真琴・・・

真琴の記憶は・・・

俺の中にずっとある・・・・

俺の中にだけはある・・・・

真琴は存在した・・・

真琴は確実に存在したのだ・・・
~the fox and the grapes~
"あの少女"
神陰るな
「うぅ~ん」

朝、外から鳥のさえずりがかすかに聞こえる

外はすっかり雪が溶け

真っ白だったキャンバスに街色の絵の具で

春の風景が描かれていた

今まで雪の景色しか見ていなかったせいか

春の景色に多少とまどいを覚える

「この景色、"あいつ"に見せたかったな」

そんな様なことを言って祐一は自室を出た




朝食・・・

「秋子さん、朝食2階で食べて良いですか?」

「2階?自分の部屋で食べるんですか?」

「いいえ」

その返事を聞いた秋子さんは少し考え

「良いですよ、食器はちゃんと持ってきてくださいね」

「ありがとうございます」



俺は自分の朝食と

牛乳の入ったそこの浅い皿を持って

"あの部屋"へ入った

「にゃぁ~」

声の主はぴろだ

俺は窓のそばに座り

隣に牛乳の入った皿を置いた

ぴろがその牛乳を一生懸命飲んでいる

その姿を見たら心が和み少し笑みが出た

そう言えば、"あの少女"が夜中に牛乳をやって

ぴろが腹をこわして夜中に起こされたりしたっけ

「他にも"あいつ"はいつも夜中に事件を起こしたよな」

祐一は誰にともなくつぶやいた

そう、"あの少女"はいつも夜中に事件を起こし・・・

俺や秋子さんを困らせていた・・・

発煙式の殺虫剤を人の部屋に放置したり・・・

花火を人の部屋に投げ込んだり・・・

本当に困った奴だった・・・

だけど、今思うと・・・

記憶を無くし、唯一の手がかりだった俺に・・・

かまってほしいがためにやった事かもしれない・・・

そう、"彼女"は記憶を無くし、独りぼっちだった・・・

そんな中、俺のことが無性に憎いという記憶が・・・

俺と彼女を引き合わせた・・・

そんなことを考えてるうちに朝食を食べ終え

ぴろも牛乳を飲み終えて部屋の隅で寝ていた





午後・・・

自分のベッドで雑誌を読んでいた俺は

出かける支度をしだした

出かける場所は商店街のコンビニ

毎日肉まんを買う場所だ

支度を終え1階へ下りたとき

「・・・・そうですか"沢渡さん"は・・・」

その声は客間からだった

俺は声のした客間へ走った

「バタンッ!!」

荒々しく戸を開けた

「祐一さん、どうしたんですか?そんなにあわてて」

俺は秋子さんの声など耳に入らなかった

そして、さっきの声の主に向かい訪ねた

「"真琴"を、"真琴"のことを何か知ってるんですか!!?」

「"真琴"がどうかしたんですか!!?」

突然の事に声の主は驚きで声が出なかった

「祐一さん、落ち着いてください」

「この方は真琴がアルバイトしていた保育所の所長さんよ」

秋子さんが説明してくれた

俺は自己紹介をし

保育所の所長さんに"あの少女"の事を訪ねた

「所長さん、"真琴"のこと教えてください。」

その祐一さんに保育所の所長さんはこう答えた

「今日ここに来たのは"沢渡さん"にもう一度アルバイトに来てほしくて来たのよ」

祐一はその答えにちょっととまどいを覚えた

なぜなら"あの少女"は人見知りが激しく

祐一以外とはほとんど話さないからだ

それは秋子さんや名雪が相手でも同じだった

そのためアルバイトに行っても人と話せず

遠くから楽しそうな姿を見ることしかできないであろうから

そう"あの少女"はアルバイトが出来るほど器用ではないのだ

それは祐一が一番知ってることであり

そのためにアルバイトを"やめさせられた"のだからだ

だから祐一は訪ね返した

「何故真琴にもう一度アルバイトを?」

「真琴は人と話すことすら出来ず、遠くから見てることしか出来なかったのでは?」

すると所長さんはこう答えた

「"沢渡さん"は、私たち他の従業員とはうち解けられなかったけど」

「子供達とは仲が良かったみたいなの」

「子供達とは?」

「えぇ、子供達とは仲が良かったみたいです。」

「確かに、私たち従業員が居ると部屋の隅で私たちや子供達を寂しそうな目で見てるだけでした」

「だけど、私たち従業員が何かの理由で子供達を置いて部屋を出たとき」

「多分子供達の方から沢渡さんを誘って一緒に遊んでたみたい何です。」

「そんなこと私たち従業員はまったく知りません」

「私たちは、隅で寂しそうな目をしている沢渡さんしか知らなかったんです」

「ですから、アルバイトをやめて貰ったんです」

「そしたら子供達が私たちに"沢渡さん"の事を聞いてくるんです」

「『もうあのおねーちゃん来ないの?』とか『あのおねーちゃんと遊びたい』とか」

「そんなことが・・・」




・・・・・・・・・・・・・・・・




しばしの沈黙




・・・・・・・・・・・・・・・・




「話してくれてありがとうございます。」

「いえいえ、私はそろそろ帰りますね」

「玄関まで見送ります」

祐一は秋子さんと保育所の所長さんを見送りに出る

最後に祐一は

「真琴のこと忘れないでやってください」

と保育所の所長さんに一言伝えた

所長さんの姿が見えなくなった後祐一は秋子さんに言った

「真琴はやっぱり居たんですよね・・・」

「俺、買い物に行ってきます。」

秋子さんが何か言う前に祐一は歩き出した





肉まんを買い"あの部屋"でぴろと一緒に肉まんを食べている

祐一はさっきの話を思い出していた

もしかしたら子供たちの純粋さが"あの少女"の心を少しほどいたのかもな・・・

祐一は自分の知らない"あの少女"の一面に驚きとうれしさを覚え

また、"あの少女"の"記憶"を持つ人に出会えたことがうれしかった・・・

"あの少女"の"記憶"を持つ人・・・

"あの少女"の"存在の証"持つ人に会えたことがうれしかった・・・

"あの少女"の"記憶"・・・

"あの少女"の"存在の証"・・・

"あの少女"は存在するのだ・・・

"あの少女"は今も生きている・・・

そう"あの少女"は祐一の知らないところでも生きているのだ・・・

記憶として・・・

"あの少女"・・・

沢渡真琴の・・

存在の証は今も生きている・・・

記憶として・・・

真琴の存在は・・・


おわり
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