学校の帰り道。

あたりを見渡せば緑に萌える木々。
桜の木もすでに緑一色。
雪に包まれていた町は、一足遅い春を迎え、
その全てを変えた。

そういえば、もう制服の衣替えの時期だ。
薄着になっていく女の子達。
食い入るように見てやる!
のだけど、今は・・・

季節は変わって行く。
あの冬の思い出に縛られた俺を残して・・・。



あれからどれだけの月日が経ったのか。


受け入れる?


受け入れない?


割り切った?


割り切れない?


結局、あゆが居ない現実に、
自らの心に・・・

答えを、未だに出せずにいる。


だって・・・あゆは居たんだ!
確かに今なら、全てを思い出せる。

あの大木の下で。
抱きしめていた・・・夕焼けに染まる視界を滲ませて。
失った・・・
失ったんだ・・・


容赦無く


触れる者の熱と色彩を奪う


真っ白な雪


熱を赤を


吸い込んでいく


自らを染め、形を変えてしまうものを


躊躇無く吸い込んでいく・・・


同じ・・・


赤い雪と同じ温度


赤い雪と同じ色彩


もう・・・動かない


俺は、それでも・・・


あゆを抱きしめて!


だから、7年前にあゆは・・・



でも、俺は・・・
あゆと、この町を歩いて!
あのベンチで待ち合わせて!

そうだ、ホラー映画が怖いって蹲っていた。
みそ汁の作り方がわからなくて、そのまま人参を入れたりした。
病気になった秋子さんを本当の親のように心配して、
そして看病してた・・・。

なんで・・・誰も、それを覚えてないんだろう?
いや、全員に確認したわけじゃなかった。

でも、一度だけ聞いたことがある。
名雪に。

僅かな間だけだったけど、一緒に暮らしていたはずの友達。
それを忘れるはずがない。

けれど・・・返ってきた答えは残酷だった・・・。
『え?あゆ・・・ちゃん?』
『・・・そんな子、居たかなぁ?』
あゆの居ない日常
第二話
るる~
俺はどうすればいいのだろう?

「祐一」

心が・・・

「今日も部活があるから、先に帰っててね」

悲しみで・・・

「ああ、頑張れよキャプテン」

麻痺したままなら・・・

「う~、部員でも無いのにそんな呼び方しないでよ祐一~」

時が過ぎれば、人は忘れ行くはず。

「俺は商店街に寄ってから帰るけど」
「何か買っておくものってあるか?」

どんな不幸も、どんな幸せも・・・

「今日は特にないかな」

いつか・・・

「ああ、分った」
「じゃ、普通にぶらついてくる」

立ち直れるはず

「うん、じゃあね祐一」

それまでは・・・

「んじゃな、キャプテン」

「う~、あんまりキャプテンって言わないで~・・・」

名雪の訴えはもちろん却下で昇降口に向かう。

商店街に行くと言ったけど、特段目的も無い。
なんとなく商店街に行くのが日課になってしまっているだけ。
今日も、ぶらぶらと歩いて・・・

「祐一君!」

「!?」

呼び止められた。
意識して歩いてた訳ではないが、ここは・・・あのコンビニ。
あゆに襲われた場所だ!

振り返る。
そこには・・・

「あ・・・」
「・・・友美?」

「あ~、やっと名前覚えてくれたんだね」

「・・・あ、悪い」

「ん?どうして?」

「いや・・・いきなり馴れ馴れしく名前で呼んじまった」

「・・・」
「あはははっ、そんなこと気にする人だったんだ、祐一君って~」
「もっと軽い人なのかと思っちゃってたよ」

え?
馴れ馴れしいなんて思わせるような行動なんてしたか?

「だって、まだ祐一君が転校してきてすぐだったのに・・・」
「あれ・・・?」
「どんな名前の人だったっけ?」
「・・・えっと?」
「あ・・・・・・・ゆ」

!?

「そうだ!あゆって子!」

「まだ真冬の頃、このコンビニで傘買った後、
一緒に入って歩いて行ったでしょ~」

「私、覚えてるんだからね」

「こっちに引っ越してきたばっかりだってのに、呼び捨てにして、
なおかつその子と一緒に傘さして歩いてるんだもん」

一瞬、理解できなかった。
まさか、あゆの名前がでるなんて・・・。

「クラスメイトじゃない子には手が早いんだなって思っちゃったよ~」
「・・・って、あれ?どうしたの祐一君?」

「あ、いや・・・どうもしてないぞ」

「そう・・・この間よりもっと変な顔になってるよ?」
「そうね、具体的に言うと・・・ウーパールーパーな感じかな」

「おまえ・・・その例えは酷すぎると思うぞ?」

「え~、ウーパールーパーかわいいよ?」

「じゃあ、今の俺は可愛いのか?」

平静を装う。
だけど・・・

「・・・可愛いかどうかは自己の想像に任せますよ」

「おまえなぁ・・・」

なんで友美から、あゆの名が出たのか。
この町に来てからのあゆの記憶は、俺だけしか覚えてなかったはずなのに・・・。

「ねえ、祐一君」

「・・・ん?」

「今、お暇かな?」

「ああ、特に用事も無いけど?」

「そっか、なら・・・一緒にあそぼ♪」

「え?」

唐突な友美の申し出に困惑する。
友美とは、今まで名雪を挟んでの知り合いでしかなかった。
いきなり二人きりで遊ぶと言っても・・・。

「あれ?なんでそこで呆然とするの?」
「・・・あーっ!もしかして、エッチな遊びを想像したとか!?」

「ちょっと待て!」
「そんな想像は一切していない!」

「そっか・・・残念。私って魅力無いんだね・・・しくしく」

「残念なのかよ・・・ってか、絶対に俺をからかってるだろ?」

「からかい半分かな、祐一君もこういう事言える関係の方がいいでしょ?」

「あ・・・」

もしかして、友美は俺を気遣ってこんな話をしているのか?
だとしたら、感謝するべきだろう。

「・・・ああ、そうだな」
「ありがとう」

「うっわ!?祐一君が、らしくないこと言ってる!」
「こ、これは・・・110番した方が良いのかな?」

「お礼を言ったぐらいでそこまでするんじゃない!」

突っ込みを入れようと軽くチョップする。

「おおっと!甘い!!」

が、華麗に避けられた・・・。

「うお!避けただと!?きさまニュータイプか!?」

「ぷ、なにそれ?今時ガンダムネタ?あははははははっ」

友美は大声で笑い出す。
こんな沈んだ俺に、名雪すら今の俺から避けてしまっているのに・・・。
それなのに・・・心から接して、その上で笑ってくれている。
・・・心地良い。

春の風のような快さで、俺の深く、
その底に澱んでいたものを吹き飛ばされた気がした。

友美からあゆの名前が出ても、現実は何も変わらない。
もし、このままあゆを忘れてしまえるのなら・・・。
それでも良いかもしれないと思ってしまう。

「・・・いいんじゃない?」

・・・え?

「詳しくは知らないけど・・・辛いこと、あったんじゃないのかな?」
「でもね、いつまでもそんなんじゃ、ダメだと思うよ」

「・・・ああ、そうだ。そうだよな」
「でも、なんで気付かれたんだ?
 平静を装ってたんだけどな、これでも」

「あの変な顔で~?」

「い、いや、あの顔はだから生まれ付きで・・・」

「あはは、冗談冗談」

・・・でも
君が来た日から、ずっと見ていたから分かっちゃったんだ。

「ん?今何か言ったか?」

微かに聞こえた・・・気のする友美の言葉。

「・・・な、何も言ってないよ」
「それでさ、遊びには行ってくれるのかな?」

話を戻された。
まあ、気のせいか。

「そうだな、いくか」

と言って歩き出す。

「うん、行こー」

二人、色彩を取り戻した街を行く。
不思議な感じだ。
まるで新しい街で・・・。
隣には、あゆでもなく名雪でもない女の子・・・。


もし、このまま・・・


真白だった街の記憶を、塗り替えてくれるなら


「ん?どうしたの祐一君?」

しまった、ついじっと眺めてしまっていた!

「あ、いや、なんでもないぞ、なんでも!」
「よーし、行くぞ行くぞ」

「んん~?変な祐一君」

「だから、いつも変なんだって」
「と言う訳で進路変更」

「あや?どこ行くのかな?」

商店街に向かう道から外れる。

「・・・」

「・・・」

「・・・ねえ」

「・・・」

「ねえってば!」

「どうした?」

「こっちってさ・・・如何わしいホテルのある方向じゃないの?」

「おおう、ばれてしまったか!」
「作戦失敗」

「こらーっ!!」
「だから、えっちな誘いなんてしてないんだから、普通に遊びに連れて行ってよ~」

「さすがに連れ込むようなことはしないって」
「こっちに取って置きの場所があるんだ」

「うう~、ほんとかな?ほんとかなぁ?」
「祐一君っていつも平気で嘘付くって聞いてるし・・・」

全く信用されてないな・・・きっと名雪のせいだろう。
帰ったらお仕置きだな。

「さあ、着いたぞ」

目指した場所はあゆと逃げ込み、栞と出会い、そして人形を埋めた場所。
白一色だったはずの通りを、今は埋め尽くさんばかりの緑。
やはり、ここは季節に関係無く綺麗だ。

「うわぁ・・・綺麗」

友美も同じ感想らしい。

「ってか、お前地元なのにここ知らなかったのか?」

当然の疑問を投げかける。

「・・・来たことはあったけど、その時は雪一色」
「だから、こんないい場所だなんて気付かなかったな」

・・・

「綺麗で、静かで、良い所だね」
「こんな所を、恋人と歩けたら・・・すごいロマンティックだよね」

「ああ、そうかもな・・・」

「ねえ?祐一君は」



ここを、誰かと歩いたことあるの?


ああ、あるな。


それは、女の子?


ああ・・・7年前と帰ってきてから、名雪と・・・あゆとだ。


そっか・・・私、遅かったんだ・・・


遅いって、なにがだ?


だって・・・


だって、私ね・・・


祐一君のことが・・・






おわり
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