幽☆遊☆世紀エヴァンゲリオン
YU☆YU☆ GENESIS EVANGELION
第四話
神鳥ガルーダ(旧かのもの)
第四使徒との戦闘跡地。
ここでは現在、NERVの手による調査が行われていた。
第三使徒はパターン青消滅確認後、初号機が離れた後に爆発してしまったが、第四使徒の死体は残っておりNERVとしては格好のサンプルとなった。

「……これが、使徒か」

少し興味があったため、蔵馬も現場に来ていた。

「あら、シンちゃん」

「どうしたの。シンジ君?」

ミサトとリツコが蔵馬に気付いた。

「いえ、使徒の体を間近で見てみたいと思いまして。近くで見てきていいですか?」

「いい。リツコ?」

「別にかまわないわ」

「いいってさ」

リツコ達の許可を取った蔵馬は使徒の方に向かう。

「あっそうそう。お父さん来てるわよ」

「……そうですか」

蔵馬はそっけなく答え、ミサト達から離れた。

「シンちゃん。司令のことどう思っているのかしら?」

「……間違いなく、嫌っているでしょうね」

ミサトの疑問にリツコがあっさりと答えた。

「……はっきり言うわね」

「決定的なのは、あの時の件でしょうね」

蔵馬を初号機に乗せる為の茶番。
リツコもあの茶番は結果的にマイナスだったことを認めていた。NERVの蔵馬に対するデータは間違っていた。そのデータを鵜呑みにして行った茶番は不信感を高めるには充分だった。しかも、蔵馬はかなり聡明である。そのことをリツコは思い知っていた。

「少なくとも私達とは違い司令はシンジ君に謝罪してないから、シンジ君の評価はかなり下がっているわね」

リツコはミサトより早く、蔵馬に謝罪していた。身体検査の前に。
しかし、ゲンドウは蔵馬と顔を合わす機会があっても、何も言わなかった。だから、蔵馬もゲンドウには口を聞いていなかった。

「あの男は、悪いことをしたら謝るという、人として基本的なこともできないんですね」

いつの間にか蔵馬が戻ってきていた。ミサトとリツコは度肝を抜かれた。

「いつ戻ってきたの?」

ミサトはまったく気配を感じられなかったのでかなり驚いていた。軍事教練で優秀な成績を収めていた彼女がまったく感じ取れなかったのだ。

「『決定的なのは』、あたりですね」

蔵馬は微笑みながら答えた。
ミサトもリツコもあらためて、この少年が只者ではないことを感じていた。

「ところで、使徒についてわかったことはありますか?」

蔵馬の問いにリツコがコンピューターの画面を二人に見せた。

「601……なにこれ?」

「解析不能を示すコードナンバー」

「つまり、ワケわかんないってこと」

「一つだけ、わかったわ。『使徒』の固有波形のパターンが構成素材の違いがあっても人間の遺伝子と酷似しているってことが。99.89%ね」

「……EVAと同じ……」

二人の会話を聞き、蔵馬も考え込んだ。

(……EVA。霊界の調査では第一使徒『アダム』のコピーだったな。初号機は第二使徒『リリス』のコピーだが…)

ふと、見るとゲンドウの姿があった。そして、その手のひらに火傷の痕が見えた。

「リツコさん。父さんのあの火傷は……?」

「……ああ、あれね。貴方達がここに来る前…起動実験中に零号機が暴走したの……」

リツコが語りだした。

☆      ☆

第二実験場。
管制室からゲンドウが合図した。

「これより、起動実験を始める」

実験が始まり、そしてしばらくして事件が起きた。

「パルス逆流!」

「中枢神経素子にも拒絶が始まっている」

「コンタクト停止。6番までの回路開いて!」

「信号拒絶だめです。零号機制御不能」

「実験中止。電源を落とせ!」

「零号機、予備電源に切り替わりました」

「完全停止まであと35秒」

零号機は管制室を殴りつけていた。

「オートイジェクション作動!」

エントリープラグが強制射出された。

「ワイヤーケージ、特殊ベークライト急いで!」

「レイ!!」

ゲンドウがエントリープラグに駆け出した。加熱したハッチを開けようとしたがあまりの熱さに手を離す。

「ぐあっ……」

あらためて、火傷を負いながらもハッチを開ける。

「大丈夫か、レイ!?」

「……ハイ」

ゆっくりと顔を上げたレイは返事をした。

「……そうか、よかった」

ゲンドウはレイに微笑んだ。

☆  ☆  ☆

「手のひらの火傷は、その時のものよ」

「へぇ~~、あの司令がね」

ミサトはゲンドウを見直したようだ。

「……妙ですね?」

しかし、蔵馬は疑惑を抱いた。

「…妙って?」

ミサトは蔵馬の態度が不思議だった。意外だかゲンドウの行動は敬意に値すると感じていたのだが。

「今の時代なら、火傷もある程度治せるでしょう。何故、残しているんです?しかも、NERVの医療技術は世界一と以前、リツコさんは言いませんでしたか。綾波の事を想うならさっさと痕を消して気にしないようにさせるべきでしょう。あれではまるで、見せ付けているようですよ」

「…それは……」

リツコが気まずそうな顔になった。

「それに、何故そんな実験を屋内でやるんですか。屋外でやれば綾波の危険は少なかったはず。屋内でやるのなら射出機構をロックするべきでしょう」

「………」

リツコは硬直していた。

「それに、こういう実験だと事故を想定してレスキュー班が待機しているはず。レスキューより先に何故、管制室にいた父さんが真っ先に駆けつけられるんですか。もし本当に父さんより反応が遅いのなら、NERVのレスキューは余程の無能か、職務怠慢か、それとも、レスキュー班が待機していなかったか」

蔵馬が話しているうちに、ミサトも蔵馬の言わんとすることを理解した。

「シンちゃん。……まさか!?」

「多分。零号機の暴走は……」

そこで、蔵馬は言葉を切った。

「すいません。用事を思い出しましたので失礼します!」

蔵馬は話を中断し急いで出て行った。

「……リツコ。碇司令は……」

リツコはまだ硬直していた。そして、あらためて蔵馬が只者ではないことを思い知った。ゲンドウの姦計を簡単に察してしまったのだ。リツコはこの話を蔵馬にしたことを後悔していた。そしてこの少年を、ゲンドウが都合よく利用することが本当に可能なのか疑問に思った。

☆      ☆

レイはゲンドウに言われ、戦闘跡地に来ていた。そこで、蔵馬たちを見つけたのでそちらに近付いた。その時、零号機暴走時の話をしている蔵馬たちの会話を聞いてしまった。そして、蔵馬の語る内容を聞くうちに、ゲンドウに対する最後の想いが崩れていった。聞いていられなくなりその場から逃げるように立ち去った。

(あのときのことは、碇司令との絆だと思った。……でも、あれは……)

「………綾波」

振り返ると蔵馬が立っていた。
蔵馬はリツコたちと話している途中でレイの気配を感じ、話を中断し追いかけてきたのだ。この話を聞いてレイが苦しむことを心配して。

「すまない。綾波を苦しめてしまった」

「……碇君。……あれは私との絆じゃなく、私を縛る鎖だったのね……」

幾ら人の心に疎いレイでも、ゲンドウの思惑は理解できた。零号機をワザと暴走させレイを助けるというシナリオ。レイをゲンドウに縋らせる為に。
そのために火傷を負ったゲンドウもある意味凄いが、おそらく何らかの処置をしていたのだろう。

「……まだ、確証があるわけではない。俺の推論だ。父さんは本当に君を心配していたのかもしれない」

蔵馬はレイを慰めたがリツコの表情を見て、自分の考えが真実であることを確信していた。

「……」

レイは俯いていた。うっすらと涙を滲ませながら。蔵馬は、しばらくレイを抱きしめていた。

☆      ☆

翌日。
体育の時間。
男子はバスケットボール、女子は水泳である。
しかし、男子は誰一人バスケットをしていない。教師が急用で自習になったのだ。
蔵馬はグラウンドから、プールのレイを見つめていた。レイは隅で座り込んでいた。

(……昨日のショックをまだ引きずっているな)

「いよっ、蔵馬。誰を見とるんや?」

トウジが話しかけてきた。

「センセも意外とスケベやな。洞木か。あ……綾波か。渋い趣味しとるのう。けど、あいつは止めといたほうがええぞ。顔はええから人気あるみたいやけど、無表情やからなに考えとるのかわからん。ワシはあんま好かん」

「……わかってないなトウジは。そこが人気なんだよ。ミステリアスだから」

トウジとケンスケが見当ちがいなことを言ってきたが。

「……いや、綾波を見ていたのは、昨日、綾波はショックなことが起きて落ち込んだから、それが心配でね」

蔵馬は勝手に盛り上がる二人に答えた。

「なんや、ショックなことって?」

「それは、軽々しく言えることじゃない」

蔵馬は再び、レイを見つめた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

「見て見て、碇君よ」

「きゃ~~~~。誰を見ているのかしら。私かな?」

「違うわよ、私よ!」

他の男子が見ていたらスケベ扱いを受けそうだが、クラスいや、全学年ナンバーワンの美男子の蔵馬に対してはみんな喜んでいた。
『碇君』という言葉に反応したレイは、蔵馬の方に視線を向けた。

(……碇君がこっちを見てる。何だろう。顔が熱い。胸がドキドキする)

レイは赤面しながらも、蔵馬を見つめていた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

「……おっ。綾波が真っ赤な顔して蔵馬を見とるな。なんや、あいつもあんな顔ができるんやな」

トウジがレイの雰囲気にやにやしている。

「……蔵馬…裏切り者。あの時、なんで綾波が僕達を叩いたのかよくわかったよ」

恨めしそうな顔で蔵馬を見るケンスケ。涙ぐんだレイに叩かれたことを思い出し、レイが蔵馬に好意を寄せていることに気付いた。

「センセもやるなぁ。あの綾波にあんな顔させるなんてな」

トウジもあの時の事を思い出し、レイが蔵馬に対してだけは感情を表すことに気付いた。
蔵馬も、自分を見つめるレイに、柔らかい微笑を返す。レイは嬉しそうな顔になった。ちなみにレイの近くにいた女子たちも蔵馬の微笑の余波に当てられ撃沈した。

気が付いたら、トウジを除くすべての男子が蔵馬を睨んでいた。
レイはその外見とミステリアスな雰囲気から男子生徒にかなりの人気がある。以前はケンスケの写真の売り上げもナンバーワンだった。今は、蔵馬の写真の方が売れているが……。
しかし、誰とも打ち解けず、挨拶しても返事をしない、返ってきても「そう。」とか「だから。」とか一言で済ませてしまう。そんな彼女が蔵馬に対しては反応する。しかも、周りの女子まで蔵馬にうっとりしている……。
嫉妬の嵐が吹き荒れていた。
しかし、そんな雰囲気も蔵馬はまるで問題にしていなかった。

☆  ☆  ☆

NERV本部、ケイジ内。
零号機の傍にいたレイにゲンドウが近付いた。

「レイ……明日はいよいよ零号機の再起動実験だな」

「……」

「怖いか?」

「……」

レイは応えない。

「今度はきっとうまくいく。心配するな」

「…はい」

レイは返事をすると逃げるようにその場を後にした。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

蔵馬はレイとゲンドウの会話を初号機の近くから聞いていた。距離は離れているが蔵馬の聴覚なら充分、聴こえている。
ゲンドウは笑顔でレイに接するが、レイの表情は硬い。一言返事をするとその場から離れていった。そんなレイをゲンドウは不満顔で見送っていた。

「…綾波が笑いかけず逃げるように去っていったから、不満なようだな。…やはり零号機暴走も茶番か。まったく、父さんは碌なことをしないな。……母さんはあの髭のどこがよかったんだろう」

蔵馬は呆れ果てていた。そして、母の趣味の悪さに頭を抱えていた。

☆  ☆  ☆

「……まさか、こんなところに……?」

ミサトに頼まれ、更新したセキュリティカードを渡す為に訪れたレイのマンション。周りには誰も住んでいない。誰も住んでいないのはミサトのマンションも同じだが、こちらはまるで廃墟に近い。

“402 綾波”

「どうやら間違いないようだな」

レイの境遇を考えるとさすがに腹が立ってきた蔵馬であった。
インターホンを押しても反応しない。壊れているようだ。

「……綾波、いるかい?」

ドアには鍵がかかっていなかった。無用心だなと思いつつ部屋に入ってていった。そしてまたしても呆気に取られてしまった蔵馬だった。そこはとても18歳の少女の部屋とは思われない。セカンドインパクト当時でもない限りこんな所には住まないだろう。

「……碇君?」

そこにレイが出てきた。全裸で……。

「…あ……綾…波……!?」

どうやら、シャワーを浴びていたらしいことを察して蔵馬は慌てて後ろを向いた。

「……どうしたの?」

「…いや……綾波。済まない勝手に入ってきて」

「かまわないわ」

レイは裸を見られたのにまるで気にしていない。蔵馬はかなり戸惑っていた。

(……綾波には恥じらいというものがないのか……?)

「……碇君。何しにきたの?」

綾波の声は明るい。蔵馬か来たことが嬉しいようだ。

「…ああ。ミサトさんに頼まれて新しいセキュリティカードを持ってきたんだ」

「……セキュリティカード?」

「ああ。リツコさんが渡すのを忘れたらしい」

「そう。じゃあそこに置いておいて」

蔵馬は棚にカードを置いた。そこには壊れた眼鏡が置いてあった。

「……これは?」

「…碇司令のもの。零号機の実験のときに壊れた」

絆の証として、その眼鏡をゲンドウからもらっていた。しかし、今となっては見るのも嫌になっていた。

「…綾波。君はこんなところに住んでいてなんとも思わないのか?」

「……別に問題ないわ」

あっさりと答えるレイ。

(こんなところ、八つ手の住処と大して変わらんぞ)

かつて倒した妖怪の住処を思い出していた蔵馬であった。

「綾波。晩御飯は食べたか?」

「…うん。食べた」

「何を食べたんだ?」

「カロリービスケットと栄養剤」

「…なっ……そういうのは食事とは言わない」

「何故、栄養は摂れているわ」

蔵馬は絶句した。

「……しかし、そんなものでは食事も楽しくないだろう?」

「食事は栄養摂取が目的だと赤木博士は言っていたわ」

蔵馬は怒りが湧いてきた。そして、またひとつゲンドウの策略を感じ取ったのだ。

「綾波。この前、家で食事したときはどんな気分だった?」

「………」

「また、食べたいとは思わないか?」

「……また食べたい」

レイの言葉に蔵馬は安堵した。どうやら味覚がないわけではないようだ。

「綾波。服を着て荷物をまとめてくれ」

蔵馬は突然、切り出した。

「……何故?」

「こんなところに居ては駄目だ。ミサトさんの家に行こう。ミサトさんに頼んで綾波も一緒に住まわせてもらう」

蔵馬は、もうレイを一時もこんなところに住まわせたくなく、レイを連れ出す決心をした。
何故、いきなり蔵馬がこんなことを言い出したか理解出来なかったレイだが、『一緒に住む』という言葉に嬉しくなり、支度をした。
あまり、私物を持っていなかったレイの身支度は10分もかからなかった。レイは棚の上に置いてあった壊れた眼鏡を床に放り捨て、蔵馬と共に部屋を出て行った。

☆      ☆

「あら、シンちゃん、それにレイもどうしたの。そんな荷物を持って?」

帰ってくるなり、荷物をもったレイを連れてきた蔵馬にミサトが聞いた。

「ミサトさん。綾波をここに住まわせてください」

「……ちょっ……いきなり、何を言い出すのシンちゃん?」

「綾波をもう、あんなところに住まわせたくありません」

「……あんなところって……?」

いつものなら、こんなことを言い出す蔵馬をからかうところなのだが、勢いに押されているミサト。

「ミサトさんは綾波の家に行ったことがありますか?」

「……ないけど……」

「じゃあ、行って見てきてください!」

蔵馬の迫力に慌ててレイのマンションに向かったミサトは、帰ってきたとき青い顔をしていた。そして、携帯を取り出しリツコに連絡する。

「リツコ。シンジ君だけじゃなく、これからはレイも家で面倒見るから、手続きをとって」

《いきなり、何を言うのよミサト。そんなの司令が許すわけないでしょう》

「ふざけないで。あんな所、人の住む所じゃないじゃない。司令もあんたもなに考えているのよ!?」

言い合いをする二人に蔵馬がミサトの電話を取った。

「リツコさん。別に住所はあのままで結構です。綾波は家に泊めます。チルドレンが作戦部長の家に外泊するくらい問題にはならない筈です。綾波もこちらに住むことを喜んでいます。父さんが何を言おうとも、こちらで勝手に決めました。文句があるなら父さんがこの家に来て、何故あんな所に住まわすのか俺達の納得がいく説明をしてもらいます」

リツコは何も言えなくなった。倫理的に考えても蔵馬たちの方が正しい。そして、ミサトはともかく蔵馬を説得することは無理と判断していた。前回の零号機起動実験の話のときのように、ボロを出すだけだと。

《わかったわ。司令の許可を取ります》

リツコは折れるしかなかった。

☆  ☆  ☆

「一体、碇司令はレイを何だと思っているのよ!?」

「自分に都合のいい人形とでも思っているのでしょう」

居間で、三人でお茶を飲んでいたら葛城一尉と碇君が私のことを話していた。

「人形って。司令はレイを人形扱いしているの?」

「ええ。綾波も父さんに縋るのをもう止めたようですし、俺の推論ですが話しましょう」

碇君は、司令の考えを語りだした。

「綾波は、俺の母さんに良く似ています」

そう、私は碇ユイのクローン。似ていて当たり前。

「父さんは、実はかなりの臆病者です」

「あの、司令が臆病者?」

「ええ。他人に拒絶されるのが怖い。だから他人の心を見ないんです。心を見なければ拒絶されても無視できますから。息子の俺でさえも父さんは、都合のいい道具として見てますからね。……でも、先ほど言ったように綾波は母さんに似ています。……実の息子の俺以上にね。おそらく母さんは父さんにとって、自分を拒絶せず愛してくれた唯一の人です。だから、父さんは母さんを愛する以上に縋っている。その母さんの面影がある綾波に拒絶されるのが怖い。だから、綾波を自分に縋るように仕向けたんです」

「具体的には?」

「幼い頃から異常な環境に置き、他人と関らせず孤独にさせる。そんな中、自分だけが綾波に優しくする。そうすることで綾波には自分しかいないと思い込ませ自分の言うことなら何でも聞く人形に仕立て上げたんでしょう」

確かに私は碇司令にしか心を開いていなかった。でも、今は碇司令のことを考えると不快になる。

「それ以外にも、綾波を父さんの命令に絶対服従させなければならない理由があるようですけど」

「……そんな人が司令でNERVは大丈夫なのかしら?」

葛城一尉が頭を抱えていた。

碇君の話を聞き、私は考えていた。
碇君の言っていた他の理由。それは、私が司令の計画に必要な存在だから。
何故、私は碇司令の望みを叶えようとしていたのだろう。無に還ることと碇司令の望みを叶えることが私の存在理由だった。
でも、碇君が私に新しい理由をくれた。碇君の暖かさを感じていたい。碇君がいる限り、私は無に還りたくない。死ぬまで碇君と共に在りたい。それが今の私の望み。

ズキン!!

碇君のことを考えていたらまた胸が痛くなった。でも、不快じゃない。心拍数が上がっている。顔も熱くなってくる。
なんだろう、この感じ。どうしたんだろう。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

夜遅くになって、蔵馬は自分の部屋に戻っていった。レイはシャワーを浴びた後、居間でビールを飲んでいたミサトに尋ねてみた。

「なに、レイって…なんて格好で出てくるの!?」

頭にタオルを被せた状態で何も着ずに出てきたレイに、ミサトは面食らった。

「ここにシンちゃんが居なかったから良かったものの」

「碇君が居ると問題なんですか。?」

きょとんとした顔で、レイが聞いてきた。

「……男の子に易々と裸を見せるものじゃないわ」

「男の人に裸を見せてはいけないんですか?」

「まあ、特別な理由が無い限りわね」

レイは納得顔になって呟いた。

「だから碇君。さっきは私を見てすぐ後ろを向いたんだ」

ビキッ!!!

ミサトが硬直した。

「……レイ。あなたシンちゃんに裸見せたの?」

「はい。碇君がカードを届けてくれたときもシャワーを浴びてて、そのまま出てきました」

ミサトは蔵馬の災難に苦笑した。

「とにかく、話はパジャマを着てからにしなさい」

「持ってません」

レイは、制服と下着しか持っていなかったのだ。
呆れたミサトはとりあえず、大き目のシャツをレイに着せ、パンツを穿かせた。長めの裾が旨くパンツを隠した。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

「……で、話って何?」

シャツを着た私に葛城一尉が聞いてきた。

「……葛城一尉。私……病気なのかも」

「病気って、どこか痛いの?」

葛城一尉は焦った顔で近付いてきた。

「碇君のことを考えていると、胸が痛くなって、心拍数が上がるんです。顔も熱くなって、異常です」

葛城一尉は一瞬驚いたような顔になったが、直ぐに優しい顔になって教えてくれた。

「……レイ。それは病気じゃないわ」

「……病気じゃない?」

「まあ、ある意味病気ともいえるけど。それはね、恋という病よ」

「……恋?」

「そっ。レイはシンちゃんに恋してるのよ」

これが……恋。
本で読んだことがある。碇司令にもこんな感じにはなったことはない。
私は碇君に恋をしているんだ。そう思ったら心が暖かくなってきた。

碇君。碇君。碇君。碇君。碇君。碇君…………。

☆      ☆

翌日、リツコはレイの葛城宅への引越しの承認を求める為にゲンドウと面会した。

「その必要はない!」

やはり、ゲンドウは反対した。しかし、リツコは蔵馬が零号機起動実験の裏事情を察していて、これ以上蔵馬を怒らせるのは危険と進言した。副司令の冬月も話を聞いて、蔵馬の聡明さを感じ、ゲンドウを説得するほうに回った。
流石のゲンドウも承認しないわけにはいかなくなった。
リツコは手続きを取るため退室していった。

「おのれ、シンジめ!」

「……碇。やはり、シンジ君を利用するのは不可能ではないのか?」

「……今はまだ、初号機に乗れるシンジは必要だ。必要が無くなれは処分する。シンジが居なくなればレイも私だけに縋るだろう」

まだ、レイが自分に縋っていると思っているゲンドウだった。

☆  ☆  ☆

「これより、零号機の再起動実験を行います」

「……レイ。準備はいいか」

ゲンドウが優しく語り掛ける。

「………ハイ」

無表情のまま、レイは返事をした。内心、ゲンドウの偽善に満ちた声は聴くだけで不快だったが、今度は本当に自分が原因で失敗しては意味がない。
ゲンドウの為ではなく、蔵馬の為……蔵馬の助けになる為に零号機の起動に成功したかった。
ミサトに教えられ、蔵馬に対する気持ちに自覚を持ったレイは、その純粋さ故にそれを受け入れた。そして、思ったより落ち着いている自分に気付いた。蔵馬の役に立つ。それは強制された訳ではない。これは自分で決めた望み。レイは、自分自身の確固たる意思を初めて持ったのだ。

「第一次接続開始」

「主電源コンタクト」

「稼動電圧臨界点を突破」

「フォーマットをフェイズ2に移行」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

「……ねえ、シンジ君」

「なんですか、ミサトさん」

「今回は大丈夫よね?」

不安そうな顔でミサトさんが俺に聞いてきた。

「フッ……二度も失敗させたら、父さんの責任問題なりますからね。今回は成功したら綾波を褒めて、さらに自分に縋らせようとするでしょうよ。本来、必ずしも司令自ら指揮を執る必要がないにもかかわらず、さも綾波のことを気にかけているよう見せているでしょう」

まあ、もはや父さんの一人相撲だがな。
あの男は知るべきだろう。どのような生まれでも、綾波レイは一人の生命なのだという事を。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

「パルス及びハーモニクス正常」

「シンクロ問題なし」

「オールナーブリンク終了。中枢神経素子に異常なし」

「1から2590からのリストクリア」

「絶対境界線からあと2.5」

カウントダウンが始まった。

「0.1」

「ボーダーラインクリア」

「零号機起動しました」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

ホッとしたのもつかの間、サイレンが鳴り響いた。

「……碇。未確認飛行物体が接近中だ。恐らく、第五の使徒だ」

冬月の言葉に管制室は緊張が走る。

「テスト中断。総員、第一種戦闘配備」

ゲンドウの命令が下った。

「碇。零号機はどうする。このまま使うか?」

「まだ、出撃には耐えん。……赤木博士、初号機は?」

「380秒で準備できます」

「……よし、出撃だ」

ゲンドウに言われるまでもなく、既に走り出していた蔵馬だった。
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