季節は進み、
極寒の地だったここにも夏がやってきた。

「うあ~、寒いのは嫌だったけど、暑いのもやっぱりダメだー」

「祐一、前に住んでたところはここよりもっと暑かったんだよね?」

「そうなんだけどなぁ・・・人間の体は寒暖の差に敏感らしい」

「私はやっぱり暖かいほうがいいなぁ」

もう暖かいってレベルじゃねーだろ?

ぴんぽ~ん♪

「あ、友美かな?」

鳴ると同時に駆け出す名雪。

「こんにちはーーー」

んで、威勢良くリビングに現れる友美。

「やっぱり友美か・・・こんな暑いのだからもっと面白い登場の仕方をしろ!」

「うわ、私には完全に全然全く関係の無い言い掛かりきましたよ?」

「ごめんね、友美」
「祐一、暑さでやられちゃったみたいだから・・・」

「まて、名雪!」
「さすがにこの程度ではやられないし、もしやられてたらみんな無事じゃいられないぞ!」

「えぇ!そんな、祐一・・・信じてたのに」

「見境無しなのね・・・さよなら祐一」

お前ら、今の言葉で何を想像したんだ?

「ったく、冗談だって!いつだって俺は友美一筋だ」

「・・・馬鹿」

名雪に冷たく言われる。

「・・・あほ」

友美にも冷たく言われた。

「で、今日は何処に行こうって言うんだ?」

友美に言う。
最近は毎日のように、こいつに連れ出されてばっかりだ。
そう、俺と友美はいつの間にか恋人という関係になっていた。

「どこって、この街には商店街ぐらいしかないでしょ」

名雪は、そんな関係を知ってから、しばらくは様子がおかしかった。
でも、今ではそれを、快く受け入れてくれてると思う。

「・・・まあ、たしかにな」

「だが、しかし!今日は違うのだよ祐一!」

友美が唐突に何かを見せつける。

「・・・あ、これって今話題のホラー映画?」

映画チケットだ。
一緒に見に行こうということだろう。

「あの評判の映画の続編ってやつか?」

「そうそう、デートにホラー映画・・・基本でしょ?」

「基本かもしれんが・・・ホラー映画を女の子から誘うなよ」

「だって、面白そうだし~」
「ちゃんと、隙あらば抱きつくよ?」

・・・隙があるから抱きつくってどうなのよ?
しかし、ホラー映画か・・・。
どうしても、あゆのことを思い出してしまう。

「あ、もしかして、祐一怖いの?」

「そんなわけあるか」

「そうだよね~、じゃ行こう行こう~」

友美に連れられてたどり着いた映画館。
やはり、あの映画館だ。
まあ、ここに他に無いから当たり前なのだけど。

「きゃー!」
「うわわ!えぇ!?いや、そんなのやめてーっ!!」

映画を直視できず、終始悲鳴を上げ続ける友美。
もう抱きつくどころではない。

そして、周りにとっては大迷惑だ。

「・・・おまえ、ものすごい臆病じゃんか」

いや、あゆに比べればまだ良い方か。
もし、あゆだったら・・・
見ないで蹲ってるだけだったろうな。

「う~ん、さすがに話題の作品だ、なかなか面白かったなー」
「続編って、期待外れなの多かったけど、これは裏切らない内容だったな」

「う・・・うん、そうだね」

疲弊しきった感じで友美が答える。

「おまえ、結構臆病だったんだな」

「うん・・・幽霊って理解不能だし、ゾンビってグロテスクだし・・・」

「え?好きだったからホラーにしたんじゃなかったのか?」

「正直苦手、かも・・・」

「訳のわからん奴だな、苦手だったんなら、なぜ?」

「・・・ごめんね、試したんだ」

え?
試したって何をだ?
突然、友美は理解できないことを言う。

「やっぱり、私には勝ち目なかったんだね」

いったい何を言っているんだ?
勝つ?友美が?誰にだ?

「ずっと、私じゃない人のことを考えてたでしょ?」
「祐一は・・・祐一君だね」

なぜ今更、祐一君と呼ぶ?
勝てない?一体誰にだ?

「祐一君、二人でいる時も、時々呆けてたよ・・・」
「私じゃなくて・・・あゆさんのことを思い出していたんだね」

あ!?

「違う!友美、俺はお前のことが・・・」

「分かってるよ、祐一君は私を好きになってくれた」
「でも・・・一番にはなれなかった」

・・・友美、なんでお前はそんなことを?
俺は、それでも、お前と居ることを選んだのに・・・。

だって、あゆはもう・・・。

「行こう、あの場所に」

「あの場所?」
「どこのことだ?」

「思い浮かぶでしょ・・・あの切り株の場所・・・」

「それは、どういうことだ?」

「ごめんね・・・私、知ってたんだ・・・」

知っていた?何をだ?

「・・・永遠」

!?

「私ね・・・逃げてきたんだ」

それっきり話そうとしない友美。

歩くこと数十分、あゆとの秘密基地にたどりついていた。

大きな切り株。
7年前、ここに大きな木が立っていた。
それに、あゆが登って、そして・・・。

友美が語り始める。

「幼馴染で、大好きで・・・でも、私に振り向いてくれなかった人」

「その人はね・・・消えちゃったんだよ」

「ごめんね、ひとつだけ嘘ついちゃった」

「私ね・・・ここが、地元じゃないの」


7年前、どうしようもなく好きな人が居て


でも、その人は・・・消えてしまって


苦しくて悲しくて・・・
壊れてしまいそうだった・・・
でも、誰にも理由は言えず、塞ぎ込んでしまったしまった私・・・

それを見かねた両親はここへ引っ越すことにしたの


「永遠・・・ってなんだ?何のことだ?いったい何の話なんだ?」


「・・・彼はね、ただ永遠を求めて消えてしまったの」


訳が分からない、彼?永遠?消えた?
俺とあゆのことに、何の関係があるって言うんだ?


「私ね、祐一君のこと・・・」


「出会ったときから・・・」


「あの白い並木道を一緒に歩いてから・・・」


「見ず知らずの、心を閉ざして塞ぎ込んでいた私を、連れ出してくれた」


「・・・7年前、俯いているだけだった私を連れ出してくれた」


・・・え?
もしかして、昔から俺は友美のことを知っていた?
知っていたはずなのに、忘れてしまっていたのか?


「すっごい意地悪で、ぶっきらぼうで」


「でも、それで私は、救われたの・・・」


「強引で、引っ張りまわされて」


「だから・・・きっと、この人と居れば忘れられるって」
あゆの居ない日常
第三話
るる~
『なあ、おまえ、すっげー暗い奴だな』


『・・・』


『あっ!待てよ!』


『泣きそうな顔でいきなり帰ろうとするな!まるで俺が悪いことしたみたいじゃないか』


『・・・いきなり、悪口言ったじゃん』


『悪口?暗い奴って言ったことか?』


『・・・すっげーってのが抜けてる』


『ああ、分かったよ俺が悪かった』


『・・・そうだね、さよなら』


『だから待てって!』


『放っておいて!』


『だめだ、見ちまったからな』


『・・・え?』


『こんなんじゃ、気分が悪い!帰る前に笑わせてやるからな』


『・・・なんで?』


『なんでもだ、行くぞ!』


『え?まって、引っ張らないで!わっ、うわわっ!』


『まずはゲーセンだな、俺のUFOキャッチャーの腕前を見せてやる』


『次に買い食いだ、何が良い?』


『商店街に出ればいろいろあるぞ』


『お勧めのたこ焼き屋があるんだ』


『あ、甘い物の方が好きか?俺は甘いものは好きじゃないけど』


『でも、ひとつだけ好きなのがあるんだ』


『出店のタイヤキだ、今日あったら行ってみるか?』


『ほら、いろいろ回るんだからな』


『もっと、もっと早くだ!』



「引っ張られて、連れまわされて・・・嫌だったのに・・・」


「放っておいてほしかったはずなのに・・・いつの間にか、私笑っちゃってて」


思い出した。
そういえば、そんな女の子と出合っていた。


「あの時の女の子が・・・友美だったのか?」

「ははっ、今の友美からは、全く結びつかないよな」


「覚えてるわけ・・・ないよね」

「たった一度だけ、そのあとにあゆさんみたいな事があったら・・・普通忘れてしまう」


あの頃は、俺も子供だった。
冒険心で街を歩き回ってたんだったな。


そんな時に、そういえばいろいろな出会いがあったと思う。
確か、友美とは7年前にこっちに来て、その日か?次の日ぐらいか?


人気の無い小さな公園・・・

ブランコと、滑り台が無理やり押し込められた公園。

友美は、確かそこに座っていたはず。


あまりに寂いしいその場所で、今にも消え入りそうな女の子。


それを見たとき、声を掛けなきゃって気持ちになって、話しかけたんだ。


「あの時はごめんな、いきなり酷いこと言ってたよな」


「最初はむっと来ちゃったけど・・・いいよ」

「今にしてみれば、祐一君の解り難い優しさからきた言葉だなって思うしね」


「なんだよそれ、俺は別に優しくなんか・・・」


「優しいよ・・・祐一君は・・・」


「私ね・・・ずっと探してた、毎日のように商店街に行って」


「でも、会えなくて」


「それでも、ずっとずっと探してた」


「そしたらね、おかしいんだ・・・遊びに来てたクラスメートと毎日のように出会っちゃって」


「いつの間にか打ち解けて、友達になってた」


「祐一君とはもう会えないのかもしれない、そう思うようになった頃には・・・」


「友達もたくさんできて、意外と寂しくなかったりもしてね」


今にも泣き出しそうになる友美。


「だから、大丈夫なはずだった・・・」


「謝らないといけないのは私の方なんだ」


「・・・何を言って?どう見ても苦しめてるのは俺の方じゃないか!?」

「隠してた・・・とっても」

「祐一君にとっては、とっても大切なこと・・・」


隠していた?
秘密にしていたことがあるってことか?
再会してから?それとも昔からか?


「友美・・・それは、なんのことか聞かせてくれるのか?」


「・・・うん」

友美は切り株の方へ向く。
俺を見ながらは、話せないことなのか・・・。


「祐一君が転入してきて・・・私はすぐに気付いたよ」


「あの時の男の子だって」


「運命なんてものがあるのかも、なんて思っちゃった」


「でも、祐一君は私を覚えてなくて・・・」


「戸惑ったな、どうしようどうしようって考えながら、でも祐一君を追っかけてた」


「あはは、ストーカーみたいだね、私・・・」


「そこでね、見ちゃったんだ、あゆさんと並んで歩く祐一君を」


「すごい仲が良さそうで、二人ともずっと笑顔で・・・」


「悲しかった、私の入り込む隙間なんて無いなって」


「でもね、気づいてしまった・・・」


「彼と同じだなって」


彼?

例の消えてしまった彼か?


同じ?

消えてしまったあゆ。

消えてしまった彼。

同じなのか?


「友美・・・なんでそれを、もっと早く言わなかったんだ!?」


「その時に教えてもらってたら、止めようもあったんじゃないのか?」


対策が分かってなかったとしても、事前にそれを知っておけば何かできたはずではないのか!


「・・・ないよ」


「・・・はっ?」


「知ってても、知らなくても、そうなってしまったら終わり」


「私が何もしなかったって思う?」


「消えてしまうことも、事前に知った」


「もちろん、抗ったよ・・・必死に抗った」


「残ったのは・・・私の中だけの彼の記憶」


「でも、その記憶も、日に日に消えて行って・・・今ではもう、大好きだった彼が居たって程度」


そうか・・・


「なら、それを知らないままなら、俺もすぐに忘れると思ったのか」


「・・・うん」


「あとね・・・」


「あゆさんが消えたら・・・」


「そしたら・・・私に向いてくれるかもしれないって」


「・・・ごめんね、酷いよね」


「消えてしまえばいいなんて思ってしまった!」


「あの場所で、声をかけたのもそうなの」


「あなたが傷ついてることを確認して・・・優しくして・・・」


「最低なんだ・・・私」



「違うだろ」


「友美は、臆病になってただけだ」


「・・・祐一君?」


「大好きな人が消えてしまった後なら、そんなことをしてしまう」


「知ってるなら、好きな人がそばに居てくれるなら・・・」


「俺だって、きっとなんだってしてしまう・・・」


「今は、それが理解できるからな」


「・・・ありがと、祐一君」


泣きそうな顔だった友美が、微笑んだ。


「なんだってする、か・・・」


「だったら、なおさらだね」


でも、一瞬のこと。


「・・・あぁ、そうだな」


再び泣き出しそうな顔で・・・。


「祐一」


震える声で・・・。


「ごめんなさい・・・私と・・・私と、別れてください」


いつの間にか始まっていた友美と俺の関係。


「・・・あぁ、さよなら友美」


なのに最後は、こんなにはっきりとした形で終わらせることになってしまった。


「うん・・・さようなら、祐一」


別れの言葉を言い、俯いたまま動かない二人。


5分が経ち、10分が経ち・・・


それでも動かない。


そう、このまま離れてしまっては意味がない。


「相沢君」


ようやく友美が声を出した。


落ち着いたか?大丈夫か?
そんな声を掛けたかった、でも掛けれない。


『相沢君』と呼んだ友美は、もう・・・。


「私と相沢君は、もうただの友達」


「だからね、私のことも森崎って呼んでね」


「あぁ、分かってるよ、森崎」


「うん、それで良し」


無理やりが見て取れてしまう笑顔。


でも、それに合わせる。


「じゃ、ここからは親友としての質問にする」


俺は友人ではなく、親友と呼んだ。


勝手なことだ、普通別れた男女が友人でいられることも少ないというのに。


でも、男女の関係が無くてもおれは森崎を助け、助けられる関係になりたいと思ったから。


「・・・おう、どんと来い」


森崎もそう言った。


「遠慮なく行くぞ」


「彼の時は・・・森崎しか覚えてないんだよな」


「うん」


「あゆの時は・・・俺はともかく、森崎は覚えてたな」


「そうだね、そこでもう私の時とは状況が違うね」


「消えることが分かっていながら、覚えていようと願っていないと覚えていられるはずがない」


「じゃあ、名雪が覚えていないというのは・・・?」


・・・嘘ということなのか?


「たぶん、私の時とあまりに違いすぎて分からないけど、私はあゆさんを・・・忘れることはなかった」


そうか、森崎自身も、あゆを忘れるって思ってたのか。


そしたら・・・たぶん、森崎と幸せに過ごせていたんだろうな。


「あと、7年前に何があったのか、私は知らなかった」


そういえば、森崎とあゆは面識はなかったな。


「だから、あなたと歩いてるあゆさんが、あの月宮あゆだなんて全然気付かなかった」


は?
また意味の分からないことを言う森崎。


「でもね・・・これ以上は言えない」


「・・・どうしてだ?」


「だから、最低の女だって言ったでしょ」


「あなたがあゆさんのことをあきらめたら、いつか私のところに・・・」


「森崎・・・」


「冗談、あなたは自分で辿り着かないといけないの」


「あゆさんが、どうなったのか・・・私はもちろん知ってるよ」


・・・そうか、やっぱり、そのぐらいは知っていたんだな。


「あなたが会っていた女の子、それが月宮あゆ・・・だったなら」


「あなたは・・・奇跡を起こさなきゃならない」


「最後の願い・・・使えなかった」


最後の・・・願い?


「相沢君」


「・・・心を強く持って」


「きっと、伝わる・・・から」


普通なら理解しがたい森崎の言葉。


でも・・・


『・・・彼はね、ただ永遠を求めて消えてしまったの』


常識では起こりえないこと。


それを、知っている友美が言うのであれば。


「わかった、信じ続ける」


「うん、それが大事だと思う。だから頑張ってね、相沢君」


「・・・それじゃ」


「また・・・明日ね」


「ああ、じゃあな」


ほんとは、別れを告げた時に俺から離れたかったはずなのに。


「・・・うん」


最後まで、強く。


「今日は・・・ありがとうな」


震える声を抑えて。


「・・・こんなの、友達なら当たり前でしょ?」


友達として、別れの挨拶をする森崎。


なんでもないかのように、ゆっくりと街への道へ向かい、消えていった。



「また、苦しめてしまったな・・・」


俺は・・・やっぱり後悔している。


「あゆ・・・ごめんな」


切り株へ向き直す。


「俺、友美のことを本気で好きなんだ」


ずっと一緒に居られたら・・・そう願うほどだった。


「でもな・・・」


やっぱり、お前じゃないとダメらしいんだ・・・。


「・・・あゆ」


どんな結果になっても。


「俺は辿り着くよ」


必ず、見つけ出してやるからな。






夢が、また別の色に染まっていく・・・。



うん・・・約束、だよ。






おわり
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