翼を広げた鷹のような飛行艇が雲の上の飛んでいた。
その甲板の上に一組の男女の姿があった。
「ねえカイン。本当に良かったの出て来ちゃって」
長い金髪の女性の方がためらうように言った。
「俺は始めっから王都に戻る気はなかったんだ」
カインと呼ばれた同じく金髪の男性は少しムッとして言った。どうやら別の話題を期待していたようだ。
「でも……その……もうカインの事疎ましく思う人はいないんでしょ」
「セルシアはあの王宮はいたかったのかい?」
カインはからかうように言った。
「えっ、私!」
セルシアは反対に聞かれるとは思いもしなかった。
「私は庶民だからあーゆーのはちょっとね……あはははっ」
「そうだろ。俺だってあーゆーのは苦手なんだ。水面下での権力争いはもうごめんだ。何かと言い寄ってくる来る連中は、必ず権力を狙ってやって来る。舞踏会なんか一見華やかに見えるが、その下ではどす黒い取引や化かし合い、情報収集が行われてるんだ。所詮貴族にとって王族とは権力を手に入れるための最高の餌なんだよ。それに食らいついて引き上げて貰えば、権力を得る事が出来る。そんな役割もうごめんだな」
「でも忠誠を誓ってくれてる人もいるんでしょ。ネイルさんやロフェル侯爵みたいに」
「そんなのほんの一握りさ。俺は本当は王族に産まれなかった方が幸せだったかもしれないな」
カインはどことなく悲しそうに言った。
「そんな事ない!」
セルシアは弾けるように言った。
「カインが王族に産まれたからこそ、ここにいるみんなと出会えたのよ。ディアスにもシルフィールにもアルにもセルフィーにも……そして私にも」
「セルシア……」
「もしカインが違う環境で産まれてそれが幸せだとしても、今のカインだって十分幸せになれるよ。これからいくらだって」
「俺は欲張り過ぎてたのかもしれないな」
「だって王子様だもん」
そう言ってセルシアはクスリと笑った。
「そいつは非道い」
カインは苦笑して言った。
「これでもあちこちまわって世間慣れしてるつもりなんだが……」
「まだまだね」
「そうだな。セルシアを初めて見た時は驚いたな。まさか追っていたヘカトンケイルからこんな綺麗で可憐な女性が出てくるとは思わなかったもんな」
「えっ」
セルシアの顔が赤くなる。
「わ、私もカインって気づいた時、心臓が跳ね上がる気がしたわ。まさか憧れてた人が目の前にいるなんて……ねぇ、カインは運命って信じる?」
「悪いが俺は運命なんて信じないな。人生って言う名の道は自分で切り開き、自分で創って行くものさ。運命と言うなの決められた道を、ただ歩いているなんて考える方がつまらないだろ」
「そっか……」
セルシアは残念そうに呟いた後、再びカインに聞いた。
「私も……私もその道を一緒に創って行きたいなぁ……」
今のセルシアにはそれが精一杯だった。
「いいよ。そのかわり俺の道の道幅は広いよ。なぜだがオリュンポスのみんなはこの道を歩きたがるんだ。だから俺はみんなと横一文字に並んで一緒に歩いてるんだ。でもまた道幅を広げなくちゃな。セルシアの分を……」
「私は道の一番端っこ?」
「いいや。俺のすぐ隣だ……」
甲板に見える二人の影が重なり合い、その内髪の長い方の影のかかとが上がる。
そしてカインは悟った。幸せはもう腕の中にあるのだと。