接触できた。もっとも、マナの傍にまたあの『碇シンジ』が居る事は気に入らないが……。
それよりも、今の状況が……理解できなかった。
突然、妙な形の……テレビゲームのモンスターのような起動兵器に襲われた。
こちらの攻撃は一切通用せず、自分は囚われてしまった。
ケイタは、撃墜されたトライデントのコックピットから逃げ出そうとしたとき、起動兵器と共にいた妙な男の持っていた剣で斬られた。
斬られたケイタは無事なのだろうか……。

「ふはは、小僧……お前はワシの研究の実験体となり、そして、次なる研究材料獲得の為の餌になってもらう」

目の前の老人は、いやらしい笑みを浮かべていた。
この老人は自分とトライデントを何に使うつもりなのか?
いきなり、腹が激痛に襲われた。
ケイタを斬った剣で、自分の腹も斬られたのだ。
ムサシは、意識を失った。

「ふふふ、エヴァンゲリオン……このワシの研究意欲を掻き立てる……このDr,イチガキのな……」
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