幽☆遊☆世紀エヴァンゲリオン
YU☆YU☆ GENESIS EVANGELION
第拾四話
神鳥ガルーダ(旧かのもの)
女はそこに存在した。
もう何年も何年も…………。
ただそこに存在していた。
愛した男に用済みにされ……1人の少女を殺して……そして、自ら命を絶った。
その後、愛した男が自分の娘を強姦するところを見ていた。
自分の娘が愛した男の愛人になった事を知った。
何故、こうなったのだろう。
そして、彼女は何故自分がここに存在し続けるのか……理解できなかった。
こんな忌むべき場所からさっさと消えたいのに……。
何故、自分はここに存在し続けるのか。

「お久しぶりですね。赤木ナオコ博士」

約十年ぶりに自分に語りかける人物が現れた。
愛した男、碇ゲンドウとかつての嫉妬の対象、碇ユイの息子、碇シンジだった。

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赤木ナオコ。東方3賢者の1人。
赤木リツコの母親であり、スーパーコンピューターシステム『MAGI』の開発者。
MAGI完成当日、投身自殺を図り死亡。
その原因は、不明であった。

「お久しぶりですね、赤木ナオコ博士。母さんがEVAに取り込まれた日以来ですね」

蔵馬は、多少慇懃無礼に挨拶した。
蔵馬にとってナオコはキョウコと違い、気に入らない相手であった。
母・ユイはナオコに対し友人として接していたが、彼女はユイに対し嫉妬していたため、ユイをよく思っていなかった。
才能面においても、恋愛面においても、彼女はユイに敗北していた。
才能面では、ナオコが秀才なら、ユイは天才。いくら努力しても、ユイには及ばなかった。
恋愛面においても、夫と別れたナオコはその後、ゲンドウに惚れたが(彼女もかなりの物好き)結局、ゲンドウはユイを選んだ。
故に、表面上は友人面をしていたが、裏ではユイを呪っていたのだ。

「貴方はシンジ君。私が見えるの?」

「ええ、見えていますよ……それにしても、まさか浮遊霊になっていたとはね……いや、当然か。自殺した人間はそんなに簡単に成仏できませんからね」

「……どういうこと?」

「自殺というのは、霊界では罪が重いんですよ。だからその罪を償わない限り成仏できませんよ……言っておきますが、俺は貴女を助ける気はありません。表面上は母さんの友人面をしつつ、母さんを呪い、様々な嫌がらせをしてきた貴女にはね」

「……何の事?」

とぼけるナオコ。

「気付いていなかったとでも思いましたか、流石に研究所のことまでは知りませんが、家にはかなり悪質な嫌がらせをして来たでしょう……まあ、母さんに気付かれる前に俺が処分してましたけど……」

「………」

「成仏したいのなら……誰かを救ってやりなさい。霊の状態でも、誰かを救う事はできます。そうすれば罪は償われ、貴女は成仏できると思いますよ」

蔵馬はそういうと、ナオコから離れていった。
蔵馬に馬鹿にされた……と感じた彼女は、後ろを見せた蔵馬に取り憑こうとしたが、蔵馬が発した妖気に圧倒され、動けなくなった。

「浮遊霊ごときが、俺に取り憑けるとでも思ったか…身の程を知れ!!」

「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!!」

蔵馬の反撃を受けたナオコは消滅されられはしなかったが、霊体に衝撃を与えられ、かなりの苦痛を味わった。
誰かを助ける…しかし、いまや自分の娘でさえ嫉妬の対象になっていた彼女に誰かを助ける事などできるはずがなかった。
彼女はこれからも……その場に存在し続けていくことになった……孤独の中で………。

☆      ☆

「え~!!また脱ぐの~~?」

不満たらたらの騒いでいるアスカ。

《ここから先は超クリーンルームですからね、シャワーを浴びて下着を脱ぐだけじゃ済まないのよ》

リツコが冷静に返す。

「なんでオートパイロットの実験で、こんな事しなきゃならないのよ~」

《時間はただ流れていくだけじゃないわ。EVAのテクノロジーも進化しているのよ。新しいデータは常に必要なのよ》

「ほら、お望みの姿になってあげたわよ!17回も垢を落とされてね」

《では3人共、この部屋を抜けて、そのままの姿でエントリープラグに入ってちょうだい》

「えぇぇぇぇぇぇ!!」

再びアスカは絶叫した。

《大丈夫、モニターは切ってあるわ。プライバシーは保護しているから》

「そういう問題じゃないでしょ!気持ちの問題よ!!」

《このテストはプラグスーツの保護なしに、直接肉体からハーモニクスを行うのが趣旨なのよ》

《アスカ!命令よ!!》

タダをこねるアスカにミサトが割り込んで命令した。

「もぅ~~~、絶対見ないでよ」

《判ってるわよ》

そのとき、蔵馬が話に割り込んだ。

「じゃあ、俺が先に行くから、レイとアスカはその後から来てくれ」

そう言ってから、エントリープラグの方に歩いていった。

「赤木博士。レイとアスカだけでなく男の俺もいるんですよ。一緒に行けば俺に裸を見られるでしょう。同年の男に裸を見られるのがどれだけ恥ずかしいか、わからないわけじゃないでしょう。もう少し、配慮して下さい」

「……そうね、御免なさい」

蔵馬がリツコのことを『リツコさん』ではなく『赤木博士』と呼ぶときは、蔵馬が彼女に対して怒っているときである。その事を察して素直に謝罪した。

「各パイロット、エントリー準備完了しました」

「テストスタート」

「テストスタートします。オートパイロット記憶開始」

「モニター以上なし」

「シュミレーションプラグを挿入」

「システムを模擬体と接続します」

「シュミレーションプラグ、MAGIの制御下に入りました」

モニターには、様々なデータが高速で表示されていた。

「おお~、速い速い、MAGIサマサマだわ。初実験のとき、一週間かかったのが嘘のようね」

「テストは、約3時間で終わる予定です」

「気分はどう?」

「……何かが違うわ」

リツコの問いにレイは淡々と答えた。

「確かに…いつもと違いますね」

「感覚がおかしいのよ。右腕だけはっきりして、あとはぼやけた感じ……」

蔵馬もアスカもいつもと異なる感覚を覚え、戸惑っていた。

「レイ、右手を動かすイメージを描いてみて」

「………」

リツコに嫌悪を抱いているレイは、リツコに返事を返さずただ応じた。
模擬体の右手がレイのイメージに反応して動いていた。

「データ収集、順調です」

「問題ないようね……MAGIを通常に戻して」

モニターの表示が変わり、三基のMAGIが審議を開始した。

「ジレンマ…か……作った人間の性格が窺えるわね」

対立モードに切り替わるMAGIを見てリツコが呟いた。

「な~に言ってんのよ。作ったのはあんたでしょう」

他人事のように言うリツコに、ミサトが突っこんだ。

「貴女、何も知らないのね……私はシステムアップしただけ。基礎理論と本体を作ったのは母さんよ」

☆  ☆  ☆

「確認しているんだな」

「ええ、一応。三日前に搬入されたパーツです………此処ですね変質しているのは」

「第87タンパク壁か……」

蔵馬たちが、裸体でハーモニクステストを行っているとき、発令所では施設内シグマユニットの第87タンパク壁が変質しているのを確認していた。

「拡大すると、染みのようなものがあります。なんでしょうね、これ?」

「侵食でしょう。温度と伝導率が若干変化しています。無菌室の劣化はよくあるんですよ最近……」

青葉の疑問に日向がそう推測する。

「工期が60日近く圧縮されてますから、また気泡が混じっていたんでしょう。杜撰ですよ……B棟の工事は」

「そこは、使徒が現れてからの工事だからな」

青葉の不満を冬月はそう受け流した。

「無理ないっスよ、みんな疲れていますからね」

日向もそう弁護する。

「明日までに処理して置けよ。碇が五月蠅いからな……」

冬月は溜息をつきながら、そう命じた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

「また水漏れ?」

「いえ、侵食だそうです。この上のタンパク壁……」

発令所から、異変を伝えられたリツコは、溜息を吐いた。

「まいったわね……テストに支障は?」

「今のところはなにも」

「では続けて、このテストはおいそれとは中断するわけにはいかないの。碇司令もうるさいし……」

このテストの本当の目的は、ダミーシステムというパイロットなしでEVAを操るシステムのためのテストであった。
霊界もダミーシステムの事は把握していたが、流石にこのテストが関連があるとは把握できず、蔵馬も気付いていなかった。
ダミーシステムは、セントラル・ドグマにあるレイのクローンを使用される、ある意味、生命を弄ぶ外道なシステムである。当然、蔵馬は嫌悪感を覚え、レイをダミーの開発に参加させる気はなかった。もちろん、レイも自らの命を弄ばれることに嫌悪感をもっているし、ゲンドウとリツコを嫌っているので、蔵馬に言われなくてもダミーの開発には参加する気はなかった。
そのとき突然、汚染警報が鳴った。
タンパク壁の侵食が急速に広がり、爆発的に増殖してきたのだ。

「実験中止!第6パイプを緊急閉鎖!!」

「駄目です!侵食は壁伝いに進行しています!!」

「ポリソーム用意」

リツコは、侵食部分にレーザーで攻撃するよう指示した。

「きゃぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「レイ!?」

突然のレイの悲鳴に、リツコ達は狼狽していた。

「レイの模擬体が……動いています」

「まさか!?」

侵食は早くもレイの模擬体を襲い始めていたのだ。

「侵食部、更に拡大!模擬体の下垂システムを侵しています!!」

レイの模擬体の腕が発令所向かって伸びてきた……あわやというところで、リツコが模擬体の腕を破壊……。

「レイは!?」

「無事です!」

「全プラグを緊急射出!!レーザーを急いで……」

プラグ射出後、侵食部にレーザーが発射された。
しかし、レーザーは赤い壁に遮られてしまった。

「A・Tフィールド!?」

第11使徒の襲来である。

☆      ☆

使徒侵入の報せは即刻、発令所のゲンドウらの元にもたらされた。

「使徒の侵入を許したのか!?」

《申し訳ございません》

「言い訳はいい!セントラル・ドグマを物理閉鎖、シグマユニットと隔離しろ!!」

ミサトからの報告を受け、冬月は指示を出した。

「警報を止めろ!」

後ろから、ゲンドウの指示が飛んだ。

「誤報だ。探知機のミスだ。日本政府と委員会にはそう伝えろ」

ゲンドウはこの失態を隠蔽するつもりのようだ。

「汚染区域は更に下降。プリブノーボックスからシグマユニット全域に広がっています」

「場所が不味いぞ」

「ああ、アダムに近すぎる」

他には聴こえないように話し合うトップ2人。

「汚染は、シグマユニットまでで抑えろ。ジオフロントは犠牲にしてもかまわん。EVAは?」

「第7ケイジにて待機。パイロットを回収しだい発射できます」

「パイロットを待つ必要はない。すぐ地上に射出しろ!初号機が最優先だ。そのために他の2機は破棄してもかまわん」

「しかし、EVAなしでは使徒を物理的に殲滅できません!!」

ゲンドウの命令に疑問を感じ、反論する青葉。しかし、ゲンドウの返答は……。

「その前にEVAを汚染されたら全ては終わりだ。急げ!!」

命令は実行され、初号機が優先されて射出された。

「さて、EVAなしで使徒に対しどう攻める」

何処か他人事のように話す冬月であった。

☆  ☆  ☆

地底湖に射出された蔵馬達は何も着ていないので、その場から動く事ができなかった。

「何が、起こったのよ……?」

状況が解らずいらいらするアスカ。

「……まあ、緊急事態なのは確かなようだな……それよりレイ。さっき悲鳴を上げていたが何かわかるか?」

「……わからない……ただ、誰かに体を取られそうな……そんな感じがした……」

「乗っ取られそうになった……ということか……」

蔵馬は状況を掴むため、使い魔を放った。

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オゾンを吹き付けることによって、一時的に使徒を抑制する事に成功した。
しかし、使徒が進化し、オゾンを取り込み再増殖していった。
使徒の目的は………MAGIに侵入することであった。
システムのコントロールを奪われ電源をダウンできない。
使徒はMAGIを構成するコンピュータの1つ、MELCHIORが占拠される。
使徒はMELCHIORから自律自爆を提案。しかし、BALTHASARとCASPERが否決する。
凄まじい計算速度で今度はBALTHASARをハッキングする。
リツコは、コンピュータの処理速度を遅くすることによって。使徒の侵攻を引き伸ばす事にかろうじて成功した。

「MAGIが敵に回るとはな……」

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加持は、蔵馬達のいる地底湖に来ていた。
MAGIが敵に回り、本部のセキュリティレベルはもはや無いに等しい。この機にかねてより考えていた蔵馬との接触を実行するためである。
ゴムボートに乗り、蔵馬のエントリープラグに近付き、プラグのハッチを開けた。

「やあ、シンジ君。大丈夫かな?」

「……加持さん…ですか?」

「ああ、とりあえず3人の着替えを持ってきた。俺の服で悪いが…とにかくこれを着てくれ」

「助かります」

蔵馬は地底湖の水でLCLを洗い流し、加持が持ってきた服を着た。その後、アスカとレイのプラグに行き、2人もそれぞれ着た。

「さっすが加持さん!気が利きますね」

アスカは加持に感謝を述べた。

「何、他の皆は使徒の相手をするので手一杯だから、やる事がない俺が君たちを迎えに行くほうがいいだろ」

『使徒』という単語にアスカとレイは驚愕した。蔵馬は使い魔からの情報で既に知っていたが……。

「使徒が侵攻しているんですか?」

「ああ、どうやら第87タンパク壁に潜んでいたらしい、そして、レイの模擬体に接触してきたのさ」

レイは先程の異常は使徒が原因だと知った。

「まあ、とりあえず更衣室に行って着替えたほうがいい。俺の服じゃだぶだぶだろうからな」

蔵馬達は加持の提案を受け、更衣室に向かった。

☆      ☆

第11使徒は細菌サイズのマイクロマシンである。
個体が群れを作り短時間で知能回路を形成する等、爆発的な進化を遂げているのだ。
ミサトは、MAGIもろとも使徒を物理的消去することを提案するが、リツコが激しい抵抗を示した。
リツコは代案として、使徒の進化を逆手に取り、唯一無傷なCASPERからMELCHIORへ、自滅促進プログラムを送り込む事を提案した。
進化の終着点は自滅……『死』である。こちらから進化を促進させ、自滅させようという作戦だった。
ゲンドウはリツコの作戦を承認する。

「そのプログラム、間に合うんでしょうね…CASPERまで侵されたら終わりなのよ」

「……約束は守るわ」

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男子更衣室に着いた蔵馬が自分の服に着替えている途中に、加持が話しかけてきた。

「シンジ君。君に少し聴きたい事があるんだが……」

「……なんですか?」

「……君は……何者だい?」

「……碇シンジ。サードチルドレン、EVA初号機パイロット。NERV司令、碇ゲンドウの血縁上の息子。新東京第壱高校3年……」

「いや、そういうことじゃなくてね……」

「それ以外にありますか?」

「正直、君を只の高校生とは思えないんだよ。むしろ、時々俺よりも年上に見えるときがある」

加持はそれ以外にもおかしいと思う事があった。
一つ目は、蔵馬が第3新東京市に来る前と後での調査内容の違い。諜報員の怠慢が原因とされていたが、幾らなんでもここまで違うのはおかしい。NERVの諜報員は超一流とは呼べないが充分優秀な部類に入る。
いくら、怠慢していてもここまで違うのは有り得ない。
二つ目は、幼い頃よりNERVドイツ第3支部でEVAのパイロットとして訓練してきたアスカより、蔵馬の方が強いという点である。
EVAのシンクロ率はともかく、戦闘訓練などでアスカを上回るのは普通の高校生ではおかしすぎる。しかも、蔵馬は何処かの格闘道場に入門していたわけでもないのだ。
軍事教練を受けたアスカはおろか、プロの自分より実力が上の人間が普通の高校生のはずがない。
最後に、幾ら息子とはいえNERVすべてのものが畏怖するゲンドウに対し、ああまで強気に出れる人間も珍しい。これも普通の高校生では有り得ない。

☆  ☆  ☆

CASPERの狭い内部には、一面に細かい書き込みの入ったメモが貼られていた。
MAGIに関する裏コードがたくさん書いてあるのだ。

「ありがとう、母さん。これで確実に間に合うわ」

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「それで、貴方は何が言いたいんですか?」

蔵馬は表面上は笑顔のまま、加持を睨みつけていた。
加持は、蔵馬から来る重圧に内心、圧倒されていたが、表面上は平然としていた。

(ふう、これが高校生の重圧が……彼と対峙するくらいなら、司令と正面からやりあう方がはるかにマシだな……)

加持は改めて、ゲンドウなど比べ物にならない蔵馬の器が感じ取っていた。

「いや、只の好奇心だよ……シンジ君」

「好奇心から破滅した人間はかなり多いですよ……彼らの轍を踏まないよう忠告しますが…」

「こればっかりは性分でね。治りそうにないよ」

「……そのようですね、3重スパイさん」

蔵馬の台詞に加持は、言葉を失くした。
知られている。
この少年は、自分の正体を知っている。
加持は、改めて蔵馬に戦慄した。

「NERV特殊監察部所属、加持リョウジ、日本政府内務省調査部所属、加持リョウジ、そして、『SEELE』のエージェント……首輪を3つもつけて、ご苦労なことですね」

「SEELEのことまで、知っているのかい!」

人類補完委員会の影に潜むSEELEの存在を知る人間は少数だ。
それを、高校生が知っているとは……。
加持は、蔵馬が只の高校生ではない事を確信した。

「貴方は何を望んでいるんですか」

蔵馬は単刀直入に訊いた。
加持も蔵馬に対しては誤魔化しはもう無理と判断し、蔵馬の質問に答えた。

「……俺は只、真実を知りたいのさ。だから、こんな事をやっているんだ」

蔵馬は加持の答えに、しばらく沈黙した。
加持リョウジ……この男を味方にするか、それとも放置しておくか……蔵馬はむしろ、加持のようなタイプは嫌いではない。
危険を冒してまで真実を求める加持に、なにか深い想いを感じ取ったのだ。

「加持さん。これから、何を調査する気ですか?」

「ああ、マルドゥック機関について調査する気だよ」

マルドゥック機関。
チルドレンの選別を行う機関。

「無駄骨におわりますよ、それはダミーですから。チルドレンの候補はもう全て決まっていますから」

「……どういうことだい」

いきなり、自分がこれから調査するところを無駄と言われ、加持は疑問に感じた。

「そうですね。マルドゥック機関より、俺達のクラスでも調べてみればどうですか?」

「シンジ君のクラスを……かい?」

「ええ、貴方の求める真実の糸口を掴めるでしょう……そして俺と手を組み、NERVとSEELEを敵に回す覚悟があるのなら……俺の知る真実を貴方に教えてもいいですよ」

「NERVとSEELEを敵に……」

「ええ、俺は父さんとは違います。父さんは貴方が3重スパイと知りつつ泳がせているようですが……」

ゲンドウが気付いていることまで知っていることに、もはや加持は驚かなかった。
蔵馬を敵に回すのは得策ではない。
加持は、本能的に察していた。

「俺は貴方を殺したくないですしね。そんなことをすれば、アスカを泣かせることになりますから……」

「シンジ君が、俺を殺すというのかい?」

「俺と手を組んだ後、俺を裏切れば……生き地獄を味わってもらうことになります。簡単には殺しません。生きながら苦しめる方法は、よく知っていますから……自ら命を絶つことも許さず……発狂することも許さず……自然に命が尽きるまで、苦痛を味わってもらうことになると思います……」

「……それは、流石に勘弁してもらいたいな……」

加持は理解した。
蔵馬が冗談を言っている訳じゃないことを……。
死は覚悟しているが、死ぬまで苦しめられるのは流石に我慢できない。……さらに自殺する事も、狂う事もできないとあっては……。

「まあ、よく考えて置いてください。さっきの情報はサービスです。俺と組まない事に決めてもかまいませんよ……それは、貴方が決める事ですから……」

蔵馬は更衣室から出て行った。
加持は、蔵馬と手を組むか考えていたが……まずは蔵馬の情報を確かめてから判断することにした。

☆      ☆

リツコは作業をしながら、ミサトにMAGIについて説明していた。
第7世代の有機コンピュータに個人の神格を移植し思考させるシステム、人格移植OS。
それを開発したのが、リツコの母、赤木ナオコ博士であった。
そして、MAGIには、ナオコの人格が移植されているのだ。

「それで、MAGIを守りたかったの?」

「違うと思うわ。母さんのこと、そんなに好きじゃなかったから……科学者としての判断ね」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

「遅いわよ、シンジに加持さん!!」

「蔵馬君……遅い…」

自動販売機コーナーで待っていたアスカとレイは、2人に文句をいった。

「ああ、ごめんごめん」

蔵馬は笑いながら、2人に謝った。

「ところで、加持さん。使徒が攻めて来ているのにあたしたちは何もしなくていいの?」

「ああ。今回の使徒はマイクロサイズらしいから、流石にEVAでどうにかなる相手じゃないようだ。今回はりっちゃんの腕次第だな」

「俺達にはやることがない。今回は、連中に戦いの矢面に立ってもらう」

蔵馬はミサトとは逆で、リツコの人格はともかく、能力は高く評価している。ゲンドウと冬月と違って……。
ミサトのことは、プライベート時に関しては笑えるから、気に入っているが、作戦部長としてはまったく評価していない。今更だが……。

「恐らく大丈夫だろう。ゆっくりと寛ぐ事にしよう」

そういうと、自販機からコーヒーを買いベンチに座って飲み始めた。
レイはちゃっかり蔵馬の横に座り、幸せそうにしていた。

☆  ☆  ☆

とうとう、BALTHASARが使徒に乗っ取られ、自律自爆が決議されてしまった。
自爆は三対のコンピュータの三者一致から0.2秒後に行われるため、使徒は残るCASPERのハッキングが開始した。

「自爆装置作動まで、あと15秒」

「リツコ、急いで!!」

「大丈夫、1秒近く余裕があるわ」

「一秒って……」

「ゼロやマイナスじゃないの」

カウントダウンが尽きる直前、リツコとマヤは同時にそれぞれのEnterキーを押した。
ワンブロックだけ残っていたCASPERの未侵食部分から、みるみると復帰していった。
自律自爆が解除されたのだ。
本部職員が一斉に歓声を上げた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

「……どうやら、終わったようだ」

蔵馬の聴覚に職員達の歓声が届いていた。

「……私達、今回……やることなかった……」

レイがぼそりと呟いた。
アスカも、物足りなさそうだ。

「たまには、こういうのもいいんじゃないか」

加持が不満そうなアスカにそう言った。

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「また約束守ってくれたわね、お疲れさん」

ミサトは労いながらリツコにコーヒーを渡した。リツコはうれしそうに、コーヒーに口を付けた。

「ミサトのコーヒーをこんなに美味いと思ったのは初めてだわ」

本来なら料理同様、ミサトの入れるコーヒーも不味い。たとえインスタントでも……。

「死ぬ前の晩、母さんが言っていたわ。MAGIは3人の自分なんだって。科学者としての自分、母としての自分、女としての自分…その3人がせめぎ合っているのがMAGIなのよ。人の持つジレンマをわざと残したのね………みんな同じ物だと思っているけど、実はプログラムを微妙に変えてあるの……」

ミサトは珍しく饒舌になるリツコを黙って見ていた。

「私は母親にはなれそうにもないから、母としての母さんは解らないわ。だけど、科学者としてのあの人は尊敬もしていた。でもね……女としては憎んでさえいたのよ……」

「今日はお喋りじゃない」

「たまには、ね……CASPERにはね。女としてのパターンがインプットされていたの。最後まで女でいることを守ったのね……本当、母さんらしいわ……」
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