あゆの居ない日常
るる~
原作:Kanon
第三話
季節は進み、
極寒の地だったここにも夏がやってきた。

「うあ~、寒いのは嫌だったけど、暑いのもやっぱりダメだー」

「祐一、前に住んでたところはここよりもっと暑かったんだよね?」

「そうなんだけどなぁ・・・人間の体は寒暖の差に敏感らしい」

「私はやっぱり暖かいほうがいいなぁ」

もう暖かいってレベルじゃねーだろ?

ぴんぽ~ん♪

「あ、友美かな?」

鳴ると同時に駆け出す名雪。

「こんにちはーーー」

んで、威勢良くリビングに現れる友美。

「やっぱり友美か・・・こんな暑いのだからもっと面白い登場の仕方をしろ!」

「うわ、私には完全に全然全く関係の無い言い掛かりきましたよ?」

「ごめんね、友美」
「祐一、暑さでやられちゃったみたいだから・・・」

「まて、名雪!」
「さすがにこの程度ではやられないし、もしやられてたらみんな無事じゃいられないぞ!」

「えぇ!そんな、祐一・・・信じてたのに」

「見境無しなのね・・・さよなら祐一」

お前ら、今の言葉で何を想像したんだ?

「ったく、冗談だって!いつだって俺は友美一筋だ」

「・・・馬鹿」

名雪に冷たく言われる。

「・・・あほ」

友美にも冷たく言われた。

「で、今日は何処に行こうって言うんだ?」

友美に言う。
最近は毎日のように、こいつに連れ出されてばっかりだ。
そう、俺と友美はいつの間にか恋人という関係になっていた。

「どこって、この街には商店街ぐらいしかないでしょ」

名雪は、そんな関係を知ってから、しばらくは様子がおかしかった。
でも、今ではそれを、快く受け入れてくれてると思う。

「・・・まあ、たしかにな」

「だが、しかし!今日は違うのだよ祐一!」

友美が唐突に何かを見せつける。

「・・・あ、これって今話題のホラー映画?」

映画チケットだ。
一緒に見に行こうということだろう。

「あの評判の映画の続編ってやつか?」

「そうそう、デートにホラー映画・・・基本でしょ?」

「基本かもしれんが・・・ホラー映画を女の子から誘うなよ」

「だって、面白そうだし~」
「ちゃんと、隙あらば抱きつくよ?」

・・・隙があるから抱きつくってどうなのよ?
しかし、ホラー映画か・・・。
どうしても、あゆのことを思い出してしまう。

「あ、もしかして、祐一怖いの?」

「そんなわけあるか」

「そうだよね~、じゃ行こう行こう~」

友美に連れられてたどり着いた映画館。
やはり、あの映画館だ。
まあ、ここに他に無いから当たり前なのだけど。

「きゃー!」
「うわわ!えぇ!?いや、そんなのやめてーっ!!」

映画を直視できず、終始悲鳴を上げ続ける友美。
もう抱きつくどころではない。

そして、周りにとっては大迷惑だ。

「・・・おまえ、ものすごい臆病じゃんか」

いや、あゆに比べればまだ良い方か。
もし、あゆだったら・・・
見ないで蹲ってるだけだったろうな。

「う~ん、さすがに話題の作品だ、なかなか面白かったなー」
「続編って、期待外れなの多かったけど、これは裏切らない内容だったな」

「う・・・うん、そうだね」

疲弊しきった感じで友美が答える。

「おまえ、結構臆病だったんだな」

「うん・・・幽霊って理解不能だし、ゾンビってグロテスクだし・・・」

「え?好きだったからホラーにしたんじゃなかったのか?」

「正直苦手、かも・・・」

「訳のわからん奴だな、苦手だったんなら、なぜ?」

「・・・ごめんね、試したんだ」

え?
試したって何をだ?
突然、友美は理解できないことを言う。

「やっぱり、私には勝ち目なかったんだね」

いったい何を言っているんだ?
勝つ?友美が?誰にだ?

「ずっと、私じゃない人のことを考えてたでしょ?」
「祐一は・・・祐一君だね」

なぜ今更、祐一君と呼ぶ?
勝てない?一体誰にだ?

「祐一君、二人でいる時も、時々呆けてたよ・・・」
「私じゃなくて・・・あゆさんのことを思い出していたんだね」

あ!?

「違う!友美、俺はお前のことが・・・」

「分かってるよ、祐一君は私を好きになってくれた」
「でも・・・一番にはなれなかった」

・・・友美、なんでお前はそんなことを?
俺は、それでも、お前と居ることを選んだのに・・・。

だって、あゆはもう・・・。

「行こう、あの場所に」

「あの場所?」
「どこのことだ?」

「思い浮かぶでしょ・・・あの切り株の場所・・・」

「それは、どういうことだ?」

「ごめんね・・・私、知ってたんだ・・・」

知っていた?何をだ?

「・・・永遠」

!?

「私ね・・・逃げてきたんだ」

それっきり話そうとしない友美。

歩くこと数十分、あゆとの秘密基地にたどりついていた。

大きな切り株。
7年前、ここに大きな木が立っていた。
それに、あゆが登って、そして・・・。

友美が語り始める。

「幼馴染で、大好きで・・・でも、私に振り向いてくれなかった人」

「その人はね・・・消えちゃったんだよ」

「ごめんね、ひとつだけ嘘ついちゃった」

「私ね・・・ここが、地元じゃないの」


7年前、どうしようもなく好きな人が居て


でも、その人は・・・消えてしまって


苦しくて悲しくて・・・
壊れてしまいそうだった・・・
でも、誰にも理由は言えず、塞ぎ込んでしまったしまった私・・・

それを見かねた両親はここへ引っ越すことにしたの


「永遠・・・ってなんだ?何のことだ?いったい何の話なんだ?」


「・・・彼はね、ただ永遠を求めて消えてしまったの」


訳が分からない、彼?永遠?消えた?
俺とあゆのことに、何の関係があるって言うんだ?


「私ね、祐一君のこと・・・」


「出会ったときから・・・」


「あの白い並木道を一緒に歩いてから・・・」


「見ず知らずの、心を閉ざして塞ぎ込んでいた私を、連れ出してくれた」


「・・・7年前、俯いているだけだった私を連れ出してくれた」


・・・え?
もしかして、昔から俺は友美のことを知っていた?
知っていたはずなのに、忘れてしまっていたのか?


「すっごい意地悪で、ぶっきらぼうで」


「でも、それで私は、救われたの・・・」


「強引で、引っ張りまわされて」


「だから・・・きっと、この人と居れば忘れられるって」








『なあ、おまえ、すっげー暗い奴だな』


『・・・』


『あっ!待てよ!』


『泣きそうな顔でいきなり帰ろうとするな!まるで俺が悪いことしたみたいじゃないか』


『・・・いきなり、悪口言ったじゃん』


『悪口?暗い奴って言ったことか?』


『・・・すっげーってのが抜けてる』


『ああ、分かったよ俺が悪かった』


『・・・そうだね、さよなら』


『だから待てって!』


『放っておいて!』


『だめだ、見ちまったからな』


『・・・え?』


『こんなんじゃ、気分が悪い!帰る前に笑わせてやるからな』


『・・・なんで?』


『なんでもだ、行くぞ!』


『え?まって、引っ張らないで!わっ、うわわっ!』


『まずはゲーセンだな、俺のUFOキャッチャーの腕前を見せてやる』


『次に買い食いだ、何が良い?』


『商店街に出ればいろいろあるぞ』


『お勧めのたこ焼き屋があるんだ』


『あ、甘い物の方が好きか?俺は甘いものは好きじゃないけど』


『でも、ひとつだけ好きなのがあるんだ』


『出店のタイヤキだ、今日あったら行ってみるか?』


『ほら、いろいろ回るんだからな』


『もっと、もっと早くだ!』



「引っ張られて、連れまわされて・・・嫌だったのに・・・」


「放っておいてほしかったはずなのに・・・いつの間にか、私笑っちゃってて」


思い出した。
そういえば、そんな女の子と出合っていた。


「あの時の女の子が・・・友美だったのか?」

「ははっ、今の友美からは、全く結びつかないよな」


「覚えてるわけ・・・ないよね」

「たった一度だけ、そのあとにあゆさんみたいな事があったら・・・普通忘れてしまう」


あの頃は、俺も子供だった。
冒険心で街を歩き回ってたんだったな。


そんな時に、そういえばいろいろな出会いがあったと思う。
確か、友美とは7年前にこっちに来て、その日か?次の日ぐらいか?


人気の無い小さな公園・・・

ブランコと、滑り台が無理やり押し込められた公園。

友美は、確かそこに座っていたはず。


あまりに寂いしいその場所で、今にも消え入りそうな女の子。


それを見たとき、声を掛けなきゃって気持ちになって、話しかけたんだ。


「あの時はごめんな、いきなり酷いこと言ってたよな」


「最初はむっと来ちゃったけど・・・いいよ」

「今にしてみれば、祐一君の解り難い優しさからきた言葉だなって思うしね」


「なんだよそれ、俺は別に優しくなんか・・・」


「優しいよ・・・祐一君は・・・」


「私ね・・・ずっと探してた、毎日のように商店街に行って」


「でも、会えなくて」


「それでも、ずっとずっと探してた」


「そしたらね、おかしいんだ・・・遊びに来てたクラスメートと毎日のように出会っちゃって」


「いつの間にか打ち解けて、友達になってた」


「祐一君とはもう会えないのかもしれない、そう思うようになった頃には・・・」


「友達もたくさんできて、意外と寂しくなかったりもしてね」


今にも泣き出しそうになる友美。


「だから、大丈夫なはずだった・・・」


「謝らないといけないのは私の方なんだ」


「・・・何を言って?どう見ても苦しめてるのは俺の方じゃないか!?」

「隠してた・・・とっても」

「祐一君にとっては、とっても大切なこと・・・」


隠していた?
秘密にしていたことがあるってことか?
再会してから?それとも昔からか?


「友美・・・それは、なんのことか聞かせてくれるのか?」


「・・・うん」

友美は切り株の方へ向く。
俺を見ながらは、話せないことなのか・・・。


「祐一君が転入してきて・・・私はすぐに気付いたよ」


「あの時の男の子だって」


「運命なんてものがあるのかも、なんて思っちゃった」


「でも、祐一君は私を覚えてなくて・・・」


「戸惑ったな、どうしようどうしようって考えながら、でも祐一君を追っかけてた」


「あはは、ストーカーみたいだね、私・・・」


「そこでね、見ちゃったんだ、あゆさんと並んで歩く祐一君を」


「すごい仲が良さそうで、二人ともずっと笑顔で・・・」


「悲しかった、私の入り込む隙間なんて無いなって」


「でもね、気づいてしまった・・・」


「彼と同じだなって」


彼?

例の消えてしまった彼か?


同じ?

消えてしまったあゆ。

消えてしまった彼。

同じなのか?


「友美・・・なんでそれを、もっと早く言わなかったんだ!?」


「その時に教えてもらってたら、止めようもあったんじゃないのか?」


対策が分かってなかったとしても、事前にそれを知っておけば何かできたはずではないのか!


「・・・ないよ」


「・・・はっ?」


「知ってても、知らなくても、そうなってしまったら終わり」


「私が何もしなかったって思う?」


「消えてしまうことも、事前に知った」


「もちろん、抗ったよ・・・必死に抗った」


「残ったのは・・・私の中だけの彼の記憶」


「でも、その記憶も、日に日に消えて行って・・・今ではもう、大好きだった彼が居たって程度」


そうか・・・


「なら、それを知らないままなら、俺もすぐに忘れると思ったのか」


「・・・うん」


「あとね・・・」


「あゆさんが消えたら・・・」


「そしたら・・・私に向いてくれるかもしれないって」


「・・・ごめんね、酷いよね」


「消えてしまえばいいなんて思ってしまった!」


「あの場所で、声をかけたのもそうなの」


「あなたが傷ついてることを確認して・・・優しくして・・・」


「最低なんだ・・・私」



「違うだろ」


「友美は、臆病になってただけだ」


「・・・祐一君?」


「大好きな人が消えてしまった後なら、そんなことをしてしまう」


「知ってるなら、好きな人がそばに居てくれるなら・・・」


「俺だって、きっとなんだってしてしまう・・・」


「今は、それが理解できるからな」


「・・・ありがと、祐一君」


泣きそうな顔だった友美が、微笑んだ。


「なんだってする、か・・・」


「だったら、なおさらだね」


でも、一瞬のこと。


「・・・あぁ、そうだな」


再び泣き出しそうな顔で・・・。


「祐一」


震える声で・・・。


「ごめんなさい・・・私と・・・私と、別れてください」


いつの間にか始まっていた友美と俺の関係。


「・・・あぁ、さよなら友美」


なのに最後は、こんなにはっきりとした形で終わらせることになってしまった。


「うん・・・さようなら、祐一」


別れの言葉を言い、俯いたまま動かない二人。


5分が経ち、10分が経ち・・・


それでも動かない。


そう、このまま離れてしまっては意味がない。


「相沢君」


ようやく友美が声を出した。


落ち着いたか?大丈夫か?
そんな声を掛けたかった、でも掛けれない。


『相沢君』と呼んだ友美は、もう・・・。


「私と相沢君は、もうただの友達」


「だからね、私のことも森崎って呼んでね」


「あぁ、分かってるよ、森崎」


「うん、それで良し」


無理やりが見て取れてしまう笑顔。


でも、それに合わせる。


「じゃ、ここからは親友としての質問にする」


俺は友人ではなく、親友と呼んだ。


勝手なことだ、普通別れた男女が友人でいられることも少ないというのに。


でも、男女の関係が無くてもおれは森崎を助け、助けられる関係になりたいと思ったから。


「・・・おう、どんと来い」


森崎もそう言った。


「遠慮なく行くぞ」


「彼の時は・・・森崎しか覚えてないんだよな」


「うん」


「あゆの時は・・・俺はともかく、森崎は覚えてたな」


「そうだね、そこでもう私の時とは状況が違うね」


「消えることが分かっていながら、覚えていようと願っていないと覚えていられるはずがない」


「じゃあ、名雪が覚えていないというのは・・・?」


・・・嘘ということなのか?


「たぶん、私の時とあまりに違いすぎて分からないけど、私はあゆさんを・・・忘れることはなかった」


そうか、森崎自身も、あゆを忘れるって思ってたのか。


そしたら・・・たぶん、森崎と幸せに過ごせていたんだろうな。


「あと、7年前に何があったのか、私は知らなかった」


そういえば、森崎とあゆは面識はなかったな。


「だから、あなたと歩いてるあゆさんが、あの月宮あゆだなんて全然気付かなかった」


は?
また意味の分からないことを言う森崎。


「でもね・・・これ以上は言えない」


「・・・どうしてだ?」


「だから、最低の女だって言ったでしょ」


「あなたがあゆさんのことをあきらめたら、いつか私のところに・・・」


「森崎・・・」


「冗談、あなたは自分で辿り着かないといけないの」


「あゆさんが、どうなったのか・・・私はもちろん知ってるよ」


・・・そうか、やっぱり、そのぐらいは知っていたんだな。


「あなたが会っていた女の子、それが月宮あゆ・・・だったなら」


「あなたは・・・奇跡を起こさなきゃならない」


「最後の願い・・・使えなかった」


最後の・・・願い?


「相沢君」


「・・・心を強く持って」


「きっと、伝わる・・・から」


普通なら理解しがたい森崎の言葉。


でも・・・


『・・・彼はね、ただ永遠を求めて消えてしまったの』


常識では起こりえないこと。


それを、知っている友美が言うのであれば。


「わかった、信じ続ける」


「うん、それが大事だと思う。だから頑張ってね、相沢君」


「・・・それじゃ」


「また・・・明日ね」


「ああ、じゃあな」


ほんとは、別れを告げた時に俺から離れたかったはずなのに。


「・・・うん」


最後まで、強く。


「今日は・・・ありがとうな」


震える声を抑えて。


「・・・こんなの、友達なら当たり前でしょ?」


友達として、別れの挨拶をする森崎。


なんでもないかのように、ゆっくりと街への道へ向かい、消えていった。



「また、苦しめてしまったな・・・」


俺は・・・やっぱり後悔している。


「あゆ・・・ごめんな」


切り株へ向き直す。


「俺、友美のことを本気で好きなんだ」


ずっと一緒に居られたら・・・そう願うほどだった。


「でもな・・・」


やっぱり、お前じゃないとダメらしいんだ・・・。


「・・・あゆ」


どんな結果になっても。


「俺は辿り着くよ」


必ず、見つけ出してやるからな。






夢が、また別の色に染まっていく・・・。



うん・・・約束、だよ。






おわり