幽☆遊☆世紀エヴァンゲリオン
YU☆YU☆ GENESIS EVANGELION
第拾六話
神鳥ガルーダ(旧かのもの)
「………時々、思うんだが……アスカ……お前も少しは家事を手伝う気にはならないのか?」

洗い物を手伝ってくれているレイを見ながら、後ろで寛いでいるアスカに言う蔵馬。

「……そんなのあたしの仕事じゃないし……」

アスカは全く悪びれていなかった。

「……そんな事を言っていると、ミサトさんに成るぞ!」

ビクッ!!
蔵馬の台詞に、顔を引き攣らせるアスカ…。

「……シンちゃん……どういう意味?」

ミサトも顔を引き攣らせ、蔵馬に問う。

「そのまんま、言葉の通りですが……家事はしない、部屋は片付けない、ビールばかり飲む、朝は一番遅く起きてくる、運転は荒い、仕事は日向さんに押し付けてサボる、他の人の仕事の邪魔をする……今のアスカはそこまで酷くはないですが……いずれ同類になる可能性が非常に高い!」

「あうぅぅぅぅっ!!」

ミサトは、容赦のない言葉に殲滅された。

「……お風呂でも洗ってくる…」

流石にミサトと同類になるのは嫌なのか、仕事をするアスカ。
そんな、アスカの態度にますます、肩身の狭くなるミサトであった。

トゥルルルルルルル

突然電話が鳴り、ミサトが受ける。
そのとき、ミサトの顔が一気に綻んだ。
電話の会話が聞こえる蔵馬は、ぼそりと呟いた。

「……どうやら……加持さんとヨリが戻ったようだな……」

アスカも、加持とミサトのヨリが戻ったと感じた。
しかし、多少は悔しく感じたが、全然ダメージがなかった。

「……どうやら、あたしは加持さんを吹っ切れたようね……それよりも、いつかはシンジと……」

☆      ☆

暗い司令室で、ゲンドウ、冬月、リツコが話し合っていた。

「……赤木博士、サードを始末する。そして、レイもな……。3人目の準備をするように……」

「……やはりシンジ君とレイを殺すつもりか……まだ早いと思うんだがな…」

「冬月先生。もはや、シンジは我々の障害でしかない。レイが私に逆らうようになったのは、奴のせいだ……。それに、いずれ参号機と四号機が来る。そうすれば、チルドレンは4人になる……シンジを除いてな。それだけ居ればもはや、シンジなど不要。息子の分際で、親を蔑ろにする愚か者など、さっさと始末してしまうべきだ」

自業自得という理由を思いつかないゲンドウは、やはり傲慢以外の何者でもなかった。

「4人になっても、シンジ君が抜けるのは戦力的に痛いぞ……せめて、使徒を全て倒すまで待つべきではないのか……」

「問題ない」

「問題はありすぎだ!いいか、チルドレン候補は素人ばかりなんだぞ。セカンドチルドレン以外はまともな訓練を受けていないんだ。訓練なしで、セカンドチルドレン以上の実力を持つシンジ君が異常なだけだ!!今までの使徒は、ほとんどシンジ君の機転で倒せたようなものだ。そのシンジ君が居なくなれば、我々は使徒に敗北する可能性が高くなるんだぞ!!」

冬月としても、蔵馬の存在は脅威である、しかし、ゲンドウよりは常識人なので、戦力の低下を看過するわけにはいかなかった。

「そのシンジの実力がイレギュラーなのですよ、冬月先生。もともと、想定外のことです。奴は所詮、予備にすぎないのですから。つまり、シンジが居なくなれば、本来想定した状況の1つになるだけです」

またしても自分の息子を予備扱いするゲンドウに「ユイ君が訊いたらどう思うか」っと言ってやりたくなる冬月だった。

「しかし、シンジ君を殺すなど……それこそ並大抵にできることではないぞ……」

蔵馬は生身の実力もそうとうなモノなのだ。戦闘訓練において、プロの指導員たちを軽く凌ぐという報告を受けている。
保安諜報部の連中でも勝てるかどうか…しかも、他の職員に内密に行わなくてはならない。流石にいまや、EVAパイロットのスーパーエースという存在の蔵馬を、上層部が殺したと分かれば職員達の離反は避けられなくなる。
ゲンドウは知りもしないが、蔵馬の人望は今やゲンドウなど問題にならないくらい高いことを冬月は知っている。もともとゲンドウに人望などカケラもないが……。
EVAの整備をしている整備員達に、時折、差し入れをしたり、怪我をした職員の手当てをしたりと蔵馬はNERVの職員に何かと気を使っていた。発令所勤務の、日向、青葉、マヤの三名もなんだかんだで付き合いがあるのだ。彼らも、既に蔵馬に絶大な信頼を置いている。ときおり、リツコに冷たくなる蔵馬だが……そのリツコに心酔しているマヤでさえ、蔵馬を信頼しているのだ。
何を考えているかわからないゲンドウより蔵馬の方に人望があるのは当然であった。

「直ぐにとは言わん。奴が隙を見せたら殺せ!」

そんな、ゲンドウと冬月を冷めた目で見ているリツコであった。
この男達はまだ、蔵馬を侮っている……ゲンドウ如きに殺される蔵馬ではない。リツコは既に思い知っていた。実行に移したら、まず間違いなく返り討ちに遭うだろうことは確実だ。
余程の好条件がそろわない限り……。
その好条件が来なければ、破滅するのは自分達であることをリツコは悟っていた。
命令を伝えたゲンドウは、再び出張に出るのだった。

☆  ☆  ☆

第3新東京市上空に使徒らしき物体か現れた。

「パターンオレンジ……A・Tフィールド反応なし」

「どういうことなの?」

「新種の使徒?」

「MAGIは判断を保留しています」

使徒らしき、物体はただそこに存在しているだけだった。
街を破壊するのでもなければ、NERV本部に迫るのでもない。
だだいるだけ……。
発令所では、どう対処していいかまったくわからない……という状態である。

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EVAが発進すれば何かのリアクションが起こるかも知れない。
そう考えたミサトは、EVAを発進させた。
蔵馬に、何度も言われた事。
敵が不明なのに、無闇に突っこませるな……。
流石のミサトも懲りているので、使徒からかなり離れた所に射出させた。

「……あれが、第12使徒、夜を司る『レリエル』……なのか?」

蔵馬は目の前の使徒……らしき物体を見つめながら呟いた。
流石の蔵馬も戸惑っていた。
目の前の使徒からは、気配をまるで感じないのだ。
今までの使徒は、なにかしらの気配を感じる事が出来たのに、まるで感じない。
そう、まるで蜃気楼を見ているの様な……そんな感じがするのだ。

「どうしたの?蔵馬君……」

蔵馬の考え込んでいる状態が珍しいのか、心配なのか、レイが声を掛けてきた。

「……奴の気配を感じないんだ……奴が本当に目の前にいるのか…とにかく、無謀な行動は……」

避けろっと言おうとしたらアスカが割り込んできた。

「何かしなくちゃ、それもわかんないわよ!あたしが試しに攻撃するから、サポートよろしく!!」

そういうと、アスカは謎の物体に突撃した。

「待て、アスカ!……ちぃ、今度の使徒は今までの奴と毛色が違うのに……仕方が無い、レイ。アスカのサポートをするぞ!!」

「了解!」

何かあれば、直ぐアスカの救出に向かえるようにアスカの後方から窺うことにした。

「足止めをかねて攻撃して、相手の反応を確かめるわ」

そう言うと、アスカはバレットガンを使徒らしき物体に向けて発砲した。その瞬間、敵の姿が消えた……。

「パターン青!使徒です!!」

モニターを見ていた日向が叫んだ。

「!?か……影が………」

弐号機の足元にみるみる黒い平面が出来ていき、弐号機は呑み込まれる様に徐々に沈んでいった。

「何よ、これ…おかしいわよ……」

アスカはパニックを起こしていた。

「いかん!アスカ、手を上に伸ばせ!!」

蔵馬の指示に従い、弐号機は上に手を伸ばした。初号機きA・Tウィップを弐号機の手首に巻きつかせ、初号機は弐号機を引き上げた。

「レイ!受け取れ!!」

初号機は弐号機を、零号機のほうに投げ飛ばした。零号機は弐号機を受け止めた……そのとき、影は初号機の下に移動していた。

「しまった!?」

今度は初号機が影に呑み込まれ様としていた。

「蔵馬君!」

「シンジ!!」

「来るな!!!」

弐号機と零号機は、初号機を助けるため駆け寄ろうとしたが、蔵馬が静止した。

「さっきと同じようになるぞ、下がれ!」

初号機を助ければ、今度は助けたものが呑み込まれる。

「蔵馬君!!」

「シンジ!!」

レイとアスカは泣きじゃくっていた。

「俺を信じろ。必ず、帰ってくる!!」

そう言い残すと、初号機は影に完全に呑み込まれてしまった。

「レイ、アスカ……撤退よ!」

ミサトの撤退命令に反発する二人。

「嫌よ、まだシンジが……」

「蔵馬君がまだ、呑み込まれたまま……助けないと……」

「命令よ!撤退しなさい!!」

有無を言わさぬミサトの叱咤にしぶしぶ従う2人であった。

リツコは……驚いていた。
こんなに早く、蔵馬を始末する機会が巡ってこようとは……運命はゲンドウだちに傾いているのかもしれない…科学者らしからぬ考えに囚われるリツコであった。

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ミサトと日向は共に、ヘリで空中の使徒の様子を観察した。
急がなくてはならない。初号機の内部電源の残量は、生命維持モードで16時間……。それまでに救出しなくてはならないのだから……。

「国連軍の包囲、完了しました」

「影は?」

「動いていません。直径600mを越えたところで停止したままです……」

国連地上部隊軍がレリエルを包囲するなか、弐号機と零号機が初号機を救出するため待機していた。

「フン、シンジの奴…格好つけちゃってさ……何が『来るな!!!』よ……馬鹿じゃないの……」

蔵馬を罵るアスカに、レイが憤慨した表情で詰め寄った。

「本来なら、貴女が今、蔵馬君の状態になっていたのよ、助けてもらって何、その言い方?誰の所為で蔵馬君が危険な目に遭っていると思っているの!!」

「そうよ!!あたしの所為よ!!!」

アスカが叫んだ。

「あたしが……あたしがシンジをあんな目に遭わせたのよ!!わかっているわよ……シンジ…シンジ…シンジ~~~~!!」

アスカはその場に蹲り、号泣した。

「……シンジが死んだら……あたしの所為だ……シンジが死んだら……」

レイは確信した。今までも思っていたが……アスカは蔵馬のことを……。

「やっぱり、貴女も……蔵馬君のことが好きなのね……」

「そうよ!あたしは、シンジか好き……だから、アンタが羨ましかった。だから、アンタが嫌いだった。シンジの傍に自然と居られるアンタが……シンジに優しい眼差しで見つめられるアンタが……」

初めて、アスカはレイに本音をぶつけた。

「……私は、貴女が羨ましかった。私にはない魅力を持つ貴女が……私は、蔵馬君の友達だけど……恋人になりたかった……でも、男の人は…貴女のような女性を好きになる……そう、思っていた……蔵馬君も、いつか貴女を好きになるかもしれない。だから、貴女が羨ましかった……」

そう、彼女たちがお互いを嫌っていたのは……相手が羨ましい……という同じ理由からだった。
それを認めた二人は、嫌っていた相手に奇妙な仲間意識が芽生えてきた。
『同じ男を愛している』という、奇妙な連帯感が……。

「蔵馬君は、必ず帰ってくるって言っていた……私は、それを信じる!」

「そうね……あたしも信じるわ……シンジは、必ず帰ってくる……って」

☆      ☆

「成程……レリエルは…『裏男』の様な使徒……か……」

レリエルに呑み込まれた蔵馬は、生命維持モードに切り替え、考えていた。
『裏男』。
仙水シノブのパートナー、樹が飼っていた次元の狭間に生きる平面妖怪である。裏男の中は別の次元に繋がっている。
まさしく、レリエルと裏男はまったく同じタイプなのだ。

「ふむ、考えてみれば……ここなら、誰にも邪魔は入らない……前々から考えていた『アレ』を実行できるかもしれない」

妖怪の中には、『闇撫』のように自由に次元を渡れる奴もいるが、流石に蔵馬には不可能であった。現に裏男に食われたときは、桑原の次元刀で脱出したわけだから……。
しかし、当時の蔵馬には無理でも、今の蔵馬なら脱出は可能である。かなりの荒業であるが……。
しかし、その前に蔵馬はあることをやる気であった。
蔵馬は目を瞑り……肉体から幽体を離脱させた。

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レリエルの正体を解明したリツコはミサト達に説明していた。

「じゃあ、あの影が使徒の本体なわけ?」

「そう、直径680メートル、厚さ約3ナノメートルのね。その極薄の空間を内向きのA・Tフィールドで支え、内部は『ディラックの海』と呼ばれる虚数空間…多分、別の宇宙に繋がっているんじゃないかしら……」

「あの、球体は?」

「本体の虚数回路が閉じれば消えてしまう。上空の球体こそ影に過ぎないわ……」

「……そんな、そんなの…どうすればいいのよ……?」

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幽体離脱をした蔵馬は、初号機のコアの中に入っていった。
目的は、初号機に取り込まれた母、ユイと接触することである。
コアの中に入った蔵馬に、ある意思が襲い掛かってきた。
初号機の自我である。
EVAは使徒のコピー。しかし、EVAには心は在っても、魂は無かった。故に、最初に搭乗した人間取り込むのだ。自らの足らない部分、魂として……。
初号機は新たに自分の中に入ってきた魂を取り込もうとした……だが……。

「俺を取り込もう等と……身の程を知れ…!!」

たとえ、幽体の状態とはいえS級妖怪。使徒のコピーであるEVAもレベル的にはA級である。EVA初号機の自我は圧倒的な蔵馬の力に屈服した。
今ここに、蔵馬はEVAを完全な制御下に置いたのである。

初号機の自我か必死に欲したもの……そこには、それが眠っていた。
それこそが、蔵馬の……碇シンジの母、碇ユイであった。

「………母さん…」

ピクッ!
蔵馬の声に反応し、ユイはゆっくりと目を開けた。

「……シ……シンジ?……シンジなの?」

「母さん!!」

母と子は、10年ぶりに再会した。

☆  ☆  ☆

「………何ですって、!?EVAの強制サルページ!?」

あたしとファーストがボーッと使徒を見ていたら、ミサトがリツコに怒声を浴びせていた。

「992個、現存する全てのN2爆雷を使徒に投下、タイミングに合わせて残存する2体のEVAのA・Tフィールドで使徒の虚数回路に1000分の1秒だけ干渉するわ。その瞬間に爆発を集中させて、使徒をディラックの海ごと破壊します」

リツコは、ミサトの怒声を気にせず作戦を説明していた。

「それじゃあ、EVAの機体が……シンジ君はどうなるのよ?」

「作戦はEVAの回収を最優先とします。例えボディが大破してもかまわないわ……この際、パイロットの生死は問いません」

何ですって、シンジの生死は問わない……ですって……何言っているのよあの女……。
あたしがリツコに怒鳴ろうとしたら、その前にミサトがリツコに平手を食らわしていた。

「碇司令や貴女がそこまで初号機に拘る理由は何なのよ!EVAって何なのよ!!」

「貴女に渡した資料の通りよ……」

「嘘ね!」

「ミサト……私を信じて…」

ふざけるな!
信じられるわけない。
あたしは、以前シンジが言っていたことを思い出していた。

『NERVはけっして、正義の味方じゃない』

あたしも理解した。
チルドレンは、世界を護る選ばれたエリートじゃない。
NERV上層部の……使い捨ての駒に過ぎない。
あたしが今まで大事にしてきた、『NERVのセカンドチルドレン』という誇りが、音を立てて崩れていくのを感じた。

「ファースト…これが……NERVの……本性なのね……」

「………」

ファーストはあたしに応えず……リツコを呪い殺しそうな形相で睨みつけていた。

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「……そんな……」

蔵馬から、改竄されていた裏死海文書。SEELEの人類補完計画。そして、ゲンドウのことを訊いたユイは、衝撃を受けていた。

「人類補完計画……それは、ただの集団自殺じゃない。キール議長達はそんな妄想に取り憑かれたの?……私が解読した裏死海文書が改竄されたものなら…なおさらじゃない……そんな事のために私はEVAを造ったんじゃない…人類の明るい未来の為に……」

ユイは悔しかった。自分がいないところで老人達がそんな愚かのことを仕出かそうとしていることに……そして……。

「……ゲンドウさん……貴方は結局……人を信じる事……人を愛する事が…出来なかったのね……」

ユイは、ゲンドウに人を信じ、愛する事を望んでいた。
ゲンドウを愛していたから……ゲンドウに人を愛して欲しかった。
確かに、ゲンドウはユイを愛しているだろう。しかし、ユイが望んだのは、人間を愛して欲しかったのだ。しかし、結局ゲンドウはユイが傍にいないと限りなく暴走する。
ユイは今でも、ゲンドウを深く愛している。しかし、だからこそ許せなかった。愛しているから全て許せるというのは、夢見がちな妄想でしかない。愛しているからこそ……ゲンドウの行いを許せないのだ。

「母さん。俺は別に父さんのやる事を否定しているわけじゃないんだ……ただ、それに付き合う義理はおろか義務もない…それだけだ。それに、父さんは知らなくてはならない。自らの計画が必ずしも成功するとは限らない。そして、失敗によって、全てを失うこともある…ということを…」

ゲンドウは覚悟があるのか……いや、無いだろう。他人を踏みつけにして、必ず成功させる気なのだ。

「……シンジ…1つ、訊きたいの……貴方はどうやって、このEVAの中に入ってこれたの?……そして、どうやってゲンドウさんや、SEELEの計画を知る事が出来たの?」

いくらなんでも、18歳の少年に可能な事では無い。SEELEはそれほど甘い組織ではない事を、ユイはよく知っていたのだ。

「……母さん。俺は……貴女をずっと……騙し続けていたんだ……俺は……人間ではない!俺の正体は……妖怪なんだ!!」

蔵馬は自分の素性を話した。
自分が、何百年を生きた狐が、妖獣となった妖狐・蔵馬であること、19年前、深手を負いユイの体内にいた流産するはずの受精卵に憑依融合したことを……そして、ゲンドウとユイの息子として産まれ、育ててもらっていた事を……全て話した。
流石のユイも、衝撃の真実に絶句していた。

「……俺の罪は…許されるものではない…でも……これだけは、信じてください。俺は…貴女を、母として慕っています。だから、俺は貴女が居なくなっても碇シンジで在り続けた。貴女の息子で居たかった……それだけは……確かな事なんです…母さん」

蔵馬は、必死に恐怖と戦っていた。
ユイに拒絶されることを恐れていた。しかし、話さなくてはならなかった。もう、騙し続けることはできないのだから…。
そのとき、蔵馬を温もりが包み込んだ。

「貴方は、シンジに化けていたわけじゃない。シンジとして産まれてきたのでしょう。ならば、貴方は私の息子よ……それだけは変わらない…それに、本来、シンジは流産する予定だったのなら、貴方のお蔭で私は息子を得る事ができた。感謝こそすれ、恨む筋合いはないわ…ありがとう、シンジ、産まれて来てくれて…ありがとう」

「母さん……」

許された。
蔵馬はユイに許されたのだ。
蔵馬は、苦しみから解放された。

「シンジ!SEELEとゲンドウさんの愚かな計画は、絶対阻止しなくてはならないわ。戻りましょう、第3新東京市へ」

「わかった……一緒に戦おう、母さん!!」

蔵馬の幽体は肉体に戻った。

《母さん、聞こえるかい》

《聞こえているわ……これは》

《EVAと…母さんとシンクロしているから、母さんが完全覚醒した為、念で話すことができるようだ》

蔵馬は、妖力を使い、初号機の中のユイと念話ができるようになった。

《……母さん。初号機は完全に俺達が支配した。そこで、ここの脱出方法だけど……この虚数空間は、内側に張られたA・Tフィールドで支えられているようだ.……だから……》

《内側から、中和するのね?》

《違う、侵食するんだ》

初号機のA・Tフィールドが空間に広がっていった。

☆      ☆

これが、恐らく最初で最後のチャンスだっただろう。
リツコは、このドサクサで蔵馬を抹殺しようとしていた。ゲンドウからの命令を守るために……。
しかし、リツコは失念していた。
蔵馬を愛する二人の少女のことを……。


リツコの指揮の下、作戦が開始されようとしていた……だが…。

「EVA両機、作戦位置に着いていません!」

「アスカ、レイ。何しているの!早く位置に着きなさい!!」

リツコの叱咤が届いたが、両機はそれでも動かなかった。

「貴女達、どういうつもり?」

いらいらしたリツコの声に、ようやくアスカとレイが応対した。

「シンジをみすみす殺すための作戦なんか、従うはずないでしょう」

「蔵馬君が、言っていた。必ず帰ってくるって……私達はそれを信じる。だから…むざむざ蔵馬君を殺すための作戦なんかに従わない!」

レイは直感で悟っていた。
リツコが蔵馬を殺す気なのだということを……。

「貴女達、いい加減に……」

「使徒に変化!」

リツコが、レイ達に怒鳴りつけようとしたとき、日向の声がそれを遮った。
モニターには、自壊し始めるレリエルの姿が映されていた。
影に過ぎないはずの球体を引き裂き、初号機が姿を現した。

「グウゥゥォォォォオオオオオオォォォォォ!!」

魔獣の如き咆哮を発し、その体を鮮血で真紅に染め、レリエルを殲滅していった。

「……あたし、こんなのに乗っているの……」

余りの惨状に戦慄しながら、アスカは呟いた。

「……なんて物を……なんて物をコピーしたの……私達は……」

リツコも恐怖で震える体を抱きしめながら、呟いた……。

《……シンジ……少し、やりすぎなんじゃ……》

実は、これは蔵馬の演出であった。

《フッ、父さんやリツコさんに少しは、EVAに対して恐怖を味合わせたほうがいいでしょう。何もかも、自分達のシナリオ通りにいくとは限らない…自分達の目的がいかに危ういのか……もう一度、再確認させてやったんですよ》

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

真紅に染まった初号機はケイジに戻ってきた。
そして、EVAから降りてきた蔵馬君に、私と弐号機のパイロットが抱きついた。

「……蔵馬君、蔵馬君、蔵馬君、蔵馬君……………」

「シンジ…シンジ…御免なさい、御免なさい」

弐号機のパイロットは泣きながら、蔵馬君に抱きついていた。
私も、負けていられないと、泣きながら蔵馬君の胸に顔を埋めた。

「レイ、アスカ……約束は守ったよ……」

蔵馬君は、私と弐号機のパイロットを同時に抱きしめてくれた。
しばらく、蔵馬君から離れたくない。
やっと、戻ってきてくれた温もりを……私は絶対に手放さない。

☆  ☆  ☆

本部に戻ったゲンドウと、真紅に染まった初号機の洗浄に立ち会っているリツコは、蔵馬の抹殺失敗と、自らの疑問を報告していた。

「司令…本当にEVAは味方なのでしょうか……私達は憎まれているのかも知れません……それと…シンジ君の抹殺は失敗しました」

「それは、いい。シンジを殺す機会はまた巡ってくる…。初号機を失うよりは、次の機会を待つほうがいいだろう」

いや、もう二度とこんなチャンスは巡ってこないだろう。リツコはそう思っていた。運命はやはり、自分達に傾いてはいなかったのだ…と。

「レイや…シンジ君がEVAの秘密を知ったら……私達はますます許してはもらえないでしょうね……」

そして、それはそう遠くない未来に起こる可能性が高い。
リツコは、いずれ蔵馬に断罪されることを想定し、恐怖していた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

レイとアスカは、帰宅しても蔵馬から離れようとしなかった。
結局、2人ともミサトの家に戻らず、蔵馬のベッドで、蔵馬に抱きつきながら眠りについた。
蔵馬は何も言わず、レイとアスカの唇に接吻して自らも眠りについた。

「……フッ……やはり、俺はこの2人を同時に愛しているようだ……」

蔵馬は覚悟を決めた。
しかし、やはり蔵馬は盗賊妖怪である。
いちいち、人間のモラルに縛られる気はなく、2人共愛するつもりでいた。無論、彼女達がどちらか一方を選んで欲しいと言えば……いずれ選択するだろうが……。
昔の妖狐・蔵馬なら、2人の意思など無視して従えさせただろうが、碇シンジとしての部分が無理強いを拒んでいた。
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