幽☆遊☆世紀エヴァンゲリオン
YU☆YU☆ GENESIS EVANGELION
第拾参話
神鳥ガルーダ(旧かのもの)
西暦2000年……南極大陸で大規模な天変地異が発生し、地球の環境は激変した。
後にセカンドインパクトと命名されるこの大異変の真相を知るものは少なかった。

「お父さん……」

傷ついた男は、傷ついた娘を脱出用カプセルに入れ、ハッチを閉めた。
男は力尽き倒れてしまった。カプセルは南極の海を漂流していった。
ハッチを開き、娘が見たものは二筋の光の柱であった。
呆然、その光の柱を見つめる娘の胸元に十字架が下げられていた……。

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娘は、失語症に罹っていた。
彼女の父は、家庭を顧みない父親だった。
彼は博士号を持つ名のある科学者だった。しかし、研究にかまけすぎた。
結局離婚となり、娘は母親に引き取られた。
彼の名は、葛城ヒデアキ博士。
娘の名は、葛城ミサト。
娘は父を憎んでいた。しかし、その父は命がけで娘を助けた。
娘は、その時初めて父の愛情に触れた。
父が間違いなく、家族を愛していたことを。
父の死と、セカンドインパクトのショックは彼女から言葉を奪った。
そんな彼女に目をつけた組織があった。
その組織は『SEELE』という。
SEELEにとって、娘は自分達の目的の為、必要な人材だった。
だから、彼女に催眠暗示が行われた。
セカンドインパクトを起こし、父の命を奪ったのは『使徒』。
その『使徒』を憎め。
憎め、憎め、憎め、憎め、憎め、憎め、憎め、憎め、憎め、憎め、憎め………………………
その催眠暗示の副作用によって、少女は失語症から回復した。

☆      ☆

「すまんな蔵馬、雨宿りさせてもろて」

蔵馬、レイ、アスカ、トウジ、ケンスケ、ヒカリの六名は、学校からの帰宅途中に、突然の夕立に遭遇した。
蔵馬達のマンションが直ぐ近くだったので、トウジ、ケンスケは碇宅に、ヒカリは葛城宅で雨宿りするということになった。
蔵馬の用意したタオルで濡れた頭を拭き、替えの服を借りたトウジ、ケンスケは蔵馬と共に隣の葛城宅に移った。
そこには、既に着替え終わったアスカとヒカリがリビングで談笑していた。

「…委員長、綾波さんは?」

「今、シャワーを浴びているわ、覗いたら駄目よ、鈴原に相田君」

「そんな、命知らずな真似できるか!蔵馬に殺されるわ」

「その前にあたしがアンタ達を殺しているわよ!!」

……等と話していたら、浴室からレイが出てきた。

「「うぉぉ~~~~~~♥セクシ~~~~~♥♥」」

なんとレイは、大き目のワイシャツ一枚の姿で現れたのだ。
トウジとケンスケはレイを舐めまわす様に凝視していたが、そこにアスカの跳び蹴りが2人の顔面に炸裂……倒れこんだ2人の頭を久遠が前脚で、ポフポフと踏みつけていた。

「こら、ファースト。男共が居るのにそんな格好で出てくんな!!」

「鈴原も相田君も、欲望の塊だわ!!」

蔵馬はレイを部屋の中に入れ、着替えるように指示していた。
レイはよくわかっていなかったようだ……。

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着替え終わったレイが部屋から出てきて、蔵馬の入れたコーヒーを皆で飲んでいると、出勤準備の整ったミサトが、何時に無く引き締まった表情で出てきた。
彼女は最近徹夜が多く、先程まで寝ていたようだ。

「「「お邪魔しています!」」」

「あら、3人ともいらっしゃい。ゆっくりしていってね……シンジ君にレイとアスカ…今夜はハーモニクスのテストがあるから遅れないでね」

ふと、ケンスケがミサトの襟章に目を止めた。

「あ!!この度は、ご昇進おめでとうございます!!」

頭を下げ祝辞を述べるケンスケとそれに倣うトウジ。

「ありがとう……それじゃ、行って来るわね」

ミサトはにこやかに礼を言い、出かけていった。

「2人とも、どうしたの?」

襟章の知識のないヒカリはピンとこないようだった。

「昨日からミサトさんの襟章が、一本から二本になっている。一尉から三佐に昇進したのさ」

理解していなかったヒカリに蔵馬が説明していた。

「へぇ~~~ミサトの奴、昇進したんだ……気付かなかったわ」

レイも明日かも知らされていなかった。蔵馬も知らされていないが、襟章が変化していたので昨日に気付いていたが……レイとアスカは襟章が変化しているのも気付かなかったようだ。
呆れるケンスケとトウジ。

「ああ、君たちには思いやりがないのだろうか。あの若さで3人の高校生を預かるなんて大変なことだぞ……」

「せやせや、人の心を持っとるのは、ワシらだけやのぅ……」

「……ミサトに世話になった覚えはないけど……」

「むしろ、葛城三佐を面倒を見ているのは蔵馬君!!」

トウジとケンスケに反論するアスカとレイ……蔵馬は、苦笑していた。

☆  ☆  ☆

同日夕刻、EVAパイロットたちは、NERV本部でハーモニクステストを行っていた。
シンクロテスト同様、蔵馬の成績がずば抜けていた。

「これを才能というのかしら」

「まさにEVAに乗る為に産まれてきたような人ですね……」

リツコとオペレータは蔵馬の成績に感歎していた。
しかし、この評価は蔵馬にとっては馬鹿らしいことである。
蔵馬にとって、EVAの価値は母・ユイがいる……それだけである。
今までの使徒は、蔵馬にとって別にEVAは必要なかった。むしろ、妖狐蔵馬として戦っていれば楽に倒せた相手ばかりである。
唯一の例外は第8使徒だが、あれはマグマ内という環境で戦ったからEVAが必要である……と言った方が正しい。第一、捕獲など考えず発見次第さっさと殲滅……にしていれば、恐らくEVAを使わずにNN爆弾で倒せていただろう。

テスト終了後、リツコは嬉しそうに蔵馬にテスト結果を伝えていた。

「……シンジ君は、相変わらず好成績よ」

「……そうですか…」

蔵馬は興味がないという風に呟き、レイとアスカを伴い、その場を去った。
以前のアスカなら、ここで蔵馬に噛み付いていたのだろうが……蔵馬を認め、彼に惚れてしまっている今のアスカにとって、蔵馬が凄いのは当たり前になっていた。
つまり、『自分が行き着く場所に蔵馬が居て、そして必ずそこに辿り着いてやる』………と。

「そういえば、変態メガネがミサトの昇進祝いをするって、張り切っていたわね」

「変態メガネ……ああ、ケンスケのことか。ちゃんと名前で呼んであげたほうがいいんじゃないか?」

「フン、あんな盗撮男、変態メガネで充分よ……」

アスカはケンスケが自分を盗撮し、それを売りさばいていることに当然気付いていた。しかも、女子更衣室や女子トイレに隠しカメラを仕掛けていたのも………アスカは隠しカメラを全て、破壊していた。
そんなこともあり、アスカにとってケンスケは変態メガネという認識しか持っていなかった。そして、蔵馬もその事については否定していなかった。

「それにしてもミサトが昇進って、あいつそんな手柄を立てたのかしら?」

「いつも、作戦の不備を蔵馬君に怒られてたのに……?」

レイもアスカもミサトの昇進を不思議に思っていた。

「まあ、部下の功績は上司の功績でもあるからだろう」

「……でも、ミサトの奴……何か嬉しそうじゃなかったんじゃない?そうでなきゃ、あたしが気付かないはずないし……」

喜んでいたなら、さっさと自分でその事を言うはず……アスカはそう考えていた。

「彼女にとって、昇進は意味が無い。作戦部長の肩書きだけで充分さ」

「どういうこと?蔵馬君」

レイも軍隊の階級にはまったく興味がない。しかし、知識として人は出世したがると認識していた。だから、昇進を喜ばないミサトを不思議に感じていた。

「………ミサトさんがNERVに所属する理由……それは……使徒に対する復讐……それだけだからだ」

「ふ……復讐!?」

アスカは驚いていた。
あのノーテンキで無駄に明るく、不真面目な作戦部長が、まさかそんな理由でNERVに所属していたとは思いもしなかったのだ。

「セカンドインパクトの真相は2人とも知っているな」

「……ええ」

「……まぁ、NERVに所属してれば当然ね」

「だが君達は、全てを知らされている訳じゃないんだ……」

そう、レイやアスカに教えられているのは確かに真実だが、全てではない。知られても特に問題がないことしか知らされていないのだ。

「以前、言ったと思うがEVAにはパイロットにも知らされていない秘密がある……それと同じように、セカンドインパクトにもNERVの上層部以上の人間以外には知らされていない真実があるのさ……俺はそれを偶然知ったが……」

「じゃあ、あたしにもそれを教えてよ!」

アスカは蔵馬に詰め寄った。

「それも、以前に言ったはずだ……NERV上層部を敵に回す覚悟が無ければ……いや、暗殺される覚悟が無いものには教えることはできない……だが、これくらいなら知っていても大丈夫だ。だから、これだけは教えよう」

とりあえず、EVAとセカンドインパクトの全ての真実は教えてくれそうに無いが、ミサトの復讐に関することは教えてもらえそうなので、レイもアスカも聴く姿勢をとる。

「セカンドインパクト当時、南極に派遣されていた『葛城調査隊』……リーダーは『葛城ヒデアキ』博士。スーパーソノレイド機関(S2機関)の提唱者で、ミサトさんの父親だ。そして、セカンドインパクトによって全滅した葛城調査隊唯一の生存者がミサトさんだ……」

「!!」

「……葛城三佐が……」

「つまり、ミサトさんにとって使徒は父親の敵なのさ……しかし、EVAの操縦が出来ないミサトさんは直接使徒と戦うことができない……だから、俺達を指揮できる立場の作戦部長の席には拘るが、出世には興味がないのさ。それどころか、出世して作戦部長からはずされるのが嫌なのだろう…」

思いもしなかったミサトの過去を聞き、レイとアスカは沈黙した……。

☆      ☆

帰宅した蔵馬たちをトウジたちが待っていた。

「碇君、とりあえず食材買ってきたからお釣り返すわ」

ケンスケがミサトの昇進祝いをしようと言ったので、蔵馬とレイ、アスカがNERVに行っている間に準備してもらうため、3人は合計5万円をヒカリに預けていたのだ。

「でも、いいの碇君。葛城さんの昇進祝いの準備にお金出してもらって……」

「本来なら、言いだしっぺのケンスケが出すべきやろ……」

「いや、蔵馬たちが出すって言ってるんだからいいじゃないかよ」

突然ふられたケンスケは焦っていた。

「別にいいですよ。少なくとも、収入がある人間が出すのが筋でしょう」

「そうよ、あたしたちはNERVから給料出ているんだから」

「お金……あまり使わないし……」

未成年とはいえ、今年18歳になるEVAパイロットである彼らは、月給30万、危険手当25万、出撃手当30万、成功報酬50万を貰っている。
…これくらいのお金を出すくらい特に問題でもなかった。

買ってきた食材は蔵馬とヒカリが調理し、デリバリーのピザとフライドチキンなども用意し、ミサトが帰ってくる頃には準備は済んでいた。

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「「「「「「おめでとうございます」」」」」」

祝福の言葉に合わせ乾杯した。

「ありがとう」

ミサトも笑顔で礼を言った。

「ありがとう鈴原君」

「ちゃうちゃう、言いだしっぺはこいつです」

「そう、企画立案はこの相田ケンスケ、相田ケンスケです!」

「でも、お金を出したのはアスカたちですけど……それに料理を作ったのは私と碇君ですし……」

自らをアピールするケンスケにヒカリが突っこみを入れた。

「変態メガネは、企画だけね」

「……変態メガネって俺のことかよ!」

「アンタ以外に誰がいるのよ!!」

「まあまあ、こんな時に喧嘩をしないで……」

睨み合いをする2人を蔵馬が宥める。

「相田君。企画してくれてありがとう。シンちゃん、アスカ、レイもありがとうね……そして、洞木さんとっても美味しいわよ」

「あ……ありがとうございます」

自分の作った料理を褒められ照れるヒカリ。

「とりあえず、加持さんも呼んだから……」

「な……なんで加持まで呼ぶのよ!!」

ミサトの笑顔が引き攣った。

「あたしが呼びたかったから……文句あるの!!」

「まあまあ、アスカ……それにしても、加持さんってそんなに格好いいの?」

加持と面識のないヒカリが興味津々でアスカに尋ねる。

「そりゃあもう、ここに居る芋の塊どもとは月と鼈…比べるだけ加持さんに申し訳ないわ」

その台詞にレイが反論する。

「蔵馬君は芋じゃない!!」

「……あ、ごめん。シンジ以外ね……」

アスカも流石に今惚れている相手を芋扱いする気はないようだ。
しかし、芋扱いされたトウジとケンスケがアスカに喰って掛かる。
その時、インターホンが鳴った。

「きっと加持さんよ」

アスカが笑顔で入り口の方を見ると、加持がリツコを伴ってきていた。

「本部から直なんでね……そこで一緒になったんだ…」

手を上げてリツコと一緒に来た理由を話す加持。

「あやしいわね……」

ミサトは不機嫌そうな顔になった。

「あら、やきもち?」

「そんなわけないでしょ!!……ってアスカ、どうしたの?普段なら、一番突っかかるのに……?」

アスカも内心驚いていた。以前なら加持が他の女性と一緒にいるだけで嫉妬していたのに……今はなんとも思わない。

「……別に、ミサトと違って加持さんの言ってることを疑ってないからじゃない……」

「とりあえず、この度はおめでとうございます。葛城三佐!もう、タメ口聞けなくなったな」

「ぶぁ~か!!何言ってんのよ」

加持の大げさな態度を一笑に付すミサト。

「あら、レイがいるなんて珍しいわね」

リツコはレイが参加していることに厭味を言う。
以前のレイを知るリツコは、今のレイを余り面白く思っていなかった。
レイもリツコはこの世で二番目に嫌いな人間である為、口を聞こうともしなかった。
周りにいた者たちは蔵馬以外、この2人の間に流れる空気を不思議そうに感じていた。

「……とりあえず、司令と副司令が二人そろって日本を離れるなんて、前例の無かったことだ。これも留守の任せる葛城を信頼しているってことさ」

なんとも言えなくなった雰囲気を誤魔化す為、話を振る加持。

「えっ、司令と副司令、どこに行ったの?」

「南極よ」

アスカの問いにリツコが答えた。
蔵馬はミサトの昇進の理由を悟った。
自分達の留守中にミサトの権限を強めるために、昇進させたのだ……彼らとSEELEにとって、使徒戦はミサトが指揮を執らなくてはならない……それゆえの処置であったことを……。

☆  ☆  ☆

南極。
セカンドインパクトによってかつての大陸は赤く染まった海面と塩の柱のみの世界。
その世界を進む艦隊の中に、ゲンドウと冬月がいた。
彼らの目的は、人類補完計画に必要な『あるもの』の回収だった。

「いかなる生命の存在も許さない死の世界、南極……。いや、地獄と言うべきかな」

「だが我々人類はここに立っている。生物として生きたままだ」

「科学の力で護られているからな」

「科学は人の力だよ」

「その傲慢が19年前の悲劇、セカンドインパクトを引き起こしたのだ……結果、この有様だ。与えられた罰にしては余りに大き過ぎる。正に死海そのものだよ」

「だが、原罪の穢れなき、浄化された世界だ」

「俺は罪にまみれても、人が生きている世界を望むよ……」

その時、警報が鳴り響いた。

《報告します。NERV本部より入電、インド洋上空、衛星軌道上に使途発見!!》

☆      ☆

「2分前に突然、現れました」

「目標を映像で補足」

ミサト達は、モニターに映った使徒の形状に驚いていた。

「こりゃ凄い」

「常識を疑うわね」

第10使徒の調査を始めようとしたとき、監視衛星が圧解した。

「A・Tフィールド!?」

「新しい使い方ね……」

使徒は、自らの体の一部を1つの水滴のように落下させた。A・Tフィールドを纏わせて……。
A・Tフィールドと落下の衝撃により、落下地点は凄まじい破壊力に見舞われた。

「大した破壊力ね……さすがA・Tフィールド……」

「落下のエネルギーをも利用しています。使徒そのものが爆弾みたいなものですね……」

幾度か落下させ、誤差を修正しているようだ、
その目標地点は、やはりというべきか第3新東京市であった。

「碇司令と連絡は?」

「使徒の放つ強力なジャミングにより連絡が取れません」

「MAGIの判断は?」

「全会一致で撤退を提案しています」

「どうするの、今の責任者は貴女でしょう」

ミサトは決断した。

「日本政府各省に通達。NERV権限における特別宣言D-17.半径50キロ以内の全市民は直ちに避難。待つ城にはMAGIのバックアップを頼んで!」

「ここを放棄するんですか?」

「いいえ、ただ皆で危ない橋を渡る必要はないわ」

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「やるの、本気で……」

「ええ、そうよ」

化粧室で2人きりになったミサトとリツコは口論していた。

「貴女の勝手な判断でEVAを三体とも捨てる気?勝算は万に一つもないのよ」

「ゼロではないわ、EVAに賭けるだけよ…」

「葛城三佐!!」

「現責任者は私です!!………やることはやっときたいの……使徒殲滅は私の仕事ですから……」

「仕事?笑わせるわね」

リツコは失笑した。

「自分のためでしょ!!貴女の使徒への復讐は……」

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「えぇ~~~~!!手で受け止める!?」

「そう、落下予測地点にEVAを配置、A・Tフィールド最大で貴方達が直接、使徒を受け止めるのよ」

蔵馬は今まで以上の無謀な作戦に呆れ果てていたが、とりあえずミサトに疑問点を訊いた。

「もし、使徒が落下予測地点を大きく外れたら?」

「その時はアウト!」

ミサトはあっさりと返す。

「機体が衝撃に耐えられなかったら?」

「その時もアウトね」

アスカの問いにもあっさり返した。

「勝算は?」

「神のみぞ知る、といったところかしら……」

「これでうまくいったら、まさに奇跡ね……」

「奇跡ってのは起こしてこそ価値が出るものよ」

「つまり、何とかして見せろってこと?」

ミサトも作戦の無謀さは理解していた。しかし、この作戦以外思いつかなかった。

「シンジ君……やっぱり貴方はこの作戦は反対よね……でも、今回はこれしかないと思う…一応、シンジ君の意見を聞くけど……」

「……充分な時間があれば、いくつが策はありますが……ミサトさんの言うとおり、今はこれしかありませんね。しかし、これは大博打ですので、作戦なんて言わないで下さい」

実際、蔵馬の考えた作戦はNERVでは実行できないものばかりであった。

「あっそうそう、一応、規則だと遺書を書くことになってるけど、どうする?」

「別にいいわ。そんつもり、ないもの」

アスカは当然、こんな所で死ぬ気はない。まだ、蔵馬に認められていないから……。

「私もいい。必要ないもの」

レイも死ぬ気はない。ずっと蔵馬と生きていたいから……。

「………結構です」

蔵馬も死ぬ気はない。A級妖怪並みの使徒ごときにS級の自分が殺される気はまったくないからだ。

「済まないわね……作戦が上手くいったら、ステーキをご馳走してあげる」

「え、ホント!」

大げさに喜んでみせるアスカ……しかし、ステーキ=ご馳走というミサトの古い考えに呆れていた。

「……レイのことを無視してますね…」

「…えっ」

「お忘れですか、ミサトさん。レイが肉嫌いなことを……」

「あっ!そうね……じゃあ、何でも好きなものを奢ってあげるわ」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

使徒の電波撹乱のため、MAGIでも正確な落下位置を特定できなかった。
そのため算出した落下予測地点はかなりの広範囲になっていた。

「目標のA・Tフィールドをもってすれば、その何処に落ちても本部を根こそぎ抉る事が出来るわ」

ミサトはEVAの配置地点を指示した。

「この位置の根拠は?」

「……勘よ!」

「「勘?」」

蔵馬とアスカが見事にハモッた。

「そうよ、女の勘!!」

「なんたるアバウト……ますます、奇跡ってのが遠くなっていくイメージね」

アスカは呆れを通り越していた。

(ユウスケだったら嬉々として実行するな。ヤバイ賭けほど好きな奴だから)

蔵馬は第5使徒戦以上の大博打に、それを喜びそうな仲間の顔を思い浮かべていた。

☆  ☆  ☆

蔵馬たちが配置についてから、しばらくして……使徒はついに第3新東京市上空に出現した……よりにもよって、初号機の直上に……。
使徒は、その場で最も強大な力を持つものを狙ったのだ。

「蔵馬君!!」

「シンジ!!」

弐号機と零号機は急いで、初号機の下に駆けつけようとした。

「……ヤシマ作戦の時にも思ったが……本当にユウスケの病気がうつったな……この状況を楽しく感じるとは……試してみるか」

蔵馬はA・Tフィールドを展開し、それを変化させた。
A・Tフィールドは巨大なネットの形になっていた。

「やはりな、A・Tフィールドは何も壁だけじゃないということか…」

蔵馬はネット状のA・Tフィールドを使徒に向かって放り投げた。まるで投網のように使徒を絡め取った。
使徒は落下速度が弱まり、その周りのA・Tフィールドを中和した。

「蔵馬君!!」

「シンジ!!」

ようやく辿り着いたレイとアスカは、蔵馬の行動に驚いていた。
高高度からの落下の威力を完全に殺し、ついでにA・Tフィールドも中和したのだから……。
それは、当然、発令所でも……。

「使徒のA・Tフィールドは中和されたわ、それに落下時の威力もかなり弱まったわ」

「まさか、A・Tフィールドがネット状に成るなんて……」

発令所にはミサトとリツコしかいなかった。
発令所職員は全員退去していたのだ。日向、青葉、マヤも含めて……。

「これも、A・Tフィールドの新しい使い方ね」

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「レイ、アスカ!!上空の使徒の元に行く、手を貸せ!!」

蔵馬が何をする気がわからなかったが、とにかくレイとアスカは蔵馬の言うとおり、初号機を使徒に向かって投げ飛ばした。
初号機は再びA・Tフィールドを展開、今度は鞭に変わった。
『A・Tウィップ』とでも呼べばいいのだろうか。
蔵馬はそれを薔薇棘鞭刃の要領で振るう。
使徒は、ばらばらに分断された。

「いまだ!!使徒のコアを潰せ」

弐号機と零号機に向かって落ちて来る使徒のコアに、レイとアスカはプログナイフで突きたてた。
その瞬間、蔵馬にばらばらにされた使徒の体が爆発した……その爆発を蔵馬はA・Tフィールドで押さえ込んだ。
この使徒との戦いで、蔵馬は完全にA・Tフィールドを使いこなせるようになった。

使徒は殲滅されたのだ。

☆      ☆

電波状態が回復し、ゲンドウと冬月から通信が入った。
ミサトは、自分の勝手な判断を詫びていたが、2人はミサトの判断を支持した。

「さてと、何をおごってもらおうかな?」

アスカはにやりと笑っていた。

「はいはい、大枚おろしてきたから、イタリア料理だろうが、ドイツ料理だろうがフルコースもOKよ」

(給料日前なんだけど……)

勢いで何でも奢ると行ってしまった事を後悔し、顔で笑って心で泣いて状態になっているミサト。

「ここよ」

そこは、ラーメンの屋台……。

「ミサトの財布の中身くらいわかっているわ、無理しなくていいわよ」

一瞬呆然となったが、アスカの言葉を聞き嬉しくなる。

「ヘイらっしゃい……って蔵馬か」

そう、この屋台はユウスケの屋台だった。

「あれ、シンジ君。知り合い?」

「ええ、そういえばレイにも紹介していなかったな、彼は浦飯ユウスケ。彼も俺の仲間です」

「浦飯ユウスケだ。レイちゃんの事はゲンカイぱーさんから訊いているぜ」

ゲンカイの名前を聞き、嬉しそうな顔になるレイ。

「ニンニクラーメンチャーシュー抜き」

「あたし、フカヒレラーメン大盛ね」

「では、俺はみそラーメンお願いします」

「ヘイ毎度!!」

四人は楽しくラーメンを食べていた。
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