幽☆遊☆世紀エヴァンゲリオン
YU☆YU☆ GENESIS EVANGELION
神鳥ガルーダ
原作:新世紀エヴァンゲリオン/幽☆遊☆白書/とらいあんぐるハート3
第拾伍話
蔵馬、レイ、アスカの3人が学校から帰宅したとき、碇宅の前に1人の青年が立っていた。
端正な顔立ちをしている。十分、美青年と呼べる顔だ。
しかし、口に咥えているものが問題だった。
『おしゃぶり』である。
いい年した青年が、幼児が咥えるおしゃぶりをしているのは、かなりの違和感があった。

「なによ、あいつ?おしゃぶりなんかして……」

「……おしゃぶりって、何?」

アスカの呟きに、レイが疑問を持った。
知識だけはかなりあるレイだが……流石におしゃぶりは知らないようだ。

「おお、帰ってきたか、蔵馬」

「なにしに来たんですか?コエンマ……」

この変人が蔵馬の知り合いなことに、既にアスカは驚くにも値しなかった。
今まで会った蔵馬の知り合いは、アスカから見ればどいつもこいつも変人ばっかりだったからだ。
……最も、人から見ればアスカも十分、変人かも知れないが……。
とりあえず、待っていたのは人間界ヴァージョンのコエンマであった。

「うむ、少し話が会ってな……今、いいか?」

「……わかりました。じゃあレイ、アスカ、また夕食時に」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

「実は、裏死海文書についてな」

「裏死海文書……霊界から盗まれ、SEELEに渡ったという預言書ですか?」

コエンマは出されたお茶をすすり、話を続けた。

「実は、霊界から盗まれた物は……改竄された写本だったことが判明した」

「写本!?」

「実は、謹慎中の親父を締め上げてわかったのだが……」

かつての戦争で冥界が使用しようとした裏死海文書は冥界が都合よく改竄した写本であった。
南極に眠っていた第1使徒『アダム』。
完全な裏死海文書によれば、余計な事さえしなければ半永久的に眠り続けたはずであった。
しかし、裏死海文書を利用しようとした冥界は写本にその部分については、アダムがいずれ目を覚ますと改竄したのだ。
完全な裏死海文書は、霊界の超重要封印指定文書として霊界の最高執政官以外解けない封印によって守られていたのだ。
コエンマは、自分の権限でその封印を解除し、完全な裏死海文書を解読させたのだ。

SEELEが時間稼ぎのために葛城調査隊に『ロンギヌスの槍』を渡し、アダムを卵まで還元させた計画も……本来、必要ではなかったのだ。いや、むしろその行為が使徒襲来の原因になってしまったのだ。
こうなると、裏死海文書をSEELEに渡した者の正体もわかろうというものだった。

「犯人は……冥界に連なる者……ですね」

「うむ、恐らくな……」

「……そういえば、冥界の王はどうなっているのですか?」

「……冥界の王の名は、『耶雲』……奴は先の戦争の折、闇宇宙に封印されている」

冥界が、霊界に戦争を仕掛けたのは……魔界に原因がある。
冥界は、魔界を管理仕切れなかったのだ。S級妖怪を御することが出来ず、むしろS級妖怪たちに反発されもはや秩序もヘッタクレもなかった。元々、魔界は力あるものが全ての世界……冥界は王である耶雲さえ、A級レベルの力しかなかった。
自分達よりも力のない冥界の支配を受ける筋合いはないという理由により、冥界をないがしろにしていたのだ。
霊界の閻魔大王もA級レベルだが、人間たちにとってA級妖怪は伝説の生物、もしくはある宗教の神として崇められている者もいる……更に閻魔大王は人間たちから見れは畏怖の対象なので、支配しやすい。
故に冥界は、魔界より支配しやすい人間界を欲し、霊界に挑んだのだ。
霊界に敗北した冥界は、起死回生の手段として、霊界と冥界に伝わっていた『裏死海文書』を利用することを思いついた。内容を都合よく改竄し……人間に渡し、実行させようとしたのだ。
滅びた冥界を、人間界に出現させる為に……。

「今、SEELEが行おうとしている人類補完計画に似たようなことを当時の人間達にさせようとしたのだ。それが発動すれば……全ての生物はLCLの海に還ってしまう……。そのLCLの海の上に冥界を出現させようとしたのだ。だが、いち早くそれに気付いた霊界は、改竄された裏死海文書の写本の奪取に成功し、それをたくらんだ者たちも全員処分した。それで、終わったはずだったのじゃが……」

「……生き残りがいた。そして、当時の戦争が忘れかけられた1000年後の今にそれを再び、画策した……という訳ですね……しかし、何故…人々をLCLの海にする必要があるのでしょうか?冥界を出現させるためだけなら…そのままでもかまわないでしょうに…」

冥界が出現すれば、人間界は冥界に潰されてしまうだろうに。

「……恐らく、人間界の全生物を生贄し……闇宇宙の耶雲を呼び戻すつもりだろう……冥界が出現すれば、それで死んでしまった者達の魂は、全て霊界に来てしまう……しかし、LCLにしてしまえば……」

「魂は、霊界に行かず……冥界が生贄に使用できる……という訳ですか」

「うむ、霊界があるかぎり、冥界は人間の魂を集めることはできぬからな……耶雲が存在していたときなら……干渉できたかも知れぬが…」

「耶雲不在の冥界では……霊界に干渉して死者の魂を集めることはできない……だから人々の魂を霊界に渡さないために、LCLにする必要があるわけですか……」

耶雲を復活させるために、耶雲の力がいる……それでは意味がないのは確かであった。

「とりあえず……まだ、完全に解読できたわけではないが……裏死海文書に記された使徒についてを纏めた物がこれだ」

コエンマは、使徒についてわかっていることを纏めた物を、蔵馬に渡した。

使徒を生み出した生命の起源、『アダム』
人類を生み出した生命の起源、『リリス』

水を司る使徒、『サキエル』
昼を司る使徒、『シャムシェル』
雷を司る使徒、『ラミエル』
魚を司る使徒、『ガギエル』
音楽を司る使徒、『イスラフェル』
胎児を司る使徒、『サンダルフォン』
雨を司る使徒、『マトリエル』
空を司る使徒、『サハクィエル』
恐怖を司る使徒、『イロウル』
………以上が、今まで襲来した使徒。

夜を司る使徒、『レリエル』
霰を司る使徒、『バルディエル』
力を司る使徒、『ゼルエル』
鳥を司る使徒、『アラエル』
子宮を司る使徒、『アルミサエル』
自由意志を司る使徒、『タブリス』
………以上が、これから襲来する使徒。

「能力については……?」

「まだ、そこまでは解読されていない……恐らく、お前の母もそこまでは解読しておるまい」

「そうですか……しかし、あと6体とわかっただけでも……」

「すまんな。とにかく……裏に冥界がいるとわかった以上、絶対に阻止しなくてはならん。頼むぞ、蔵馬!」

☆      ☆

『SEELE』……それは、様々な人種により構成された謎の組織である。
彼らは現在、人類補完委員会特別会議などというものを開いていた。
SEELEの実行機関であるNERVの司令、碇ゲンドウもこの会議に出席していた。
第3使徒『サキエル』から第11使徒『イロウル』までの……これまでに襲来した使徒の記録を検証していた。

「第11使徒。襲来の事実は現在未確認。NERV本部への直接進入の流説あり」

「いかんな、これは」

「さよう、早過ぎる」

「使徒がNERV本部へ侵入するなど予定外だよ」

「まして、セントラルドグマへの進入を許すとはな」

「もし、接触が起これば全ての計画が水泡と化したところだ」

ゲンドウを取り囲むSEELEのメンバーは、口々に彼をなじるように会話を交えていた。

「委員会への報告は誤報、使徒侵入の事実はありません」

ゲンドウは、やっと重い口を開いた。
この男……本気でそんな戯言が通じるとでも思っているのだろうか?否、証拠がないためしらばっくれているだけであろう。

「では、碇。第11使徒侵入の事実はないというのだな?」

「はい」

「気をつけて喋りたまえ碇君!この席での偽証は死に値するぞ」

「MAGIのレコーダーを調べてくださっても結構です。その事実は記録されておりません」

そんなもの、簡単に書き換えられる事ぐらい誰にでもわかることである。

「笑わせるな碇!事実の隠蔽は君の十八番ではないか」

「タイムスケジュールは死海文書の記述通りに進んでおります」

「まあいい。今回の君の罪と責任は問わない」

キールはこの件を不問に付すことを決定した。

「だが、君が新たなシナリオを作る必要はない」

「わかっております。全てはSEELEのシナリオ通りに」

☆  ☆  ☆

街。人の造り出したもの。
EVA。人の造り出したもの。
人は何?神様が造り出したもの?
私にあるものは命。心。心の入れ物。
エントリープラグ、それは魂の座。
これは、誰?
私は何?私は何?私は何?私は何?
私は自分。この物体が自分。自分を作っている形。目に見える私。でも私が私でない感じ。
とても変。体が溶けていく感じ。私が分からなくなる。私の形が消えていく。
私でない人を感じる。
誰かいるの?この先に……。
あなた誰?あなた誰?あなた誰?

《どうレイ?久しぶりに乗った初号機の感想は?》

通信越しに赤木博士の声が聴こえる……この人は嫌い。嫌でもあの男に対する不快さを思い出させる。でも、必要なことだから耐える。

「……蔵馬君の匂いがする……」

初号機は、大好きな蔵馬君の匂いがする。とても落ち着いていく。蔵馬君の匂いが、残っている暖かさが……私を落ち着かせる。先程の不快さが消えていく。
蔵馬君が傍にいてくれるなら、私はもう何も怖くない……。
蔵馬君………貴方がいてくれるなら……。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

第一回相互互換試験、一人目の被験者、綾波レイ。
彼女の試験は滞りなく終了した。
この試験は、パーソナルパターンが酷似している初号機、零号機の間でパイロットを交換するというものだ。
引き続き、二人目の被験者、碇シンジ。
蔵馬の試験が始まろうとしていた。

「零号機のパーソナルデータは?」

「ハイ、書き換えは既に終了しています。現在再確認中です」

「被験者は?」

「特に問題ありません」

「へぇ~初めての機体なのにね」

レイと違い、零号機にははじめて乗る蔵馬だが、特に気負いをしてはいなかった。

《ねぇ、あたしはその相互互換試験やらなくでいいの?》

ひとりだけ別の試験をしていたアスカがリツコに問う。

「やってもいいわよ。でも、アスカは弐号機以外、乗る気はないでしょう」

《まあ、そうだけど……》

なんだか、蔵馬とレイが同じ試験をしていることに、少し嫉妬しているアスカであった。しかし、先程リツコの言ったとおり、弐号機以外には乗りたくなかった。特に零号機には……。
大分、マシになってきたとはいえ、まだ、レイとアスカの仲は良いとは言えなかった。
レイは、とりあえずアスカと会話はする。ゲンドウやリツコとは口も聞きたくないが……アスカとはまだ、会話はできるのだ。それでも……レイはまだアスカを嫌っていた。
アスカも、蔵馬といるレイはともかく…他の人間に対してはまだまだ人形のように無表情なレイになんとなく、嫌悪感があった。蔵馬といるときは笑ったり泣いたりしているので、それほど不快にはならない……もとい、別の意味で不快になる。自分よりも、蔵馬と仲がいいレイに……嫉妬心を感じている。

「どう、シンジ君?零号機のエントリープラグは」

《いつもと、違いますね……》

「そう、それじゃあ違和感とかないかしら」

《……特にありませんね……強いて言うなら…レイの匂いがします…》

《やらしいこと言ってんじゃないわよ!シンジ!!」

アスカが、蔵馬に怒鳴った。嫉妬まるだしで……。

「アスカ…気持ちは解らないでもないけど……試験中よ。静かにして」

ミサトがアスカに注意をした。

「データ更新再確認。パターングリーン」

「主電源、接続完了」

「各拘束問題なし」

「了解、では相互換テスト、セカンドステージに入るわよ」

「……先輩、やはりシンクロ率は初号機ほどではありませんね」

「……でも、レイのシンクロ率より上だわ……少し予定外だけど……例の計画を実行できるわね」

リツコの台詞にマヤの表情が曇った……。

「……ダミーシステムですか……先輩の前ですけど……私はあまり……」

「マヤ、感心しないのはわかるわ……でも、人が生きていく為にも常に備えは必要なのよ」

「先輩を尊敬してますし……自分の仕事はします。でも……納得はしません!!」

「潔癖症はつらいわよ。生きていくのが……汚れたと感じたときわかるわ」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

蔵馬は、零号機からレイを感じていた。
しかし、彼の知っているレイではなかった。
その彼女は………。

(そうか、君が……一人目の『綾波レイ』……赤木ナオコが殺した……レイか…)

蔵馬は彼女の哀しみを感じ取った。

(……辛いのか……ただ利用されるだけの自分が……寂しいのか……こんなところに閉じ込められたのが……誰も、君の苦しみを理解できないのだな……レイでさえも……一人目の君と向き合っていなかったのだから……」

一人目のレイは歓喜の涙を流した。
やっと、自分を見てくれる人が現れたことを……二人目の自分さえ、最初は自分の存在に戸惑ったのに……自分を拒絶せず、自分に温もりを与えてくれたこの人に……一人目のレイは、心を許していた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

「先輩、これ!!」

「!!シンクロ率……98.75パーセント!?そ……そんな…」

蔵馬と零号機のシンクロ率が、初号機とのシンクロ率と極めて等しくなった。
蔵馬が一人目のレイを受け入れ、一人目のレイが蔵馬を受け入れた結果であった。
この試験の目的はレイを元にしたダミーシステムの開発のためのもの……しかし、レイよりも蔵馬のほうが好成績を叩き出してしまった。
この皮肉な結果にリツコは、溜息をついた。

☆      ☆

「………シンジ君の言った通り……か」

加持は、蔵馬からの情報の裏を取っていた。
マルドゥック機関は、やはり蔵馬の言った通りダミーであり、蔵馬のクラス『コード707』はチルドレン候補生の集まりであった。

「シンジ君の提案……シンジ君と手を組む……それが、一番確実に真実に近付く手段……だが…」

蔵馬を裏切れば……死より辛い地獄が待っている……だが………。

「いや、シンジ君を裏切らなければいい。それに……」

加持はけっこう蔵馬を気に入っていた。自分ですら、緊張して接していたゲンドウに対し、あれ程優位な状態で会話ができる。底が知れないが……基本的には不快ではない。
むしろ、敵対しなければあれ程、頼りになる存在はいないのではないか?
真実さえ教えてもらえるのなら……彼のために何かしてもいいのではないか。少なくとも、SEELEやゲンドウに付いて使い捨てられるより……蔵馬と組んだ方が、少なくとも……後悔はしないのではないか.加持はそう考えていた。
それに、人としての魅力もゲンドウより、蔵馬の方が遥かに上である。

「よし……第3新東京市に戻ろう。そして……」

3重から4重スパイになる。しかも、これから組む相手が本命だ。
加持は決心した。

☆  ☆  ☆

「…デ……デート?……なんであたしが、知らない男とデートしなきゃならないのよ?」

アスカは、ヒカリから姉の友達の大学生とデートして欲しいと頼まれていた。

「お願い、アスカ。コダマお姉ちゃんが、安請け合いして……私は断ったんだけど、お姉ちゃんに泣きつかれちゃって」

ようするに、ヒカリに頼めばOKと安請け合いして……というか、何か取引したようだ……というのがヒカリの話である。

「そんなの、あたしには関係ないじゃない。困るのはヒカリのお姉さんでしょう!!」

アスカとしては、蔵馬か加持ならともかく、何で他の男とデートしなくてはならないのか……ということになってくる。
しかし、ヒカリはアスカにとって初めて出来た同年代の親友である。アスカはヒカリには結構感謝していたのである。
アスカも自分の性格が、友人を作るのに不向きである事は自覚していた。大学を卒業していたアスカは、同年代の人間をガキだと思っていたが、それは、孤独に対する誤魔化しでしかなかった。そんな自分と、親友になってくれたヒカリのために少しは何かしてやってもいいと考えていた。

「……しょーがないわね。でも、気に入らなかったら直ぐ帰るわよ!それでいいわね」

「ありがとう、アスカ」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

「へぇ~、アスカは明日デートか……」

ミサトがからかい口調でアスカに絡んできた。

「うるさいわね……ヒカリの顔を立ててやっただけよ…それよりミサト、ラベンダーの香水貸してよ」

「子供のするものじゃないわ」

「ケチ!!」

あっさり断られ膨れるアスカ。

「……ところで、ファーストは明日なにしてるのよ?」

自分の居ない間に蔵馬といちゃつかれたらたまらないとばかりに、レイに問いただす。

「……明日は、蔵馬君と一緒に、蔵馬君のお母さんのお墓参り……」

『蔵馬と一緒』の部分が引っ掛かるが、それよりも……

「お墓参り?」

「明日は、シンちゃんのお母さんの命日なのよ……リツコに聞いたけど碇司令も毎年、行っているようよ……」

「へぇ~~~あの髭がね……なんかイメージに合わないわね…」

「……去年までは、あの男に付き合わされていたけど……今年からは蔵馬君と一緒に行くの…」

レイは、去年まではゲンドウのお供をしていた。そのあと、一緒に食事をしていたが……今のレイにとってそれは忌むべき記憶である。去年までは、命令だから何も考えずにお供をしていた。実は、今年も共をするよう言われたが丁重に無視していた。しかし、蔵馬と一緒に行くとなると話は別である。
蔵馬を産んでくれた人に感謝するため、蔵馬と一緒にお参りしようと思うレイであった。

「ミサトはどうするのよ?」

「私は明日、友人の結婚披露宴に出席するわ、リツコと加持の奴も一緒だけどね」

☆      ☆

披露宴が始まった。
しかし、ミサトの隣の席……加持の席には誰も座っていなかった。

「来ないわね……加持君…」

「あの馬鹿が、時間通りに来た事なんていっぺんも無いわよ!!」

「デートの時はでしょ。仕事の時は違っていたわよ」

貴女と違ってね……とリツコは心の中で付け足していた。
確かに遅刻常習犯のミサトが言っていい台詞ではない。

「よう、お二人さん。今日は一段とお美しい……仕事が抜けられなくてな…」

やっと現れた加持の格好は……普段ずぼらなミサトの目から見てもだらしなかった。

「どうでもいいけど、どうにかならないの?その無精髭……ほら!ネクタイ曲がってる」

小言を言いつつ甲斐甲斐しく世話を焼くミサト。
蔵馬がその場にいればこう思うだろう
『その甲斐甲斐しさを普段から自分自身にやってくれ』……と…。
そんな2人を見てリツコが冷やかした。

「まるで夫婦みたいね」

「いいこと言うね、りっちゃん!」

「誰がこんな奴と!!」

加持は満面の笑みを浮かべるが、ミサトは不快そうに吐き捨てた。

☆  ☆  ☆

あたし、惣流・アスカ・ラングレーは現在、呆れ果てていた。
ヒカリの姉の紹介でデートしている大学生……後藤タクヤ。
確かにルックスは悪くない。しかし、やはりシンジと比べれば一枚も二枚も落ちる……。
何より気に入らないのは、あたしをアクセサリー代わりにしている事だ。
要するに、仲間に自慢したいだけなのだ。
どうやらあたしの事は、第壱高校のみならず近隣の中学、大学まで話題になっているようだ(まあ、あたしの美貌を持ってすれば当然よね)。最も、広まった原因は変態メガネ・相田の隠し撮り写真が出回ったのが原因のようだけど……。
先程から、何人かのこいつの友人に自慢げに紹介していた。
あたしはアンタの、所有物じゃないわよ!!って、怒鳴ってやりたくなる。
それはともかく、あたしが今、呆れているのは浮かれきって近くのヤンキーにぶつかって因縁をつけられていることだ。
こいつはビビリまくっていた。
さっきは、『自分は強い』……なんて言っていたのだが、口だけだったようだ。

「おら、人にぶつかっといてすいませんで済むか、コラァ!!」

「詫びに財布の中身とその姉ちゃんを置いてけや!!」

「は……はい!わかりました!!失礼します!!!」

そういうとあたしと財布の中身を置いてトンズラしていった。

「ちょ…ちょっと……」

もう、あたしは完全に呆れ果てた……ここまでだらしの無い奴だなんて…デートしている相手を売り渡すとは…。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

アスカの周りには5,6人転がっていた。
そこいらの不良が幼い頃より軍事教練を受けたアスカに敵うはずも無く…アスカにちょっかいを出そうとした連中は叩きのめされた。
しかし、変にプライドの高い奴らである。
アスカを何とかしようと携帯で仲間を呼び集め、その場にいるのは20人以上になっていた。
流石のアスカも、雑魚とはいえ20人を相手には出来ない。

「へへっ、よくもやってくれたな。お前は今から俺達で輪姦してやるよ」

下卑た笑いがあたりに響いた。

(くっ、不味いわね……こんな奴らの慰み者になるのだけは嫌だし……NERVの保安部の連中はなにしてるの?)

ちなみにNERVの保安部員は、サボっていた。
今日のアスカの担当者は、サボりの常習であった。今まで何事も起こらなかったので、チルドレンのガードを甘く見すぎているのだ。
現在、喫茶店でウェイトレスのお姉さんを口説いていた。

「おいおい、大勢で女1人を囲むとは情けねぇな!!」

声のする方に視線を向けると、煙草を咥えた少年が立っていた。

「ラーメン屋!?」

アスカの叫びに、少年は肩を落とした。

「おいおい、俺の名前は聞いてるだろ。ラーメン屋はねぇだろ……」

そのとき、ヤンキーの1人が驚愕の声を上げた。

「て……てめえは……う…浦飯…浦飯ユウスケ!」

そう、少年はユウスケだった。

「あん、誰だオメー?」

「浦飯、テメー!累ヶ淵中で番張ってた、和田ヘイサク様を忘れたのか!!」

「和田……知らね~な…でも、累中のバカ共の1人か…って、累中の連中、グループのトップは必ず累中で番張っているって主張するんだよな……」

累ヶ淵中学。
ユウスケの通っていた皿屋敷中学と三図野川を隔てた対岸に位置する不良しかいない中学で、通称『極道予備校』。
ここの不良学生達は、ユウスケと桑原に喧嘩を売っては返り討ちに遭い続けていた。

「へっ、ここで会ったが百年目って奴だ。浦飯、覚悟しやがれ!野郎共、かかれ!!」

アスカを無視し、ユウスケに襲い掛かる不良たち。

「散々、俺に負けといて懲りねぇな……累中のバカは……まあいいや、ハンデをつけて、左手だけでやってやるよ…」

ユウスケは、彼らを迎え撃った。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

「何なのよ……こいつ……」

あたしは目の前の状況に呆然としていた。
ラーメン屋は、宣言どおり左手だけで、20人はいる不良たちを叩きのめしていた。
しかも、所要時間……2分ジャスト。
単純計算で、1人を6秒で倒したことになる。
シンジといい、こいつといい、何で小さい頃から軍事教練を受けてきたあたしより強いのよ?

「あ~あ……つまらなぇ喧嘩しちまったぜ……」

ラーメン屋はいかにも不満そうな顔をしていた。

「ユウスケ……何処にいるの?」

何か、女性の声が聴こえてきた。

「ケイコか。ここだ……」

ラーメン屋がその女性に自分の居る場所を教えている。現れたのは、十分美人の範疇に入る(あたしには負けるけど)女性が現れた。

「何よ、せっかく久しぶりに遊びに行くのに喧嘩なんかしていたの……」

ケイコっていう女はラーメン屋をジト目で見ていた。

「ちょっと、蔵馬と知り合いの女が絡まれていたから助けただけだよ」

「蔵馬君の……なら、しょーがないわね…大丈夫でした?」

「ええ、アンタの彼氏のお蔭で助かったわ…ありがとう」

……こいつもシンジのことを『蔵馬』って呼んでいる……あたしは、何時になったらシンジに認められるんだろう……やっぱり、ファーストコンタクトが不味かったわね……。

「いえいえ、こんな事にしか役に立たない奴ですから、気にしないでください……さぁ、ユウスケ!早く遊園地に行こ!!」

どうやらラーメン屋たちもデートのようだ……。
あたしは、あたしを見捨てて逃げたバカの財布を拾い、中に入っていた遊園地のチケットを取り出した。

「遊園地に行くんなら、お礼にこのチケットをあげるわ」

あたしはチケットを2人に差し出した。

「えっ、でもいいんですか?」

「ええ、行く予定だったんだけど……ムカついたから、あたしはもう帰るから……」

「貴女もデートの予定だったんですね」

「そうだけど、あたしを見捨てて逃げるような奴とは付き合いでも、デートなんかしたくないわ!!」

あたしは、今回の経緯を2人に説明した。

「なるほど……さっき、泣きながら走ってった奴が居たけど……そういうことかよ……情けねぇ奴だな」

どうやら、ラーメン屋はあのバカとすれ違ったようだ。

「そういうことなら、ありがたく戴きます。ありがとうございます……え~っと……」

ケイコって女が口ごもる……そういえば、自己紹介していなかったわね。

「ああ、自己紹介してなかったわね。あたしは惣流・アスカ・ラングレー、シンジのクラスメイト兼職場の同僚よ」

「じゃあ、年上の方ですね。初めまして雪村ケイコです。こっちは、幼馴染の浦飯ユウスケ…それじゃあ、失礼します。蔵馬君によろしく伝えておいてください」

そういうと、ラーメン屋とケイコは去っていった。
家に帰ろうと歩き出してからしばらくしたら、あのバカがいきなり現れた。

「やあアスカちゃん、無事だったんだね。警察を呼んだからもう大丈夫、さあ、遊園地に行こう」

いけしゃあしゃあとほざく、このバカの顔面にこいつの財布を叩き付けた。

「お生憎様。デートの相手を見捨てて逃げるような臆病者とデートする程、酔狂じゃないわ!遊園地のチケットは、助けてくれた人にお礼として渡したわ。じゃあ、さよなら!!」

このバカの横を素通りしようとしたら、いきなり肩を掴まれた。

「そんな、待ってよアスカちゃ……ヘブッ!!」

馴れ馴れしいバカの顔面に裏拳を食らわして、あたしは帰路に着いた。

☆      ☆

蔵馬はレイを伴い、母、碇ユイが眠っている(ことになっている)墓地に来ていた。
母の墓標に近付いたとき、レイの表情が変わった。会いたくも無い男の姿を見たからだ。

「……シンジと…レイ…か…」

ゲンドウは不快感を隠さず、呟いた。
本来、レイに自分の共をさせ、その後、ダミー開発の実験とある作業をさせ、その後食事をしようとしていたが、レイは、あろうことか蔵馬と共にここに来た。だが、一応レイはここに来たので、その後同行させればよいと考えていた。
まだ、レイは自分の言う事を聞くと思っているのだ。
自分と来なかったのは、蔵馬と来るから一緒だと思ったのだろうと考えている。
はっきり言って、自信過剰の愚か者である。

「3年ぶりだな、お前とここに来るのは……」

「……その後は、1人でここに来ていたからな……父さんとは、時間が合わなかったようだ」

ゲンドウは毎年、ここを訪れていた。
蔵馬も毎年、ここを訪れていた。
しかし、3年前から2人が出会う事はなかった。
特に昨年は、蔵馬は黄泉の参謀として忙しく、とてもゆっくり墓参りができる状況ではなかったので、墓前に花を供えて直ぐ帰っていた。

「……毎年、来ているようだね…」

「……ああ」

蔵馬の問いにゲンドウは短く答えた。

「そういえば、母さんの写真は……残っていないのか?」

「……ああ」

「……やはり、全部捨てたのか…」

蔵馬は嘆息した。

「この墓も飾りだ……遺体はここにはない……全ては胸の中だ……今はそれでいい」

「……それは、父さんの勝手な考えだろう。少なくとも、俺は母さんの息子だ。俺の分くらい残しておいてもいいだろうに……いや、父さんにそこまで期待するのは無理か……父親の責任を放棄している愚者には……な」

蔵馬はそう吐き捨てると、その場から離れる。
レイはゲンドウと一度も目を合わさず、蔵馬と共にその場を離れようとした。
そのとき、ゲンドウがレイに声を掛けた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

「レイ、お前はこの後やる事がある。私と共にNERV本部に来い!」

碇司令は、私にそう命令した。
やる事……ダミーの開発……私の魂を弄ぶ実験……嫌!…もうこれ以上、この男に利用されるのは……もう嫌!!

「……嫌です。私は蔵馬君とこのまま帰ります!!」

私は、碇司令にそう言い蔵馬君の後を追おうとした。

「命令だ、レイ!!」

碇司令は、何か焦ったような顔になり、私に命令する。
でも、私はもうこの男に従うつもりはない。

「嫌!!もう貴方の命令は聞かない……私はこれからは、蔵馬君と共にある」

「レイ!?私を裏切るのか……レイ!!」

「私は貴方の人形じゃない!!」

私の叫びに、碇司令は絶句したようだ。

「私は貴方じゃないもの……」

「レイ!待ってくれ!!」

「駄目、蔵馬君が呼んでいる」

「レイ!!」

碇司令が余りにも惨めに見えた。でも、何の感慨も湧かない。
もはやこの男は、私にとっては鬱陶しい存在でしかない。信頼も恐怖も感じない。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

思わぬレイの造反にゲンドウは戸惑った。
そして、ようやく理解した。
もはや、レイは自分が与えた枷から完全に逃れている事を……。
そして、その原因が自分の息子であることを……。
レイは、自分を待っていてくれた蔵馬の傍に近寄った。

「……じゃあ、帰ろう…」

「……うん」

笑顔で応え、蔵馬と共に墓地を後にした。

「……蔵馬君……腕……組んでも……いい?」

テレビドラマで見た恋人同士を思い出し、同じ事がしたくなったレイは蔵馬に頼んだ。

「ああ、いいよ」

蔵馬は微笑んで了解する。
レイは蔵馬の腕に自分の腕を絡ませた。
蔵馬の温もりを気持ちよさそうに感じていた。
そして、そんな2人をVTOLからゲンドウが見ていた。

「…おのれ、シンジ……お前は俺からいつも大切なものを奪っていく」

ゲンドウは一度も息子に愛情を向けたことはなかった。
彼にとって、無条件にユイの愛情を一身に受ける息子は妬ましい存在である。
しかし、息子を蔑ろにするとユイに嫌われる。故にユイの前では、息子を可愛がる振りをしていた。
ユイがEVAに取り込まれた後は、計画のためでもあるが……なにより、妬ましい息子を育てる気が全くなかったのだ。だから伯父夫婦に預けた。
計画通りなら、脆弱で利用しやすい性格になる筈であった。
しかし、現実には父親である自分を無能呼ばわりし、卓越した能力で戦闘を行う存在になっていた。
そして、更にユイともう一度会うために必要な存在であるレイまで奪われ、それが殺意に変わった。
もはや、息子は彼にとっては、憎むべき存在になったのである。

☆  ☆  ☆

帰宅した蔵馬とレイは、デートに出かけたはずのアスカに出迎えられた。

「遅かったわね。あたし、お腹空いてんの……なんか作ってよ、シンジ」

「……デートに行ったんだろ……てっきり夕食は済ませてくると思ったんだが……」

アスカは忌々しげに経緯を説明した。

「……なるほど、ユウスケに……ね」

「あとケイコから、シンジによろしくってさ」

「そうか、ケイコちゃんはユウスケとデートか……」

蔵馬は微笑ましくも初々しい、幼馴染カップルのことを思い浮かべた。

「……ねえ、シンジ!お腹空いたってば……」

「はいはい、わかりました。すぐ用意するから待ってろ」

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夜、遅くに加持に背負われたミサトが戻ってきた。
どうやら、いろいろ会ってこの2人はヨリを戻したようだ。

「…あーあ。加持さんは結局、ミサトのモノになっちゃったか……」

「…ハハハ…」

加持は笑うしかなかったようだ。

『気付いたのよ、加持君が私の父に似てるって。自分が男に父親の姿を求めてたって……それに気付いたとき、怖かった……どうしようもなく怖かった』

加持は先程二人で飲んでいたときのミサトの言葉を思い出していた。

『その上、こうやって、都合のいいときだけ男に縋ろうとする、狡い女なのよ。あの時だって、加持君を利用していただけかも知れない。嫌になるわ』

どんどん、自虐的になるミサトの言葉を強引なキスで遮った。

(葛城……俺のお前への気持ちは…あの時から変わっていない……俺は、これからもお前だけを……)

「加持さん。ありがとうございました」

蔵馬が加持を労っていた。

「いや、ところでシンジ君……」

「なんですか?」

「君と組む事にするよ…」

加持は以前の蔵馬の提案を了承する旨を伝えた。

「わかりました。では、こちらの準備が整い次第、加持さんに真実を渡しましょう」

「……期待しているよ……シンジ君…」

☆      ☆

ターミナルドグマ。
そこに貼り付けにされている巨人に、南極から持ってきた『ロンギヌスの槍』を機械で突き刺していた。
本来、レイの零号機にやらせるつもりだったが……明確にレイがゲンドウから離反したため、機械で行うしかなかった。

「先日、キール議長から計画遅延の文句がきたぞ……俺のところに直接。相当、イラついていたな。終いにはお前の解任もちらつかせていたぞ」

機械操作をしながら、冬月はゲンドウにSEELEからの苦情を告げた。
流石に、ターミナルドグマ内の巨人については、トップシークレット故に、一般の作業員を使うわけにはいかず、副司令自らが操作する羽目になっていた。

「アダムは順調だ。ダミープラグについても情報は渡している。老人達は何が不満なんだ?」

「肝心の人類補完計画が遅れている」

「全ての計画はリンクしている。問題ない……」

「レイに造反されているのにか……」

冬月の突っこみにゲンドウは押し黙った。

「まさか、レイがお前より、シンジ君をとるとは……まあ、自業自得だがな」

冬月に答えないゲンドウは目には、息子に対する殺意が浮かんでいた。
息子を殺す気のゲンドウに、冬月は何も言わなかった。
あれだけ、恐怖を受けたのに、まだ、蔵馬を甘く見ている救いがたい2人であった。